BYDの電気自動車『ATTO 3』が型式指定認証を取得〜CEV補助金対象車両に

7月13日、BYDは日本導入BEV最初のモデルである『ATTO 3』の型式指定認証取得を発表した。EVsmart読者ならこの意味はよくわかるだろう。現状ではEVの購入判断を左右する要素のひとつである、クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV)の対象にATTO 3も加わったということだ。

BYDの電気自動車『ATTO 3』が型式指定認証を取得〜CEV補助金対象車両に

今年度の補助金制度で上限額がやや不利に

CEV補助金については、2023年度(令和5年度)から対象車両の規定に変更があり、国内の型式指定認証を取得していることが、補助金の上限値である85万円の適用条件として加わった。この変更は、車両登録に、輸入自動車特別取り扱い精度(PHP)を利用する輸入車勢に影響を与えるものだった。型式認定がない場合、上限は65万円とやや不利になる。PHEVを除くエンジン搭載車は、もともとCEV補助金の適用外なので影響はないが、前年度までは満額CEV補助金の対象だった輸入車EVにとっては無視できない問題だ。

SNSなどでは実質的な輸入車排除政策ではないか、といった声も聞かれた。しかし、補助金政策(の是非はともかく)によって拡大を始めた国内EV市場にあわせて、状況によって補助金制度が見直されるのはむしろ必然だ。限られた予算の中で野放図に補助金をばらまくわけにもいかない。型式指定認証の要件追加は、むしろEV市場が国内でも順調に育ってきたことへの対応と考えることもできる。

だが、BYDジャパンにとってはあまりいいタイミングではなかったかもしれない。ATTO 3の国内正式販売開始は2023年1月31日だ。この時点ですでに2022年度(令和4年度)のCEV補助金の申し込み期限に、最初の納車が間に合うかという状態だった。CEV補助金はナンバー(登録番号)が交付されなければ申請できない。また、補助金は、予算枠を消費した時点で締め切りとなるため、いつまでなら申請が通るのか、というのも予測困難だった。ここ1、2年は、年度半ばには当初予算を使い切り、年末の補正予算で増額されるという状態が続いている。

2022年8月には東福寺社長へのインタビューも行った。

筆者も1月の発表会では「補助金は間に合うのか?」という質問を東福寺社長他、ディーラースタッフなどに聞いた(関連記事)。「最短納車ならぎりぎり間に合うとみている」「状況はなんともいえない」「タイミングによってはあえて納車・申請を4月以降にすることも考えている」といった答えが返ってきた。

その後、3月末に2023年度のCEV補助金の概要が発表され、条件に型式指定認証取得車両という項目が追加された。この時点でもBYDジャパンにATTO 3および、日本市場導入が決定しているドルフィン、SEALについて型式指定をとるのかを確認した。回答は「計画はある」というものだった。

当初から型式認定取得を視野に入れての日本進出?

こうしてみると、BYDジャパンが日本の車検制度や補助金制度に翻弄されているイメージもあるが、今回7月の型式指定認証取得のリリースをみると、BYDは日本参入当初から型式指定取得を視野にいれていたことがわかる。逆にいえば、ATTO 3の販売開始を補助金が見えにくい年度末にもってきたのもすべて織り込み済みだったともいえる。ひょっとすると、補助金の規定に型式指定が組み込まれる前提で日本市場への参入を決めていた可能性もある。

というのは、型式指定認証を受けるには半年から1年程度の準備期間が必要と言われている。申請から認証の可否までの審査は2か月以内というルールがあるが、申請に必要な書類、環境性能や衝突安全性能、自動運転等にかかわる機能の詳細データをそろえるための時間が必要だからだ。BYDジャパンは、遅くとも5月半ばには必要書類を用意してATTO 3の型式指定審査に及んだはずだ。

車両の試験や安全性については、国連の相互認証の枠組みによって、ECE、FMVSSといったEUやアメリカの試験基準データが利用できる。だが、中国の規格と日本の型式指定に関する規格・基準に相互認証はない。したがって、日本の申請向けのデータを用意しなければならない。BYDはすでに欧州に展開済みである。EU圏でも型式指定と同様な現地基準の認証を受けている。入念な準備とそのデータをうまく活用して、日本市場参入発表からわずか1年半で、市販開始、ディーラー展開から型式指定認証まで実現させたものと思われる。

前述したドルフィンやSEALについても戦略が気になる。BYDジャパンに確認したところ、日本導入が決定している車種については、型式指定認証取得を目指しているという。日本導入が期待されるシーガルについては、「日本導入を含めて未定」とのことだ。だが、導入が決定すれば同じスキームで型式指定認証をとる可能性は高い。

2022年7月の日本進出発表会で3車種をお披露目。

申請にはコストがかかるので、日本で台数がはけないモデルは型式指定よりPHP(年間販売台数5000台以下という制限がある)を利用したほうがよいという判断もあるが、テスラ モデル3はすでに国交省の型式指定認証を取得しており、日本での年間販売台数が5000台を超えていると推測される。投入モデルを国、リージョンごとに厳選しているBYDも日本で型式指定を取得する意味と効果はあるだろう。

BYDジャパンによれば、発表した7月13日からCEV補助金(85万円)の申請が可能だという。ちなみにCEV補助金のベースは65万円だが、外部給電機能(V2X)を備えているため、「省エネ法トップランナー制度」の対象となるため上限額の85万円が適用される。

型式認証取得で苦労したのは?

BYDジャパンに「型式認証取得で苦労した点」とそれを「どう克服したか」について質問し、回答を得た。

<回答>
型式指定認証の場合は、あらかじめ国土交通省へ申請・届出を行い、サンプル車と書類を提出し、車両の保安基準への適合性などについて審査を受ける必要があります。加えて、車両の均一性が確保できる品質管理体制かどうかも審査を受け、承認を取得する必要があります。

BYDとして初めての試みだったため、日本特有の保安基準へ適合させるための調整などに骨を折りましたが、今回の型式指定認証取得にあたっては中国本社からの全面的なバックアップ体制があったため、取得に至ることができました。

国内導入が決定している DOLPHIN と SEAL についても、今後、BYD ATTO 3 同様に型式指定の取得を目指しており、日本のお客様から一層信頼していただける製品を引き続き提供してまいります。
(以上)

【参考情報】
自動車型式認証実施要領(pdf)
BYD ATTO 3補助金・税制優遇について(公式サイト)

取材・文/中尾 真二

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

執筆した記事