日本市場で「e-Sports Sedan」のポジション獲得を目指す
2024年6月25日(火)、BYD Auto Japan 株式会社(BAJ)が、完全な電気自動車にしてミッドサイズ(Dセグメント)クラスのスポーツセダンである『SEAL(シール)』の日本発売を正式に開始しました。後輪駆動のベースモデル『BYD SEAL』と、四輪駆動の『BYD SEAL AWD』の2グレードを用意して、搭載するバッテリーは両グレードとも82.56kWhの大容量。
EVによる日本市場進出を展開する同社が日本で発売したのは、『ATTO 3』、『DOLPHIN(ドルフィン)』に続く3車種目となります。欧州メーカーなども鎬を削り合うミッドサイズセダン市場参入はBAJにとっても初めてのチャレンジですが、発表では「国内セダン市場で“e-Sports Sedan”というポジションを確立する」と意気込みを示しました。
価格は導入記念キャンペーンで495万円~!
注目の価格は、ベースモデルの『BYD SEAL』が528万円~(※以下表記価格はすべて税込)、『BYD SEAL AWD』が605万円~と発表されました。ただし、1000台限定の導入記念キャンペーン価格で、『BYD SEAL』が495万円~、『BYD SEAL AWD』が572万円~となります。
さらに、●ETC ●ドライブレコーダー ●BYD e パスポート(初回車検費用が含まれたメンテナンスパッケージ) ●充電器と工事費を最大10万円までサポート などの初期購入記念特典が期間限定(8月31日まで※10月31日までに要登録)で提供されます。
今までに日本発売されたEVモデル同様に、先進運転支援機能や快適機能はほぼフル装備のワンプライス設定がBAJ車種の特長にもなっています。SEALでは2グレード両方に「アークティックブルー」「アトランティスグレー」「オーロラホワイト」「コスモブラック」「シャークグレー」と5色のボディカラーが用意されます。どのメーカーのどの車種にしろ、ボディカラーによるオプション価格が必要となるものですが、今回はどの色でも追加料金はなく、まさにポッキリ価格になっています。ちなみに、DOLPHINで話題になった「幼児置き去り検知システム」はSEALでも標準装備されます。
バッテリー容量は82.56kWhで、一充電航続距離はまだ「申請中」の自社測定値ながら、WLTCモードで「SEAL」が640km(約7.8km/kWh)、「SEAL AWD」は575km(約7.0km/kWh)と説明されました。実用的な航続距離は「WLTCモードの8掛け」が市販EVの傾向ではありますが、法定速度巡航でまったり走るのであれば、実際にこのくらいの電費は出そうな気もします。正式な審査値が発表されなきゃなんともいえないですけど、このあたりもEVが進化中ってポイントなのかも知れません。
充電性能は普通充電(AC)が最大6kW、急速充電(DC/チャデモ規格)が最大105kW。車両のシステム電圧が高いので、急速充電器からの400Vを550Vに昇圧して充電しており、SOC80%を超える程度までは高出力での充電が継続する特長があるとのことでした。同じようにチャデモ規格では昇圧充電しているヒョンデ IONIQ 5 に負けない充電性能を発揮してくれそうで、実際に試してみるのが楽しみです。
主要スペック
BYD SEAL | BYD SEAL AWD |
|
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全長 全幅 全高(mm) | 4,800 1,875 1,460 | ← |
ホイールべース (mm) | 2,920 | ← |
車両重量(kg) | 2,100 | 2,210 |
乗車定員(名) | 5 | ← |
最小回転半径(m) | 5.9 | ← |
WLTCモード 一充電走行距離 (km) ※自社調べ) | 640 | 575 |
駆動方式 | 後輪駆動 | 四輪駆動 |
フロントモーター | ー | かご形三相誘導モーター |
フロントモーター 最高出力 ( kW) | ー | 160 |
フロントモーター 最大トルク (Nm) | ー | 310 |
リアモーター | 永久磁石同期モーター | |
リアモーター 最高出力 (ネット値) kW | 230 | ← |
0-100km/h加速(秒) | 5.9 | 3.8 |
バッテリー種類 | リン酸鉄リチウムイオンバッテリー | |
総電力量(kWh) | 82.56 | ← |
タイヤサイズ | 235/45 R19 | ← |
車両価格(税込) | ¥5,280,000 | ¥6,050,000 |
導入記念 キャンペーン価格 (税込) | ¥4,950,000 | ¥5,720,000 |
CEV補助金でモデル3とガチンコ勝負の実質価格
発表されたSEALの価格。引き合いに出して恐縮ながらトヨタの車種で並べるなら、プリウスPHEV~クラウンクロスオーバーくらいって車格でしょうか。電気自動車のbZ4Xと比べたら、バッテリー容量の違いを考えると100万円以上安いかなって印象です。やはり、テスラと世界の電気自動車シェアを争うBYDの価格競争力は、生半可ではありません。
テスラのスポーティセダンである「モデル3」と比較しても、バッテリー容量、設定された車両価格ともにBYDが圧倒しているように見えるのですが……。今年度、BYDのEVへの国の補助金は大幅に減額されました(関連記事)。SEALの補助金額は「申請中」でまだ未発表ではあるものの、おそらくATTO 3などと同じ35万円(もしくはヒョンデIONIQ 5の大容量モデルと同じ45万円程度の可能性もあるか?)になるのではないかと思われます。
BYD SEAL | BYD SEAL AWD | TESLA MODEL3 RWD | TESLA MODEL3 ロングレンジAWD |
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バッテリー容量 | 82.56kWh | 82.56kWh | 54kWh ※推定 | 75kWh ※推定 |
一充電航続距離 | 640km (申請中) | 575km (申請中) | 573km (WLTC) | 706km (WLTC) |
車両価格 (税込) | 495万円 | 572万円 | 531万3000円 | 621万9000円 |
CEV補助金 | 35万円 | 35万円 | 65万円 | 85万円 |
実質価格 | 460万円 | 537万円 | 466万3000円 | 536万9000円 |
一方で、テスラモデル3へのCEV補助金は、RWDでも65万円、ロングレンジのAWDは85万円となっています。車両価格から補助金額を引いた「実質価格」では、まさに狙ったような真っ向勝負の金額になることがわかります。ただし、この表に示したSEALの値段は「導入記念キャンペーン価格」ですから、1000台以上売れたところからは「モデル3より実質30万円高い!」クルマになる可能性もあります。
実際には、テスラの場合ボディカラーなどのオプション価格上乗せが多くなりがちであったり、SEALの初期購入記念特典まで計算するとSEALがかなりお買い得になるはずです。とはいえ、日本でも「ここから始まるBYDとテスラのガチンコ勝負」といった様相です。庶民派EVユーザーのひとりとしては、両社が繰り出すEVに「もっと良くなれ」「もっと安くなあれ」と念じながら見守りたいと思います。
はたして「e-Sports Sedan というポジション確立を目指す」BYD SEALの実力はどうなのか。改めて試乗レポートなどをお伝えしたいと思います。お楽しみに!
取材・文/寄本 好則
記事の最後の部分で、補助金の予想額やキャンペーン後の標準価格を考慮した価格競争力についてしっかり触れられていますが、補助金がこのままだとモデル3に対する価格面での優位性はほとんどないか負けるように見られます。もっともっと戦略的な驚愕の価格を設定してくるのかと期待していましたが、逆の意味で驚かされました(bZ4X/ソルテラも同様でした)。
価格で優位に立てないのなら、クルマとしての質や完成度で訴求しなければならなくなりますが、海外の実用走行の動画では、バッテリー冷却能力が足りていないとか、レーンキープアシストが突然乱れるとか、フロントウィンドウが曇りがちとか…BYDの他のモデルでも指摘されている懸念点が挙げられていました。
そのあたりについては、テスカスさんなどによる実用走行評価に期待いたします。