公道の急速充電器第二弾は駅前ロータリー
横浜市と株式会社 e-Mobility Power (以下、eMP) は、2050年までに脱炭素社会を実現する “Zero Carbon Yokohama” に向けて、「横浜市内のEV普及促進に向けた連携協定」を2021年に締結しています。以来市内で、電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に乗りやすい環境を整備したり、充電インフラを充実させる新しい仕組み作りを行っています。
今回、2台の急速充電器が設置されたのは、大規模なニュータウンが広がる横浜市内陸部の都筑(つづき)区にある「横浜市営地下鉄『センター南駅』」の駅前ロータリーです。
公道上に急速充電器を設置する社会実験第一弾の「しらとり台」を、筆者はレーシング・サーキットになぞらえて「ピットイン充電」と名付けましたが、第二弾のセンター南駅前ロータリーは「駅前送迎充電」あたりが妥当でしょうか。
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今回も、公道上に急速充電器を設けることによるさまざまな課題を洗い出し、有用な設置かどうかを検証する「実証実験」として行われています。
横浜市は人口377万人を擁する日本最大の基礎自治体で、市内のCO2排出量のおよそ2割が運輸部門によって占められています。この点で、脱炭素化の推進は大きな意味を持っています。横浜市がこれまで積み上げてきたデータをもとに、これまでの市の動きと今回の決定を詳しくお伝えしようと思います。ということで、担当部署である「横浜市温暖化対策統括本部」に伺って、いろいろとお聞きしてきました。
第一弾「しらとり台」のおさらい
少しおさらいしますと、港湾都市という印象の強い横浜ですが、以前の記事でもお伝えしたとおり、「しらとり台」はまったく海に接していない内陸部の青葉区にあります。充電器は「神奈川県道140号川崎町田線」に沿った田園地帯に設けられました。
バス停を作る際に、道路から歩道に切り込みを入れることがありますが、これは「バスベイ」と呼ばれています。充電器はバスベイのように道路わきに作って追加スペースに沿って設置されています。ABB製の「ケーブル2本出し」の充電器で、1台のみ充電の場合最大90kW、2台同時充電の場合はそれぞれ最大56kWが出力されるものです。
2021年6月8日(火)の17:00から運用を開始し、2022年3月31日までの実証実験とされていました。詳しく言うと「国土交通省社会実験」として行われてきました。
その後、評価が高いことから、さらに2023年3月31日まで延長されています。こちらは「横浜市独自実証実験」という形で行われています。実験という性格上、本来は「単年度」で終了となりますが、道路拡幅もまだ迫ってないのと、利用者・市民からもプラスの評価を受けているので、特にこのまま大きな問題が起きなければ、2023年4月以降の延長に向けて協議を進めていくそうです。
利用状況はどうだったのか?
2021年6月の運用開始から2022年3月31日までの利用数のデータをもとにまとめてみます(延長された2023年3月31日までの部分はまだ期間の途上ですので)。
この期間の月平均利用数は「258回」でした。全国にある急速充電器の利用数をならすと、だいたい「100回/月」なので、平均の2.5倍以上と好評であると評価されました。2021年10月と12月は308回と313回、2022年1月も302回と300回を超えており、この数字は高速道路SAPAに設置されている利用数が多い充電器のデータと肩を並べる利用頻度です。
利用時間帯は、「月~金の平日(祝日も含む)」、「土日といった週末」ともに大きな差はありません。朝の7:00、10:00、午後は14:00頃がどの曜日でも利用者数が多くなっています。平日だけ17:00と20:00に山がありますが、これは帰宅時に充電するニーズだと考えられます。実際筆者も、平日の20時頃に何度か様子を見に行った(わざわざ遠回りして帰宅)ことがありましたが、「2台とも充電中」の状態に複数回出くわしました。
どんなEVユーザーが利用しているのか?
ユーザーへのヒアリングによると利用者は「近隣にお住まいの方(住まいから20分以内と回答した方)」が90%を占め、商用ではなく自家用のEVを充電していました。
2021年11月の実績でいうと、84人で219回の利用があり、約半数が「月に2回以上」利用していました。
やはり、集合住宅居住者など自宅(拠点ガレージ)に充電設備を設置できない方が基礎充電として利用するケースが多く、充電器からクルマで20分以内に住む方が90%を占めていました。とはいえ、自宅に200V(普通)充電器はあるのに利用する人も少なくありません。おもな理由としては、急に距離を走る必要に迫られた時などの「注ぎ足し充電」として使っているという回答がありました。
社会実験でわかった課題やトラブルは?
実証開始前は、充電待ちのEVが待機することで渋滞を引き起こす等の懸念もあったとのことでしたが、実際にはそうしたことは問題化しませんでした。ガソリン車などのように「燃料タンクが空に近くなってから補充する」のではなく、この急速充電器を利用したEVユーザーの多くは「50%を切ると充電を意識する」と回答。結果として、充電器が埋まっていたら後でまた通ってみるとか、次の日に充電に来てみるなど「余裕を持って充電」していることがわかりました。「EVとのつきあい方が成熟してきた」という印象を受けました。
この2021年度の実証実験期間中に起こった「目的外利用」的なトラブルはわずか3件だったのも意外でした。具体的には、以下のような、事例が1件ずつありました。
① 工事用車両(ダンプトラック)が20分程度駐車した。
② 充電終了後も駐車を続けた(ただし30分以内に退出した)。
③ 充電中にEVから離れた結果、終了後10分間放置となった。
利用したEVユーザーの反応
今後も公道充電器を利用したいと回答した人は93.2%、利用したいとは思わない人が3.4%と、圧倒的に支持されていました。
公道上への設置に対する懸念は、「ない」が57.1%に対し、「ある」が42.9%と拮抗しています。「ある」と回答した人の理由で気になったのは、「すぐ隣りが道路の車線で、間仕切りなどは無いので、運転席から出入りするときに気を遣う」というものでした。また、「付近に(店舗などの施設が)何も無いので、夜間の利用時が不安」という意見もありました。
交通量の比較的多い道路沿いにあるため、「多くの人にEVやEV充電、充電器の様子などを目にしてもらえて良い」という意見も結構ありました。やはり「見慣れていない」人への啓蒙が重要と考える人が少なくないようです。
第二弾を駅前に設置した理由
第一弾のしらとり台は田園地帯のなかの道路沿いで、地元の方が歩いたり自転車で通る以外は、クルマで通過する人の目に触れるだけでした。第二弾は駅前なので、多くの人の目にとまることが期待できます。
実際、横浜市にお聞きしたところ、駅前なので様々な年齢層の人たちに目にしてもらえることを期待しているそうです。「EVに実際に乗っている人」を目にしてもらえ、「EVを充電している姿」を見てもらえることは、充電インフラがちゃんとあって利用できるのだという安心感を広めることができると考えているそうです。いわば「百聞は一見にしかず」とでもいえる広報的効果を期待しているということですね。
ついでに、充電しているEVユーザーと通行人の方とが会話して、潜在的にEVに興味を持っている人たちに「EVは横浜市では現実的な選択肢になっている」とを伝えることもできるでしょう。
筆者も実際、2月18日(土)の昼過ぎにセンター南駅で充電していたところ、2組の通行人の人たちに話しかけられました。もちろん、横浜市の取り組みを詳しくお伝えしておきました。
今回駅前ロータリーに設置された「センター南駅」は、1日の乗降客はおよそ7.8万人。横浜や上大岡、あざみ野といった乗換駅ほどではありませんが、市営地下鉄の駅では乗降客数が多いほうです。となりにある「センター北駅」よりも多い数です。多くの市民の皆さんの目に触れることは間違いなさそうです。
設置された急速充電器と台数
今回設置されたのは、「東光高岳(とうこうたかおか)」製の50kW機が2台、しらとり台とは異なり筐体は2つ、それぞれが「ケーブル1本出し」です。充電区画はしらとり台と同様、縦列駐車の形で2台分のスペースが設けられています。
今回、筐体をあえて2台にしたのは、車種によって充電口の位置が様々なことに対応するためでした。じつは、しらとり台の充電器も利用者からの声を反映して、ケーブルを当初より長いものに交換しています。また、車道上にケーブルが置き去りにならないように、本来なら本体筐体前面に充電ガン収納部分があるのを埋めて、筐体より後方にソケット(充電ガンをしまう部分)を設けたポールを立てています。
しらとり台の充電スペースに関してはもう一つ改善点があります。駐車スペースがわかりやすいように、道路に色を塗って目立つように改良してあります。
センター南駅の充電器では、ケーブルが歩行者や自転車の邪魔にならないように配慮すると同時に、車道に置かれないように工夫がなされています。また、こちらのケーブルは反射板付きの蛍光テープを多めに巻いて、暗くても目立つようにしてあります。
さっそく利用したEVユーザーの反応は?
この「駅前急速充電器」は、2月8日(水)の15時から運用が開始されました。市役所への取材時点(2月16日木曜午後)までのほぼ1週間の利用回数は「43回」でした。利用者は「土日が多い」傾向が出ています。1日平均「6回利用」なので、このままゆくと「月150回」程度の利用は見込めるペース。認知度が高まればさらに利用頻度は高まるでしょう。
2月18日の昼過ぎに筆者がセンター南駅の充電器を訪れた際、日産アリアが充電を終えて出発するところでした。筆者が充電して写真を撮っている時間帯は、まだランチの時間帯だったため、それ以上の利用者とは会えなかったのかも知れません。
今後の「公道充電器」の設置計画は?
具体的な場所はまだ決まっていませんが、横浜市では公道上へのEV用充電設備設置を今後も進めていきたいと考えているそうです。欧州では多数の例があるので、日本でも可能性を模索して広げてみる意義は大きいでしょう。
これまでは2カ所とも内陸部でしたので、今後はいわゆる「みなとよこはま」の市街中心部への設置もしてみたいと考えているようです。筆者は今年度仕事で平日に神奈川県に行くことが多かったので、横浜市内でニーズのありそうな場所(中心部ではないですが)を提案させていただきました。まだ場所は伏せておきますが、あそこは坂の下ですし、流れの速い幹線道路に乗る前に充電できるので、良いと思うんですよね。
公道充電器に関するルール作りを
公道上にEV用急速充電器を設置することに対しては、まだ全国統一のルールがありません。横浜市が独自に、各所と調整しながら作り上げてきたのが実態です。今回の第二弾によって事例が2つ、しかも「全く環境の異なる場所に設置できたので、情報を集めて課題を積み上げていきたい」とのことです。
筆者も、全国に応用できるルールが必要だと感じています。これには国が積極的に関わっていかないとらちがあかないでしょう。先駆者である横浜市の事例と努力と格闘が、全国へ広げるルールの提言になると良いと感じています。
みなさんも、横浜においでの際は、「しらとり台」と「センター南駅」の急速充電器をぜひ使ってみてください。そしてこの記事のコメント投稿などで意見や知恵を寄せていただけると、筆者としても嬉しいです。
取材・文/箱守知己
横浜市在住ですが、充電器の設置で利便性が向上し助かっております。また百聞は一見に如かず、見慣れてもらうことEVの普及に繋がると思います。送迎需要も見込めるロータリー内の設置は、利便性も認知も高まるので、画期的だと思いました。
一方で、本筋と逸れてしまいますが、しらとり台等で設置されているABB製充電器はアリアと相性が悪く、乗り換え以降一度も充電に成功していません…。行って空いてるのに充電できないのは不便を感じてしまうので、改善を期待しています。
レグラス様、コメントありがとうございます。
横浜市は、数多くのデータを集め、それを分析しながら設置可能性をいろいろと模索されています。こうした地道な作業の結果が今回の「駅前」だと感じました。ほかの自治体も続いて欲しいです。
アリアの不具合は不思議ですね。ABB機との相性もあるのでしょうか。今度、駅前に東光高岳機でも試してみてください。
千葉県の東電パワーグリットさんの駐車場には、従業員の方が利用する日産リーフとすべての駐車スペースに普通充電器(屋外コンセント)があり、すべての公共設備の駐車場にて、これがあるべき姿だなと感じています。(敷地内には一台だけ急速充電もあるようです。)実際の利用や利便性について、取材してみてください。
https://goo.gl/maps/b6G2g11fzsXqwjER9
shibata様、コメントありがとうございます。
「基礎充電」は「自宅」と「勤務先」が大きな柱ですよね。前者に関しては、集合住宅でも、後付けでも、充電器を設置する例が増えてきています。後者に関しては、どうも動きが遅いですよね。このあたりは、国にも動いて欲しいものです。
横浜市の取り組みは素晴らしいですね。
その一方で財政に余裕のない自治体では導入にハードルが高いということも事実ではあるので、国や道府県の後押しも必要かと思います(偏在や不足の解消も)。
気になったのはセンター南の画像からケーブルがかなり長いもののようですが、充電スペースにはみ出し放置への対策はどのように行なっているのでしょうか(しらとり台の吊るす方式や巻き取り式など)?
というのも、充電スポットではよく見掛ける光景なので…。
個人的には性善説を信じたいところですが、そういかないこともあるので機械的な対策も大切かと思います(周知は勿論ですが…)。
いろいろな取り組みが今後に繋がるといいですね。
cakar1m様、いつもコメントありがとうございます。
センター南駅の充電器のケーブルは、どの車種でも充電できるように長めのものが付けられています。路面に落とされることの回避は、今のところ「蛍光反射テープ」をたくさん巻いているだけです。うまく運用してくれると良いですね。
横浜市を参考に、全国の自治体で「効果のありそうな場所」に充電器が設置されることを心待ちにしています。