※冒頭写真は城南島海浜公園の急速充電設備。東京都では都有施設駐車場などへのEV充電設備設置(0円設置ではありません)も積極的に進めています。
DMM EV CHARGE も東京都内限定0円設置競争に参入
11月1日、EV充電サービスを展開する「DMM EV CHARGE」が、東京都内限定でEV用急速充電器を設置施設は無料で導入できる「急速EV充電器 0円キャンペーン」を、2023年12月31日までの期間限定で実施することを発表しました。
先だって『東京都で高出力急速充電器「1,000カ所無料設置」への期待とお願い』という記事で、テラチャージが発表した東京都内限定無料設置について心配な点とともに「期待とお願い」を提言しました。ほかにも、テンフィールズファクトリーやグリーンチャージといった充電サービス事業者が、同様に急速充電器0円設置プランをアピールして、設置を希望する事業者(店舗など)を募集しています。
DMM EV CHARGEの場合、かねて実施していた「急速充電0円プラン」では「全国のガソリンスタンドと道の駅」に対象を限定していましたが、今回の発表では、東京都内に限り設置場所は「どこでもOK」に対象が拡大されたことになります。
東京都の補助金の概要は?
東京都では、東京都地球温暖化防止活動推進センター(クール・ネット東京)の充電設備普及促進事業の中で「事業用(商業施設、事務所、工場等)」の枠を設けて、以下のような金額を設定して「事業に要する充電設備等を設置する場合の助成」を行っています。
充電設備普及促進事業(事業用) | |||
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助成対象設備 | 助成対象経費・助成金額(上限) | ||
設備購入費(※1) | 設備工事費(※1) | 受変電設備改修費 (※1)(※2) |
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超急速充電設備 (定格出力90kW以上) | 全額 (機種ごとの上限あり) | 上限1600万円 (1基あたり) | 上限435万円 |
急速充電設備 (定格出力10W以上90kW未満) | 上限309万円(1基あたり) もしくは1kWあたり6万円 |
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・普通充電設備 ・V2H充放電設備 ・充電用コンセントスタンド | 半額 (機種ごとの上限あり) | 【1基目 】上限81万円(※3) 【2基目~】 上限40万円 |
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充電用コンセント | 【1基目 】上限60万円(※3) 【2基目~】 上限30万円 |
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● 上記金額は消費税その他助成対象外経費を除いた金額です。 ※1 国補助金を併用する場合は、その交付金額分を差引いた額が上限額となります。 ※2 充電設備の合計出力が50kW以上の場合に限ります。 ※3 機械式駐車場の場合:1基目:171万円、2基目以降:86万円 |
設置場所や公共に開放するかどうかなどは問わず、急速充電や超急速充電(定格出力90kW以上)については、設備購入費は全額、工事費やキュービクル(受変電設備)改修などを含めて初期投資のほぼ全額が助成される手篤い制度です。
さらに「充電設備運営支援事業」という名目で、充電設備普及促進事業の補助金交付を受けて令和5年度中(2024年3月29日まで)に申請すれば、維持管理費や一定条件の下で電気料金(基本料金)が助成される制度が用意されています。
充電設備運営支援事業 | ||
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申請年度(※1) | 助成金額(上限) | |
維持管理費(※2) | 電気料金(基本料金)(※3) | |
令和2年度 | 上限40万円/年 (最大3年間) | – |
令和3年度 | 上限60万円/年 | |
令和4年度 | 【超急速充電設備】上限110万円/年(最大3年間) 【急速充電設備】上限60万円/年(最大3年間) |
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令和5年度 | 【超急速充電設備】上限310万円/年(最大5年間) 【急速充電設備】上限60万円/年(最大3年間) |
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●上記金額は消費税その他助成対象外経費を除いた金額です。 ※1 充電設備普及促進事業等に申請した年度 ※2 課金通信費、保守メンテナンス費、コールセンター費、損害保険料 ※3 再生可能エネルギー100%の電気料金であることが必須です。 |
具体的には、令和5年(2023)度、つまり今年度中に補助金交付を受けて設置された急速充電および超急速充電設備については、保守費用などの維持管理費に加えて、再エネ電力100%という条件付きで高出力急速充電で必要な高圧電気契約で掛かるデマンド基本料金まで助成してくれます。
仮に、150kWの契約で基本料金が約1700円/kWとした場合、月額は25万5000円。年間で306万円ですから、補助金でほぼ賄えることになります。
今、東京都内限定急速充電0円設置のサービスが相次いでいるのは、まさにこの補助金があるからということでしょう。
2030年1000基を目標に条件は設けず助成を実施
東京都では2030年に都内の新車販売のZEV割合を50%として、公共用急速充電器を1000基に拡充する目標を掲げています。
東京都の産業労働局ZEV推進担当課の坂井彰洋課長によると「充電設備の普及促進については財源が許す限り注力する方針で、今年度と来年度の2箇年分として174億円(普通充電設備への助成を含む)を計上し、2030年までに都内の公共用急速充電器1000基の目標達成を目指している」とのこと。
また、都内では基礎充電代替の急速充電ニーズが高いことを踏まえ「2030年にZEVの新車販売比率50%の目標を達成するためにも、先行して十分なインフラ整備が必要だと考えています。設置場所などの条件は設定せず、希望する事業者が急速充電設備を設置できるよう支援していく方針です」ということでした。
東京都内では集合住宅居住者の比率が高く、拠点ガレージで普通充電を行う基礎充電環境をもてないため、EV購入を諦めているという方が少なくありません。また、集合住宅住まいで基礎充電ができないため、近隣の急速充電器で日常的な充電を行う、いわゆる「基礎充電代替」としての急速充電ニーズがあります。
都内にEV充電設備の選択肢が増えるのは、もちろん歓迎すべきことです。とはいえ、日本のEV普及の過去をたどると、2013年頃から経産省とNCSによる手篤い補助制度が施行された際、一基一口だけの急速充電器(20~30kWの低出力器も多かった)が全国各地にパラパラと設置され、EV普及の伸び悩みも相まって稼働率は上がらぬまま、時を経て老朽化し、メンテナンスが不十分だったり設備の更新が行われずに放置、あるいは撤去されるケースが多くなっていることを思い起こします。
ひとりのEVユーザーとして「補助金ありきの急速充電器設置」で見てきた見苦しく切ない光景の記憶から、手篤い助成制度に頼った「東京都内限定0円設置」の動きについて、いくつかの懸念を抱かずにはいられません。
運営支援の補助がなくても持続可能?
最大の懸念は「運営支援の補助がなくても持続可能な設備になるんですか?」という点です。充電設備運営支援事業の助成期間は最大3年間、さらに、令和5年度以降に超急速充電設備を導入する場合の電気料金は「最大5年間」補助金が受けられる規定になっています。つまり、5年が経過すると運営支援の補助金はなくなります。
細かい試算は以前の記事でも示したので割愛しますが、急速充電器で採算を取るためには1日あたり3〜5時間、もしくは150〜200kWh程度、1台平均30kWh程度の充電量として5~6台がコンスタントに利用することが必要になるはずです。現状のEV普及率(新車販売シェア)では、なかなか高いハードルだと思います。
5年後、また2030年に向けて東京都の目標通りEVの新車販売シェアが50%に近づき、基礎充電代替の急速充電ニーズが変わらずにあって(集合住宅への充電設備設置やコインパーキングの普通充電設備普及が進まないということにもなります)高稼働率を維持できれば何も問題はありません。
はたして、今回の「東京都内限定0円設置」される急速充電器は、3年後、5年後以降、補助金なしでも採算が取れる施設になっていくのかという点を懸念しています。5年後に補助金が終了した後で、利益が出ないからとメンテナンスも不十分なまま放置されるようなことになったら、日本のEV普及は同じ過ちを繰り返すことになります。
採算が取れる急速充電器にするためには?
補助金がなくても採算が取れる急速充電設備とするためにどんなことが重要か考えてみましょう。
ちゃんと使われる場所に設置されるのか?
なんといっても重要なのが設置場所です。先日、京都市の「みやこめっせ」に高出力器(2口)を設置した株式会社パワーエックスの伊藤正裕CEOは、超急速充電器設置場所のポイントは「一等地」と明言していました(関連記事)。その通りだと思います。一等地の条件は、日常的に来訪者が多く、停めやすく充電しやすい区画が確保できる場所、また、できるだけ近隣に大規模集合住宅が多い場所、といったところでしょうか。
当然といえば当然ですが、「東京都内限定0円設置」に参入する各充電サービス会社の案内を見ると、設置を希望する事業者があれば現地調査や審査の上で無料設置できるかどうかを決める流れになっています。ぜひ、ビジネスとして「本当に高稼働率が見込める」と判断した場所を厳選して設置していただけるようお願いします。
合理的な充電料金設定となるのか?
「東京都内限定0円設置」を進めている各社は、それぞれ充電した電力(kWh)当たりの「従量課金」とすることが明示されています。でも、具体的にEVユーザーの利用料金がいくらになるのか、まだ発表はありません。
先行して超急速充電サービスをスタートしたパワーエックスの場合、Premium(純再エネ100%)105円/kWh、Regular(純再エネ70%)95円/kWh、Economy(系統電力)85円/kWh という充電料金で運用が始まっています。
パワーエックスの場合、蓄電池型高出力急速充電器というユニークな機種を設置して、低圧受電で蓄電した電力で充電するため高圧受電のデマンド基本料金は掛かりません。ただし、大容量蓄電池の初期投資が大きくなるため、e-Mobility Powerネットワークのビジター充電料金よりも、20~30円くらい割高な料金設定になっています。高圧受電の超急速充電でも、同程度の充電料金でなければ採算は合わないだろうと思います。
電費が6km/kWhのEVをPremiumの105円/kWhで充電した場合、走行コストとしては燃費が10km/Lのエンジン車に180円/Lのハイオクガソリンを給油するのと同程度かな、という感じになり、いかに大容量EVオーナーにはお金持ちが多いとはいえ、日常的な基礎充電代替の充電価格としてはこの100円/kWh程度が限度かな、と思います。
また、パワーエックスの場合は再エネ100%で少し高めの料金をユーザーが選ぶ工夫(意識改革を促す試みとして面白いと思います)がされていたり、専用アプリによる予約車限定の運用であることや、機種として必ず2口の設備としているなど「Premium」な充電体験を提供しようとする工夫を感じます。
はたして、「東京都内限定0円設置」の各社が、どのような従量課金料金を設定するのでしょうか。また、予約できるかどうかなど、EVユーザーが使いやすい、使いたくなる充電設備とするためにどのような工夫をしてくれるのか、今後に注視したいと思います。
国の指針では「その他」になる基礎充電代替ニーズ
先日発表された経済産業省の「充電インフラ整備促進に向けた指針」では、公道上の急速充電器設置場所として「道の駅、公道、SS、コンビニ、ディーラー」などを挙げ、それぞれの設置数目安を示しています。また「その他、商業施設等においては、その施設の滞在時間や基礎充電を持たないユーザーの利用見込み等も踏まえ、急速充電に必要な出力を整備する」と追記があって、今回の東京都の助成制度はまさにこの「その他」である基礎充電代替ニーズにも応える設備の拡充を目指したものといえるでしょう。
商業施設というと広めの駐車場があるスーパーマーケットなどが思い浮かびますが、我が家の近所にあるスーパーマーケット駐車場に設置されていた急速充電器(25kW)は、利用者が少なくすでに撤去されてしまいました。基礎充電代替の設置場所として、どのような場所にどう設置すれば稼働率高く利用されるのかという「正解」は、まだ誰にもわからないのが実情でしょう。
以前の、設置者のリスクがあまりにも小さい補助制度がもたらした「使われない充電器の蔓延」という不幸を思えば、急速充電器設置場所によって補助率を制限するなど一定の条件を設定すべきではないかとも思いますが、インフラ拡充を最優先するという東京都の方針にも一理あります。行く末を決めるのは設置する充電サービス会社のモラルとビジョン次第ということになります。
EVユーザー的な希望としては、テスラスーパーチャージャーのように、日常的に訪れやすい場所や経路充電で利便性の高い場所に高出力器複数口設置してくれることを望みます。
「東京都内限定0円設置」を手掛ける各社には、「工事費や運営支援で利益を出して、補助金が終わる5年後以降はどうなるかわからない」といったサービスにするのではなく、責任を持って稼働率が見込める場所に設置して、持続可能な設備として運用を続けていってくれることをお願いしておきます。くれぐれも、大切な補助金を有効活用してください。
私の思いはひとつ。東京の街のあちこちで、急速充電器の廃墟など見たくない! です。
取材・文/寄本 好則
再エネEV関連の経済原理に反した無理強いのための補助金は確実に金の切れ目が縁の切れ目になります。
半導体やコンテンツのような量産コストがただ同然に安い産業は補助金で需要を作り出すことで量産効果により単価が下落して市場規模そのものが格段に拡大する効果がありますが、
土地や資材に依存する産業では供給量を容易に増やせないため需要増が需給バランスを乱して却ってコストアップすることもあります。
その結果いつまでたっても補助金なしではビジネスとして成立しない状況が変わらないので後はもうお分かりでしょう。