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ヨーロッパはEV普及の「踊り場」脱出へ/コンパクトな車種が増え中国メーカーの販売も加速

ヨーロッパはEV普及の「踊り場」脱出へ/コンパクトな車種が増え中国メーカーの販売も加速

欧州市場における2025年Q1のEV販売動向が発表されました。EVシフトの停滞を乗り越えて、EV販売が伸びはじめているという最新動向が明確になりました。フォルクスワーゲングループの販売が回復し、BYDなど中国メーカーが躍進中、2025年シーズン以降の展望を含めて考察します。

目次

新車販売の25%は電気自動車に

まず直近の2025年3月度単体におけるBEV登録台数は24.3万台と、前年同月比+23.7%の増加を記録しました。この登録台数は2022年12月に次ぐ2番目の登録台数の多さです。さらに1月から3月までのQ1合計でQoQ(quarter on quarter=前四半期比)で+27.9%増加しており、EVシフト減速が底を打ったように見えます。
※冒頭写真はEVとして復活して販売台数トップ10に登場したルノー5。

またPHEVの販売台数もQ1全体で26.8万台が登録され、QoQ +6.2%の増加です。BEVとPHEVを合計したシェアは25%に到達しており、欧州でQ1に売れた新車の4台に1台はBEVかPHEVという結果となりました。

次に、Q1における欧州の主要マーケット別のBEV販売動向と普及率を確認しましょう。現在欧州最大のBEVマーケットはドイツではなくイギリス市場です。普及率は20%を超えており、前年同四半期比でもBEV販売台数が増加しています。イギリス市場は各自動車メーカーに対して、一定のBEV販売シェア率を達成させるための規制が導入されており、規制値を達成できない場合は自動車メーカー側が1台内燃機関車を売るごとに多額の罰金が課されるため、自動車メーカー側としてはBEVを一定量売らなければならず、それもありEV販売が伸びている状況です。

また、フランス市場は前年比でマイナス成長だったものの、それ以外は前年比でBEV販売は増加しています。BEV普及率も、ドイツは17%、スペインも7%弱、イタリアも5%超と、着実に普及率が上昇しています。

フォルクスワーゲングループのEV販売が回復

それでは、欧州市場でどのようなEVが人気であったのかを分析していきましょう。このグラフは2024年と2025年のQ1それぞれのBEVの人気車種の上位を示したものです。トップからテスラモデルY、フォルクスワーゲンID.4、テスラモデル3、スコーダEnyaq、フォルクスワーゲンID.7などが上位に名を連ねています。

この販売ランキングで注目するべきは2点あります。まずトップ10のうち販売台数が減少しているのがテスラだけで、特にフォルクスワーゲングループのEV販売が急速に回復しているという点です。モデルYは周知の通り、モデルチェンジによる一時的な販売の落ち込みであり、生産がフル体制となっている4月以降のQ2販売台数に注目するべきでしょう。

その一方で懸念するべきはモデル3の落ち込みです。モデル3は特に供給能力の制限はなかったにも関わらず、前年比-14%と大きく販売台数を落としています。欧州市場における競合車種はBMW i4やBYDシールなどが存在していますが、販売規模などを踏まえるとモデル3の販売に影響したとは考えにくいです。何よりもBEV販売全体は増加しているというトレンドを踏まえると、やはり一部で指摘されている、テスラに対するブランドイメージ毀損の影響が出ているのかもしれません。

Kia EV3

また、Kia EV3、ルノー5、シトロエンe-C3、アウディQ6 e-tronをはじめとして、新型EVが続々と上位にランクインしており、人気EVの新陳代謝が起こり始めているという点も重要です。

その中でも特にEV3、ルノー5、e-C3などという比較的安価なコンパクトEVの台頭は、欧州におけるEVシェアを高める上では極めて重要です。実際に3月に欧州で売れた人気モデルは、トップからプジョー208、Dacia Sandero、ルノークリオ、日産キャシュカイ、フォルクスワーゲンゴルフと、全てコンパクトな車種です。欧州で人気の高いコンパクトセグメントに新型EVが投入されることで、さらなるEV普及が期待できるのです。

そして新型モデルとして、ヒョンデインスターも急速に販売を拡大しており、人気車種ランキングに名を連ねてくることは間違いありません。そして大本命のBYDシーガルが、いよいよ投入間近になっています。さまざまな報道によると、シーガルは「Dolphin Surf」と命名されて5月中に欧州市場に投入される見通しです。
(編集部注※2025年5月21日には日産が新型「マイクラ」を発表しました。日本への導入も期待しています)

日産 マイクラ

BMWやヒョンデグループも着実にEVシフトが進展

次にこのグラフは、BEVに絞ったブランド別の販売ランキングを示したものです。トップはフォルクスワーゲンであり、テスラを超える販売規模です。特にモデルYの販売が増加するQ2以降、欧州におけるフォルクスワーゲンとテスラの販売対決の行方には注目でしょう。

また、主要自動車グループトップ10の中で、3月単体におけるそれぞれのパワートレイン別の販売シェアを確認すると、BEVシフトを着々と進めているのがBMWとヒョンデグループです。特にBMWはBEVシェア率26%に達しており、競合であるメルセデスの16%と比較してもBEVシフトでリードしています。

ちなみにトヨタはマイルドハイブリッド車を含めないハイブリッド車のシェア率が73%に到達しています。すでに欧州における電動車シフトはほとんど完了しているものの、BEVシェア率は5%、PHEVのシェア率も8%と低空飛行です。はたして欧州でも人気のコンパクトセグメントに該当するCH-R+やアーバンクルーザーEVの投入によって、どのくらいBEVシェア率を高めることができるのかに注目でしょう。

PHEVへの注力で躍進するBYD

そして、不気味な存在と言えるのが中国BYDの存在です。BYDは欧州に本格参入してから数年の間にBEV販売を急速に拡大。元々欧州でEV販売トップの中国ブランドはMGでしたが、追加関税措置の影響によってEV販売は減少中です。またBYDはすでにSeal UとしてPHEVもラインナップしており、実際に3月単体のBEV販売が7838台だったものの、Seal UのPHEVモデルだけで6524台を販売しています。

現在BYDが欧州で販売している車種別の販売動向について、3月単体では1.5万台に迫る販売台数であり、マーケットシェア率も1%を初めて突破しました。やはりPHEVをラインナップするSeal Uの販売が急増しており、欧州ではBEVには追加関税が課されているものの、PHEVには追加関税は課されずに基本関税の10%のみで済みます。よってBYDを筆頭として、中国勢はPHEVやハイブリッドを欧州に投入を加速しているのです。実際にMGは、BEVを投入していたZSをハイブリッドに一本化しながら、さらに安価なコンパクトハイブリッドカー「MG3」の人気も急増しています。

BYD Seal 06 Wagon DM-i

BYDは2025年中に、すでに発売中のAtto 2とシーライオン7の本格納車だけではなく、Dolphin SurfとSeal 06 DM-iなどの新型PHEVも投入する方針です。販売ネットワークを拡大しながら、BEVとPHEVの二刀流戦略でシェア率を一気に高めてくる方針です。

BYDだけでなく中国勢の躍進が顕著

さらに、BYDだけでなく中国勢の欧州におけるプレゼンスが急速に向上しています。3月単体における中国メーカー勢の販売台数は7万台超と史上最高の販売台数を更新。中国勢のマーケットシェア率は5.2%に到達しています。つまり3月に欧州で売れたすべての車両の20台に1台以上が中国ブランドの車両だったのです。

2030年ごろまでに欧州における中国勢のシェア率が30%に到達していても全く不思議ではないレベルでしょう。まさにBEVに対する追加関税措置をもろともせず、PHEVやハイブリッド車も手広くラインナップすることで、欧州戦略を粛々と進めてきている様子が見て取れます。

いずれにしても、2024年シーズンにEV普及が足踏みしていた欧州は、ようやく「EV普及の踊り場」を脱して、再度EVシフトが進もうとしています。特にヒョンデ インスター、キア EV3、ルノー5、ルノー4、日産 マイクラ、スズキ e VITARA、トヨタ アーバンクルーザー、そしてBYD Dolphin Surfなどという新型コンパクトEVの存在によって、2025年シーズンにどこまでEV普及が進展するかに注目です。

そしてその上で、BYDを筆頭とする中国勢の欧州現地工場が稼働するなどによって、中国勢が追加関税の影響を受けずに、どれほど競争力を高めてくるのかにも注目でしょう。

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ヨーロッパにおける電気自動車の売上とシェア最新情報

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

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免許を取得してから初めて運転&所有したクルマが電気自動車のEVネイティブ。

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