最新車試乗で協力いただいた張氏にインタビュー
今年7月に中国・北京で最新の中国車25台に乗る機会を得ました。25台のうちBEV/PHEV車は合計17台。トヨタbZ3やホンダe:NS1/e:NP、などの日本ブランドをはじめ、まだ正式発売されていない最新モデルもあり、非常に貴重な体験となりました。試乗したのは北京にある巨大な公園内のクローズドな道路です。中国は日本で発行された国際免許で運転することは不可(ジュネーブ条約締結国ではないため)となるため、クローズドな公園内の道路での試乗となりました。
(編集部注:改めて試乗レポート記事もお伝えする予定です)
この貴重な試乗は中国の自動車メディア『咪车』(mewcars)の多大な協力のもと実現しました。mewcars編集長の張効銘氏は中国自動車メディア界の重鎮ともいえる方で20年以上にわたって激動の中国車市場で数々の取材をされてきた経験をお持ちです。中国カーオブザイヤーの選考委員を長年務めており、日本車はホンダ車が好きで複数台所有しているとのことです。
その張編集長に、新エネルギー車先進国の中国における日本製EVの評判や売れ行きについて話を伺いました。
ズバリ! 中国においてには日本メーカーのBEVはあまり人気がありません。実は日本メーカーだけでなく、フォルクスワーゲンやアウディなどのドイツ車に代表される欧州メーカーも同様です。これら伝統メーカーのBEVはなぜ不人気なのか? どんなBEVなら売れるのか? 日欧の伝統メーカーに求められていることは何なのか? について目からうろこ?のお話を聞くことができました。前半と後半に分けてお届けします
日本メーカーのEVに足りないものは?
加藤 今回試乗した中国製BEV/PHEVはどれも非常に先進的で特に『智能化』『エンタメ化』の進化が凄いと感じました。中国において、BEV/PHEVに求められていることはどのような事なのでしょうか?
張編集長 そうですね、智能化やエンタメ化は中国製EVにとって非常に重要な要素です。また、航続距離もミドルサイズセダンやSUVなどでは、最低でも600kmないと同じスタートラインに立てません。
加藤 一番驚いたのは試乗車の中にあったディーパルS7です。運転中、ディスプレイに向かってVサインをするとクルマが自動的に車内の写真を撮ってくれました。Vサインだけではなく、音楽の再生、スキップ、一時停止などの操作がすべてハンドサインでできるんですね。もちろん、「右後ろの窓を少し開けてください」など音声で様々な指示ができるBEV/PHEVも当たり前のようにありますね。
張編集長 日本の皆さんは「なぜ、車に乗っている際、車内で写真を撮る必要があるの?」と思われるかもしれません。簡単に言えば、「思い出作り」のためです。車に乗っている全員が走行中に1枚の写真に同時に収まったら楽しいよね! という感覚は日本では思いつくこともないでしょう。中国ではそのような驚きのエンタメ性、智能化の新しいアイデアがまだまだ他にもたくさん生まれています。
加藤 なぜ、このようなエンタメ方向に振った先進機能が好まれるのでしょうか?
張編集長 中国は日本に比べるとそもそも車文化の歴史がとても短いのです。トヨタやフォルクスワーゲン、日産、メルセデス・ベンツなどの伝統メーカーとの合弁の歴史が長く、2010年以降、世界最大の自動車生産・販売・輸出国となりましたが、中国メーカ―が独自に開発した車が世に出るようになったのはまだこの数年の出来事です。若い世代や初めてクルマを買う人達はとくに、目先のユニークな機能に惹かれます。
このような先進的なエンタメ装備はやはりBEV/PHEVと相性が良いですね。ご存じの通り、中国では近年、BEV/PHEVの販売シェアが急速に拡大しており2022年の新車販売台数のうち新エネルギー車は2021年から338万台増えてシェアは28%に拡大しました。2025~2026年には新エネルギー車がガソリン車を上回ることが予想されています。
加藤 なるほど。ユニークな性能を持ったBEV/PHEVのほとんどが新興メーカー、新興ブランドということもあって、斬新な装備を採用しやすい開発環境にあるのでしょうね。このような中、日本製のBEV/PHEVは中国ではどのように受け止められているのでしょうか?
張編集長 日本勢も頑張ってはいるのですが。なかなか、ガソリン車のようにはいきません。中国におけるガソリン車のシェアはトヨタ+日産+ホンダの3社だけで約1/4に達しますが、これがBEVになると1位BYD(18%)、2位テスラ(14%)、3位上汽通用五菱(12%)、4位GACアイオン(5%)、5位がチェリー(4%)……、日本メーカーはベストテンのランキングにも入っていない状況です。
芳しくないのは日本ブランドだけではありません。欧州メーカーのEVもかなり苦戦している現状があります。中国国内で古くから中国メーカーとの合弁でガソリン車を生産してきたフォルクスワーゲンも、ガソリン車ではシェアトップ(13%)であるものの、BEVではわずか3%です。
加藤 それは驚きですね。でも確かに、私が初めて上海モーターショーの取材で中国を訪れた2017年。上海の街を走る車のブランドは、タクシーを含めて7~8割がフォルクスワーゲンでした。「上汽大众」(上海フォルクスワーゲン)のバッチを付けたセダンが多数存在していたのですが、今回4年ぶりに訪れた上海では以前のような勢いはありません。タクシーの世界でもBYDやロエウェ(上海汽車の乗用車ブランド)などのブランドが急増していました。
張編集長 日本や欧州の伝統メーカーはガソリン車を開発する手法でBEV/PHEVを開発しています。従来のやり方にとらわれているように見えます。また、伝統メーカーは収益を考えなくてはいけないので、やはり新しい事へのチャレンジも及び腰です。BEV/PHEVを買うのは若い層で彼らはクルマに智能的で楽しい事、新しいことを求めます。そこに伝統メーカーはついていけていないのかもしれませんね。
加藤 なるほど。日本メーカーのEVは、設計の考え方自体が中国市場には合わないということでしょうか。日本ではEVを選ぶとしたら、まだ中国製EVより日本製EVを選ぶ人が圧倒的に多いのでしょうけど。世界最大の自動車市場である中国においてBEV/PHEVのシェアが急速に拡大する中、日本メーカーも新時代のEV開発は必至といえそうです。
張編集長 そうですね。中国市場にもトヨタ、ホンダ、日産などの日本製EVが売られており、これからも多数の販売計画があります。車自体の性能や信頼性にはとても期待できるものだと思います。しかしその設計が、多くの場合ガソリン車をベースとした設計になっています。運転しやすくて、実用性に優れるという日常的な車、走りの道具と使うための車……そんなイメージです。
逆に中国製のBEV/PHEVはIT商品のような、先進的な家電製品やおもちゃみたいな感覚で作られているものが多いのです。とにかく先進的で面白い装備や機能をいかにして盛り込むか? 人々の関心や興味を引くような要素や装備があるのかというところが重要です。
(後編に続く)
取材・文/加藤 久美子