想像する未来社会の風景とリンクしたPUZZLEの構想
一目見てカワイイ!と声が出てしまう『PUZZLE(パズル)』ですが、小型商用EVとしての役目を十分に果たすだけではなく、これからの商用EVはこうあるべき、こうあって欲しい! という作り手の思いが伝わってくる斬新な提案に満ちています。
まず目を引くのは非常によく考えられた斬新なエクステリアデザインです。手がけたのは京都で自動車デザインスタジオFortmarei Inc.を運営する石丸竜平さんです。「最初に電話でPUZZLEのお話を頂いた時から、すでに手が動き出してスケッチを描き始めていた」という石丸さんにPUZZLEへのアツい思いを伺いました。
Q. PUZZLEに関わるようになったきっかけは?
もう1年以上前のことですが、最初にショウ社長からお電話をいただいた時のことは今でもはっきりと覚えています。とても印象的な出来事でした。HWEの描く未来のビジョンとPUZZLEプロジェクトが、私が想像する未来の社会の風景とあまりにも強くリンクしていて、お話を聞きながら思わずスケッチを始めていました。そして、電話の直後から一心不乱に案を煮詰め5日後には最終デザインの原型を完成。そこからさらに一年以上かけてHWEと共に細部までこだわり抜いてデザインを完成させました。
Q. 軽自動車規格に収めた理由は?
日本生まれのクルマですから、やはり日本独特の軽規格を活かしたいと考えました。PUZZLEは軽自動車の規格寸法を最大限に活用することができていて従来の軽商用車よりも、広い荷室を実現しています。
もちろん、荷物の積み込みも効率的に行うことができます。PUZZLEの助手席は前側に倒れるので室内長を有効に使えます。大きくて長い荷物も積むことができます。
Q.「パズル・デザイン・アプローチ」はどこから生まれたアイデアですか?
商用EVには単にモノを運ぶというだけではなく、インフラとしての役割とそれに対する社会の期待があると考えています。もちろんコストも重要ですが、みんなのための機能を追加すると、車両の価格があがってしまいます。そこで私たちが考えたのが「パズル・デザイン・アプローチ」と呼んでいるアイデアです。
私たちは、PUZZLEの内外装パネルを前後・左右で共通化するなど、合理化を進めました。このアイデアを実現するために徹底的にパーツを単純化しています。「形が機能に従うのではなく、機能そのものが形となる」という考え方です。この考え方をベースにユニークな機能を与えながらも、ユーザーフレンドリーな機能を盛り込むことができました。忘れてはいけないのは、PUZZLEは誰にとっても歓迎されるべきクルマであるということです。
Q. ピンボードで必要な装備をつけ外しできるのはとても斬新ですね。
PUZZLEの内装はシンプルモダンにまとめていますが、やはりポイントはフラットなサーフェスとピンボードです。これによって、必要な機能を好きな場所にドライバー自身が簡単にセットできます。
不要であれば全部取っ払って空間を最大限広く使うことも可能です。これらのプロダクトは簡単に取り外しができますので自宅からオフィス、オフィスからPUZZLEへと。業務に必要な道具をシームレスに運ぶことができます。中央に配置されたセンターディスプレイからは『MY HWE』にアクセスできるので効率的な職場環境を提供することも可能です。
●石丸竜平氏(Fortmarei Inc. CEO/クリエイティブディレクター)
1988年、福岡県久留米市生まれ。九州大学芸術工学部、ミラノ工科大学、ヨーロッパ・デザイン学院トリノ校で工業デザインを学び、卒業後はフィアット、マセラティのインターンシップでカーデザイナーのキャリアをスタート。2016年からはGLM チーフデザイナーを務める。2017年には旭化成の初代AKXY、翌年京セラのコンセプトカーのデザインを手がけた。2018年に独立し、自動車デザインスタジオFortmarei Inc.を京都に設立。
ニューヨークでも大反響! PUZZLEで世界に貢献も
米国時間11月16日にニューヨークにてPUZZLEの公式発表会が開催されました。発表会にはHW ELECTRO代表取締役社長のショウ氏、PUZZLEのデザインを担当した石丸氏、Ivo氏が登壇し、PUZZLEに込めた想いや開発背景、海外も視野に入れた今後の事業展望、そしてPUZZLEを通じて思い描く未来について語りました。
会場となった地域はマンハッタンの中でもとくに洗練されたチェルシー地区。そしてナスダック上場を見据えての発表会で集まった報道陣や投資家は60名以上! と大盛況でした。また、翌17日にはNY市警協力の元、タイムズスクエアを中心とするNYの繁華街において実際にPUZZLEを走行させての映像撮影も実施されました。
発表会と映像撮影、NYの人たちからはどのような反応が得られたのでしょうか?
「日本だとこういう撮影はとても難しいと思うのですが、今回はNY市警全面協力の元、PUZZLEの市中撮影を行うことができました。映画のロケのような扱いだったと聞いています。PUZZLEは大評判で、信号待ちするたびにPUZZLEの周りが人だかりになりましたよ」とショウ社長。
凄くクール! いつ発売するの? アメリカでも発売するの? と道行く人からの質問攻めにもあったそうです。
「アメリカでも本当にみなさんの関心が高くて僕たちもびっくりしました。まだコンセプトカーのレベルではありますが、今後、量販車としてPUZZLEを開発、発売するにあたっての貴重なマーケティングができたと思います。とくにマンハッタンでは駐車の問題が深刻で、このような小さな車も受け入れられると確信しました」(ショウ社長)
なお、NYでの発表会でショウ社長は以下のような思いも述べています。
「HW ELECTROが果たすべき役割は2つあります。ひとつ目は、EV商用車を通じて社会のプラットフォームになること。HW ELECTROの独自プラットフォームを通じ、人と車両が繋がりやすい未来の実現を目指しています。ふたつ目の役割としては、世界では戦争や、地雷の問題や食糧難、エネルギー不足など、様々な社会情勢の問題が残っています。コンパクトな電気自動車であるPUZZLEを、そのような世界の課題解決に向けて少しでも役立てるツールにできたら良いと考えています」
PUZZLEの販売は日本国内にとどまらず、世界で活躍する未来を目指すことを発表したのでした。
10月に開催されたジャパンモビリティショーでワールドプレミアとなったPUZZLEですが、海外でのお披露目はこのニューヨークが初となりました。市販に向けた生産は2024年中を目指しているとのこと。日本はもちろん、ニューヨークの街中をPUZZLEが走り始めるのもそう遠い未来ではなさそうです。
取材・文/加藤 久美子(自動車生活ジャーナリスト)
写真提供/HW ELECTRO