58.56kWhで40kWhの日産リーフより激安!
BYDオートジャパンはこの日、東京都千代田区のホテルで「BYDドルフィン価格発表会」を開催。同時に全国のBYDディーラーでドルフィンの販売をスタートしました。
まずは最注目の価格から。バッテリー容量44.9kWhのスタンダードモデル(航続距離400km)が363万円。容量を58.56kWhに増やして出力やトルクも高めたロングレンジモデル(航続距離476km)が407万円です。軽自動車の日産サクラやeKクロスEVよりは高額ですが、58.56kWhのロングレンジでも日産リーフの40kWhモデル(約408万円〜)より安い価格に設定されました。
CEV補助金は65万円。従ってスタンダードモデルは実質298万円で買えることになります。さらに各自治体の補助金(東京都45万円、埼玉県40万円など)も活用すれば、200万円台半ばという価格帯。アダプティブクルーズコントロール(ACC)はもちろん、同一車線内走行支援のナビゲーションパイロットや死角をサポートするブラインドスポットインフォメーションなどの先進運転支援システム、さらには幼児置き去り検知システムといった安心・安全機能もフル装備で、かなりのお買い得感はあります。
リーフでは、塗装色や先進運転支援のプロパイロットなどがオプション設定になっていることを考慮すると、価格差はさらに歴然です。
ドルフィンについては、これまでも注目車種としてEVsmartブログで何度か報じてきました。2021年8月から中国をはじめ、タイ、オーストラリア、シンガポールなどで販売されていて、グローバル販売台数は43万台に達している世界の大ヒットEVです。日本導入は「黒船」と例えられたりもしていました。日本でもEV市場を揺さぶるゲームチェンジャーになるのでしょうか。
「ドルフィンはコンパクトEVの決定版と確信」
「ドルフィンはコンパクトEVの決定版だと確信しています」
発表会で、BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長は自信満々にそう語りました。昨年7月に『ATTO 3(アットスリー)』『ドルフィン』『SEAL(シール)』のEV3車種を引っ提げて日本市場に参入することを発表したBYD。第1弾としてSUVタイプの『アットスリー』(バッテリー容量58.56kWh、440万円)を、今年1月末から販売中です。8月末までの登録台数は700台に達しているそうです。
第2弾となるドルフィンの発表を受けて、右肩上がりのグラフを示した東福寺社長。「都市部の需要を考えると機械式駐車場に入ることが魅力、地方で見込まれる2台目需要にもコンパクトカーは合っている」「ボリュームセラーになってもらいたい」などと話しました。ドルフィンの2024年3月末までの販売目標は1100台とのこと。
日本導入にあたって、車両がカスタマイズされたことも解説されました。右ウインカー、CHAdeMO急速充電、日本語音声認識への対応は想定内として、へえ、と思わせてくれたのが車高の調整です。
ドルフィンのサイズは全長4,290mm、全幅1,770mm、全高1,550mm。じつはグローバルモデルの全高は1,570mm。日本で一般的な機械式立体駐車場のサイズに合わせて、20mm下げたそうです。日常的な利用では誤差レベルかもしれませんが、車庫証明で困らないようにという配慮。これぞ繊細なものづくりです。日本市場への力の入れ具合を感じさせてくれました。
アクセルとブレーキの踏み間違いを防止する誤発進抑制システムも、日本市場向けの独自装備だそうです。こうした機能がグレードによって付いたり付かなかったりせず、全車フル装備なのがBYDの特徴。「差をつけません。全ての車に先進機能を搭載するというのがポリシー」だそうです。
東福寺社長のプレゼンテーションでは、参入発表から1年あまりが過ぎたBYDオートジャパンの日本における事業の進捗状況や今後の展開などについても、興味深い話が聞けたのでご紹介しておきます。
まず、2025年末までに100店舗を展開するとしていた販売ネットワークについては、現時点で準備室も含む49店舗が開業または開業予定だそうです。正規ディーラー店舗は、ちょうど9月20日オープンの東京品川店も含めて11店に。着々と拠点を増やしています。品質向上のために、横浜市の大黒ふ頭に設けた納車前点検をする「PDIセンター」もすでに稼働しています。
また、アフターサービスとして「BYD安心プログラム」を今月から提供することもアナウンスされました。無償の新車保証(4年間10万キロ)に加えて、初回(3年後)の車検費用をはじめ、法定点検やブレーキフルードやワイパーなどの部品交換も含むメインテナンス費用を最初に払ってしまう(4年で12万6500円)パッケージプランを用意。一切合切おまかせでサポートという感じのサービスです。
サブスク型リースについても説明がありました。ドルフィンは頭金無しの諸費用込みで月3万8830円(任意保険は別払い)で乗り始めることができます。コスト面に関して、できるだけハードルを低めに、さまざまな顧客ニーズに応えようとしている印象です。
「いまアットスリーは月100台売れています。お客さまに対面で説明して、しっかり納得してもらって購入していただく。時間がかかるやり方ではありますが、一歩一歩、顧客基盤を開拓してきました。1年余りをかけて築いてきたインフラの上に、ドルフィンという選択肢を拡大することで、より多くの人に関心を持ってもらえると考えています」と東福寺社長。
デリバリー時期ですが、中国で生産拠点を変更したことによる影響で、モデルとカラー別にスケジュールが違っているそうです。最も早いスタンダードのアーバングレーは10月に納車可能。12月には全てのモデルとカラーリングが入手可能になるそうです。2ヶ月ほど待てばどんな色も買えるということですね。
発表会の後、東福寺社長に個別インタビューの時間もいただきました。詳しくはテスカスさんの動画を見ていただくとして、概要を記しておきます。
−コンパクトEV投入の狙い
日本でEV普及を妨げていた4要因は、価格、航続距離、充電インフラ、選択肢の少なさ。そこへ我々は求めやすくて性能の優れたEVをさまざまなスタイルで提供したいとお約束したので、既定路線ではあります。軽EVが市場を大きくしてくれて、追い風の吹いているタイミングでドルフィンを投入できたのはよかった。価格帯としても、あまり競争相手のいないところにポジショニングできた。
−価格設定について
440万円に設定したアットスリーとの価格差なども考えつつ、たどりついたのが360万円前後でした。そこからはCEV補助金というファクターが大きい。『(補助金で)300万円を切って400km走れるフル装備のEV』というのはアピールできると判断した。ニイキュッパと言える。そこは狙いました。
−CEV補助金が85万円でなく65万円になったのは
(理由は、まだ日本国内での型式指定認証が取得できていないためであり)新工場へ生産ラインを移したりしたことでヨーロッパでの認証に時間がかかってしまった。(ATTO3と同様に)補助金は65万円スタートですが、なるべく早く型式指定を取って85万円の申請をしたいと思っています。
−導入の裏話などがあれば
発表会でもお話ししましたが、全高1,550mmにしたことですね。去年日本で展示会をしてグローバルモデルを持ってきた時に、諸元表で1,570mmになっていることに気づいた。すぐに対応してくれるフレキシビリティーがBYD(本社)にはありました。
−今後のロードマップについて
どの車種をどのタイミングでというのは検討中ですが、やはり1年に1モデルは追加していきたい。幅広いプロダクトレンジを作っていく。ライフサイクルでBYDにお付き合いいただけるようにラインアップ拡充を考えていきます。
(コメントは以上)
BYDドルフィンの価格が発表されたので東福寺社長に話を聞いてきた(YouTube)
【編集部注】
すでに、今年中にハイパフォーマンスセダンの『SEAL(海豹)』が日本導入されることは発表されています。「1年に1モデルは追加」ということであれば、30kWhのバッテリーを搭載して約145万円〜(中国国内向け)という衝撃価格で発表されたコンパクトEV『SEAGULL(海鴎)』の日本デビューにも期待したいところです。
EVsmartブログが大好きな「バッテリー1kWh当たりの車両価格」を算出してみると、日産リーフ40kWhモデルが「約10.2万円/kWh」に対して、ドルフィンのスタンダードモデル(44.9kWh)は「約8万円/kWh」、58.56kWhのロングレンジでは「約7万円/kWh」になります。ADASや急速充電性能などを考えると、基本設計が古い日産リーフとドルフィンは、レベルが違うEVになっていると評価するしかありません。
BYD の本気と凄みを感じるドルフィンの価格発表でした。
【関連記事】
●BYD『ドルフィン』試乗記/Long RangeモデルはATTO 3のホットハッチモデルでは?(2023年9月16日)
●BYD『ドルフィン』試乗で「現代の黒船」の威力を痛感〜注目の価格を予想してみた(2023年9月1日)
取材・文/篠原知存
BYDにはEVの価格破壊を起こして頂きたかった。コンパクトカーで363万円という値付けは高すぎます。300万円を切る価格設定にすれば、かなりインパクトがあったと思います。現状では大衆車の領域でEVがガソリン車と勝負していくのは難しいかもしれません。補助金有りきの価格設定では、EVはいつまでたっても普及しないと思います。ガソリン車との価格差を縮める企業努力が今後求められると思います。