※冒頭写真は2011年のパイクスピークで総合優勝を遂げた「SX4 HILL CLIMB SPECIAL」と田嶋伸博氏。
真新しい施設での新型EV発表&試乗会
タジマモーターコーポレーション(以下、タジマ)が新型EV発表&試乗会を開催したのは、静岡県掛川市、2023年4月に開設されたばかりの「タジマ掛川次世代モビリティR&Dセンター」でした。
ここはタジマが展開する次世代モビリティ事業の研究開発拠点であるとともに、ファブレスEVのPDI(Pre Delivery Inspection)センターとしても機能しているとのこと。さらに、「モンスター田嶋」の愛称で知られる田嶋伸博氏(株式会社タジマホールディングス代表取締役会長兼社長/CEO)が挑んできた、パイクスピークインターナショナルヒルクライムなどで活躍したレース車両が展示される「タジマ歴史館」が併設されていました。
7月4日、この日は午前中にメディア向け、午後は自治体ご担当者などを招いた発表&試乗会を行うということで、大勢のスタッフの皆さんは大忙し。朝早くからの炎天下で陣頭指揮を奮っていた田嶋氏に、独占インタビューの時間をいただくことができたので、新型EVのことに加えて、いくつか、気になっていたことを質問してみました。
「次世代モビリティ」に関わる人材育成への挑戦
一問一答スタイルで、田嶋氏のお話を紹介します。
Q. R&Dセンターと歴史館、素晴らしい施設ですね。
ここは「R&D」と名付けているくらいで、研究開発拠点ではありますが、同時に世界に通用する次世代モビリティに関わる人材育成を目指して開設した施設です。歴史館を併設したのは、モビリティにとってモータースポーツというのはやはりイノベーションやカスタマイズが大きく進む場であって、学ぶ人たちにもそうした歴史や思いを知り、楽しさを感じてほしいという思いです。
私はもう、モータースポーツを50年やってきていますから、なかなかの「歴史」です。言葉で説明するより、現物でしょ。
Q. 研修などは社内のスタッフが対象ですか?
社内の人材育成はもちろん大切なミッションだけど、それだけではありません。希望する学校などの学生さんに向けた研修も行っています。
昨今は「若者のクルマ離れ」などとも言われますが、こういう場所でモビリティの楽しさを感じてもらいたい。そのために、レースマシンの実車はもちろん、映像やeモータースポーツのマシンなど、全部用意しています。
新型EV各車種への思いなど
田嶋氏が本格的にモータースポーツを始めたのは1968年ということなので、50年どころか56年もの歴史があります。タジマコーポレーションの前身となる「モンスターインターナショナル」を設立したのは1978年のこと。1988年にパイクスピーク初参戦。2011年には6年連続総合優勝を成し遂げ、2013年にはオリジナルEVレーシングカー「E-RUNNER Pikes Peak Special」でEV部門を優勝するとともに、EVで初めて「10分の壁」を破る快挙を達成しました。
2010年にはアクションカメラ「GoPro」の日本代理店となり、リゾート開発や地域創生などに関わる幅広い事業も展開しています。さかのぼって、2009年には再生可能エネルギーと電気自動車関連を業務とする「ナチュラルエナジー事業部」を社内に設立するなど、EV普及にも早くから取り組んできています。
今回のように、多様な次世代モビリティを一気に発売できたのも、田嶋氏とタジマのこうした実績や熱意があってこそのことといえるでしょう。
この日発表された各車への思いなどを伺いました。
Q. 今日発表された各車種への思いを聞かせてください。
まず、『NAO2』はグリーンスローモビリティです。十数年前、経産省や国交省と協議しながら「どんなクルマを作ればいいか」と考えて導入したのが前モデルの『NAO』でした。すでに全国で何十台も走らせていますが、実際に使ってみると、ステップが高くて高齢者の乗り降りが大変だとか、問題点がわかってきました。
われわれは、「シムドライブ」(インホイルモーターを搭載した独自EV開発を手掛けたベンチャー。2017年にタジマモーターコーポレーションに吸収された)をもっていますから、インホイルモーター技術で床面を下げて、車いすでの乗降の利便性も高めるなどの改良を施したのが『NAO2』なんです。
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Q. 商用のEVバンとワゴンもいよいよデビューですね。
『TVC』と『TWC』については、小規模な運送業者に特化して発想したEV商用車です。一充電走行距離でこと足りる用途に絞り、コストが掛かる急速充電への対応は捨てて、200Vの普通充電だけで運用することを想定しています。事業用の登録にすれば100万円以上の補助金対象になりますし、リースにすれば化石燃料に比べて抜群に安価な電気代だけで運用できるスキームです。
実は今日、メディアへの発表と試乗会の後、午後には運送業者の社長さんやリース会社の方々に向けた発表&試乗会を行うことになっています。反響が楽しみですね。
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Q. 新型の原付ミニカーもあって驚きました。
やはり、電動モビリティを普及させるためには、かつてスズキで修さんが「47万円のアルト」を出して社会にインパクトを与えたように、利便性とコストを両立させることが大切です。そのために、車検などが要らない「原付ミニカー」(道交法としては「第一種原動機付自転車」規格)には可能性があると思っています。
とはいえ、現在の日本では原付ミニカーには「一人乗り」という制約があります。それをせめて「2人乗り」にしてほしいと思っています。今回発表した『T-mini』も、実は2人乗り(前後タンデム)に対応可能です。今のところは、ドライバー1名+荷物スペースにしていますが、ドアを大きくするなど、後席にも乗り込みやすいような設計にしてあるんです。
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Q. 「側車付二輪」の規格なら3人乗りとかOKですもんね。
われわれは『KOKI(コキ)』という3人乗りの側車付二輪規格のモビリティ(前一輪、後ろ二輪の三輪車)をラインナップしています。お母さんが子供を2人乗せて走る自転車をよく見かけますが、危なっかしいですよね。超小型EVでお母さんと子供が2人乗れて、屋根やドアがあって雨をしのげて、エアコンが効くモビリティがあれば安全で便利だし、ニーズもあるんです。でも、二輪車規格なのでバー型のハンドルじゃないといけなくて、回して操作するステアリングにすると原付ミニカーになって1人乗りになってしまいます。
欧州では「L6e」というミニカー規格があって、シトロエンAMIなどが人気です。さまざまな規格がグローバルスタンダードに適合しようとしている中、原付ミニカーで2人乗り、3人乗りを認めることでユーザーにどんなリスクやデメリットがあるのでしょうか。
「超小型モビリティ」規格であれば2名定員が可能ですが、基本的に軽自動車の枠になって開発時間やコストが跳ね上がります。ミニカー規格で2〜3名の定員が可能になるよう、いろいろなアクションを続けているところです。
Q. 出光タジマで開発を発表された超小型EVも難航しているようですね。
計画より遅れています。正直に言って、どうにもならない問題があります。われわれは超小型モビリティで型式認証を取得しようとしていますが、まず、ベンチャーなので自前の試験装置がありません。大手メーカーは自社で試験装置を揃えているんですよ。そこで、試験場を利用しようとしても、数カ月単位で予約待ちになる。ようやく施設の予約が取れても、今度は立ち会いの試験官のスケジュールが合わなくて予約を取り直すことになり、すると、さらに数カ月の遅れが出てしまう。
車両開発や技術的な問題はないので、一日も早く進めたいのですが、そうしたどうにもならない問題で非常に苦労しているところです。
Q. 最後に、長野県大町市での不法投棄事件(逮捕→無罪判決)について、田嶋さんご本人のコメントをいただくことはできますか。
【注】 2022年12月、タジマモーターコーポレーションのグループ会社である大町温泉観光の当時の代表者(すでに解任)と共謀して大町温泉観光の運営する爺ガ岳スキー場内に建物を取り壊した廃棄物などを投棄したとして、産棄物処理法違反で田嶋氏が逮捕されました。田嶋氏は当初から共謀を否認して無罪を主張。2023年10月、長野地裁松本支部で無罪判決が出て、検察側は控訴せず無罪が確定となりました。
今となっては、「冤罪」という言葉をこれほど身につまされて感じた経験はありませんでした。
あの事件は、もともと行政から頼まれて経営不振のスキー場再建をお手伝いする事業の中での出来事でした。私の無罪ははっきりしたので、今後はさらに、地方創生やEV事業を頑張っていくぞという思いです。
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田嶋社長、お忙しい中お時間をいただきありがとうございました。
出光タジマの超小型EVが苦難を乗り越え発売されて、原付ミニカー定員の規制緩和が実現したら、日本のパーソナルモビリティの可能性がさらに広がるだろうと期待しています!
取材・文/寄本 好則