ステランティスジャパンがアルファロメオの新型コンパクトSUV『アルファロメオ・ジュニア・エレットリカ』を発売しました。アルファロメオ初の電気自動車(EV)の価格は556万円からで、これから予約する人たちへの納車は9月頃に始まる予定です。
EVとマイルドHEVでほぼ同じ価格に
2025年6月24日、ステランティスジャパンが、傘下の自動車ブランドのひとつであるアルファロメオとして初めての電気自動車(EV)になる『Junior Elettrica Premium(ジュニア・エレットリカ・プレミアム)』を発売しました。
発表会の冒頭、真っ赤な照明の下、オペラの二重唱の中で車が登場するという派手なパフォーマンスが披露されたのは、さすがアルファロメオという感じでした。
エレットリカは1グレードで、税込み価格は556万円。そして国のCEV補助金が69万円になることもわかりました。東京都在住の場合は他に45万円の補助金があるので、補助額は合計114万円になり、実質440万円程度で購入できることになります。
●アルファロメオ・ジュニア・エレットリカ・プレミアム
最高出力 115kW
最大トルク 270Nm
バッテリー容量 50.46kWh
価格(税込) 556万円
CEV補助金 69万円
ステランティスジャパンではジュニア・エレットリカと同時に、マイルドハイブリッド車(MHEV)の『Junior Ibrida(ジュニア・イブリダ)』も日本で発売。ジュニア・イブリダのトリムは3種類で、税込み価格はベースの「Core」が420万円、上級グレードの「Premium」が468万円、特別限定モデルの「Speciale」が533万円です。
欧州の、例えば英国ではエレットリカは3万3905ポンド(約669万円=乗り出し価格)からなので、これと比べても日本の価格設定はかなり頑張った印象を受けます。
また、ジュニア・エレットリカの主要装備やタイヤサイズは、MHEVの『イブリダ・プレミアム』(468万円)とほぼ同等です。そうすると、東京都の補助金まで考えた場合は、EVの方がHEVよりも実質負担額が少なくなります。
それにジュニア・イブリダは、HEVと言ってもマイルドハイブリッドです。スタート時にEV走行はできますが、走りの中心はガソリンエンジンです。EVに魅力を感じるのなら、お買い得感はジュニア・エレットリカの方がずっと大きそうです。
なかなか良好な電費で航続可能距離は実質400km程度か
アルファロメオは、ジュニア・エレットリカをコンパクトSUVにカテゴライズしています。とはいっても日本ではコンパクトというほど、小さな車ではありません。それでも全幅1780mm、全長4195mmなので、最近の2m近い幅がある車に比べたら比較的扱いやすい車と言えそうです。
ステランティスジャパンの成田仁社長は発表会で、アルファロメオがプラグインハイブリッドなどの電動モデルのラインナップを充実してきた中で、「数多くのお客様からコンパクトカーの復活を望まれていた」と話しました。日本だけでなく、世界の自動車市場でコンパクトカーは重要なアイテムです。
バッテリー容量はグロス値で54.06kWhです。一充電あたりの航続可能距離はWLTCモードで494kmと公表されています。実用でも400km前後は走ることができそうです。
ただ、EVsmartブログ的に車両価格から単純計算したkWhあたりの単価は10万円を超えているので、最近の新型EVに比べてコストパフォーマンスはよくありません。例えばボルボ『EX30』のkWhあたりの単価は約8万1000円です。この価格を、アルファロメオというブランドの魅力を勘案してどう見るかはユーザー次第ではあります。補助金込みで500万円弱の価格帯は、日本でも強敵が多い市場です。ジュニア・エレットリカがどう戦っていくのか、注目したいと思います。
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急速充電は残念な50kW
外観で特徴的なのは、アルファロメオの十字と人を食うヘビのマークを透かしでかたどったグリル(スクデット)でしょうか。充電口は左側後部に一か所なので、急速充電と普通充電がまとまっていると思われます。
実は発表会では、展示されていたジュニア・エレットリカは、ドアを開けたりすることができず、詳細を確認できなかったのです。マイルドハイブリッド車のジュニア・イブリダは中に乗り込むことができたのですが、EVは触ることすらできませんでした。
EVのメインスイッチを入れて乗車可能にすると撮影時に誤って動かしかねないからなのか、あるいは現時点では、ステランティス・ジャパンはMHEVを中心に考えているからなのか、いずれにしても少し不思議な発表会でした。
スペックに関して、EVユーザーの視点からとくに気になる急速充電性能はどうなのか。この点、ジュニア・エレットリカは軽くないハンデを背負っているように思えます。ステランティスジャパン傘下のブランドのEVに共通している課題ですが、急速充電の受け入れ能力が最大50kWになってしまっているのです。もう、残念としか言いようがありません。
数年前ならいざしらず、最近では高速道路上の急速充電器は90kW以上の出力が多くなってきました。一般道でも自動車ディーラーをはじめ、道の駅やコンビニエンスストアなどに大出力の急速充電器の整備が進んでいます。
こうした状況下で、EV側の受け入れ性能が50kWに制限されているのは、販売面で大きなハンデになるのは明らかです。
ジュニア・エレットリカは欧州(CCS2規格)では最大100kWに対応しています。システム電圧は375Vと、400Vシステムを搭載したEVの中では日産アリアなどと比較してもやや高めなので、急速充電性能のポテンシャルはあるはずです。
欧州仕様のカタログ値では、100kW器で充電した場合に20%から80%にするのに27分となっています。容量にして約43kWh分です。54kWhのバッテリー容量に対する短時間の充電電力量としては十分だと感じます。
日本でCHAdeMO規格に対応するにあたり、この急速充電性能を生かすことができないのは、厳しい言葉を使えば、宝の持ち腐れとしか言いようがありません。ほんとにもったいなさすぎます。
なぜステランティスジャパンのEVがこうなってしまうのか、理由は明確ではありません。でもこの充電問題は、EVに関心があり、アルファロメオやプジョー、シトロエン、フィアットに関心のある欧州車好きのユーザー層にとって、EVを選ぶ時の高い障壁になるのではないでしょうか。1日も早い解決を期待したいと思います。
主要スペック
アルファロメオ Junior Elettrica | |
---|---|
全長×全幅×全高 | 4195×1780×1585mm |
ホイールベース | 2560mm |
車両重量 | 1580kg |
定員 | 5人 |
最小回転半径 | 5.3m |
タイヤサイズ | 215/55 R18 |
駆動 | FWD |
モーター | 交流同期型 |
最高出力 | 115kW/4070-7500rpm |
最大トルク | 270Nm/500-4060rpm |
一充電航続距離(WLTC/国交省審査値) | 494km |
電費 | 125Wh/km(8km/kWh) |
駆動バッテリー | |
種類 | リチウムイオンバッテリー |
総電力量(グロス) | 54.06kWh |
総電圧 | 375V |
容量 | 145Ah |
セル電圧 | 3.68V |
セル数 | 102個 |
急速充電の対応出力 | 50kW |
普通充電の対応出力 | 11kW |
価格(税込) | 556万円 |
CEV補助金 | 69万円 |
紆余曲折で名称がジュニアに
さて、ジュニア・エレットリカの日本発売に際して、アルファロメオのサント・フィチリCEOは「ジュニアは単なる新車ではない。パフォーマンス、技術をコンパクトで効率的なパッケージに融合させて、未来への大胆な一歩を踏み出したアルファロメオの象徴」とコメントしています。
ジュニアはもともと、「ミラノ」という名前で登場する予定でした。ところがイタリア政府から、イタリア国内で生産していないのにイタリアの都市名を付けるとイタリア製だという誤解を生むとクレームが入り、急遽、名前がジュニアになったのでした。
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ジュニアは、アルファロメオの1960年代の名車、『GT1300ジュニア』に由来します。レースで活躍した『ジュニア・スプリントGT』のデザインをほぼそのまま踏襲した、アルファロメオの代表格でした。
いろいろあった末とは言え、そんな名前が復活した新型ジュニアは、アルファロメオにとって確かに、特別な新型車なのかもしれません。
急速充電性能に難はありますが、航続可能距離や動力性能は十分です。アルファロメオのブランド力でジュニア・エレットリカがどこまで日本のEV市場に食い込むことができるのか、また急速充電性能は改善されるのか。これからの展開を見守りたいと思います。
取材・文/木野 龍逸
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