新型『EQS450+』で弾丸四国遠征【後編】やっぱ150kW器足りなくない?

メルセデス・ベンツのフラグシップEV、新型『EQS 450+』で往復約2000kmの超弾丸四国遠征。後編のレポートでは大容量電池を搭載した高級EVで実際に走って感じた四国や中国地方の急速充電インフラ事情などを中心にレポートします。

新型『EQS450+』で弾丸四国遠征【後編】やっぱ150kW器足りなくない?

四国や中国地方の高出力経路充電インフラは?

前編では関東から高知県、四国最南端の足摺岬に立ち寄って愛媛県に上陸した1093kmをレポートしました。後編の舞台は愛媛県八幡浜市から松山道、瀬戸大橋を渡って岡山県へ。さらに中国道などを経由して埼玉県へ駆け戻るルートです。充電残量が少ない状態から約1000kmを走り切るためには高性能な急速充電器で充電残量を一気に回復させる必要があります。はたして四国や中国地方の経路充電インフラの現状はどうなっているのでしょうか?

【区間①】道の駅八幡浜みなっと→ネッツトヨタ愛媛だんだんPARK(90kW級急速充電器)
●走行距離:62.0km
●消費電力量:18%→10%
●平均電費:161.3Wh/km(6.2km/kWh)
●外気温(足摺岬→八幡浜):6.5℃→12.0℃

車中泊によって電気をかなり消費。充電残量10%で松山市街に到着し、市内に3ヶ所存在する90kW級急速充電器の1つであるトヨタディーラーに向かいました。ところが先客として日産アリアが充電しており30分間でSOC40%までしか回復させることができませんでした。

2本出しのパワーシェアリング器は2台同時に充電できる一方で、充電セッションが終了するまでどれほど充電できるのかを予測するのが難しくなります。本当はSOC50%程度まで充電して、中国自動車道の吉備SAまでノンストップで走り切る分の充電を行う予定だったのですが、やはり計画通りにはいきません。

松山市街で野暮用を済ませながら、ランチに鯛めしとさつま汁をいただきました。

【区間②】松山市街→与島PA(50kW級急速充電器)
●走行距離:143.6km
●消費電力量:31%→4%
●平均電費: 222.2Wh/km(4.5km/kWh)
●外気温(松山市街→与島PA):7.5℃→8.0℃

やはり懸念していた通り吉備SAまで辿り着くことができずに途中の与島PAで継ぎ足し充電を行いました。しかも先客としてテスラモデルYが充電しており15分程度待つ羽目に。吉備SAまで90kW級は存在しないため、この充電待ちを回避することは難しかったと思います。

50kW器で15分ほど充電して9.1kWh充電。充電ロスを含めると、冬場のEQSの電費換算で約40km分の航続距離しか回復させることができません。

最大90kWの青いマルチでも力不足感は否めない

【区間③】与島PA→吉備SA(90kW級急速充電器)
●走行距離:42.4km
●消費電力量:11%→2%
●平均電費: 250Wh/km(4.0km/kWh)
●外気温(松山市街→与島PA):8.0℃→3.5℃

ようやく90kW級の充電スポットに到着です。吉備SA上り線にはe-Mobility Powerの青いマルチが6基設置されており、先客や後続車両をさほど気にすることなく充電できます。とはいうものの青いマルチの問題点はブーストモードが採用されている点で、15分経過すると約80kW(200A×約400V)から約50kW(125A×約400V)に充電出力が制限されてしまいます。
私はこの仕様を知っているので、15分間で充電セッションを切り上げて再度充電をやり直すのですが、さらなる問題は青いマルチはブーストモードで充電すると、充電ケーブルを冷却するためにクールダウンタイムに突入してしまうので、充電区画も移動する必要があることです。

私は一人で移動していることもあり15分毎に車両を移動させることが可能ですが、実際にそんなことをするユーザーはいません。ブーストモードはなんとか許容するとしても、もう少し充電ケーブル側の熱に対する余裕が欲しいところです。

そしてこの吉備SAの次に150kW級が位置する湾岸長島PAまで(約310km)辿り着ける分をしっかり充電します。充電セッションとしては15分×4回を行ってSOC65%まで回復していますが、やはりEQSにとっては90kW級でも力不足であることを感じました。

高出力急速充電器整備の状況

ここで関東から関西中国地方における高速道路上の急速充電器の設置状況と設置予定を確認しておきましょう。まず現時点の150kW級急速充電器の設置状況です。

SA/PA設置充電器数
【新東名下り線】
駿河湾沼津SA下り150kW×2/90kW×4
浜松SA下り150kW×2/90kW×6
【伊勢湾岸下り線】
湾岸長島PA下り150kW×2/50kW×1
【伊勢湾岸上り線】
湾岸長島PA上り150kW×2/50kW×1
【新東名上り線】
浜松SA上り150kW×2/90kW×6
駿河湾沼津PA上り150kW×2/90kW×4

2024年末時点で、本州では新東名と伊勢湾岸にしか150kW級は存在しません。次に2025年度までに設置予定の充電器を含めてみましょう。(海老名SA以西、壇之浦PA以東の東名・新東名・名神・新名神・中国・山陽・関門自動車道のみを抜粋)

SA/PA設置充電器数運用開始予定時期
【東名下り線】
海老名SA下り9基(2基撤去。8基追加)2025年度内
中井PA下り4基2025年度内
浜名湖SA下り5基(1基残置。4基追加)2024年度内
清水PA下り4基2024年度内
【新東名下り線】
駿河湾沼津SA下り150kW×2/90kW×4設置済み
浜松SA下り150kW×2/青いマルチ×6設置済み
岡崎PA下り6基2025年度内
【伊勢湾岸下り線】
湾岸長島PA下り150kW×2/50kW×1設置済み
【名神下り線】
尾張一宮PA下り4基2024年度内
養老SA下り4基2024年度内
【新名神下り線】
土山SA下り4基2024年度内
【山陽下り線】
三木SA下り6基2025年度内
小谷SA下り6基2024年度内
宮島SA下り4基2024年度内
小谷SA下り6基2024年度内
【関門下り線】
壇之浦PA下り4基2024年度内
【山陽上り線】
下松SA上り4基2024年度内
宮島SA上り4基2024年度内
小谷SA上り6基2024年度内
福山SA上り150kW×2/90kW×22024年度内
三木SA上り6基2025年度内
【新名神上り線】
土山SA上り4基2024年度内
【名神上り線】
養老SA上り4基2024年度内
【伊勢湾岸上り線】
湾岸長島PA上り150kW×2/50kW×1設置済み
【新東名上り線】
岡崎PA上り6基2025年度内
浜松SA上り150kW×2/青いマルチ×6設置済み
駿河湾沼津PA上り150kW×2/90kW×4設置済み
【東名上り線】
清水PA上り4基2024年度内
浜名湖SA上り5基(1基残置。4基追加)2024年度内
海老名SA上り9基(2基撤去。8基追加)2025年度内

※「充電インフラ整備促進に向けた指針」(2023年10月18日:経済産業省)に基づき、原則として1箇所に4基以上設置する場合には、原則1基以上最大150kW級の急速充電器を整備することになっています。よって今回は新規で4基以上設置予定の充電スポットには150kW級が整備されるものと仮定して表記しています。
※それ以外の充電器設置予定はeMPのプレスリリースを参照のこと。

このように見ると2025年度までに東西の大動脈である主要な高速道路上には150kW級の急速充電器が設置されることがわかります。とはいうものの、それぞれの充電スポットごとの150kW級の設置割合がどうなっているのか。赤いマルチなのかABB製の2本出し充電器が1基設置されているだけなのかといった詳細はまだわかりません。とくに2025年3月までに設置されるはずの2024年度内の設置予定の急速充電器が全て稼働次第、今までの検証と同じルートを走ってみて利便性の違いを検証したいと思います。

【区間④】吉備SA→湾岸長島PA(150kW級急速充電器)
●走行距離:301.7km
●消費電力量:65%→3%
●平均電費: 232.6Wh/km(4.3km/kWh)
●外気温(吉備SA→湾岸長島PA):2.0℃→7.5℃

ついに150kW級急速充電器のある湾岸長島PA(上り)まで戻ってきました。先客もいなかったので最大出力は約140kW(350A×約400V)で充電することができ、15分間で33.2kWh、SOC27%分充電することができました。

やはりEQSに対しては150kW級の急速充電器がマストです。もちろんEQSだけではなく70〜100kWh級のバッテリー容量を搭載して高出力の急速充電性能を備えた輸入EVが続々登場しており、これからの数年間で車種がさらに増えることも間違いありません。以前EVsmartブログで取り上げた赤いマルチ(関連記事)を最低限のスペックとして、2026年度以降の充電インフラ拡充計画を策定して欲しいと改めて感じました。

【区間⑤】湾岸長島PA→埼玉市街
●総走行距離:2045km
●全行程平均電費: 222.2Wh/km(4.5km/kWh)

ついに私の自宅があるさいたま市内に戻ってくることができました。神奈川県を出発してからの総走行距離は2045kmと、私のEV遠征企画史上最長距離を記録。ややハイペースで高速道路中心で走行しつつ、時期が真冬という環境を踏まえると、2.6トン級の大型セダンとしてはまずまずの電費だったと感じます。

このようにしてメルセデス・ベンツのフラグシップEV、新型EQS450+で関東=四国往復2000km遠征を走り抜けたわけですが、結論から申し上げて、やはり150kW級の超急速充電ネットワークが圧倒的に不足している現状を実感できました。

e-Mobility Power(eMP)は2025年度末までに150kW級を含む急速充電器の設置をさらに進めることを明示しています。2026年度以降に同じルートを走行してみて、どれほど充電インフラが改善されたのかを確認するのが楽しみです。
また、公正取引委員会からの指摘を受けて、今後は高速道路上にもeMP以外の急速充電器の導入が実現していく可能性もあります。今回遠征の高知県で使用したテンフィールズファクトリーのFLASHをはじめとして、Power Xやユビ電の急速充電器設置動向にも期待しています。やはりユーザーファーストな充電インフラを整備するためには競争が必要だと改めて感じました。

ちなみに、そのFLASHやPower X、ユビ電は揃ってチャデモ規格以外にNACS規格の充電ケーブルを併設する方針を表明しています。すでにソニーホンダモビリティのアフィーラが日本国内でもNACS規格の採用を表明。特に開発リソースの少ない輸入車メーカー勢は、チャデモ規格の採用を本当に続けるのか、北米市場で統一規格となったNACS規格にこの際鞍替えしてしまうのか、といった急速充電規格の課題もまだ流動的です。

不幸中の幸いと言うべきか、まだ日本国内のEV普及率は極めて低いですから、本気でNACS規格の採用を考える時が来ているのではないかと感じます。私自身が独自に取材している内容だと、実は自動車メーカーの一部ではNACS規格を日本国内でも導入するのはアリなのではないかという議論も出ているそうです。

今回EQSがチャデモ規格の充電インレットの制約によって充電出力が制限された可能性が高いといった現実を知るほどに、NACS規格をそのまま日本市場に導入するのも割と現実的な選択肢だと訴えたいです。

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

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