イーモビリティパワー 四ツ柳社長インタビュー/日本のEV充電インフラはどうなっていく?

経済産業省の「充電インフラ整備促進に向けた指針」が発表となり、口数や総出力は現在の10倍を目指すことや、急速充電の高出力複数口化が明示されました。はたして、日本のEV用急速充電インフラはどうなっていくのか。高速道路SAPAの急速充電サービスを中心的に担う株式会社 e-Mobility Power 四ツ柳尚子社長への緊急&独占インタビューです。

イーモビリティパワー 四ツ柳社長インタビュー/日本のEV充電インフラはどうなっていく?

※冒頭写真は2023年3月、新東名浜松SAに新設された150kW器。

指針の発表を受けて四ツ柳社長に聞いてみた

2023年10月、経済産業省が策定を進めていた「充電インフラ整備促進に向けた指針」が正式に発表(経産省ウェブサイトのPDFファイル)されました。次年度以降の充電インフラ補助金はこの指針に基づいて運用されるはず。つまり、日本国内のEV用充電インフラをどうしていくかという、EV普及にとって重要な方向性を示しています。

EVsmartブログでは指針案についての読者アンケートを実施して、その結果をパブリックコメントとして提出しました。詳細は結果報告の記事を参照いただくとして、以下のようなポイントを示す指針の原則は、読者(おもにEVユーザー)の約94%が支持する結果となりました。

●2030年までの充電器設置目標を30万口に倍増する。
●急速充電について、高速道路では90kW以上で150kWも設置。高速以外でも50kW以上を目安として、平均出力を現在の約40kWから80kWに倍増する。
●従量課金について、2025年度からのサービス開始実現を目指す。

EVの利便性を大きく左右する高速道路SAPAの急速充電器設置や運用を中心的に担っているのが株式会社 e-Mobility Power(イーモビリティパワー ※以下、eMP)です。日本の急速充電(経路充電)インフラの将来は、eMPがどのように拡充を進めていくかに掛かっているといってもいいでしょう。

四ツ柳尚子社長。

代表取締役社長であり、自らEVオーナーでもある四ツ柳尚子氏は、どのように考えているのか。気になるポイントを聞いてみました。Q&Aスタイルでまとめてみます。

高速道路の高出力複数口化は既定の方針

【Q】指針では高速道路の高出力複数口化が明示されました。どのように対応していきますか?

指針で示された方向性を基本的な整備方針として進めていきます。また、主要路線に設置する急速充電器の出力を90kW以上として、複数口化していくことは、今までも既定の方針として進めていたことでもあります。

高速道路SAPAの急速充電器を2022年度の511口から、2025年度までに1100口にする整備見通しはすでに発表している通りで、弊社としては、物理的なスペース等が確保できる限り計画通りに進めていきたいと考えています。

新東名浜松SA下り線。1口最大90kWの6口器と1口最大150kWの2口器が並び、最大で8台のEVが同時充電可能。

【Q】SAPAの総数は全国で約850カ所。もっと口数が多くていいとも感じますが?

そういうニーズがあることは承知しています。とはいえ、SAPAの限られた敷地の中で、充電専用の駐車区画を確保するのが難しいという問題があります。ひとつのSAPAに何口分のスペースを確保するかはeMPだけで決定するわけではありません。eMPでは、NEXCO様のような高速道路会社などの関係各所と調整しながらより利便性の高い拡充を目指していますが、2025年に1100口の目標を1500口にするのは、簡単なことではないということですね。

【Q】150kWを超えて350kW器などの高出力器を新設する可能性は?

欧州で設置が進んでいるIONITYの350kW器。

私どもの出自は電力事業者ですから、実はEV関連で言われている「高出力」な設備を整備すること自体が困難というわけではありません。今、日本のEV用充電インフラの高出力化の壁になっているのは、電気事業法で一般の利用者が操作できる一般用電気工作物の急速充電器の対地電圧が直流450V以下に既定されていることです。

また、日本で「低圧」とされているのは直流750V以下ですが、欧州では直流1500Vまで低圧となっています。欧州のCCS2規格などでは920Vのシステムに対応した最大出力350kWの急速充電器が増設されていますよね。電圧を上げれば、少ない電流で同じ出力を得ることができますし、現状のチャデモ2.0規格でも1000Vに対応しているので、現状の90kW器に使われている200A用のケーブルで350kWを15分くらい出せる充電器を開発することは可能です。

急速充電性能にとって、電圧はとても重要なファクターです。そのため、急速充電器側と車両側で緻密な制御をして安全性を担保しているEV用急速充電器に限っては電圧の規制を緩和して、欧州並みに1500Vまで低圧扱いにできるよう、すでに関係各所へ提言し、協議や調整を進めているところです。

もちろん、そうした高電圧に車両側が対応することも必要です。実際にCCS2で350kWのサービスが提供されている欧州でも、15分間も350kWを吸い続けられる市販EVの車種は、あったとしてもごく一部でしょう。公共インフラとしてどの程度の最高出力が必要かという点は、新たなEVの性能なども注視しながら、慎重に選択していくべきだと思っています。

【Q】マルチプラグ器でのパワーシェアリングは、もっと高出力化できないものですか?

新設を進めている6口器では、200kWの電源を共有しているので最大出力の90kWで同時に2台までしか充電できず、同時充電台数が増えると出力が低下することについて、すでにたくさんのユーザー様の声をいただいており、改善を検討しているところです。

また、ダイナミックコントールに対応していない車種の場合、20kWでしか充電ができないという仕様についても、該当する車種の自動車会社や販売会社と連携しながら対応を進めています。EVユーザー様のご意見は可能な限り反映して、よりよい急速充電インフラにしていく取り組みを進めていきますので、ご期待ください。

高速道路の急速充電インフラについて、出力や口数の不足や、使いづらいといったサービス面での課題があることは十分に承知しています。ただ、そうした充電器は、第一世代の経年化した古い設備がほとんどで、eMPではよりEVユーザーのニーズにマッチした、遠隔から監視・制御ができ、アプリでも即時利用ができ、より出力の高いものに更新する取り組みを進めていることをご理解いただきたいとも思います。

【Q】SAPAの充電インフラをeMPが独占しているという批判もありますが……

独占していたのではなくて、今までは「EVの普及が不透明で、事業リスクが高いので、誰もやろうとしなかった。結果として、前身のNCS、JCN、今のeMPしか担い手がいなかった」ということかと思います。高速SAPAの急速充電器は比較的稼働率が高いものもありますが、現状のEV普及状況の中では、採算が合わないSAPAが圧倒的多数というのも事実です。今回の指針で「高速は90kW以上」とされていますが、極端に稼働率が低い地方のPAなどでは、最大出力よりも口数確保を優先したほうがベターなケースもあるでしょう。eMPでは今までの運用経験を反映しながら、誰もが便利に利用できる、持続可能な充電インフラの実現を目指しています。

いずれにしても、今後の高速SAPAへの充電インフラ拡充は、今回の指針を受けて国土交通省やNEXCO各社様が出される方針に対して、弊社がどうご提案していくかということだと考えています。もちろん、高速SAPAに充電器を設置したいと望まれる他の充電サービス事業者もいらっしゃるでしょうから、弊社としては今まで同様、着実に求められる役割を果たしていきたいと思っています。

2023年3月、開設直後の関越自動車道上里SA上り線の6口器。終了後放置の車両もあって充電待ちの場面に遭遇しました。

【Q】指針の検討会で、従量課金などに前向きな発言をされていましたね。

そうですね。従量課金は関係各社などが参加して検討するワーキンググループが、電動車両用電源供給システム協議会(EVPOSSA)に続き、CHAdeMO協議会の中にも立ち上がって、今まさに急速充電器のkWh課金のガイドラインを策定しようとしているところです。

ただ、車両でエアコンをつけながら充電した場合などは、充電器で計量された電力量とEVのバッテリーに充電できた電力量とに差が生じるケースがあります。ユーザーが戸惑わないように業界全体でコンセンサスをつくることが重要だと考えています。また、充電終了後の車両放置対策などとして、時間課金を併用するのが良いのではないかといったユーザーの声も多く、eMPとしても最善の仕組みを検討しているところです。

実証実験的に従量課金を導入した急速充電器を設置して、利用したEVユーザー様にアンケートを行うことも検討していますので、その際はぜひご協力ください。

【Q】プラグアンドチャージ(PnC)はいかがですか?

充電ケーブルを車両に接続するだけで認証や課金が行われて充電できるPnCが便利で、EVユーザーのニーズがあることはもちろん承知しています。また、チャデモ規格もPnCを実現することは技術的には可能です。

たとえば、テスラのEVは自社インフラのスーパーチャージャーでPnCを実現しています。ただ、これはテスラ製のEVと急速充電器という「1対1」の関係だからシンプルに実現できていることでもあります。公共の充電インフラはEVのメーカーも充電器のメーカーも「N対N」ですし、決済システムも多様ですから、eMPだけが「やりましょう」と言って実現できることではありません。

ともあれ、ひとりのEVユーザーとして、ケーブルを挿すだけで充電できるPnCの利便性は理解できますし、日本の充電インフラとしても実現すべきサービスだと思うので、関係各所と連携しながら可能性を探っていきたいですね。

【Q】北米で採用が進んでいる「NACS」はどうですか?

テスラの場合、前述したように「1対1」の関係だからこそ車両と充電器を最適化されてエクセレントな充電体験を提供されていて、うらやましいとさえ思います。

ただ、自動車会社や充電器メーカーのエンジニアともコミュニケーションしていますが、自動車会社や車種によってバッテリーマネジメントも異なるでしょうし、「N対N」の公共充電サービスとしてうまく機能させるという点においては、NACS規格であろうと「確認工数」が格段に増えるので、難易度が上がることでしょう。いずれにしても、NACSを含めた充電規格をどうするのかは自動車会社や国が選択することですから、充電インフラのサービサーであるわれわれがどうこう言うべきことではないと考えています。

「1回30分」問題は広くEVユーザーで議論したい、ですね

以上、四ツ柳社長へのインタビューでした。幅広く、わかりやすく回答いただけたのではないかと感じています。全体として、日本の高速道路急速充電インフラは、90~150kW器を中心として、より使いやすく進化していくという明るい予感を抱くことができる内容でした。経産省の指針が示した方向性は、四ツ柳社長、eMPの基本方針でもあるということです。

インタビューは全体としてEVユーザー談義的な雑談混じりに進んだのですが、取材時間が終わりに近付いたころ、急速充電「1回30分」の話題で盛り上がりました。

急速充電が「1回30分に限定されていることはどう思いますか? 場所によっては60分とかでも良いとは思っているのですが」と四ツ柳社長から逆質問。

SAPAで充電する際、30分だとレストランで食事するには時間が足りなかったり、大容量バッテリーのEVでは充電量が物足りなかったりしますから、私としては「複数口設置が進むなら、30分制限は撤廃していいんじゃないですか」と思ったのですが……。

「でも、自分が充電で待つ立場になった場合、前のEVの充電がいつ終わるかわからないのは困りますよね」と、広報ご担当の花村氏が、さすがEVオーナーの鋭いご指摘。複数口化されることで「まあ大丈夫だろ」的な充電終了後放置が増えるのではといった課題と含めて、読者(EVユーザー)のみなさんを交えて議論してみたい! という結論になったのでした。

理想的なEV充電インフラを拡げていくために、みなさん、一緒に考えましょう!
(改めて企画を考えて告知します)

最後に、今回のインタビューにはEVsmartブログ著者陣のひとりでもある八重さくらさんの運営スタッフが同行し、かねて行っていた『すべてのEVが快適に充電できるよう、高速道路に「超」急速充電器を整備してください!』の署名活動(関連記事)で集まった署名と要望書を四ツ柳社長に直接お渡しすることができました。

日本のEV充電インフラが、よりよく発展していきますように。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. > 「1回30分に限定されていることはどう思いますか? 場所によっては60分とかでも良いとは思っているのですが」

    高速道路SAPAに複数の高出力充電口が設置される前提で、SA PAの低出力機(〜50kw)に限っては60分に緩和して良いと思います。(ただし放置車両対策として繋いでいる限り継続課金すること!)

    高出力機(90kw〜)については充電されるに従い受入可能電力が縛られることから30分で交代としてほしいです。

  2. 充電後放置車両/非充電車両の車室利用へのペナルティ課金を早急にお願いしたいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事