3車種目となる渾身の電気自動車モデル
日本では真夜中のプレゼンテーションとなったアウディ『e-tron GT』のワールドプレミア。アウディとしては、SUVの『e-tron』、そのクーペスタイルである『e-tronスポーツバック』に続く3車種目の完全な電気自動車であり、自動車メーカーとしての矜持を示す4ドアスポーツモデルとあって、思い入れいっぱい、たっぷり1時間のプレゼンテーションが展開されました。
今回、正式に発表されたのは、『e-tron GT quattro』と、アウディのハイパフォーマンスモデル名である「RS」の名を冠した『RS e-tron GT』です。ともに、プラットフォームはグループ企業であるポルシェ『タイカン』と共用しており、電気自動車としてはタイカンはもとより、先日メジャーアップデートを発表したテスラ『モデルS』の競合と位置付けることができるでしょう。
Audi e-tron GT world premiere: Celebration of Progress
https://youtu.be/StkkIdBY5r0
ワールドプレミアで強調されたテーマは「Celebration of Progress=進歩への祝福」、そして「Future Is An Attitude=未来は考え方次第」です。プレゼンテーションでは、e-tron GTの性能やデザインなどの詳細というよりも、アウディがe-tron GT(RSを含む)に込めた思いが強調されていた印象でした。
AUDI AG取締役会会長のMarkus Duesmann氏、そしてマーケティング担当取締役のHildegard Wortmann氏が登壇してもなかなか実車は登場せず、10分ほどにわたって「Create Progress」、いかに進歩を目指したかについて熱い思いが語られました。
いよいよ実車が登場すると、デザインやサステナビリティについての説明を展開。そして世界最高峰の電気自動車レースであるフォーミュラEのマシンと、RS e-tron GTがサーキットでの加速勝負で接戦を演じるシーンが紹介された後、アウディe-tron GTが『Green Future Award』に選ばれたことを紹介。全体として、「進歩(Progess)っていうのはハイパフォーマンスとサステナブルであること」がアピールされていたのが印象的でした。
私が関わる日本EVクラブで開催している『ジャパンEVフェスティバル』で「アクセル全開、CO2削減」をスローガンに掲げていたことがありました。同じ理想が、アウディならではの世界基準で洗練され、具現化されてきたと感じます。
【関連ページ】
●Audi e-tron GT 紹介(アウディ・ジャパン)
タイカンやモデルSと比較してみた
e-tron GT quattroとRS e-tron GTを、ポルシェタイカン、テスラモデルSとざっくり比較する表を作ってみました。
AUDI e-tron GT quattro | AUDI RS e-tron GT | Porsche Taycan | Porsche Taycan Torbo S | TESLA MODEL S LR | TESLA MODEL S Plaid | |
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全長×全幅×全高 (mm) | 4960×1960×1380 | 4960×1960×1380 | 4963×1966×1378 | 4963×1966×1378 | 4978 x 1963 x 1445 | 4978 x 1963 x 1445 |
車重 | 2200kg | 2200kg | 2140kg | 2370 kg | 2069 kg | 2162 kg |
電池容量 | 85kWh | 85kWh | 79.2kW | 93.4kWh | 100kWh | 100kWh |
航続距離 | 488km(WLTP) 約435km(EPA推計) | 472km(WLTP) 約421km(EPA推計) | 431km(WLTP) 約385km(EPA推計) | 412km(WLTP) 約309km(EPA) | 663km(EPA) | 628km(EPA) |
最高出力 | 350kW | 440kW | 240kW (300kW) | 460kW (560kW) | 約493kW | 約750kW |
0-100km/h加速 | 4.1秒 | 3.3秒 | 5.4秒 | 2.8秒 | 3.2秒 | 2.1秒 |
価格 | 9万9800ユーロ〜 (約1265万円〜) | 13万8200ユーロ〜 (約1752万円〜) | 1171万円〜 | 2454万1000円〜 | 1069万9000円〜 | 1449万9000円〜 |
航続距離など電気自動車としての押しの強さはやはりモデルSに一日の長があります。プラットフォームを共用するタイカンと比べると、e-tron GTのほうがややマイルドな走りになって、その分だけ航続距離が延びるイメージでしょうか。
タイカンよりも全幅(いずれもミラーなしの数値、のはず)がコンパクトだといいな(価格的に私には買えないですけど)と思いましたが、サイズ感はモデルSを含めて同じようにワイドです。
ちなみに、タイカンのベースモデルはバッテリー容量79.2kWhのパフォーマンスバッテリーモデルで表を作成しましたが、容量93.4kWhのパフォーマンスバッテリー Plusだと、最高出力が280 kW、航続距離が484km(EPA推計約432km)となります。また、タイカンの最高出力はベーシックなスペックをもとにしましたが、ローンチコントロール使用時のオーバーブースト出力は、ベースモデルがバッテリー2種でそれぞれ300kW/350kW。ターボSが560kWとなります。
ともあれ、最高出力で350kW(約476PS)以上のハイパフォーマンスEVで、実用的な航続距離が400km以上ということですから、新しいe-tron GT quattroとRS e-tron GTが、オーナーにとって優雅で高度な満足を楽しめる1台に仕上がっていることは間違いありません。
日本にも今年中に導入か
e-tron GT quattroとRS e-tron GTは、すでにドイツのベーリンガーホフ工場での生産が始まっていることが伝えられています。この工場で使用する電力は全て再生可能エネルギーに切り替え済み。ゼロ・ウェイスト(ゴミを出さない)を目指した素材選定やリサイクルのソリューションを含めて、製造工程から廃棄まで、いわゆるライフサイクルにおいてカーボンニュートラルである(あるいはそこを目指している)ことがe-tron GT=サステナブルのアピールポイントでもあります。
充電は、ACの普通充電が標準で11kWまで、オプションで22kWに対応。DCの急速充電は、欧州仕様で270kWに対応することも発表されました。日本にも2021年中に導入される見込みであることが伝えられていますが、先に導入されたe-tron sportsback とe-tronは日本のCHAdeMO規格では最大50kWまでの対応に抑えられました。はたして、e-tron GTはどうなるのか。
今年のうちにはポルシェが独自に整備している急速充電インフラが150kW出力にアップデートされるはずです。グループ会社でもありますし、e-tron GTもチャデモの高出力規格(1.2以降)に対応して、ポルシェの高出力急速充電器を共用できるようになると素敵だけどな、と思います。少なくとも、高速道路SAPAにもぽつりぽつりと着き始めた90kW器の恩恵は受けられるよう、チャデモ1.2以上に対応することが、日本でのe-tron GTの魅力を高めるはずです。
今回のプレゼンテーションでは、自動車メーカーのトップとして誇らしく「Progress」と「Sustainability」を語るMarkus Duesmann氏の言葉や振る舞いがとても印象的でした。アウディが電動化に本気であることを実感できました。かたや日本では、昨年の日産ARIYA発表会では内田誠社長が登場して「日本勢」の気概を見せてくださいましたが、ことに他のメーカーからは本当の意味でARIYAに続く、電動化やサステナビリティへの意欲を示す新しいEVモデルの追随がありません。自動車メーカーにとって、トップの決断や意思が大切なこと、そしてなにより、自信をもって送り出す新車種に大きな意味があることを痛感するプレゼンテーションなのでした。
(文/寄本 好則)
LOVECARS!TV! 河口まなぶ氏によると、日本仕様でも最大150kWの急速充電に対応とのことでした(公式発表は見当たらない)。
https://youtu.be/XD1qsQ5OHS0?t=563