東名300km電費検証【20】『アリア NISMO B9 e-4ORCE』/NISMO化の影響は最小限

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。日産『アリア NISMO B9 e-4ORCE』の結果です。NISMOが走りに磨きをかけたモデルですが、電費にはそれほど大きく影響していませんでした。

東名300km電費検証【20】『アリア NISMO B9 e-4ORCE』/NISMO化の影響は最小限

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

100km/h巡航で約510kmの航続距離性能

アリアはB6(66kWh)とB9(91kWh)の2種類のバッテリーサイズとそれぞれにFWDとAWD(e-4ORCE)の駆動方式を用意しています。さらにB9 e-4ORCEをベースに、プロパイロット2.0、20インチホイール、本革シートなどを標準装備した最上級グレードのB9 e-4ORCE プレミアを含めた5グレード(スタンダードグレードとする)があります。
さらにNISMOが手を加えた『日産アリア NISMO』は、駆動方式はe-4ORCEのみで、バッテリーサイズ違いでB6かB9の2種類を選択できます。今回検証を実施したのはNISMO B9 e-4ORCE(以下、NISMO B9とします)です。

日産ARIYA グレード構成

グレードバッテリー駆動方式一充電走行距離車重タイヤサイズ価格
B666kWhFWD470km1920kg235/55R19659万100円
B6 e-4ORCE66kWhAWD460km2050kg235/55R19719万5100円
B991kWhFWD640km2060kg235/55R19738万2100円
B9 e-4ORCE91kWhAWD610km2180kg235/55R19798万7100円
B9 e-4ORCE プレミア91kWhAWD560km2210kg255/45R20860万3100円
NISMO B6 e-4ORCE66kWhAWD414km※2080kg255/45R20849万9300円
NISMO B9 e-4ORCE91kWhAWD504km※2210kg255/45R20944万1300円

NISMOの2モデルの一充電走行距離は非公表ですが、専用のハイグリップタイヤやダウンフォースを増したボディワークにより、スタンダードグレードの10%減ほどになると日産に確認済みのため、それぞれB6 e-4ORCEとタイヤサイズが同一のB9 e-4ORCE プレミア(以下、プレミアとします)の10%減の数値(※)にしています。

表内のNISMO B9の一充電走行距離は推定値のため、推定値ベースの数値に※印をつけて記載し、このNISMO B9の記事内では過去の記録と比較して最高値か否かは確認していきます。しかし「東名300km電費検証」企画全体での最高値や記録更新の判断からは除外します。

今回の検証の注目点は、一充電走行距離の算出でもベースにしているプレミアの検証結果から日産の発表通り10%以内の記録になるのかどうかです。

推定値の一充電走行距離504kmを、バッテリー容量の91kWhで割った目標電費は約5.54km/kWh(※)になります。8月某日、計測日の外気温は最高32℃、電費検証に臨んだ深夜は25~27℃でした。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしています。

【今回の計測結果】

往復の電費は、各区間の往復距離を、その区間の往路と復路で消費した電力の合計で割って求めています。

目標電費を超えたのは、往路のAとD区間、復路のBとC区間、往復のA~D区間の計8区間で、これはBMW『iX』の7区間を超える最高記録。往復では80km/hが7km/kWh台、100km/hが5km/kWh台、120km/hが4km/kWh台になりました。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通り。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、506kmの推定一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率です。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h7.12648.0129%
100km/h5.60509.4101%
120km/h4.35395.879%
総合5.48498.499%

(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って算出、100km/hと総合の電費も同じ方法で求めています。

総合電費の5.48km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は約498kmになります。100km/h巡航はそれよりも少し長い約509km、80km/h巡航であれば、推定一充電走行距離よりも3割増しの648kmを走り切れる結果になりました。

「東名300km電費検証」企画の独自の基準として、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な電費性能であることが見えてきました。NISMO B9は、それぞれ101%(※)と99%(※)になるので相当優秀です。

なお、80km/hの129%(※)はiXとプレミアを超える数値で、100km/hの101%(※)はiXとテスラ『モデルS』の98%を上回り、総合の99%(※)もモデルSの98%を超えて、いずれも過去最高値になりました。

巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪化します、さらに120km/hにすると39%減になります。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.6倍(164%)に伸ばすことができる計算になりました。

巡航速度比較

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h79%
120km/h61%
100km/h80km/h127%
120km/h78%
120km/h80km/h164%
100km/h129%

ここで第18回で実施したプレミアの記録と比較してみます。両車のスペックを比較するとモーター出力、タイヤサイズは同じですが、車重はプレミアが10kg重く、NISMO B9は専用の外装パーツによりダウンフォースが増え、かつCd値はスタンダードより6%悪化しています。ミシュランと共同開発した専用のタイヤにより転がり抵抗も増えています。検証時の外気温はどちらも25~27℃でした。

B9 e-4ORCE プレミアとの比較

B9 e-4ORCE
プレミア
NISMO
B9 e-4ORCE
電費差
km/kWh
航続距離の差
km
比率
80km/h電費7.707.120.5892%
航続距離701.1648.053.1
100km/h電費5.525.60-0.08101%
航続距離502.7509.4-6.7
120km/h電費4.604.350.2595%
航続距離418.4395.822.6
総合電費5.695.480.2196%
航続距離517.5498.419.1

結果は最も差が大きい80km/h巡航でも電費で0.58km/kWh、航続距離で53.1kmにとどまり、100km/hに至っては誤差の範囲と言えるレベルです。そして全4項目でプレミアの10%減以内を記録しました。この結果から電費と航続距離の面からはNISMO B9を選ぶデメリットはほとんど感じません。

プロパイロット2.0に感じる弱点はトンネルだけ

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用します。さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意しています。

今回のテスト車のNISMO B9にも税込44.8万円のメーカーオプションであるプロパイロット2.0が装着されていたため、スイッチ操作方法や120km/hでも手放し運転ができるシステムの完成度はプレミア(関連記事)と一緒でした。

プロパイロット2.0の操作はステアリングホイール右スポークのスイッチで行います。設定速度はキャンセルスイッチを上下に動かすごとに5km/hずつ変わり、右下のボタンで先行車との車間距離設定を3段階から選択できます。その他、アリアのプロパイロット2.0についてはB6 FWDの記事をご覧ください。

現状でプロパイロット2.0の唯一の弱点は、トンネルに入りGPS信号を拾えなくなると手放し運転がキャンセルされることです。ただし全てのトンネルでキャンセルされる訳ではありません。今回の検証でトンネルの長さ600m程度が目安になることがわかりました。少しローカルな話になりますが、東名高速下りで右ルートと左ルートが分かれて最初にやってくる吾妻山トンネル(約360m)はキャンセルされず、その次の都夫良野トンネル(約1.7km)はキャンセルされるという具合です。もちろん、諸条件で動作が異なる可能性はあるので、あくまでも実際の検証から得られた推定です。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は、NISMO B9もプレミアと同様に大きめで7~9km/hでした。実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を108km/hに合わせます。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
87108129
ACC走行中の
室内の静粛性 db
666764

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hが66dB、100km/hが67dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hが64dBと、なんとプレミアよりも100km/hと120km/hが1dB小さい結果になりました。

NISMO B9はミシュランと共同開発した専用タイヤを履いていて、今年3月のメディア試乗会(関連記事)ではパターンノイズが大きめかなという感想を持ちましたが、杞憂に終わりました。風切り音もプレミアと比較して特別に大きくなったとは感じませんでした。電費と同じく静粛性もスタンダードと変わらないと言えます。

150kW器30分で49.9kWhを充電

プレミアの検証時は充電器の不具合で150kW器による充電を試せませんでしたが、NISMO B9では無事に使用できて50kWhまでもう少しの49.922kWhをチャージできました。これはメルセデス・ベンツEQSセダンの49.218kWhを超えるチャデモ充電の最高記録です。SOCは17%から76%へと、とても安心できる数字になりました。

SOC 17%、出力123kWで充電開始。8分後に車両側の充電性能の最高値である出力130kWに達しますが、その1分後に127kWに下がり、同時にバッテリー冷却のためのファンが作動しました(車内46dB、フロントバンパー開口部付近69dB)。さらに4分後、出力は75kWまで落ちて、充電完了までその出力をキープしました。

今回の充電量であれば、検証結果の総合電費である5.48km/kWhでは約273km分、80km/h巡航の7.12km/kWhであれば約356km分を補給できたことになります。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。表示がない場合は不明としています。
充電中のドライバーディスプレイ、NISMO専用デザインです。中央の少し右側に130kWの出力表示があります。

タイヤ・ホイールは20インチ

NISMO B9のタイヤサイズはプレミアと同じで、前後ともに255/45R20です。メーカーはミシュラン、商品名はPILOT SPORT EV。空気圧は前後ともに240kpaでした。

RB26サウンドでドライブできたら……

アリアにはこれまでにB6のFWD、前回のプレミア、そして今回のNISMO B9と3回試乗する機会を得ました。B6 FWDとプレミアは乗ってすぐに滑空感の高さに驚きます。一旦加速してしまえば、スーッとまさにグライダーのように走っていきます。わずかでも下り坂になればどんどん速度を上げていくほどです。

NISMO B9にはこの感じはありませんでした。だからといって不自然かつ抵抗感を感じる走りという訳ではなく、むしろNISMO B9が普通レベルで、スタンダードのアリアの滑空感が秀でていると言えます。

そして今回の検証結果で興味深かったのは、走りでこのような明確な差が出るほど、スタンダードに比べれば明らかに不利なスペックになっているはずのNISMO B9の電費と航続距離が、日産の狙い通りプレミアの10%以内におさまったことです。スーパーGTやフォーミュラEでのクルマ作りや空力のノウハウがあるNISMOの技術力の高さを感じます。

NISMO B9のドライブモードにはスタンダードにはない特別な「NISMOモード」があり、加減速に応じて電気自動車らしさを表現したサウンドが車内に響き渡ります。同じような機能でメルセデス・ベンツのEQSセダンなどにはV8エンジンのような轟音、ヒョンデのアイオニック5 NはICE車のNモデルのような排気音、アバルト500eはこだわりの「レコードモンツァ」を聞かせてくれます。

日産にはR32~R34までのスカイラインGT-Rに搭載されていたRB26DETTやR35 GT-RのVR38DETT、S13~S15シルビアのSR20DETなど良い音を鳴らしていた名エンジンが数多くあります。NISMOモードにした時にこれらのエンジン音とともにドライブできたら、より一層楽しい時間を過ごせるのではないかと想像するスポーツカーも好きな筆者でした。

日産
アリア
NISMO B9 e-4ORCE
日産
アリア
B9 e-4ORCE プレミア
全長(mm)46504595
全幅(mm)1850
全高(mm)16601655
ホイールベース(mm)2775
トレッド(前、mm)15851575
トレッド(後、mm)15851580
最低地上高(mm)165170
車両重量(kg)22302240
前軸重(kg)1090
後軸重(kg)11401150
前後重量配分49:51
乗車定員(人)5
最小回転半径(m)5.4
車両型式ZAA-SNFE0
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)-187
一充電走行距離(WLTC、km)-560
EPA換算推計値(km)-448
電費(目標電費)5.546.15
モーター数2
モーター型式、フロントAM67
モーター型式、リヤAM67
モーター種類、フロント交流同期電動機
モーター種類、リヤ交流同期電動機
フロントモーター出力(kW/ps)160/218
フロントモータートルク(Nm/kgm)300/30.6
リヤモーター出力(kW/ps)160/218
リヤモータートルク(Nm/kgm)300/30.6
バッテリー総電力量(kWh)91
総電圧、公称電圧(V)352V
急速充電性能(kW)130
普通充電性能(kW)6
V2X対応V2H、V2L
駆動方式AWD(e-4ORCE)
フロントサスペンションストラット
リアサスペンションマルチリンク
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前後)255/45R20
タイヤメーカー・銘柄ミシュラン・PILOT SPORT EVダンロップ SP SPORT MAXX 050
荷室容量(L)408
フランク(L)なし
0-100km/h加速(秒)-5.1
最高速(km/h)-200
Cd値(空気抵抗係数)非公表
車両本体価格 (万円、A)944.13860.31
CEV補助金 (万円、B)6885
実質価格(万円、A - B)876.13775.31

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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