BYD『ドルフィン』試乗で「現代の黒船」の威力を痛感〜注目の価格を予想してみた

BYDジャパンは2023年8月末に横浜市で、日本市場に新たに投入する電気自動車(EV)『DOLPHIN(ドルフィン)』のメディア向け試乗会を実施しました。BセグとCセグの間に位置するサイズの『DOLPHIN』の日本向け仕様の紹介とインプレッションをお伝えします。

BYD『ドルフィン』試乗で「現代の黒船」の威力を痛感〜注目の価格を予想してみた

BYDが日本市場に2車種目を投入

BYDジャパンは8月末に実施したメディア向けの先行試乗会で、新たに日本で販売するSUVタイプのEV『BYD DOLPHIN』について、9月20日に価格を発表し、正式に日本発売する予定であることを明らかにしました。

BYDジャパンは、先行して販売しているEV『ATTO3』に続けて、今回の『DOLPHIN』、そして『SEAL(シール)』を日本で販売することを発表しています。また、8月26日に池袋に新しいショールームをオープンするなど集客拠点を整備中で、2025年までには100店舗を整備する計画です。

そんなふうに日本市場への力の入れ方は相当なもので、価格発表からさほど日を置かずして納車が始まったりするかもしれません。まあ、これは希望的観測です。

『DOLPHIN』の価格はまだわかりませんが、車の出来映えは実車で確認することができました。試乗会では、スタンダードとロングレンジの2グレードの違いも、ちょっとですが感じることができました。まずは『DOLPHIN』の概要から紹介したいと思います。

日本市場向けに全高などを少し調整

ドアノブはイルカの胸びれがモチーフ。

『DOLPHIN』のサイズは、BYDによれば「BセグメントとCセグメントの中間くらい」です。全長4290mm×全幅1770mm×全高1550mmなので、最近の巨大化しつつあるEVの中ではコンパクトなのは確かです。

ホイールベースは2700mmなので、なんの偶然か日産『リーフ』と同じです。そういえば『リーフ』が全長4480mm、全幅1790mmなので、ちょうど同じくらいです。車重も似ています。基本設計の時期の違いもあり車の中身がだいぶ違っているのと、装備に差がある(助手席まで電動シートが標準装備とか)印象はありますが。

なお『DOLPHIN』の全高は、日本以外の国では1570mmあるそうです。日本仕様は、機械式駐車場(立体駐車場)に対応させるため、アンテナ部分を少し低くしています。機械式駐車場に合わせたのは、東京都で新築マンションの駐車場に充電設備を付けることが義務化されることもあり、都市部での需要を期待しての一手です。

日本向けには他に、義務化されているペダルの踏み間違いによる急発進を防ぐ誤発進抑制システムや、子どもの置き去りを防ぐ機能も採用しています。置き去り防止機能は、車内に人が残った状態でキーを持った人が車から離れると、ホーンとライトの点滅で警告するものです。置き去りを防ぐと言うよりは、置き去りができないような仕組みと言えそうです。

至れり尽くせりの機能が満載ですが、日本市場はいろいろ特殊でコストアップ要因が多いと言うことでしょうか。

BYD DOLPHINBYD DOLPHIN Long Range
全長×全幅×全高(mm)4290×1770×1550
ホイールベース(mm)2700
タイヤサイズ16インチ
車重(kg)15201680
駆動方式FWD
最小回転半径5.2m
最高出力70kW(95ps)/3714-914000rpm150kW(204ps)/5000-9000rpm
最大トルク180Nm/0-3714rpm310Nm/0-4433rpm
モーター種類永久磁石式交流同期モーター
バッテリー容量44.9kWh58.56kWh
総電圧332.8V390.4V
バッテリー種類リン酸鉄(LFP)
1充電走行可能距離(WLTC)400km476km
乗車定員5人
価格(税込)9月20日発表

補機用バッテリーがリチウムイオン

グレードは、バッテリー容量の違いで、44.9kWhの標準レンジと、58.56kWhの「Long Range」の2種類です。主要な装備はほぼ同じですが、リアサスペンションが、標準レンジはトーションビーム、「Long Range」がマルチリンクになっています。

最高出力と最大トルクもバッテリー容量で違いがあり、標準レンジは最高出力70kW、「Long Range」は150kWです。

一充電での航続可能距離は、WLTCで400kmと476kmです。ちなみに英国のカタログではWLTPで211マイル(337.6km)と265マイル(424km)なので、日本での実用域もそのくらいかもしれません。EPA基準だと約300kmと約380kmという感じでしょうか。試乗車が出てきたら確認したいと思います。

バッテリーはリン酸鉄(LFP)で、BYD開発のブレードバッテリーです。冷却は冷媒を使っていて、8つか9つの流路を統合して制御しています。テスラのオクトバルブのようなものです。

急速充電は、標準レンジが最大69kW(180A)、「Long Range」が85kW(200A)です。普通充電はいずれも6kWです。

パワートレインは、モーター、モーターコントローラー、トランスミッション、車両コントローラー、バッテリーマネジメントシステム(BMS)、DC-DCコンバーター、充電器、高電圧配電モジュールを一体化した8in1ユニットです。基本構造は『ATTO3』と同じですが、少しコンパクトになっている印象です。

特徴的なのは、補機用12Vバッテリーをリアシート下に設置してあることです。しかもLFPのリチウムイオンバッテリーです。

補機用バッテリーはリアシート下なので、ボンネットの中の空間はわりとスカスカ。フランク欲しくなります。

補機用バッテリーにリチウムイオンを使えば、軽量化とスペース節約のメリットがあるほか、ほぼメンテナンスフリーになると思われますが、コストの点で普及はしていません。筆者は、量販車でリチウムイオンの補機用バッテリーは初めて見ました。でもこれからは、鉛に置き換わる可能性は高いと思います。(9月1日追記:テスラはすでに『モデルX/S』『モデルY』などで補機用バッテリーをリチウムイオンにしているそうです)

軽やかな走りは必要十分の無問題

ここからは試乗した印象を紹介します。試乗会のスタートは横浜のヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルの駐車場で、今回は都市高速をぐるっと回って、大黒PAで一緒に動いていた自動車ジャーナリストの御堀直嗣さんと車を乗り換え、バッテリー容量の違う2車種に乗ってみました。

紫外線&赤外線カットのガラスルーフで開放感満点(ロングレンジ)。

まずはバッテリー容量の多い「Long Range」に乗りました。メーター周りは『ATTO3』と同じ小さめのモニターになっています。

ドライブモードはエコ、スタンダード、スポーツの3種類。「Long Range」は最高出力が150kWなので、エコモードで走っていても十分に流れに乗れるし、アクセルを最後まで踏み込んだ時のパワー感は十分すぎるほどで追い越しも問題ありません。

とはいえスポーツモードでも、それほどアクセル開度に敏感に反応するわけではないので、ひとりで峠道を走る時にはいいかもしれません。

回生ブレーキは2段階(スタンダード/ハイ)ですが、ワンペダル操作できるほどは強くありません。一般道を走っている時には、2段階の違いはほとんど感じませんでした。なおコースティングにはなりません。

サスペンションは、硬くもなく柔らかくもなく、都市高速を流している分にはなんの問題もない乗り心地でした。ジョイントでもへんな突き上げは感じません。

その後で乗り換えた標準レンジは、リアサスペンションが違うせいか、段差で少しコツコツする印象を受けました。それでも運転した感覚は悪くありません。1520kgという車重のメリットは大きいのかもしれません。

ただ、70kWという最高出力は少し貧弱に感じてしまいました。一定の速度で走っている時はいいのですが、アクセルを最後まで踏み込んでも150kW仕様の心地よい加速感はなく、ゆっくりとした加速になります。高速域での追い越しは少しもたつくかもしれません。

ドライブアシストは、少し試した感想でしかないですが、わりときちんとレーンキープできているように思いました。今年のGWに寄本編集長が乗った『ATTO3』は心許ない感じだった(関連記事)ようですが、都市高速でも『DOLPHIN』は不安が少なかったです。短い期間に進化しているようでした。

後席がとても快適でした。

ところで最後に少しだけ「Long Range」の後席に乗ってみたところ、足元も広いし、突き上げもないし、とても快適でした。長距離になるとどうかはまだわかりませんが、試してみたくなる乗り心地です。座った瞬間に「ダメだこりゃ」と思う車があるのを考えると、『DOLPHIN』の後席はかなり良好だと思うのです。

加えてガラスのルーフが、思いのほか暑くありませんでした。後で担当者に聞いたところ、紫外線は99.9%カットしているほか、赤外線も84.8%カットしているそうです。後席に乗ると視界の広さも感じてとても気持ちいいので、ぜひ試してほしいと思います。

細かいところは少し気になる

ここからは小姑的に、少しだけ気になる点を書いておきます。

まず、メーター表示のモニターが小さいのはいいのですが、モニターに表示されているドライブアシスト関係の表示マークも小さく、また薄い緑色になっていて見にくいのが気になりました。

BYDによれば、『DOLPHIN』のユーザーは20~40歳代が多いので、あまり疑問視はしていないようですが、色の加減で見にくいのは困ります。もっともモニターの背景はダークモードに切り替えできるそうです。今回は切り替えの存在に気がつかなかったので確認できていませんが、黒バックなら見やすいかもしれません。

それでも各種のマークが小さいのは気になります。修正は難しくないように思うので、ぜひお願いしたいところです。

もう一点は、運転中にドライブモードや回生調節の切り替えが難しいことです。

シフトは右端。エアコン、ハザード、回生強度などのスイッチは回して操作と風変わり。

ドライブモードも回生の切り替えも、スイッチがセンターコンソールにあって、なおかつ横滑り防止装置のオン/オフやハザードランプのスイッチなどと並んでいるため、視認しないと操作がしにくくなっています。慣れかもしれませんが、回転させる操作方法も少し使いにくいと感じました。

BYDの技術担当者によれば、運転中に切り替えをすることはあまり想定していないそうです。この考え方のEVはけっこう多くて、基本的にドライブアシストで走ることを考えているのではないかと思われます。あるいは、同乗者がいる場合に細かな操作をすると気持ちよくないと感じるせいかもしれません。

でも、道にはいろいろなシチュエーションがあって、回生ブレーキも運転モードも、状況に合わせて変えたいと思うことはよくあります。だからパドルシフトで回生ブレーキのコントロールができると一番いいと思うのですが、これは確かにコストアップです。

コストと運転する楽しさ、同乗者の乗り心地などのバランスをどう考えるかによりますが、エンジン車のATでもオーバードライブのオン/オフくらいはたいてい付いているので、ワンペダル操作を採用しないのであれば、せめてそのくらいの切り替えができた方が走りやすいかなあと思いました。

『DOLPHIN』の価格は360万円前後?

最後に価格予想を少し。現行の『DOLPHIN』は、オーストラリアでは3万8890ドルからで、イギリスでは3万195ポンドからとなっています。8月31日時点での円に換算するとオーストラリアは約367万円~、イギリスは約559万円~になります。

ずいぶん違いますが、これはたぶん英ポンド高のせいと思います。そこで『ATTO3』の価格を見るとオーストラリアでは4万8011ドル、日本円にすると約453万円になり、日本での販売価格440万円~とほぼ同じです。

とすると『DOLPHIN』の日本価格はオーストラリアと同じくらい、360万円前後〜ではないかと、期待を込めて想像してみます。すると、V2Lもあるので補助金が上限の85万円になれば約280万円、東京都ならさらに補助金が増えるので……。

なーんて、ちょっと想像がふくらみます。

バッテリー容量44.9kWh、航続距離300kmのEVが実質200万円台だとしたら、コスパの破壊力がすごいです。『サクラ』『ekクロス EV』のように軽自動車くらいの特徴があればともかく、現行の日本のEVが太刀打ちできるとは思えません。こうなると『DOLPHIN』が戦うのは他社のEVではなく、鎖国しているような日本市場の閉鎖性かもしれません。

ということで、現代の黒船は東ではなく、西から来そうです。価格発表と、その後の市場の動きが気になります。

取材・文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)2件

  1. BYDはとにかく無料の走行体験会とか、試乗会をどんどんやってほしい。
    日本にはEV乗っていない人多いから感覚わからない人多いし、モーターよりエンジンの方が力があるって思っている人もいるし。

    割と栄えている町で展示してあったりするけど、一番刺さるのは田舎の一軒家なのは間違いないので、地方でもどんどん試乗会すればいいと思う。

  2. どう考えてもリーフより全てにおいて優れてるんだが売れないんだろうなあ
    Atto3の鳴かず飛ばずの状態を見るとSAKURAより安くなっても売れる気がしない

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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