東名300km電費検証【21】BMW『i4 eDrive40 M Sport』/上質なEVセダンの実力は?

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第21回はBMW『i4 eDrive40 M Sport』で実施。先進運転支援機能の安心感などとともに、優れた電費性能を確認することができました。

東名300km電費検証【21】BMW『i4 eDrive40 M Sport』/上質なEVセダンの実力は?

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

プレミアムEVセダンのライバル車種との比較

i4にはRWDの「i4 eDrive40 M Sport」とAWDの「i4 M50 xDrive」の2モデルが用意されていて、今回の検証に使用したのは前者です。i4 eDrive40 M Sport(以下i4とします)の主なスペックは、全長4785mm、全幅1850mm、全高1455mm、車重2080kg、モーター出力250kW/340ps、トルク430Nm、バッテリー83.9kWh、一充電走行距離(WLTC)604km、価格は874万円です。

今回i4を検証車種に選んだ理由をお伝えしておきます。第17回のBYD SEAL(シール)の検証レポートで「ボディサイズや価格面も含めてライバルはテスラ モデル3」と表現しましたが、改めて日本のBEVラインナップを見回してみると、ボディサイズではi4がこの2車種と近しいことに気づいたからです。価格には開きがありますが、これまでの検証でもBMWは良い電費を記録しています。高級EVセダンとしての性能はどうなのか、i4の実力を確かめてみることにしました。

まず、この3車種の駆動方式、価格、一充電走行距離などをまとめてみました。この表の一充電走行距離や電費はカタログスペックです。

車名グレード駆動方式出力 (ps) /
トルク (Nm)
0-100km
加速
(秒)
バッテリー
(kWh)
一充電走行距離
WLTCモード
(km)
電費
(km/kWh)
車重
(kg)
価格
(万円)
i4eDrive40RWD340/4305.783.9604
(595)
7.202080
(2090)
874
(886)
M50 xDriveAWD544/7953.9546
(543)
6.5122401166
(1190)
SEAL(RWD)RWD312/3605.982.566407.752110528
AWDAWD529/6703.85756.962210605
モデル3RWDRWD283/3506.15457310.611780531.3
ロングレンジAWD450/5594.4757069.411840621.9
パフォーマンスAWD460/7233.16108.131850725.9

(注)i4は2024年10月に、ヘッドライトのデザインやMモデルのキャリパーの色を赤に変更するマイナーチェンジがあり、同時に価格と一充電走行距離、eDrive40の車重に変更があったため新数値をカッコ書きで記載しています。モデル3のバッテリー容量は非公表ですので、EVsmartの「電気自動車メーカー別一覧」に記載の数値を引用しました。

出力とトルクはi4 M50が最もパワフルです。一方、モデル3は3グレードともに2トン未満の軽さがアドバンテージです。その結果0-100km/h加速はモデル3 パフォーマンスが最速です。バッテリー容量はモデル3が他よりも小さいですが、一充電走行距離はライバル同等以上を実現しています。したがって一充電走行距離をバッテリー容量で割った電費は、i4とシールは6~7km/kWh台ですが、モデル3は8~10km/kWh台と驚異的な効率性能であることがわかります。価格についてはシールとモデル3(パフォーマンスを除く)は誤差の範囲と言えます。i4は伝統あるプレミアムブランドらしく他よりも高くなっています。

100km/h巡航の航続可能距離は約548km

では、検証結果をレポートしていきます。i4のカタログスペックである一充電走行距離604kmを、バッテリー容量の83.9kWhで割った目標電費は7.20km/kWhです。8月某日、計測日の外気温は最高32℃、電費検証に臨んだ深夜は24~25℃でした。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしています。

【今回の計測結果】

目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路と往復のBとC区間の計5区間でした。往復では80km/hが8km/kWh台、100km/hが6km/kWh台、120km/hが5km/kWh台になりました。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通り。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、604kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率です。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続可能距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h8.27693.9115%
100km/h6.53547.991%
120km/h5.40452.975%
総合6.54548.991%

(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離をその区間に消費した電力の合計で割って算出。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めています。

総合電費の6.54km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は約548kmになります。100km/h巡航も同じ約548km。80km/h巡航であれば、カタログスペック(WLTC)の一充電走行距離から15%増しの約693kmを走り切れる結果になりました。

「東名300km電費検証」企画の独自の基準として、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な電費性能であることが見えてきました。i4はどちらも91%で優秀です。

巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪化し、さらに120km/hに上げると35%減になります。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.5倍(153%)に伸ばすことができる計算になります。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h79%
120km/h65%
100km/h80km/h127%
120km/h83%
120km/h80km/h153%
100km/h121%

ここでシールの記録と比較してみます。

i4
eDrive40
シール
RWD
電費差
km/kWh
航続距離の差
km
比率
80km/h電費8.278.180.09101%
航続距離693.9675.318.6
100km/h電費6.536.92-0.3994%
航続距離547.9571.7-23.8
120km/h電費5.405.63-0.2396%
航続距離452.9464.9-12.0
総合電費6.546.8-0.2397%
航続距離548.9558.5-9.6

数値の差は、最大でも電費で0.39km/kWh、航続距離で23.8kmとわずかなものでした。両車はバッテリー容量も1.34kWhしか変わりませんので、電費と航続距離は同じレベルと言えます。100km/h以上でわずかにi4が後塵を拝しているのは、シールのCd値が0.219とi4の0.24よりも優れているからかもしれません。

ほぼ自動運転レベルのACCとLKA

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用します。さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意しています。

i4のACC操作は、ステアリングホイール左側のスポークにあるスイッチで行い、速度調整は1km/hまたは10km/hごとに設定でき、先行車との車間距離は4段階で調整できます。

BMWはほとんどのラインナップに、高速道路での渋滞時に60km/hまでなら手放し運転が可能な「高速道路渋滞時ハンズ・オフ・アシスト」を装備しています。これまでにiXやiX1でも体験したこの機能は、運転席で前方を見ているだけでいいので、やはり圧倒的に楽です。

高速道路渋滞時などハンズ・オフ・アシストが作動中はスポークの上部が黄緑色に光ります。

また、BMWは全車種でステアリングホイールに接触センサーを採用しているため、ステアリングを握っているのに、「ハンドルを持ってください」といった注意表示や警告音が出ることがないのも美点です。

LKA(レーンキープアシスト)も高性能です。この検証走行で最もRがきつい鮎沢PA手前の300Rはもちろん曲がり切れるなど、基本的にステアリングを軽く握っていればいいだけで、ほぼ「自動運転レベル」という印象でした。ただしUターンに近いカーブになる首都高の谷町JCT(渋谷から一ノ橋JCT方面)は曲がりきれませんでしたので、ここを難なくクリアしたモデル3(関連記事)はさらに上をいっています。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は、4~5km/hで、実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を105km/hに合わせました。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
84105125
ACC走行中の
室内の静粛性 db
686864

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hと100km/hが68dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hが64dBでした。シールの騒音レベルは65~69dBでしたので、i4とほとんど変わりませんでした。

150kW器30分で37.7kWhを充電

駿河湾沼津SA上りで行った急速充電はSOC 37%から出力144kWでスタート。3分後に150kWに達しましたが、維持できたのは1分間だけで、その後は充電終了直前の25kWまで出力が下がっていきました。

充電開始からの経過に注目すると、10分後にSOC 25%(119km)分を充電、20分後には38%(182km)に、30分で45%(217km)と、出力低下に伴って効率も落ちます。時間課金性では分が悪いため、次の目的地や自宅までの距離を確保できたら、30分を待たず充電を終わらせた方が得策と感じました。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。表示がない場合は不明としています。
充電中のドライバーディスプレイ。左側に150kWの出力表示があります。85%充電を達成までの時間、現状のSOCと航続距離(46%、222km)など豊富な情報を確認できます。

充電性能をシールと比較するとi4は少し劣勢です。シールはRWDAWDの両グレードともに30分で46.5kWhを充電することができました。シールの急速充電性能は最大105kWで、150kWのi4と比較すると大きく不利であるにも関わらずです。ドルフィンの検証記事でも報告したようにバッテリーメーカーからスタートしたBYDは、効率の良い充電ができる制御ノウハウと技術を持っているように思えます。

タイヤ・ホイールは18インチ

i4のタイヤサイズは、前245/45R18、後255/45R18と幅が10mm異なります。メーカーはハンコック、商品名はVentus S1 evo3、空気圧は4輪ともに240kpaでした。

BMWらしさを極める新たなBEVモデル登場にも期待

i4がとても魅力的で完成度が高いEVセダンであることはしっかりと確認できました。とはいえ、今回検証したi4(約880万円)と同じRWDで比較すると、シール(528万円)、モデル3(531.1万円)の両車とは350万円ほどの価格差があります。i4は高級感ある内外装デザイン、これまでに築き上げられてきたBMWのブランドイメージ、スイッチの操作感やドアの締まり音から感じられる質実剛健な質感、全国に250店以上ものディーラー網による安心感などが、ライバル2モデルよりも優位な点だと思います。

そこに350万円の価値を見出せるかがポイントになりますが、ドルフィン(スタンダードで363万円)を1台が買えるほどの価格差があることには大きな衝撃を感じます。そしてこの価格差こそが、世界のEV市場をBYDとテスラが席巻している理由なのだろうとも思います。

しかしBMWは手をこまねいているだけではありません。来年デビュー予定で次期3シリーズとも噂されるノイエクラッセ(和訳すると新しいクラス)にはBMWが第6世代と呼ぶリチウムイオン電池が搭載されるとのこと。

ノイエクラッセ(Neue Klasse = New class)。2023年にドイツ・ミュンヘンで開催されたIAA MOBILITY 2023でワールドプレミア。同年のジャパンモビリティーショー2023でも展示されました。

これは現行の第5世代と比較して、エネルギー密度が20%以上アップ、充電速度と航続距離は最大30%向上などの進化を果たしつつ、バッテリーコストを最大50%削減できると発表されています。BEV製造において3割以上を占めるとされるバッテリーコストを半減できれば、ライバルとの価格差を縮めるのは間違いありません。

2014年に日本でi3を発売し海外メーカーの中では「BEVの老舗」でもあるBMWは、現在7車種もの充実したBEVラインナップを構築しています。そして3シリーズは2024年4月から9月の直近2四半期のモデル別販売台数で5位以内にランクインするほど、日本で確実な人気を誇っています。そんな3シリーズにこれまでBEVの設定がなかったのは、BMWの電気自動車戦略が新章に突入するノイエクラッセの導入を待っていたためかもしれません。

BMWのBEVには、これからますます要注目です。

BMW i4 主要スペック(ライバル比較)

BMW
i4 eDrive40
M Sport
テスラ
Model 3
RWD
BYD
シール
(RWD)
全長(mm)478547204800
全幅(mm)185018501875
全高(mm)145514411460
ホイールベース(mm)285528752920
トレッド(前、mm)159015841620
トレッド(後、mm)160515841625
最低地上高(mm)125138-
車両重量(kg)208017802110
前軸重(kg)940-1010
後軸重(kg)1140-1100
前後重量配分45:55-48:52
乗車定員(人)555
最小回転半径(m)5.9-5.9
(仮)前面投影面積(全幅x全高)2.692.672.74
プラットフォーム--e-Platform 3.0
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)157123148
一充電走行距離(WLTC、km)604573640
EPA換算推計値(km)483458512
電費(目標電費)7.2010.617.75
モーター数111
モーター型式、リヤHA0001N0-TZ200XYC
モーター種類、リヤ交流同期電動機永久磁石同期モーター永久磁石同期モーター
リヤモーター出力(kW/ps)250/340208/282.8230/312
リヤモータートルク(Nm/kgm)430/43.8350/35.7360
バッテリー総電力量(kWh)83.95482.56
急速充電性能(kW)150(実測値)170105
普通充電性能(kW)6.46.46
V2X対応なしなしV2L/V2H
駆動方式RWD(後輪駆動)RWD(後輪駆動)RWD(後輪駆動)
フロントサスペンションシングル・ジョイント・
スプリング・ストラット式
ダブルウィッシュボーンダブルウィッシュボーン
リアサスペンションマルチリンク式エアマルチリンクマルチリンク
フロントブレーキベンチレーテッドディスクベンチレーテッドディスクドリルドベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスクベンチレーテッドディスクベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前)245/45R18235/45R18235/45R19
タイヤサイズ(後)255/45R18235/45R18235/45R19
タイヤメーカー・銘柄ハンコック・Ventus S1 evo3 ☆-コンチネンタル・EcoContact 6 Q
荷室容量(L)470-1290682400
フランク(L)なし8850
0-100km/h加速(秒)5.76.15.9
Cd値(空気抵抗係数)0.240.220.219
車両本体価格 (万円、A)874531.3528
CEV補助金 (万円、B)656545
実質価格(万円、A - B)809466.3483

取材・文/烏山 大輔

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

執筆した記事