草創期からEV普及に関わってきたキーパーソン
株式会社e-Mobility Power(イーモビリティパワー ※以下、eMP)が社長交代などを発表したのは2024年6月27日のことでした。EVsmartブログでは、僭越ながら日本のEVユーザーを代表する思いでeMP設立当初から前会長の姉川尚史氏、前社長の四ツ柳尚子氏へのインタビューを行うなど、率直なコミュニケーションを続けています。幸加木新社長就任から少し時間が経ってしまいましたが、インタビュー取材をお願いしました。
昨年11月、当時の四ツ柳社長へのインタビューでは、経産省の「2030年度までの設置目標を口数出力ともに倍増」という目標明示を受けて、急速充電器の高出力複数口化推進などについて意欲的なeMPとしての姿勢を確認できました。新社長就任からおよそ半年が過ぎ、はたして日本の充電インフラ拡充の進捗はどうなのか。また、従量(kWh)課金やNACS対応、月額会費などEVユーザーが気になっているポイントについて伺いました。
ところで、三菱i-MiEVもまだ発売されていなかった2008年、サミットが開催された北海道洞爺湖まで東京からEVで走る「CO2削減EV洞爺湖キャラバン」(主催:日本EVクラブ)が実施されました。当然、公共充電インフラなんてまだ存在せず、特別協賛の東京電力の協力を得て行く先々で電気工事して急速充電器を取り付けるという力業で東京~洞爺湖の走破を達成。当時の写真を掘り返してみたら、洞爺湖畔での記念写真に東京電力のスタッフとして旅に同行していた幸加木さんが入っているのを発見しました。
「いやあ、あの頃は楽しかったですね」と幸加木さん。現在ではEVユーザーにおなじみの「EV QUICK」のロゴマークに描かれたクルマのデザインをどうするかを巡って「EVだから先進的で少し奇抜なほうがいいという意見もあったのですが、いずれはEVが当たり前になるんだからオーソドックスなカタチにしよう」といった議論があったと、当時のエピソードを回顧。幸加木さんは草創期から深く日本のEV普及に関わっていたお一人なのです。
その後、東日本大震災対応の人事異動でEV充電の事業からは離れていましたが、再びトップとして第一線に復帰。今回の社長就任を受けて「チャデモ規格の策定の頃からEV普及に関わってきた者として、NCS(合同会社日本充電サービス。2021年4月にe-Mobility Powerへ事業を承継)をはじめ、自動車メーカー各社のみなさんが初期のEV充電インフラ構築を進めてくださっていたことに率直に感動しました。そしてまた、当時のインフラが更新のピークを迎えている今の時期に社長として充電インフラのバリューアップに関わる責任の重さ、そしてやりがいを感じています」と、eMP社長としての意気込みを語ってくれました。
ちなみに、ご自宅はEV充電設備がない集合住宅でマイカーはエンジン車でしたが、社長就任が決まってすぐにEVに乗り替えた(すぐ近所に自動車ディーラーの急速充電器がある)とのこと。充電インフラ構築に関わる方が自らEVをマイカーとして活用するのは、とても大切なことだと思います。
新増設は着実に前進中だが想定外のトラブルも
ここからは、ニッポンのEVユーザーとして気になるポイントについての質問と幸加木社長の回答を紹介します。まずは、就任後約半年が経過して感じている「手応え」や「インフラ拡充の難しさ」について伺いました。
Q. 2025年度末に高速道路の急速充電器1073口の目標への推移は?
幸加木 2023年度末で640口が稼働していましたので、2年間でおよそ430口を増やしていくことになります。今年度は約120カ所のSAPAで工事を進めており、順調に拡充が進んでいます。高速道路以外でも急速充電器の拡充は進んでいて、たとえば10月だけでも94カ所を運用開始しましたので、1日あたり3カ所以上のペースです。11月はもっと増える見込みです。
とはいえ、充電スポット数や口数を増やすのは安易ではないことも実感しています。就任以来、できるだけ設置工事の現場を見るようにしています。今、まさに更新や増設工事のピークですが、実際に工事を担当するメンバーと一緒に現場を見る度に、一箇所の充電スポットを完成させていくことの難しさ、責務の重さを感じているところです。
Q. SAPAへの充電器設置にはどんな「難しさ」があるのでしょう?
幸加木 同じように見える高速道路のSAPAとはいえ、それぞれ環境や条件が異なるので本当にいろんなことが起こります。たとえば、中央自動車道・駒ヶ岳SA。予定では昨年度にオープンする計画でしたが工事が難航して遅れました。土質の問題でアース(接地)が取れなかったことが理由です。温泉などを掘削するようなボーリングの設備で、駒ヶ岳SA上りは結局400mほど地中を掘り下げてようやく基準値のアースを取ることができました。駒ヶ岳SA下り線は今年9月に運用開始となり、駒ヶ岳SA上り線もまもなくオープン予定です。
先日も、中央自動車道・談合坂SA上り線の充電器更新工事現場を見てきました。既存の充電器とは場所(SA出口側のSS向かいになるそうです)を変えて「赤いマルチ」を設置するのですが、かなり遠くから電源を引いてきています。完成したらぜひご覧になってみてください。高出力・複数口の急速充電スポットの整備には、色々な難しさがあることを垣間見ていただけるのではないかと思います。
Q. おおっ! いよいよ「赤いマルチ」が設置されるんですね!
(編集部注※青いマルチ/赤いマルチ=eMPが高速道路SAPAを中心に設置を進めている「ニチコン製マルチコネクタタイプ充電器」。「青いマルチ」は最大90kWのストール6口が基本で、同時充電台数などによって200kWの電源出力を分配。「赤いマルチ」は最大150kW4口が基本で400kWの電源を分配)
幸加木 はい、中央自動車道・談合坂SA上り線などが来年1月にオープンする予定です。現在、全国16カ所の高速道路SAPAに「赤いマルチ」を設置する予定で進めており、年度内に14カ所がオープンする予定です。
Q. 素晴らしい! ちなみに「青いマルチ」の電源増強などの進捗はいかがですか?
幸加木 「青いマルチ」の電源増強(現在の200kWから400kWに増強して最大出力で充電可能な台数を増やす計画)よりも、まずは「赤いマルチ」を先行して整備していこうと考えています。ただし、「青いマルチ」も電源分配の仕組みは早急に改善します。まず、後着優先で出力分配されていたのを、先着優先に変更します。また、ダイナミックコントロール非対応のEVに1口最大20kWの割り当てだったところを60kWに改善します。具体的な時期はまだ発表していませんが、試験導入で正常に動作することが確認ができれば、OTAで一気にアップデートする予定で、12月~1月頃に導入予定です。
寄本さんがEVユーザーとして「青いマルチ」に感じている不満はどのような点でしょう。
寄本 「青いマルチ」のスポットは人気になるので、同時充電台数が多くなりがちです。3~4台が同時充電になることは珍しくなくて、一度充電器から離れて戻ってみると出力が20kWほどに落ちているといった状況にストレスを感じます。あと、最大出力の90kWが15分しか継続しないブーストモードも不要だと感じています。せっかく秀逸な吊り下げ式のケーブルになっているのですから、30分間90kWを継続できる太いケーブルでいいのでは? と常々感じています。
Q. kWh課金の実証実験も始まりましたね。
幸加木 はい。10月1日から神奈川県内の2カ所のスポットで実証を開始(2025年3月31日までの予定)しました。e-Mobility Powerカードとe-Mobility Powerアプリで従量課金を利用いただけるモニターの募集はすでに終了していますが、ビジター利用で体験いただくことは可能ですから、実際に利用してみた感想などの声をお寄せいただければと思います。
今回の実証実験では期間を区切って、kWhと時間の課金単位を組み合わせたハイブリッド課金も試行します。
Q. パワーエックスの「65円/kWh(月額無料)」という料金はどう思いますか?
(編集部注※蓄電池式の最大150kW器でサービス展開するパワーエックスの従量課金価格は「65円/kWh(月額無料)、45円/kWh(月額900円)」)
幸加木 率直に「すごい」と感じます。われわれとの違いは何かと考えると、eMPは1枚の充電カードで日本全国の充電器を使える充電インフラネットワークを目指しており、空白地帯を埋める充電スポットを含めたネットワークを運営しているという違いがあると感じます。
寄本 たしかに、パワーエックスでは「一等地主義」を明言しています。また、大容量の蓄電池併設型だから低圧受電でサービスを運用できるのが強みになっています。
幸加木 好立地で高い稼働率が見込める場所に絞って設置すれば、利用料金を抑えることも可能になることは理解できます。とはいえ、蓄電池併設型の充電器は初期コストが高額になるでしょうし、この料金で持続可能な充電事業にできるのはやはり「すごい」という印象です。多様な事業者が切磋琢磨することによってインフラとしてバランスを取りながら発展していけるよう務めたいと思います。
Q. ビジター充電の手順簡略化やクレジットカード課金はできないものですか?
寄本 実は、私自身の選択として今加入しているZESP3の期限が切れたら、充電カードは持たず必要な時だけビジター利用にしようかと思案しています。とはいえビジター充電はアプリやウェブでの手続きが面倒で。月額無料の「ビジター充電カード」を発行してくれたり、一部のCPOが導入しているクレジットカードや電子マネー決済ができるとうれしいのですが……。
幸加木 われわれとしてもいろいろ改善策を検討しているところです。クレジットカードのタッチ決済は欧州などでもニーズが高まっていることは承知していますし、QRコード決済等の導入についても前向きに考えています。
eMPアプリの使い勝手に改善の余地があることは私自身もユーザーのひとりとして痛感していて、改善すべく検討を進めているところです。
Q. 月額4180円(税込)の会員料金をもっとリーズナブルにできないですか?
寄本 個人的に「急速・普通併用プラン」で月額4180円(税込)の会員月額料金が高いと感じています。基礎充電環境が整うほどに、EVを買ったけど充電カードには加入しないというユーザーが増えてしまうのではないかと心配です。
幸加木 日本全体でもっとEVの普及率が上がっていけば、どこかのタイミングで料金体系を考えるべきだと思いますが、着任してさまざまな数字を確認した限りでは当面は厳しいだろうというのが現状です。今年から来年がまさにピークである既設充電器の更新は、EVユーザーの皆様の充電利用が大きな支えとなっています。より多くのEVユーザーの皆様に充電カードに加入していただけるよう、充電ネットワークのバリューアップを図っていきます。
寄本 もちろん、EVユーザーとして充電インフラ構築と維持に貢献しようという思いはあります。でも高いと感じるのも正直な気持ちです。実際、軽EVを買ったけど充電カードは持たないユーザーが多いと聞きますし、個人的な許容範囲としてはギリギリでなんとか月額2000円くらいに抑えていただいて、加入者が倍になるほうが良いのではと思うのですが……。ともあれ、日本でもっとEVが普及するために、日本の自動車メーカーが大衆的で魅力的なEVを、いつ、どのくらいラインナップしてくれるか次第ということになるんでしょうね。
Q. ちなみに、NACSへの対応はいかがですか?
幸加木 欧米ではチャデモとCCSがダブルガンになった急速充電器がありますね。eMPとしては今のところNACSに対応することは考えていませんが、充電規格の普及状況を踏まえて検討していきたいと考えています。
日本国内の急速充電規格をどうするのかについては、国、自動車メーカー、チャデモ協議会、充電サービス事業者等が協議していくことになるのだと思っています。
Q. 最後に、2030年に向けた思いやビジョンをお聞かせください。
幸加木 ポイントはやはり「どんなEV車種がどのくらい出てきてくれるか」ということになります。日本の自動車マーケットは軽自動車と小型車が大半を占めていて、年間の走行距離もそれほど長くありません。EVになってもそうしたクルマの使い方が劇的に変わることはないでしょう。そうした日本のマーケットに合った充電インフラにしていくための「バリューアップ」が重要だと考えています。
2010年代が第一世代とすると、今は第二世代のインフラに作りかえています。2030年前後には第三世代のインフラをクリエイトしていくことになると想定できるので、EVマーケットの状況をしっかり見極めながらどのようにアップデートするか、バリューアップを進めていきたいと思っています。
(インタビュー、ここまで)
高速道路SAPAの複数口化進展に期待しています
インタビューを通じて、幸加木新社長がEVユーザーの利便性向上を真摯に考えながら、充電インフラの「バリューアップ」を目指している姿勢を感じることができました。開設を心待ちにしていた「赤いマルチ」が年度内に14カ所! というのは、今回のインタビューで初めて知ったうれしいニュースでもありました。
たとえば、首都圏=関西圏を結ぶ路線のSAPAには高出力複数口の急速充電器が適度な間隔で設置されたことによって、EVでのロングドライブで感じる不便さや充電待ちへの不安が格段に改善されました。複数口化がまだまだ進んでいない路線はありますが、eMPではすでに「2025年度末に1073口」とする高速道路充電インフラ数の目標を示し、日本列島を貫く高出力複数口化への取組を進めています。幸加木社長の「バリューアップ」に向けた前進にエールを送りつつ、「高速SAPAの急速充電器は複数口が当たり前」になる日を待ちたいと思います。
一方で、ひと月にせいぜい800~1000kmほどしか走らない日本で一般的な自動車ユーザーのひとりとして「月額約4000円=ガソリンが160円/Lとして25L分」を重く感じるのは正直な気持ちです。とはいえ、充電インフラの拡充には費用がかかるというのも納得できるし……。はたして、どんな仕組みになるべきなのか。これからも、体験して、考えて、記事として問いかけ続けていきたいと思うのでした。
eMPが進めるEV充電インフラのバリューアップに期待しています!
取材・文/寄本 好則
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社長になってBEVを購入じゃ期待出来ないというのが本音です。次の人事異動でe-mobiを離れたら、ガソリン車への乗り換えは確実ですね。
結局は東電の支配下にあるんですよね。
今後はパワーXやフラッシュに期待したいと思います。
PHEVだと、ガソリンとの比較ができるので、ガソリンでリッター15km走る車で、電費5km/kwくらいだと、1kwあたり50円くらいがガソリンとのボーダーライン。
これに月会費分乗るから、月に数回充電くらいだと1kwあたり30円くらいにならないとガソリン入れて走る方が安くなります。
これではEV普及などしません。
> また、ダイナミックコントロール非対応のEVに1口最大20kWの割り当てだったところを60kWに改善します。具体的な時期はまだ発表していませんが、試験導入で正常に動作することが確認ができれば、OTAで一気にアップデートする予定で、12月~1月頃に導入予定です。
よく走っている高速道路に青いマルチが設置されています。複数口があって充電待ちがほとんどなくなりましたが、i-MiEV乗りで現状の20kWはとても効率が悪いので、アップデートを期待しています。
インタビューお疲れ様でした。
どの質問も、多くのEVユーザーが社長に訊きたい質問で素晴らしかったです。
>個人的な許容範囲としてはギリギリでなんとか月額2000円くらいに抑えていただいて、>加入者が倍になるほうが良いのではと思うのですが……。
その通りでございます。
約7年間軽EV(三菱i-Miev)を愛用してきて、今回新たにEVを購入しました。決め手となったのは充電インフラです。自宅普通でEVを用いていく場合、緊急時以外急速充電を必要とする事は殆どありません。残念ながら現在のe-Mobility Powerの月額4180円の充電カードは高すぎます。年に数回しか使わない急速充電の為にこの様な充電カードを持つ理由は見当たりません。現在多くの魅力的なEVが増えてきたのですが、高価で使い勝手の悪いe-Mobility Powerの充電インフラでは、その魅力が半減してしまうと感じています。従って今回、充電カードを必要としないプラグ&ペイで急速充電を済ますことが出来るテスラ車を購入しました。
深く同意します。私はPHEVなので自宅以外で充電することはないですが、今の急速充電器の支払いシステムは全く理解不能ですし、これだけでBEVを買う気にはなりません。顧客の利便性無視で、いったいどこを向いて仕事をしてるの?とすら思います。そもそもなんで事前に充電カードなんか作らなければならないのか?そこからして疑問しかないです。
ガソリンスタンドはもちろん、今やどこの個人商店でも普通に電子マネーやクレカが使用できる時代なので、その手の端末を充電器に設置することも簡単なはずです。ポッと立ち寄った充電器でパッと支払って終わり。なんでそんな普通のことができないのか不思議でしょうがないです。