神奈川県内2カ所のスポットで実施中
株式会社e-Mobility Power(eMP)が、神奈川県内2カ所のスポット限定で、急速充電器におけるkWh課金(従量課金)に関する実証実験を2024年10月から実施しています。
実証期間は2025年3月31日までの予定で、事前に募集されたモニターに応募したeMPカード会員と、ビジター利用するユーザーが対象。モニター募集はすでに終了していますが、ビジター利用することですべてのEVユーザーが従量課金を体感することができます。
【実証実験実施中の充電スポット】
① DCM 洋光台店(旧ケーヨーデイツー洋光台店)
住所:神奈川県横浜市磯子区洋光台2-13-10
利用可能時間:9:30〜19:00
充電器:ABB 製 Terra184JJ-X(1台利用時最大出力 150kW)
② セブンイレブン相模原橋本台1丁目店
住所:神奈川県相模原市緑区橋本台1-19-7
利用可能時間:24時間
充電器:ABB 製 Terra184JJ-S(1台利用時最大出力 90kW)
充電料金は従量&時間課金で期間別に検証
実証実験における充電料金は、kWh課金(従量課金)と従来の時間課金を併用することも想定し、実験期間を3つに区切って実施されています。
すでに2月になってしまったので、今から利用できるのは最後の期間「82.5円/kWh(以下、料金はすべて税込)」と「27.5円/分」の併用による料金となります。シンプルな従量課金のみだった2024年10月1日〜12月1日の料金は「154円/kWh」と、EVユーザー感覚からするとかなり高額な印象です。
ちなみに、段階的に検証されている各期間の料金設定で30分、15kWhを充電すると仮定した場合の課金額は以下のようになります。
【1】154円/kWh=2,310円
【2】110円/kWh + 22円/分=1,650+660=2,310円=154円/kWh
【3】82.5円/kWh + 27.5円/分=1,237.5+825=2062.5円=137.5円/kWh
いずれのケースでも、おおむね130〜160円/kWh程度の充電料金となるように設定されているようです。
ただし、対象の充電器は90〜150kWの高出力器です。たとえばIONIQ 5のように急速充電性能が優れた車種が30分で40kWh充電できたと仮定すると、以下のような金額になります。
【1】154円/kWh=6,160円
【2】110円/kWh + 22円/分=4,400+660=5,060円=126.5円/kWh
【3】82.5円/kWh + 27.5円/分=3,300+825=4,125円=約103円/kWh
つまり、充電性能が優れたEVの場合、時間課金が比率高く併用されているほどに合理的な料金で充電できることがわかります。
従量課金制度の実現に向けて
EV用急速充電器の従量課金については、2023 年 10 月に策定された「充電インフラ整備促進に向けた指針」で2025 年度からのサービス実現を目指す方針が示されています。今回のeMPの実証実験はその方針に則って従量課金制度を実現するための取り組みです。
最大出力が20kWの「中速器」でも150kWの超急速器でも、時間課金制の場合は30分間の利用料金が同じになってしまう不公平感から、従量課金制の実現は多くのEVユーザーの要望でした。ただし、充電性能が低いEVが高出力器を長時間占有するのはいかがなものかといった懸念の声があったのも事実。時間課金とのハイブリッドは、自分が乗っているプラグイン車の急速充電性能や、充電の特性を理解しない使い方対策といった意味があるのだと思います。
実証実験の開始を知らせるeMPのリリースでは「今回の実証では、特定計量制度に基づき計量した電力量(kWh)に応じた課金(従量制課金)を実際に実施し、運用上の課題やご利用者の声について検証を行うことを目的」としていることが示されています。
いくつか、気になる点があったので、eMPに質問してみました。以下、一問一答形式で紹介します。
Q. 今回の実証実験で確認するのはどのようなポイントですか?
・従来と異なる料金体系に対するユーザーの声を確認すること。
・特定計量制度に関する国への届出内容やリードタイム等を確認すること。
Q. 実証実験のスポットで今回の2カ所を選んだ理由は?
・十分な利用回数が見込まれる充電スポットであること。
・高出力充電器(150kW出力又は90kW出力)が設置してある充電スポットであること。
Q. 時間課金を併用する理由は?
欧州ではkWh課金と時間課金を併用した料金体系(ハイブリッド課金)となっている充電器も存在するため、今回の実証では様々な料金体系を試行したうえで、ユーザーの声を収集したいと考えております。また、時間の概念をなくすことによる充電完了後の車両放置といった懸念などへの影響の確認という意味合いもあります。
Q. 充電終了後の放置にペナルティ課金を行うなどの計画はありますか?
現時点においては、ただちにペナルティ課金を導入する予定はありませんが、EV・PHEV普及状況や充電スポットの利用状況等を踏まえて今後検討してまいります。
Q. 原則1回30分という急速充電器利用時間の変更は想定していますか?
現時点においては、ただちに1回あたりの急速充電利用時間上限(30分)を変更する予定はありませんが、EV・PHEV普及状況や充電スポットの利用状況等を踏まえて今後検討してまいります。
Q. 実証完了後、従量課金は全国すべての急速充電器に適用されますか?
2025年秋以降に設置する急速充電器については、kWh課金対応機とする予定であり、kWh課金導入については、2025年度中を目指しております。2025年秋以前に設置した急速充電器へのkWh課金の導入時期等については、充電器の改修が必要となる場合があるため、今後検討してまいります。
Q. 期間ごとの料金について「154円(税抜140円)」「132円(税抜合計120円)」「110円(税抜合計100円)」とハイブリッドの合計額に差がある(時間課金分が上がるほど合計金額が下がっている)理由は?
①140円/kWhと②100円/kWh+20円/分は、30分間(充電量:15kWh)充電したケースにおいて、従来の時間課金のビジター利用時と同等の充電料金額になるよう設定しております。
③75円kWh+25円/分は、同様のケースにおいて1割程度安価な充電料金になるよう単価を設定し、充電時間が短いユーザーほどその価格メリットを感じやすい仕組みとしております。なお、充電料金単価については、あくまで今回の実証実験用に設定した単価となります。
Q. 「154円/kWh」はどのくらいの稼働率(時間)を想定した料金設定ですか?
前述の通り、30分間(充電量:15kWh)充電したケースにおいて、従来の時間課金のビジター利用時と同等の充電料金額になるよう設定したものです。
Q. 現状の充電カード(メーカー発行を含む)は時間課金を基本に仕組みが設計されています。従量課金適用時、料金設定などに大きな変更が必要になると思いますが、スムーズな移行に向けた施策などは?
自動車メーカーなどの会員事業者様とも会話をしながら、十分な告知期間を設けるなど、ユーザーの皆さまが混乱しないよう進めてまいります。
(一問一答ここまで)
ちなみに、eMPカードによる従量課金の実証も行われているはずなので「会員(モニター)料金はいくらなのか」追加で質問しましたが、その点は非公表とのことでした。月額会費が高すぎるのとともに、eMP提携の充電カードを保有し続けるかどうかを思案する私にとって気になるポイントではあります。
抽選で50名にビジター利用料金をキャッシュバック
2024年の年の暮れ、なにはともあれ従量課金器を体験してみようと2カ所の実施スポットを訪問。相模原のセブンイレブンで実際に30分のビジター利用してみました。SOC40%から開始して約30分(表示時間が28分43秒になっているのは謎)で70%まで、約15.3kWhの充電となりました。
と、充電器にアンケートへの協力を求めるステッカーを発見。回答すると、抽選で50名にビジター利用料金をキャッシュバックしてくれるとのこと。
充電中にスマホで回答して、その後すっかり忘れていたのですが、先日、eMPから「kWh課金実証実験キャッシュバック(2024年12月ご利用分)のご案内」というメールが来て、この時の充電料金2,426円がキャッシュバックされました。eMPさん、ありがとうございます。
アンケートへの回答は、実際に対象スポットで従量課金の充電をして、充電器に表示されたQRコードからアンケートページに入って行います。キャッシュバックがあるからではなく、従量課金についての自分の声をeMPに届けるためにも、実証実験に参加する意義はあるのではないかと思います。
ちなみに、ビジター充電を行う際にもQRコードを活用します。スマホとQRコードのおかげで、認証機に暗証番号入れるような面倒臭さはかなり改善されたけど……。その都度カード番号入れたりするのは面倒だし、まだまだややこしいですね。
合理的な従量課金の実現を期待したい
eMPネットワークの急速充電器における従量課金の実現は「今年度中が目標」となっていて、もう目前です。設置や運営にコストがかかる急速充電器の料金が、家庭の電気代より高くなるのは当然のことでしょう。
従量課金の導入は多くのEVユーザーが待望してきたことです。先日お伝えしたように日本充電インフラが全国200カ所の道の駅の急速充電器を従量課金制の新型器に更新することが発表(関連記事)されました。また、パワーエックスは大容量蓄電池を備えた超急速充電器のネットワークを広げつつあり、一般利用で65円/kWh、年払いで月額900円の「PowerX First」に加入すれば3日前から予約可能である上に45円/kWhという料金で充電できる仕組みをすでに導入しています(関連記事)。
昨年末、テンフィールズファクトリーが自社開発の急速充電器「FLASH」の設置台数が100台を突破した記念として44円/kWhに値下げしたのは期間限定のキャンペーンでしょうし、事業として持続可能な価格設定ではないと思います。とはいえ、FLASHはいち早く従量課金とクレジットカード決済を実現していたり、NACSケーブルへの対応、経産省の「電気設備の技術基準の解釈」規制緩和を受けて急速充電器の1000V対応を実現し、IONIQ 5など一部の高性能EVで最大240kWの高出力急速充電を可能にするなど、スピーディーにユーザー本位の対応を進めています。
【編集部注】フラッシュについては設置場所の選定や設置運営に高利回りの投資を募る手法への懸念を紹介する記事も公開しています。
ほかにも、いくつかの充電サービス事業者が急速充電の従量課金制へのチャレンジを始めています。とはいえ、大多数のEVユーザーが、とくに利用頻度が高い高速道路SAPAで急速充電器を利用する際には、eMPカード(提携の充電カードを含む)を使うのが便利であり、eMPがどういう仕組みを導入するかという点は、数年後の日本におけるEV普及の勢いに影響するくらいの「重要課題」だと感じます。
急速充電はEV側の性能にも関わることですから、トヨタをはじめとする自動車メーカーとしっかりコミュニケーションして「魅力的なEVの将来像」を見せてほしいとお願いしつつ。この機会に広くEVユーザーの声をeMPに届けることが大切ですよね。
どの程度の料金ならEVユーザーとして受け入れられるのか? 経路充電インフラにどんな進化を期待しているか? 神奈川県内2カ所限定ではありますが、できるだけ多くのEVユーザーが実証実験に参加して、生の声をeMPに届けてくださるといいな、と思っています。
取材・文/寄本 好則