「エネチェンジ」がEV充電インフラ戦略を発表〜倍速(6kW)普通充電器を無料で3万台設置へ

エネルギーテックベンチャー企業「エネチェンジ」が、EV充電インフラ戦略についての記者発表会を開いた。新しい充電器とともに発表されたのは「3万台の普通充電器を希望者に無料で設置する」大盤振る舞い。目的地充電設備が増えない現状の打開を目指す。

「エネチェンジ」がEV充電インフラ戦略を発表〜倍速(6kW)普通充電器を無料で3万台設置へ

目的地充電を対象に3万台の普通充電器を無料設置

「いまならEV充電設備を0円で導入可能!」。発表会場に、格安スマホの宣伝のような広告バナーが掲示されているのが印象的だった。東京・千代田区に本社を置く「ENECHANGE(エネチェンジ)株式会社」は2015年に設立されたエネルギーテックベンチャー企業。東証に上場している。

2022年6月29日、同社は導入支援キャンペーンの受付をスタートしたことを発表した。といっても誰でも申し込めるわけではない。いわゆる「目的地充電」が対象で、全国の宿泊施設、ゴルフ場、公共施設、コインパーキングなどで不特定多数の利用者が3時間以上の滞在を見込める場所に限られている。

利用者は専用アプリで認証&課金を行う。

とはいえ、0円というのは設置者にとって魅力的だ。目的地充電設備に対する経産省のCEV補助金が用意されているものの、いくら補助金を使っても、設置者に自己負担は生じる。ちなみに令和3年度補正予算の補助金では、充電設備が上限額35万円(出力6kWのケーブル付き充電設備。購入価格の半額まで)、工事費が上限額135万円まで(上限額以下は全額が補助対象)。つまり充電設備(充電器)の半額と消費税額は払わなければならない。

しかし、キャンペーン対象となれば、設置者に代わってエネチェンジが負担するというのだ。いずれEVが普及すれば、充電器の設置は利用者サービスとして有効なはずだが、現時点で利用率はまだまだ低い。「自己負担でリスクをとる投資は難しいので、設置者の負担をなくして充電インフラを整備していきたい」と代表取締役CEOの城口(きぐち)洋平さんは言う。

代表取締役CEOの城口洋平氏。

設置者の初期負担を軽減して充電設備急拡大を目指す

エネチェンジでは、2027年度までの5年間で3万台を設置する目標を掲げて資金を準備した。日本全国にいま設置されている総数が急速充電器も含めて2万台弱、普通充電器は約1万3000台弱(EVsmart調べ)だ。それを3年間でほぼ3倍へ増やす規模なのだからスケールが大きい。

ビジネスモデルとしては、設置後の利用料金で収益を出していく計画だ。同社としては当面、赤字を抱えることになるが、「目的地充電」のマーケット拡大をにらんだ先行投資という位置付け。

同社の調べによると、既設の充電器の利用時間は、年間30%の割合で増加しており、今後EVが普及すればさらに活発に利用されるようになる見通し。「1時間330円程度の額を想定して月30時間の利用が損益分岐点になる。十分に回収できると考えています」(城口さん)ということだ。

充電設備の減少傾向に歯止めを掛ける

EVシフトは加速している。今年5月には新車販売に占めるEVとPHEVの割合が過去最高の3.3%(日本自動車販売協会連合会のデータによる)になった。さらに、その後発売された日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」が1万4000台以上を受注している。充電網の拡充はすぐにでも取り掛からなければならない課題だろう。

私はEVに乗り始めてまだ一年あまりだが、その間にも急速充電器で待たされる確率は増えているし、ショッピングモールなどでの普通充電器も場所によっては「空いていればラッキー」という状況だ。経産省も普通充電器について2030年までに全国に12万基を設置することを目標にしている。しかし、2013年ごろに設置された設備が更新期を迎えている影響で、全国の充電器設置数はやや減少傾向でさえある。

城口さんの発表前に、執行役員の田中喜之さん(冒頭写真左)が充電インフラ史についてレクチャーしてくれた。日産で充電インフラ整備を担当し、充電サービス会社(日本充電サービス=NCS)の立ち上げにも携わった充電インフラのスペシャリストだ。

田中さんによると、2009年度に充電インフラに対する補助金制度がスタート。補助率は段階的に引き上げられ、2014~15年に経産省の補助金に加えてNCSが独自の追加補助を実施して「設置者負担をほぼゼロにした」こともあって充電器の設置台数は急増した。全国的な充電インフラを整えたのだが、2017年以降はなかなか伸びず、初期に設置された充電器が老朽化などのために撤去されたりして、総数は2020年に初めて減ることになった。その後も頭打ちの状況が続く。しかも14-15年の急増期にNCSと加盟契約をした充電器が次々に8年間の契約終了を迎えている。今年から来年にかけては、充電器が急減する可能性もあるという。

「普及しなければならないのに充電器が減っているという、わけのわからない状況を私たちでなんとかしたい」と城口さんは言葉に力をこめる。同社では、充電器を更新できずにサービス終了するというケースにも対応するため、新規設置だけでなく、既設の充電器リプレースにも「0円」キャンペーンを適応して対応するという。

新型充電器のお披露目も

うれしいことに、既存のほとんどの普通充電器は出力が3kWなのだが、エネチェンジの充電器は6kW出力の倍速充電が可能。電気設備の容量変更が必要とはいえ、EVユーザーにとってはありがたいインフラ強化が期待できる。うちのマンションにも入れて欲しいところだが、残念ながら「基礎充電」は対象外だった。

右が新型器のモデル2。

発表会では「モデル2」という新型充電器もお披露目された。刷新されたブランドイメージに合わせて、白と赤を基調にデザインされている。台湾製で、高さは2.4メートル。これまで設置を進めてきた「モデル1」(日東工業製)より約60センチ高くなったのは、充電コードを吊り下げ式としたからだ。充電口がばらばらのEVに対応するにはコードが5メートルは必要になる。しかし、地面に垂れていると車が踏んだりして断線などの故障が起きる。デザイン変更によって使いやすさの向上とトラブル減を追求したという。「モデル2」は日本自動車研究所認証センター(JARI)の認証を取得して、国の補助金対象となったため、導入支援キャンペーンの主役となる。これからは、かわいいスキー板のようなこの充電器をあちこちで見かけることになるかもしれない。

同社の充電器を使いたいEVユーザーは、専用の「エネチェンジEVチャージ」アプリで、充電スポットの検索から決済までを行える。

今回の発表で、印象的だったことも書いておきたい。じつは普通充電こそ、EVシフトの鍵だ、という話だった。内燃車はガソリンスタンドで給油するしか、車を走らせる方法はない。EVを内燃車と同じように考えると、急速充電器(経路充電)をつい連想してしまう。私もそうだった。だけど、EVのアドバンテージは「いつでもどんな場所でも充電できること」。電気はどこにでも供給されているので、理論上はすべての駐車場所で充電できる。普通充電器による「基礎充電」や「目的地充電」を充実させることで、わざわざどこかにエネルギーを補充しにいかなくてもよくなる。どこでも充電というのが、次世代のモビリティーの姿だろう。

充電器減少に歯止めをかけたい、という同社の姿勢には社会的意義を感じられるし、EVユーザーとしても、ほんとうにありがたい。3万台といわず、6万台でも9万台でも増えてほしい。

(取材・文/篠原 知存)

【編集部注】従量課金を希望します!

目的地充電設備3万台を無料設置するというエネチェンジのチャレンジは、停滞気味の日本の充電設備普及にとって福音だと思います。今年になってからでも、テラモーターズが集合住宅への無料設置を発表したり、ユアスタンドとニッパツパーキングシステムが機械式駐車場の全パレット対応EV充電器の設置開始を発表するなど、基礎充電、目的地充電設備の選択肢や可能性が広がっています。「何がどうなってるの?」と迷っているご担当者も多いかと思うので、改めて、近いうちに普通充電ソリューションの選択肢についてまとめた記事を作成したいと考えています。

今回の発表内容で、少し気になるポイントを補足しておきます。

まず、エネチェンジの充電設備を「0円」で設置した場合、利用者に課金される料金はエネチェンジの収益となり、設置者への料金還元はありません。つまり、実際の充電に掛かる電力料金は設置者が負担することになります。

初期0円以外のプランも用意されています。(エネチェンジEVチャージ公式サイトより引用)

また、出力6kWの普通充電は、すべての市販EVが受け入れ可能ではありません。たとえば、日産リーフでもe+は標準で6kW充電に対応していますが、40kWhのベースモデルの場合はメーカーオプションの6kW普通充電器(11万円)を搭載する必要があります。ヒット中の日産サクラ、三菱eKクロスEVは2.9kW(約3kW)対応なので、エネチェンジが設置する6kW充電器を使っても、1時間に3kWhしか充電することはできません。

充電料金として発表された「1時間330円程度」は、55円/kWhで6kWhを想定しているので、3kWの普通充電しかできないEVで利用すると、単純計算で110円/1kWhと、かなり高価な電気を買うことになります。

エネチェンジに従量課金に対応する計画などがあるかを確認したところ、当面は時間制で10分単位の都度課金(月額料金設定などはなし)を想定しているとのことでした。

何かが急拡大するときにある程度の課題が生じるのは当然のこと。目的地充電設備が「無いよりマシ」ではありますが。3年間で3万台という大規模な計画だけに影響は大きいです。すぐにとは言わないので、エネチェンジの倍速普通充電器が従量課金に対応してくれたら、EVユーザーのハッピーがさらに広がります。今後の展開と、さらなるプランのアップデートに期待しています。
(寄本)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 安川さま
    コメントありがとうございます。
    私は太陽光発電の取付実施を行ってる会社を21年前から運営しておりますので安川様が仰っしゃられている件については詳細に議論を行っており既に結論が出ています。

    その件は新エネルギーに関してだけ認められており、私どものような大規模太陽光発電で生み出されている一般的に言われるエコな電力のみが対象です。 エネチェンジは大規模な太陽光発電で発電した電力を小売する訳ではないので安川様が仰っしゃられている件には該当いたしません。

    1. アウディ RS e-tron GT 乗り さま、コメントありがとうございます。

      計量法の規制緩和について。編集部としても従量課金急速充電器開発の情報などに触れ、対応機種開発が進みつつある、程度の認識でした。

      改めて今年4月に施行された「特定計量制度」について調べてみて、「EV充電機器の従量課金に向けた計量器の規制緩和」がなされたわけではない、ということを今さらながら理解しました。

      資源エネルギー庁の「特定計量制度に基づく電気の計量について」という説明をみても、激しくわかりにくい、、、のですが。
      ● 一定の要件を満たした設置者が、特定のリソース単位(この場合EV充電設備)の使用電力量を計量する場合、事前に届け出をしておけば可能になる。

      https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/measure/tokutei/index.html

      と、今のところ理解しています。

      何がどう改革され、改革されようとしているのか。そして、現実的に従量課金はどうなのか、など、引き続き取材を進め、改めて記事にできればと思います。

      いずれにしても、機種対応だけでは従量課金はまだ不可能、ということなので。今回の場合、エネチェンジの充電器の最大出力は6kWでも、充電するEVの対応出力によって、3kWと6kWを選択して課金してもらえるようになるとありがたいな、ということですね。

  2. 既に寄本さまも本文で記載されていますが、エネチェンジの設備を利用するための入会金や定額の月会費は不要なものの、10分55円(1時間330円)は、3kW普通充電にしか対応していないアイ・ミーブに乗っている私から見れば非常に高価です。
    今のままだと充電設備を設置したものの利用台数が少なく、充電設備の設置が目的地利用者の増加に繋がらず、目的地関係者からは「役に立たないムダ設備」と揶揄される可能性が有ると思っています。
    イオンや7&iが1時間120円でWAONやnanaco決済出来ることを考えると、この辺りが多くの方が納得する妥当な金額だと考えます。
    カーボンニュートラル推進に向けて、みんながハッピーな仕組みになることを期待しています。
     
    別件ですが・・・
    au3G回線停止に伴ってJTBが宿泊施設などに設置を推進した豊田自動織機製の普通充電設備がeMP非対応&トヨタウォレットに移行し、多くが1回1100円の値段設定になり、日本メーカー製PHVや軽EV等の小容量BEVには全く割の合わない設備になってしまいました。
    個人的には、利用者が激減していると推定しています。
    JTBに価格決定の経緯、システム変更前後の利用状況、課金方法の複数化(QR認証でeMPカードが使える仕組みが出来ないか?)、価格変更の予定などをEVsmartブログチームで取材して欲しい!

  3. 【編集部注】従量課金を希望します! と記載がありますが。
    エネチャンジ側も従量課金はしたくても出来ないのです。

    現在の日本の法律では電気の小売は電気事業者のみが可能です。
    一般の法人が電気を再小売してはいけません。

    日産が10数年前に充電器を設置するときに、大きく議論されましたが
    国が認めなかったために、日産は残された選択肢である時間制の充電機器レンタルという事になりました。

    本媒体が熱心に活動して国家議員を選出して法律の改正を目指しましょう!
    (ドイツに時々いきますが、まだまだ時間制のほうが多いです。従量課金は少しづつ増えてきてますが難しいみたいです)

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。車歴/アコードワゴン、BMWミニ、インサイト、ランドクルーザー、N-BOX、Honda e。バイク歴の方が長くて、いまはKTM 125 Dukeを所有。

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