360億円の予算を3回に分けて申請を募集
2024年1月31日、経済産業省から、「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金」について、令和5年度補正予算(2023年11月29日に国会成立)で400億円、令和6年度当初予算(同12月22日閣議決定)で100億円の計500億円が措置される見込みであり、うち360億円を電気自動車用の「充電インフラ補助金」とすることが発表されました。
500億円のうち残りの140億円は、水素充てんインフラと、電気自動車と家庭の電力をやり取りする「V2H」への補助金に配分される見込みです。
充電インフラ補助金に割り当てられる360億円は、令和5年度追加募集と、令和6年度募集の第一期と第二期、計3回に分けて申請の募集が行われます。うち、2023年3月までが申請受付となる令和5年度追加募集に配分されるのが105億円。255億円が令和6年度分となる予定です。
令和5年度追加募集分の105億円は、充電インフラの種別ごとに以下のように配分されます。
●急速=60億円
●普通(基礎)=25億円
●普通(目的地)=20億円
ちなみに、前年度(令和4年補正と令和5年当初予算)の充電インフラ補助金は総額175億円で、種別の内訳は●急速=約90億円、●普通(基礎)=約30億円、●普通(目的地)=約25億円、●予備分=約30億円となっており、申請開始から数カ月で予算額に達した(関連記事)のは記憶に新しいところです。
単純に予算額を比較しても、今年度は1回目受付分だけで昨年度全体の6割程度におよぶ規模の予算となっています。補助金を申請する充電サービス事業者にとっては申請や設置完了までのスケジュールがタイトでますます忙しくなるかと思いますが、全体として、日本のEV充電インフラ拡充の加速を後押ししてくれるはず。経産省(国)がEV充電インフラの拡充をより強く速く進展させようとする前向きな姿勢を示したものであり、EVユーザーのひとりとして、評価&さらに期待したい内容といえます。
まずは募集対象を限定して申請受付
今年度の第1回として申請募集が始まる令和5年度追加分については、前年度の「予備分」とおおむね同じ募集対象に限定して実施されることも示されました。
それぞれ充電設備の種類ごとに、以下のような条件が設定されています。
種類 | 募集対象 |
---|---|
急速 | 高速道路、公道、道の駅、SS、空白地域、目的地(ディーラー、商業施設等) ※ 50kW以上のみ |
普通(基礎) | 基礎充電(既築集合住宅に限る)のうち、 1申請における補助金による設置口数が以下を満たすもの ●ケーブル:収容台数の10%以下、かつ10口以下 ●コンセント:収容台数以下、かつ20口以下 |
普通(目的地) | 1申請における補助金による設置口数が、2口以下であるもの |
※ 普通(基礎)について、 ●既に充電器が設置されている集合住宅等については、BEV/PHEVの駐車数が、充電器が設置されている区画の50%以上である場合には、追加設置申請が可能。 ●ケーブルの「収容台数の10%以下」については、駐車場収容台数の10%を算出し、小数点以下の端数がある場合には、その端数を切り上げた口数まで認める。 |
募集対象の限定は、昨年度の予備分募集に際して、使われない充電設備を増やす懸念がある「大量設置」や、公共の設備としてあまり適切でない場所に急速充電器が設置されるようなケースを防ぐために設定されたもの。急速充電器の出力を50kW以上のみとするなど、おおむね、EVユーザーとしても歓迎すべき内容です。
また、募集対象の限定と合わせて、申請の採択方法がそれまでの「先着順」から、補助金申請額(コストパフォーマンスが高い方が有利)や設備の企画内容を審査する「入札制」となりました。今年度の3回の募集でも、同様の入札制となる見込みです。
経産省の発表によると、入札制となったことで申請案件全体の充電設備の出力「kW」当たりの補助金申請額が、基礎充電が約18万円/kWから15万円/kWに約3万円、また目的地充電が約18.5万円/kWから約14.5万円/kWと約4万円低下したことが報告されています。入札制で競争原理が働いたことによるコスト削減効果と考えるべき成果と思われ、補助金の有効活用のためにも評価すべきことだと思います。
急速充電器の設置は「必要な場所」を中心に
予算倍増を含め、おおむね望ましい方針と評価したい一方で、少し気になるのが「急速」の募集対象がやや曖昧に感じる点です。
急速の募集対象は出力50kW以上で「高速道路、公道、道の駅、SS、空白地域、目的地 (ディーラー、商業施設等)」とされています。
それぞれ、EVユーザー目線で「この場所に必要か?」を考えてみましょう。必要かどうかというのは、すなわち「稼働率高く使われる充電器になるのか?」ということですね。
「高速道路」は、さらに多くのSAPAへの高出力(90kW以上)複数口化を加速させるべき。一般道の経路となりやすい「道の駅」や、EV(自動車)ユーザーの利便性が高くて高速IC近くの立地が多い「SS」も、できれば複数口で設置を加速させるべきでしょう。
「公道」については、集合住宅居住者などで拠点ガレージに基礎充電設備を設置しにくいユーザーが多い都市部の「基礎充電代替」においてはひとつの手段として有効で、好条件の立地と、できれば「複数口で設置すべき」という条件付きで、必要な充電器になれる可能性があるでしょう。
「空白地域」は、文字通り「ひとつの市町村内に一ヵ所もない」といったエリアを埋めるということなので、各自治体が一定のコスト負担を許容できるのであれば、設置するのも良いのではないか、といった感じ(地域に特段の事情がない限り稼働率は上がらない可能性は高いですけど)です。
気になるのは「ディーラー」と、「商業施設等」というあたり。
自動車メーカーのディーラーは、地域の幹線道路沿いなどに比較的集まって存在しています。公共用の急速充電器としては、すでに日産や三菱などのディーラーが先行して設置しており、すぐ近くの別のディーラーに補助金を使って設置する必要性は、あまり感じません。極端に稼働率が高く数が足りないことが明白なエリアであれば検討する意義はあるでしょうが、明確な基準を設定するのは難しいところです。
これから設置されるディーラーの急速充電器は、公共用というよりも自社製EVオーナーへのサービス、あるいは整備時などの利便性向上のための設備になるはずです。であれば、フォルクスワーゲングループが設置を進めているPCA(プレミアムチャージングアライアンス)の充電器のように、クローズド(他社EVユーザーには非開放)にして補助金を使わずに設置するのもひとつの合理的な方法ではないかと思っています。
「商業施設等」の「等」という曖昧さも気になります。急速充電のおもな用途は、ロングドライブ時の経路充電です。都市部では基礎充電代替のニーズがあるとはいえ、充電料金が高い急速充電器があちらこちらにいっぱいできても、採算が取れるほど使われるようになるとは、私にはどうしても考えられません。
急速充電器を扱う充電サービス事業者が、手掛ける物件数を増やすため、あるいは設置場所の事業者が「集客のため」といった判断で必要以上に数多く設置されたとしても、数年後には維持コストがお荷物の「使われない充電器」になってしまうだろうと危惧します。
本来、急速充電インフラは自動車メーカーが発売するEVの性能や数などを鑑みながら、適切に配置していくべき(テスラのスーパーチャージャーのように)インフラでもあります。このあたり、最近話題の「NACS」対応を含めて、ユーザーが外からどんなに叫んでみたところで実際的な仕組みやメリットは生まれません。EVを開発&発売する自動車メーカーがきちんとイニシアチブを取って、急速充電サービスを提供する事業者との議論や検討、連携を進めていただきたいところだと感じています。
と、またぞろ愚痴っぽくなってきましたが。充電インフラ補助金倍増は、何はともあれ大歓迎。「2030年に30万口」の目標に向けて、さらなる前進を望みたいところです。日本のEV普及がますます加速することを期待しています。
文/寄本 好則
1枚目の画像のグラフの左側、360億円を表す範囲が間違っていると思います。
ゆき さま、ご指摘ありがとうございます。
修正(画像差替)しました。