テスラの2020年第3四半期生産台数が過去最大を記録

テスラ社は2020年10月2日(現地時間)、第3四半期(2020年7月~9月)の生産台数と納車台数を発表しました。モデルS/X/3/Yの合計生産台数は14万5036台、納車台数は13万9300台です。第2四半期はコロナの影響で工場を停止した期間がありましたが、再開後は順調に生産台数を伸ばしています。

テスラの2020年第3四半期生産台数が過去最大を記録

【参考情報】
Tesla Q3 2020 Vehicle Production & Deliveries(2020年10月2日 ニュースリリース)

生産台数は前期比76%増

テスラ社の2020年第3四半期の生産台数内訳は、モデル3とYの合計が12万8044台、モデルSとXの合計が1万6992台、4モデル合計で14万5036台でした。納車台数は、モデル3とYを合わせて12万4100台、モデルSとXで1万5200台、4モデル合計で13万9300台でした。

生産台数はコロナで大きく落ち込んだ前期と比べて76%増、納車台数も54%増と、ともに前期を大きく上回っています。とくに生産台数は、これまでの最高だった2019年第4四半期や、それと並ぶ台数を生産した2020年第1四半期の10万台強を40%近く超えて、過去最多を記録しました。納車台数も、2019年第4四半期の11万2095台を抜いて過去最多になっています。

リース契約は全体の7%で、前期の5%から増え、202年第1四半期のレベルに戻っています。モデル3/Yのリース比率は今年に入って、第1四半期に5%、第2四半期に4%、今回は7%と上下しています。一方、モデルS/Xのリース比率は16%、14%、13%と、今年は四半期ごとに下がっていますが、販売台数の多いモデル3/Yの増加がリース率を押し上げているようです。

生産台数推移

納車台数推移

自動車業界の状況は、トヨタの販売台数が今年4月に前年比53.7%になるなど激しく落ち込みましたが、今はだいぶ戻してきています。それでも前年比でいえば100%になるのはまだ先になりそうです。

そうした中でテスラ社が過去最高の生産台数、納車台数を記録したのは、世界のEV市場の伸びしろの大きさとともに、テスラ社の成長速度の速さを表しているのかもしれません。

他方、これまでのように生産台数の発表によって株価に大きな変動があったわけではありません。テスラ社は9月1日に株式分割をして、これまでの1株が5株になりました。この直前の8月31日、株価は12.6%上昇、498.32ドルをつけています。

その後の1週間で330ドルまで下げましたが、直近では415.09ドルで取引されています。この間、株価は上下しながらジリジリと値を上げています。

テスラ社がトヨタの時価総額を超えた時には、株式分割後の換算で223ドルなので86%の上昇です。トヨタの株価は7月からそれほど違いはないので、時価総額の差はさらに広がっていることになります。要するに生産台数発表というトピック以前に、株式分割も手伝ってテスラへの期待が恒常的に大きくなっているということなのでしょう。

中国でモデル3の販売価格を引き下げ

ロイター通信は10月1日、テスラ社の中国のWEBサイトによればモデル3の販売価格が下がっていると報じました。補助金適用後の価格は、標準モデルが8%の引き下げで27万1550元から24万9900元になりました。1円=15.51円で換算すると、約421万円から約387.5万円になったということで、約33万5000円の値引きです。

また航続距離の長いロングレンジモデルは34万4050元(約534万円)から30万9900元(約480万円)になりました。日本での価格は、標準モデルが511万円、航続距離の長いロングレンジモデルは655万2000円なので、補助金を考えても価格差が大きいことがわかります。

ロイター通信に対して匿名の情報筋は、モデル3のバッテリーが、これまでのニッケル・コバルト・マンガン(NMC)から、安価なリン酸鉄リチウム(LFP)に代わると話したそうです。だとすると、この電池はCATL製なのかもしれません。テスラ社は調達のローカライズを進めているため、会社の方針にも合致しています。

テスラは価格の安いモデル3にどのバッテリーが搭載されるのか、ロイター通信の取材に回答していません。

【関連記事】
中国CATLとEV用電池安定調達を図る自動車メーカーの関係を整理してみた(2020年8月23日)

テスラ社が車の価格を下げるのは、今回が初めてではありません。CNNは今年5月1日に、テスラ社が中国製モデル3の販売価格を引き下げ、補助金適用後の価格が29万1800元から27万1550元になったことを報じています。

価格改定の理由について、中国での補助金を受けるために最大価格の30万元を下回る価格にする必要があったとテスラ社が発表したとしています。

この記事が出た後、ブルームバーグやCNBCなどはテスラ社が米国での価格を引き下げたことを伝えています。米中では5月に大幅な価格改定があったということです。

それに続いての引き下げですが、ロイター通信のコメントを考えると、今回は補助金適用のための引き下げとは意味が違いそうです。

コストダウンによる価格引き下げでシェア確保

テスラ社のザッカリー・カークホーン最高財務責任者(CFO)は、第2四半期の決算を発表したときに、これからもコスト削減を続けるという話の中で、「とくにフリーモントのモデルYと上海のモデル3でコストを削減する」と述べています。

【関連記事】
テスラ2020年第2四半期決算報告〜4四半期連続黒字達成(2020年7月23日)

それだけでなく、現在の新型コロナウイルス感染の状況を受け、「世界的なマクロ経済の状況を踏まえて、一部の製品では第2四半期に顧客に還元していくことを決定した」とも述べ、コスト削減分をユーザーに還元していく方針を明らかにしました。それから数か月で中国での価格が下がったことになります。

カークホーンCFOは第1四半期の発表時にもコスト削減について述べていて、この時にも米中で価格改定がありました。

有言実行という言葉がぴったりですが、今後の成長に対する自信を示しているとも言えそうです。もちろんそれだけではなく、競争が激化する中国市場でのユーザー確保に全力を注いでいるという側面もあるとは思います。

ところで、テスラ社の営業利益率は自動車メーカーの中では高いわけではありません。是第1四半期は4.7%、第2四半期は5.4%で、営業利益率が落ち込んでいると言われているホンダでも2019年度に4.2%だったことと比較してもそれほど変わりがありません。トヨタは昨年度は8%を超えています。(※2020年10月5日に下記を追記)

収益構造が一様ではないので、数字だけではわからない部分もありますが、テスラ社とその他の自動車メーカーの、利益(利益率)に対する考え方は少し違うのかも知れません。人件費に対する考え方、会社の利益幅の基準をどこに置くのかなど、経営の専門家に研究してもらいたいところです。

いずれにしても、価格引き下げが販売台数の伸びに影響しないわけがなく、実際にこれまでも伸びてきていることを考えると、中国市場の成長はこれからも確実と言えるかも知れません。10月の価格引き下げの影響は、年明けに発表される第4四半期の決算に反映されることになります。

その前に、まずは10月下旬の第3四半期の発表に注目したいと思います。新型コロナの影響が収まりつつある中、どのような数字が出てくるのでしょうか。米中での価格引き下げの影響がどうなるのかも含めて、興味は尽きません。

(文/木野 龍逸)

 

※2020年10月5日追記
●営業利益率について、トヨタとの比較でテスラの利益率を記述していましたが、以下の点について追記します。トヨタの2020年3月期有価証券報告書によれば、事業全体の営業利益率は8.2%、自動車事業での営業利益率は7.6%でした。一方、テスラ社の自動車部門での営業利益率は2020年第1四半期〜第2四半期で25%を超えていて、車単体で見ると利益率が極めて高いことを示しています。これに対して事業全体での利益率が5.4%に下がるのは、研究開発費や設備投資が大きくなっているためと思われます。本文中の記載に不十分な点があったことをお詫びします。

●上海生産のモデル3のバッテリーについても追記します。記事ではロイター通信の記事を引用する形で、上海では現在、NMCのバッテリーを使用していると記載していますが、ブルームバーグニュース(2020年10月1日)によれば上海工場では現在もパナソニック製バッテリーを搭載しているようで、だとするとバッテリーはパナソニック製のNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム)になります。上海生産のモデル3については、2019年当初はパナソニック製バッテリーを搭載する計画という記事が流れていましたが、2019年8月にはLG化学製を搭載する方針(2019年8月23日付ロイター通信)も見え始め、2020年になるとCATLが加わり(2020年1月30日付日経新聞)、5月にはCATLのLFPを搭載する計画が中国政府に申請されているというニュースも流れました(2020年5月25日付ロイター通信)。
ただ、上海生産のモデル3のバッテリーについてテスラ社は公式の回答をしていないため、現状は推察するしかありません。つまり上海のモデル3は現在、パナソニックのNCA、LG化学のNMCの両方、あるいはいずれかが搭載されていて、今後はCATLのLFPに置き換わる可能性が出てきた、ということになります。なお今後に生産が始まるモデルYについては、パナソニック製は使用しない可能性が大きいようです。

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この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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