テスラは修理代が高いとか、車両保険加入を断られたといった話をSNSなどで目にすることがあります。実際のところどうなのか。その理由は何なのか。自動車生活ジャーナリスト、加藤久美子氏のレポートです。
車両保険料率が最高レベルになった型式も!
テスラの修理代や車両保険が高いという話をしばしば見聞きしますし、オーナーの方も車両保険の高額さに驚かれたことがあるかもしれません。また、車両保険料率クラスが最高の「17」となる車種についてはSBI損保をはじめとした通販型自動車保険のほとんどで車両保険の引き受けを断られるケースも多発しています。
実際、損害保険料率算出機構が公表しているテスラ各モデルの「料率クラス」(車両)を調べてみると、モデル3の中には2024年も2025年も車両保険の料率クラスが「17」の型式(3L13T/3L23)があり、中にはモデル3(3L23B)のように、2025年から対人、対物、車両保険が1クラスずつ上がって車両保険が17になった型式もあります。

損害保険料率算出機構の公式サイトから引用。
ただし、同じモデル3でも型式によっては車両の料率クラスが24年も25年も「13〜14」と低めの型式もあります。車両だけではなくテスラ車の料率クラスは年々上がっていますが「料率クラス」についてどのような種類があり、何を基準に決まっているのかを説明します。
自動車に関する損害保険には、強制保険(自賠責保険)と任意保険があり、自賠責は「被害者救済」を目的とした損害保険なので歩行者や自転車、相手車両のドライバーを含む乗員、さらに自車のドライバー以外の「人」のケガや死亡、後遺障害などについて賠償します。保険料は四輪車の場合「自家用乗用自動車」「軽自動車」「自家用普通貨物」「自家用小型貨物」の4種で区分されており、車種やドライバーの年齢によって変わることはなく、またどの保険会社で入っても同一で補償額等も同じです。
一方、任意保険には「対人」の他に、「対物」(相手車両、ガードレールや建物など)「車両保険」(自己車両、自損事故など含む)など人以外への補償があります。保険料はドライバーの年齢や年間走行距離、補償の範囲を自分だけにするか、夫婦、家族限定にするか、車両保険をいくらまでつけるかといった条件で決まります。もちろん「等級」によっても違いますし、弁護士特約や付帯する特約によっても異なってきます。
そしてこれらの保険料の算出に大きく影響するのが損害保険料率算出機構による「型式別料率クラス」の評価です。料率クラスには ①対人 ②対物 ③人身傷害 ④車両 の4種類があり、軽自動車で1〜7段階(2024年までは3段階)、普通車で1〜17段階まで設定がありクラスが高くなるほど保険料が高くなります。
料率クラスは毎年型式ごとに過去3年間の保険料と保険金を集計して損害率を算出。平均損害率よりも20%以上高ければ料率クラスが1つ上り、±20%以内の場合は料率クラスは前年のまま据え置かれます。同じ型式のテスラ車がたくさん事故を起こして多額の保険金を支払う事態となれば、自身が無事故であっても料率クラスが上がって保険料が高くなることもあります。また、損害率は事故の比率ではなく台数が関係してくるため人気のグレード(販売台数が多い型式)は料率クラスが高くなる傾向があります。
4つの項目について17段階で評価する料率クラスは損害保険料率算出機構の公式サイトで誰でも調べられます。
テスラの料率クラスが高くなる要因は?
なぜテスラ車は車両の料率クラスが年々上がっているのでしょうか? 台数の増加ということはもちろんありますが、大手損保会社の営業担当者に聞いたところ以下の回答を頂きました。
① 初めて乗る車がテスラという人が多く、運転技術不足で車両感覚が足らずぶつけてしまう。
② 国産ファミリーカーからの乗り換えも結構多く強い加速や扁平タイヤの特性に慣れていない。(薄いタイヤをキャッツアイなどに引っかけてパンクさせる。ホイールを傷つける)
③ 少しの傷や損傷でも修理代が高額になるため保険を使って直そうとする契約者が多い。
④ テスラ独特のアルミボディ構造(ギガキャスト構造)は板金修理がやりづらく非常に高い修理技術と高額な費用が必要になる。
⑤ そもそもテスラの車体には「アルミニウム合金」が多く使用されており、長所も多いが修理となるとスチールよりも硬度が高く加工が難しいため特別な技術や修理機器などが必要となる。
⑥ ④⑤の理由から部品供給含めて修理に時間がかかる場合が多く、その間の代車費用(一般的に代車は同じクラスの車両が原則なので高級車テスラの代車となると代車費用がさらに高額になる)などもかさむ。
ほかにも理由はありますが主に上記の理由でテスラの板金塗装修理には非常に時間とお金がかかってしまい、それが修理代増加→車両保険の料率クラスアップ→保険料増加……につながっていると考えられます。
テスラが開発した「ギガキャスト」構造とは?
テスラの修理代が高い、時間がかかる理由の最たる理由はテスラ独特のボディ構造「ギガキャスト」(メガキャスティングなどの呼び名も)に関係しています。ギガキャストはテスラが開発した革新的なボディ構造で複数の部品をアルミダイカストで一体化することで製造コストを大幅に削減できるメリットがあります。
現在は、NIOやシャオミといった新興EVメーカーが一部にギガキャストを採用しているほか、2026年以降トヨタやホンダ、日産などの国産メーカーもギガキャストを採用した新型車を発表する予定があります。このギガキャスト構造がなぜ、修理代の増加につながるのか? 現役自動車メーカーのエンジニアであるHALさんに説明を頂きました。
Q. ギガキャストで作られた部品は修理ができないのでしょうか?
部品自体の修理はできないと考えてください。アルミ部材の修理は鉄よりも難易度が高く、ギガキャストほど大きく複雑なアルミダイキャスト部品を修理して元のクルマの性能を保証できる業者はいないはずです。また部品ごと交換することも実質不可能です。理由はクルマを組み上げる順番です。テスラを含むモノコックボディのクルマは、まずアンダーボディから組んでその上にアッパーボディを組んでいきます。そこからエンジンやシャシー、内装、艤装部品を組み付けるため、ギガキャストなど、アンダーボディの大きな1パーツを脱着するようにはできていません。
Q. テスラの板金修理で気を付けるべきことは?
ギガキャストが使われていたら修理ができないというわけではなく、多くの事故で修理は可能です。なぜなら自動車事故のほとんどはエアバッグが開かないような軽微な衝突だからです。その時に壊れるのは、前後のバンパーやフェンダー、ドアパネルですが、これらは交換可能な部品です。特に車両前後にあるバンパーリインフォースやクラッシュボックスは効率よく衝突のエネルギーを吸収し、ボディ骨格を変形させない構造になっています。そのため、事故の大部分を占める低速での衝突なら、ボディ骨格がギガキャストでも修理できます。問題は骨格が変形するほどの大きな事故でしょう。
詳細はHALさんのブログ「現役自動車エンジニアによる技術解説」の記事「テスラの『メガキャスティング』は修理できないのか?」をご覧ください。

NIO ET5に採用されている「ギガキャスト」部分。
代車は30日まで。あとは裁判起こして加害者に請求せよ!
実際に昨年6月、酒気帯び運転のトラックに交差点で突っ込まれ全損扱いとなったテスラモデルXのオーナーSさんも過失ゼロの完全な被害者なのに、相手側保険会社の対応に苦慮させられた一人です。

飲酒&信号無視のトラックに突っ込まれて大破したモデルX。(冒頭写真も)
「まず、困ったことは大破したモデルXが全損なのか、修理可能なのか? それを見極めるまでにすごく時間がかかったことです。最初に見積もりを依頼したのは神奈川県内にあるテスラの認定工場でしたが、『見積もりだけで3か月、修理には1年掛かる』といわれました。この会社はフレーム測定もせずに『フレームは大丈夫だから600万円くらいで直せる』という判断でした。見た目だけ直しておこうという算段だったのかもしれません。
フレームが曲がっているのは保険会社のアジャスターも確認していましたが、すべての修理見積もりを出さないと全損も修理も認めないといわれました。ところが、加害者側の保険会社からは代車は30日までしか出せないと……。
こちらは過失ゼロ。相手は飲酒運転で信号無視をして突っ込んできたんです。おかしな話ですよね? あと、事故の2か月前に100万円かけて装着したプロテクションフィルム代も半額しか出さないといわれました。加害者も私も同じ保険会社(損保ジャパン)でした」(モデルXのオーナーSさん)
過失ゼロなのに、代車はわずか30日しか出ないとは……。テスラのように見積もりだけで3か月もかかるようなクルマは大変なことになります。Sさんは弁護士にも相談し、何度か交渉してもらったものの代車提供期間の延長は取り合ってもらえませんでした。
「代車を30日以上使うのであれば費用は裁判を起こして加害者に請求してくださいと言われました。さらに裁判で負ければあなたの支払いになると。万が一でもそうなったら怖いので代車は30日で返しました……」(Sさん)
Sさんは今、代車費用の返金を求めて加害者を提訴する準備を進めています。
その後、SさんのモデルXは大阪にある国内トップの修理技術を持つことで知られるテスラ専門の修理工場「ビーライト」に入庫し「全損」に認定されました。車両新価特約(新車特約)適用も認められ新車購入をすることになりました。しかし……
「モデルXは私が買ったときよりも新車価格が値上がりしていました。値上がりの分は新価特約ではカバーできず、同じものを買うにしても156万円の追加が必要となってその費用は自腹で支払うことになりました。3年間の無料充電が付かない(70万円の損害)、金利アップ(約50万円の損失)も補償されないといわれました。こちらは何の非もない100:0の事故なのに……」(Sさん)
2月に誕生〜テスラ専用の「アークエイド」とはどんな保険?
この記事を取材していた2月下旬。テスラオーナーに寄り添った新しい保険ArcAid(アークエイド)の情報が入ってきました。キャッチコピーは「テスラに最適な自動車保険をご提案するテスラオーナー専用の自動車保険代理店」とあります。引き受け保険会社は「あいおいニッセイ同和損害保険」でネット保険ではありません。
テスラオーナーはかなり気になる情報です。早速、同社代表取締役の園部壮登さんにお話を伺いました。
Q. 「一般の自動車保険では十分にカバーできないテスラ固有のニーズ」とは具体的にどのようなニーズでしょうか?
例えばテスラは定価が変動する頻度が高かったり、新しいモデルが発売され既存のモデルが購入できなくなったりすることなどがあります。このような場合、 新車特約の保険金額の設定などを流動的に行わないと保険料を無駄に高く支払うことになります。また、新車特約を付帯していても万が一の際に新車を購入する金額が十分に補償されないケースなどが出てきてしまいます。
Q. 標準装備される「プレミアム補償」とは?
テスラオーナー向けに設計された独自のプレミアム補償を標準装備しています。例えば、保険等級に影響しない「ボディへのいたずら被害」(上限10万円)や「ドアミラーの損傷」(上限1万8000円)など、テスラオーナーのニーズに合わせた幅広い補償を用意しています。もちろん、24時間365日のサポート体制と、全国のテスラ専門修理ネットワークを通じて、確かな安心をお届けします。
Q. テスラ専門の修理ネットワークとは? テスラ認定工場とは違うのでしょうか?
テスラの修理に詳しい専門の方からご紹介いただいた修理工場のネットワークです。御存知の通りテスラの修理は認定修理工場に持ち込むことが多く、それが修理に時間がかかる要因のひとつにもなっていると考えております。弊社は認定修理工場以外にもテスラの修理が可能な工場をご紹介可能ですので、パーツ交換を必要としない軽微な板金修理等であれば早く修理できる可能性がございます。
テスラは世界トップクラスの先進安全技術を実装しており、衝突回避に優れた車であることは間違いありません。しかし、急な飛び出しや追突など避けられない事故で大きな損傷を受けることもあります。車両保険は必須ですがSBIや楽天などのネット型保険では型式や等級によって車両保険が付保できない場合もあります。その場合は保険料が高くなりますが、代理店型の保険会社に相談してみることをお勧めします。
テスラジャパン「純正」の保険「InsureMyTesla」も
テスラにはInsureMyTeslaというテスラオーナー向けの自動車保険プランがあります。日本向けの公式サイトでも紹介されており、引受保険会社は東京海上日動火災保険株式会社(代理店型)とSBI損害保険株式会社(通販型)の2社となります。昨年あたりから「来年から車両保険の契約を断られた」というテスラオーナーの声がSNSなどに目立つようになりました。SBI損保にテスラの車両保険について聞いてみました。ポイントをまとめると以下となります。
●令和7年からSBI損保の車両保険はテスラ公式のInsureMyTesla経由以外ではつけられない。
●車両保険料率クラス15・16・17の型式の車両で、なおかつ契約者が5等級以下の場合はInsure MyTesla経由であっても、車両保険はつけられない。
●車両保険料率クラス15・16・17の型式で6等級以下の契約者は、テスラじゃなくても車両保険はつけられない(つまり、テスラは同条件でも6等級の人はつけられる、ということになります)。
参考までに記しておくと、新たに自動車保険を契約する場合は契約者の等級は6等級からスタートします。保険を使わなければ毎年、等級は上がっていきますが事故や自然災害などで保険を使うと次年の契約から1〜3等級ダウンします。
シンプルな結論として、自動車保険の等級が低いドライバーがテスラの中古車を購入する際は、型式の料率がとても重要になる(車両保険に加入できないケースがある)ということです。

同じモデル3で車両保険の料率が低い型式もあります。
そもそもテスラの「InsureMyTesla」は、高度な先進運転支援機能(自動運転的な安全性能)を備えたテスラ車の保険料はより安価であるべきというイーロン・マスク氏の提言から始まった制度です。一方、日本ではモデル3などの料率が悪化傾向にあるというのは悩ましい現実です。
Sさんのような「もらい事故」はどうしようもないですが……。テスラオーナーのみなさん、安全運転に留意して幸せなEVライフをお過ごしください。
取材・文/加藤 久美子
コメント
コメント一覧 (2件)
私のマカンs もなぜか17
ネットだと車両保険に入れない保険会社がほとんど
ウチのi3は今回から13級に下がってました。
トコロでオーナーさんが見積依頼で、無料で仕事にもならないのに、高度な確認作業を行わないと怒っておられたのに、ちょっと違和感を覚えてしまいました。
無料でも、マンパワー浪費して高度な作業で奉仕せねばならんのか?フレーム下面の測定点をきちっと図るのに、準備含めてどの位掛かるかなぁ?
自動車修理する人が減り続ける訳ですなぁ・・・
現在生鉄のSS400素材使って居るトコありますかね?自動車用鋼板はプレス時に変形を伴う為に加工硬化で硬度上昇しますよね?
アルミは硬度も強度も延性も低いので、割れが発生しがちです。自動車用鋼板より硬度が高いアルミって、自動車には使用出来そうにも無い熱処理したジュラルミン系列位しか無いと思いましたが、修正も出来ない鋳物なアルミダイキャストは金型急冷で表面硬度は凄く上がるんかな?
メガキャストはアルミダイキャストですから、鋳物で変形させられないんです、だから修正しないんです。鉄板モノコックだと修正出来ますが、それでも限度があって、モノコック変形時はほぼ全損扱いで、軽微な変形であればそのまま修正せずに行きますよ。
強度と硬度との違いとか、肉厚の上に延性がほとんど無く修正出来ないダイキャストの欠点等、基本も理解されずにこの一文を書きとばして、こたつ記事と判断されてしまいませんか?