EV充電インフラ整備への警鐘、エネチェンジが提言する改善ポイントとは

電気自動車充電サービス事業「EV充電エネチェンジ」を展開するENECHANGEがメディアラウンドテーブル(説明会)を開催。CEOの城口洋平氏がEV充電インフラの「あるべきカタチ」を提言するとともに、一施設への大量設置は補助金の無駄遣いだと指摘しました。

EV充電インフラ補助金の無駄遣い〜「一施設へ大量設置」のリスクとは

前年比3倍の補助金が3カ月で上限到達

2023年7月4日、「EV充電エネチェンジ」を展開するENECHANGE株式会社(このEVsmartブログ運営会社でもあります)が、メディアに向けたラウンドテーブル(説明会)を開催し、CEOの城口洋平氏がプレゼンテーションを行いました。

CEOの城口氏自らが熱弁!

「EV充電インフラ補助金の状況と充電インフラロードマップ検討会について」と題した解説で城口氏が強調したのが、充電インフラ補助金のあり方と、一施設への大量設置など「不適切な補助金の無駄遣いによるEV普及への悪影響」でした。

大規模な駐車場に多くのEV用充電器が設置されるのはEV普及にとっていいことじゃないかと考えるユーザーも多いことでしょう。なぜ、それが補助金の無駄遣いになるのでしょうか。順に確認していきましょう。

今年度、経産省による充電インフラ補助金は、総額で175億円と昨年の3倍に当たる予算が用意されました。内訳は、急速充電器に約90億円、普通充電の基礎充電分として約30億円、目的地充電に約25億円、予備費が約30億円です。

ところが、普通充電器「商業施設及び宿泊施設等への設置事業(目的地充電)」等の約25億円については6月12日に、「マンション、月極駐車場および事務所・工場への設置事業(基礎充電)」の約30億円については6月29日に、それぞれ申請額が予算額に到達して申請受付がいったん中止されました。(関連記事)。予備費の30億円を振り分けて、申請受付が再開されるようですが、55億を3カ月で使い切ったことを思えば、おそらく秋までは持たないのではないかと思われます。

配付資料から引用(以下同)

補助金が切れることで、さまざまな設置者が計画していた充電器設置や、2013年ごろからの手篤い補助金で設置された施設のリプレイスなどが次年度以降に持ち越されることになり、結果としてEVユーザーの利便が損なわれ、日本のEV普及がさらに遅れてしまう懸念があることが指摘されました。

そもそも、補助金が足りない

早々の補助金枯渇を招いた問題点は何なのか。城口氏がまず指摘したのが補助金予算の不足です。日本政府は2030年までにEV充電インフラ15万基とする目標を掲げています。うち急速充電器が3万基で、目的地充電用の普通充電器が12万基です。現状の目的地充電用普通充電器は3万基強なので、目標を達成するためには年間で約1万2500基ずつ増やしていく必要があります。

ところが、充電インフラ補助金の執行団体である次世代自動車振興センター(NeV)の案内に記載された補助上限額の中央値から算出した「普通充電器1基当たりの補助金申請額となる約140万円」で試算すると、今年度予算額の25億円で1785基、予備費全額を加えた55億円としても3928基でしかなく、目標達成に必要な1万2500基/年にはまったく届かないという指摘です。

設置基数上限の即時設定が必要

補助金を有効活用するためにどうするべきか。提言されたのが補助金乱用防止のためにも「一施設当たりの設置基数上限を大至急設定すべき」ということです。

2013年以降、1050億円の補助金が施行された時期には、六本木ヒルズに239基など、一カ所に100基を超える普通充電器が大量設置される事例がありました。ところが、電力供給の関係などで同時充電できるのは数台だけだったり、EV普及率が伸び悩んだことから稼働率が低く、多くの充電区画にエンジン車が停まっているといった状況に陥っています。

EV普及が伸び悩んでいる日本では当然といえば当然の現状といえるでしょう。性急に一施設大量設置を進めても、2030年以降、本格的にEVが普及する頃にはリプレイスの時期を迎えることにもなるでしょうから「無駄」という指摘は的を射ています。新築物件には全車室で充電可能にできる配線の用意をしておき、補助金で設置するのは実際の必要に応じた台数(普及に合わせて増やしていく)とするのが賢明です。また、集合住宅などで共用ではなく車室専用の充電器を設置する場合には、せめて補助金上限額を制限するといった工夫があってしかるべきとも思えます。つまり、限りある補助金で「使われない充電器」を増やすべきではないということです。

実は、現行の充電インフラ補助金の制度でも、令和2年度までは施設当たりの設置基数には上限が設定されていました。でも、今年度はその制限がありません。

新車販売シェアで2〜3%程度、保有台数ではさらに低い日本のEV普及率の状況で大量設置をしても利用率が低いのは当然で、補助金(税金)の無駄遣いと認識せざるを得ない。駐車場収容台数に基づく設置上限基数を「駐車場収容台数の10%、もしくは10基のいずれか低い方」に即時設定すべき。また、充電器を設置した駐車枠をEV専用車室にすることを義務化するべきというのが城口氏の提言でした。

経産省としても上限の撤廃は迅速なEV普及を目指す目標に向けた決定だったかと思いますが、ニーズの高揚や、充電インフラ設置事業者の増加や多様化の影響が想定を超えていたといえるのかも知れません。

また、設置事業者としては一度に大量設置する方が設置工事による利益は出しやすい。でも、ENECHANGEでは充電器利用によって収益を得ていくビジネスモデルを重視しており、適切な稼働率を得るために1カ所当たりの設置基数は2〜5基に抑えるよう社内ルールを定めているという説明もありました。

補助金交付採択結果の公表を

さらに、NeVでは令和3年度まで補助金の採択結果を公表していましたが、現在では公表されなくなっています。健全な補助金運用のためには、採択結果の公表は必須。また、以前の公表内容は設置場所の名称のみでしたが、EV充電インフラ事業を大きく手掛けるプレイヤーが増えた現状を考えると、設置場所名称に加えて「申請者」「申請金額」「充電器仕様」なども開示することが、補助金制度への信頼性向上や、自浄作用による補助金乱用の防止、インフラ整備状況の見える化に繋がることが指摘されました。

実は、EVsmartブログでも今年度補助金の早期枯渇を受けて申請者や設置場所について経産省に確認していたのですが、当面公表は予定していないという返事に疑問を感じていたところです。なんといっても補助金の財源は税金です。透明性の高い運用が進むことを願います。

補助金でたっぷり利益を出す仕組み?

「EV充電インフラ補助金の状況」について最後に説明されたのが、原価が安い3kWのコンセントなどを設置する工事費から多額の利益を得る、コンプライアンスに反した補助金ビジネスが広がることへの懸念です。

現状の制度では、6kWの普通充電器(おおむね1基20〜30万円程度)と、3kWのコンセント(1基数千円程度〜)を設置する場合、どちらも工事費の補助上限額は65万円と同額になっています。高出力の6kW器を設置するには配線の仕様などもより高価なものとなり、工事費上限額相当の原価が掛かるのに対して、実際の工事費原価は安上がりなケースでも、あの手この手で上限額いっぱいの工事費補助金が申請(承認)されて、多額の利益を上げている可能性があるという指摘です。

このあたりの詳細は、設置工事の実情に詳しいEV充電サービス事業部執行役員の田中喜之氏からの説明がありました。

実際、私が自宅に設置しているEV充電用コンセントの設置には、新築時にあらかじめ200Vの配線をガレージに引いていたこともあり、3万円も掛かりませんでした(関連記事)。一般的に、分電盤からの配線1mにつき少なくとも1万円程度の工事費が掛かるでしょうし、基礎充電用として補助金が認められている「マンション、月極駐車場および事務所・工場」などでは戸建て住宅よりも大規模な設置工事になるケースが多いのは確かでしょうが、コストを下げる工夫もなく、多額の工事費が補助金で賄われるのはEVユーザーとしても納得できないところです。

以上。一施設への大量設置が補助金乱用に繋がりかねないとする、城口氏の指摘でした。

この後、「充電インフラロードマップ検討会について」というテーマで、2030年に向けた日本の充電インフラのあり方などについての説明がありました。

これは、すでに7月5日、経産省による「充電インフラロードマップ検討会」が開催されて、ENECHANGEの城口氏だけでなく、さまざまなEV充電サービス事業者が登壇してプレゼンテーション、YouTubeでライブ動画も公開されています。興味深い内容だったので、後日、改めて別記事で解説したいと思います。

ともあれ、設置上限数の即時設定や採択結果の公表など、城口氏の指摘と提言には共感できます。補助金が有効に活用されて、日本のEV普及が健全に前進できるよう、EVユーザーのひとりとして今後に注目していきたいと思います。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 補助金の有効活用のために「実際の必要に応じた台数」に補助金を提供すべきというのはもっともな意見ですが、これでは根本的な解決になりません。おそらく充電器の設置台数を制限すると、設置意欲は減退するでしょう。集合住宅で充電インフラが普及しないのは、充電器を設置したいという個人の希望が、EVの低い普及率のために住民全体の総意とならないからです。例えば、ある場所に充電器を設置するのはそこに利用者がいるわけで、住民全体の利便性を重視する管理組合からするとそのこと自体が公平性を損なうので問題になります。一部の人を優遇していると批判されるのです。
    これに対して、受益者負担にすればよいという考えもあるかもしれません。それを支援するのがEV充電サービス事業ですが、ここでも問題があります。これらを利用するとシステム利用料という新たな負担が生じてしまいます。また、業者によっては10年と契約期間が長く、途中解約で違約金が生じます。あとから良いサービスが出ても乗り換えが困難です。ただ、考えてみるとそもそも充電コンセントに専用ケーブルでつなげばEVは充電できるわけで、わざわざEV充電サービスを利用する必要はありません。問題なのは、駐車場に個人で充電コンセントを設置できないことと共用部であるため電気代の支払いが難しいことにあります。それができないのは、(何度も同じことを言って申し訳ありませんが)充電器が共用部だからです。充電器を共用部から切り離し専用部にすれば、個人が自由に充電器を設置して電力会社を選択できるようになります。そうすれば無駄な補助金利用もなくなります。そのための法改正を希望します。

    1. 集合住宅共用部の高圧受電設備を管理する僕も管理人さんから同じ話を聞きました。電気自動車やPHEVに乗る住民が少なすぎる現状もEV充電インフラ設置にブレーキをかけていると思います。
      実際一棟あたりのEV等駐車台数が1~2台では、その後充電車両が増えたところで既得EV等乗りが占有してしまい言い争いになりかねません…それだから僕はEV等が3台以上にならない限り充電インフラサービス会社を紹介できなくなってしまいました(爆)
      都市部でのEV急速充電信奉が高いのもそういう事情があるからかも。道理で集合住宅住まいにテスラ乗りが多く、アイミーブ・サクラなど軽EVは一戸建住まいでしか見かけないはずです。
      逆に言うと「軽EV自宅充電」は一種のステータスでもあります!!同じ話がリーフにも言えますが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事