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VWグループのEV自動運転タクシー「MOIA」に試乗/ドイツ・ハンブルグからの報告

VWグループのEV自動運転タクシー「MOIA」に試乗/ドイツ・ハンブルグからの報告

EVエンジニアの福田雅敏氏がドイツ・ハンブルグで開催された国際公共交通連合(UITP)サミット2025に参加。フォルクスワーゲンが展開するEV自動運転タクシーサービスである「MOIA」を体感、さらに日本でも発売されたID.Buzzベースの自動運転タクシーに試乗したレポートです。公共交通のEVシフトと自動運転は、世界で着実に進展しています。

目次

ハンブルグで開催された次世代公共交通サミットに参加

筆者は、6月15日~18日まで、ドイツ・ハンブルグにてUITP(国際公共交通連合)サミット2025に参加した。イベントの内容としては、次世代公共交通サミットだ。今回は世界100か国から公共交通の専門家約1万人が集まった。セッションでは多くの現状と次世代交通について多く発表があり、展示会においても400社を超える企業などが出展した。

クルマ関係の出展としては、バスの展示だけで1ホール埋まるぐらいであったが、そのバスも全てがEV若しくは、自動運転まで行えるものであったのが今回のサミットを象徴しているかのようであった。

その中でも筆者が注目したのが、VWグループのMOIA(モイア)である。このサミットが始まる前日にも既にハンブルグの街中で多くのMOIA(プラス6)が走っているのを目にしていた。また、筆者は、昨年のIAA TRANSPORTATION 2024も取材しているが、その会場でも会場内をMOIA プラス6がデモ走行していた。

すでに何度か目にしていたので何となくではあるが、MOIAについては、情報があったが、今回は、ブースも構えていたので、改めてMOIAについて紹介する。

約210台の運行拠点である「MOIA HUB」を見学

MOIAは、VWが2016年に立ち上げた、EVとさまざまなデジタライゼーションを組み合わせたeモビリティサービス事業の名称だ。言い換えれば、VWのMaaS(Mobility as a Service)とTaaS(トランスポート・アズ・ア・サービス)である。

まず始まったのが、VWの商用バンであるクラスターベースのMOIA プラス6の開発。企画から開発までをわずか10か月と言う短時間で行ったという。MOIAプラス6は、EV化された全長6mのボディの商用バンに乗客6名と運転席、それに助手席部分にスーツケースなどを置けるスペースを持つ。ここには、チャイルドシートも用意されていた。現在のところ、このプラス6には自動運転機能はなく、Uberのような配車サービスである。

バッテリー容量は明らかにしなかったが、走行距離にして300kmとのことだった。一部の車両は、リアに車イスのリフトを取付けたバリアフリー仕様がある

筆者は、このMOIAに興味があったので、UITPサミットのイベントの一つである「MOIA HUB Tour」に参加した。

UITPサミットの会場に集合しMOIAのHUB(運用拠点)までプラス6で移動した。シートは少し豪華で快適なのであるが、乗り心地は、クラスターが商用バンで有ることから、高級車の乗り心地ではなかった。今後エアサスに改良するなど、改善が必要だろうと感じた。

数多くの充電器が設置されていた

20分ぐらいでHUBに到着。ハンブルグ市内に3か所あるHUBのうち一番大きい施設とのことだった。ハンブルグ市内ではプラス6が280台が稼働していると言うが、ここでは210台のプラス6が稼働していると言う。12基の220kWの急速充電器、多数だと言っていた7kWの普通充電器(見た感じ100基程度はありそう)が設置されていた。

昼間の訪問であったが、100台はあると思われる数のプラス6が止まっていた。半分は、充電中であったが、半分は、充電が終わったのか、別なスペースに駐車していた。それでも、街中では多く見かけたので、残りの100台余りは営業しているということだろう。

利用にはMOIAの専用アプリが必要で、料金はと聞くと、1ユーロ/1kmから始まったが、ダイナミックプライシングを採用しており、Uberより安い時も有れば、高い時もある。ライドシェアでもあるので、6名フルに乗った時など、一人当たりの料金は安くなるとのことだった。

このHUBはドライバーの休憩場にもなっており、数名のドライバーがコーヒーなど飲みながら休憩を取っていた。日本のバスやタクシーの休憩所と違い、高級感もある施設だった。

MOIAは現在、ハンブルグとミュンヘン(ドイツ)、オスロ(ノルウェー)、オースティン(アメリカ)でサービスを行っており、合計500台が稼働していると言う。一部情報ではハノーバー(ドイツ)でも行っていると伝えられているが、ここでの説明では4都市とのことで入っていいなかった。

このHUBの隣には、現在試験運行中である、VWのEVミニバン ID.Buzz ベースの自動運転タクシー「ID.Buzz AD」がフェンスの向こうの別な敷地の工場の中に収められていた。入場にはIDカードが必要で、残念ながら撮影も禁止されていた。厳重に管理されていたが、見学だけは許された。工場の中では、15台程度が色々な作業をしていた。いくつかバージョンがあるようで、カメラとソフトなどの仕様が違うようだった。ID.Buzz ADについては、後述する。

このHUBには、メンテナンスする整備場はなく別なHUBで行っていると言う事で、車庫+充電場所といった感じであった。

このHUBで説明を聞いたあと、UITPの会場に戻るのもプラス6で送ってもらった。シートと内装の雰囲気、後席座席の視界も広く快適なのだが、やはり乗り心地は気になったのであった。

ID.Buzz ベースの自動運転タクシーにも試乗

さて、HUBでも気になったID.Buzz ADである。UITPサミットのMOIAのブースでID.Buzz AD(自動運転)が展示されており、その横で試乗を受け付けていたので申し込んだ。実はすでにいっぱいであったのだが、会場で会った知人がMOIAと知り合いで、無理やり押し込んでくれたようであった。指定された時間に試乗受付に行くと、試作車だからと誓約書にサインさせられ、会場横の道路で待つID.Buzz ADに乗り込んだ。

今回は試乗だが、実際には、アプリが必要で、そのアプリの携帯から、到着したID.Buzz ADのピラーをタッチするとドアが開く仕組みである。このID.Buzz ADもCES2025のレポート(関連記事)で紹介済みだ。CESではイスラエルのモービルアイのブースに展示されていた。

自動運転のデバイスはモービルアイのものである。この車両は13個のカメラ、9台のライダー(LiDAR)、5機のレーダーと計27のセンサーを搭載している。EV関係はベースとなるVW ID.Buzzと同じとのことであった。そして、MOIAのオペレーティング システムを担当しているのが、アメリカのApex.AI だ。

このID.Buzz ADは、写真の通り、現在は後席3人乗りとなっているが、現在のものはプロトタイプで来年から量産フェーズに入ると言う。その時はロングホイールベース仕様になり4名乗りになるという。MOIAのHUBでトランクの写真は撮らせてもらえなかったのだが、試乗会場でトランクを開けていた車両があり、近くからでなければと許可をいただくことができた。量産フェーズでは、これらの機器をシート下等に収め、トランクスペースに荷物が置けるようになると言っていた。

この試作車は、現在100台製作されており、ドイツとアメリカで試験走行中で、既に自動運転レベル4での認可を受けており、ドライバーレスでも走行可能とのことだが、この試乗会を含めまだドライバーが乗っていた。

量産フェーズには来年からなる模様で、2030年には1万台を目標としていると言っていた。また、ユーザーとしては、Uber等との事で、製作はこのハンブルグで行われるとのことであった。

自動運転タクシーの完成度の高さを実感

街中に設置されていたMOIAのステーション。

そして試乗会は、参加者2名に説明員がそれぞれ1名ずつ付く4名にドライバーの合計5名で行われた。全員着座したら、ナビにあらかじめ入れてあった目的地を押すと、自動的にリアのスライドドアが閉まる。しばらくして走行が始まった。ドライバーは、ハンドルは持たないが横で構えているような感じである。

インパネに付くLiDARなどからの情報ディスプレイは、センターコンソール下にそれより大きいものが付き、システムが「何を見ているか」がすぐわかる。クルマ、オートバイ、自転車、人、障害物、信号の色などが、360度、それぞれ安全区分で色分けされ、安全な物には緑表示、注意が必要な物には黄色、前のクルマが止まろうとすると赤に変わるなど、逐次状況を察している。

信号が青になった時の発進は、素早く反応し、変わると同時ぐらいのタイミングで発進する。右折の歩行者確認は慎重に行われているのもわかる。走行中も他のクルマとの速度差もなく法定速度内だとは思うが流れにも乗る。信号のないランナバウトも奇麗にトレースする。

20分ほどして目的地に到着。目的地は、安全と思われる少し広めの所に停まるとのことで、現地の状況によって多少ずれる場合があるとのこと。

この試乗の20分間は、筆者は必死で前を見たりディスプレイを見たり、説明を聞いたりと忙しかった。感じたのは、自動運転システムの完成度が高いこと。怖さなど全くなく快適であり、正直楽しかった。

帰りも自動運転で会場まで戻ったが、往路のようなLiDAR等が何を確認しているかの表示はない普通の自動運転モードとなった。試乗説明等を含めおよそ1時間の試乗体験となった。

プレスリリースより引用。

筆者はこれまで、今年2月に日本で行われたMAYモビリティの自動運転タクシーの実証試験の無料試乗(ドライバー付、エンジン車)、5月にはアメリカ・ロスアンゼルスでのWAYMOの自動運転タクシー(ドライバーレス、有料、ジャガー I-PACE))を体験してきたが、今回のID.Buzz ADが一番自然に乗れたと感じた。

余談となるが、今回UITPサミットが行われたハンブルグ。かなりの先進環境都市であった。ドイツでは、2023年から月額49ユーロ(約8,300円、現在は58ユーロ)で公共交通機関(鉄道やバスなど)に乗り放題となるサービスが始まっており、それにより、渋滞の緩和、道路建設の抑制、維持管理コストの縮小を考えている。

そのバスであるが、ハンブルグで運行している約1500台のバスは既に半分近くが電動化(EV及びFCEV)されており、街では頻繁にEVバスを見かける。そしてタクシーのEVも多く見かけ、場所にもよるが、展示会場のタクシー乗り場には、EVとその他のタクシーレーンが別々に用意されていた。

EV充電スポットも既に750か所(口数は不明)の急速充電ステーションがあり、4か所の水素ステーションが整備されている。ハンブルグでは、2030年までにタクシーとバスを100%電動化すると明示しているが、インフラなどの準備はかなり整いつつあるという印象だった。

このUITPサミット、今年から毎年開催となるとのことで、2026年はドバイ、2027年はハンブルグに戻ってくる。次世代公共交通イベントと聞いて初参加したわけだが、MOIAの見学・試乗に始まりサミットの視察、ハンブルグの現状など、期待以上に収穫の多いイベントだった。2年後、またUITPサミットに参加しハンブルグの街がどれだけ電動化されているか、MOIAの状況はどうなのかを確認したいものである。

取材・文/福田 雅敏

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この記事を書いた人

埼玉県生まれ。自動車が好きで自分で車を作りたくて東京アールアンドデーに入社。およそ35年にわたり自動車の開発に携わるが、そのうち30年はEV、FCEVの開発に携わりこれまで100台以上の開発に携わってきた。自動車もこれまでに40台以上を保有してきた。趣味は自動車にミニカー集め(およそ1000台)と海外旅行で39か国訪問している。通勤などの足には、クラウンセダンFCEV(燃料電池車)を愛用し、併せてDS7 E-TENSE(PHEV)を保有している。

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