高速道路の充電が便利になる? 公正取引委員会の実態調査結果と申し入れ内容を読み解く

2023年7月13日、公正取引委員会から「高速道路における電気自動車(EV)充電サービスに関する実態調査」の調査結果が公開されました。本記事ではその内容と、今後予想される、ことに高速道路充電インフラへの影響についてポイントを解説します。

高速道路の充電が便利になる? 公正取引委員会の実態調査結果と申し入れ内容を読み解く

※冒頭写真は2023年3月、関越道上里SA(上り線)で満車状態になった新設6口器の様子。

高速道路の充電インフラの現状

国内では2020年頃を境にEVの販売が増え始めた一方で、高速道路の充電インフラの整備はつい最近まであまり進展せず、設置数や充電速度をはじめ、様々な課題が浮き彫りとなっていました。EVsmartブログでは以前よりこれらの課題に対して様々な提言を行っており、筆者(八重さくら)も以下の記事を寄稿していました。

【関連記事】
すべてのEVが快適に遠出できる充電インフラとは? ~高速道路に必要な「超急速充電器」を考える(2022年10月29日公開)

上記の記事では、理想的な充電環境として「最低150kWに対応した充電器を1箇所に複数」設置することを提案。2023年に入り、僅かながら実際に150kWに対応した充電器の設置も始まりましたが、まだ十分とは言えないと筆者は考えています。

そんななか、公正取引委員会が4月15日に高速道路のサービスエリアやパーキングエリア(以下、SAPA)に設置されている急速充電器の競争環境について、調査を開始することを発表。2035年の(HVを含む)電動車を100%とする政府目標に触れ、目標の達成には高速道路の充電インフラの発展には「公正で自由な競争」が必要として、その「実態を把握すること」を目的としていました。

調査の背景・趣旨、調査方法等(公正取引委員会より)。

そして約3か月後の7月13日に調査結果が公開され、現状の報告に加え、経済産業省や国土交通省に対して様々な申し入れを行ったことが発表されました。

この調査結果で最初に指摘されたことは、現在の高速道路に設置された急速充電器の98.7%がe-Mobility Power株式会社(以下、eMP)の一社によって設置され、運用されているということ。残る1.3%もeMPに運用の一部を委託しており、実質的にはすべての充電器がeMPによって運用されているのが現状です。

それでは、このような状況が、高速道路の充電インフラに対してどのような影響を与えているのでしょうか。次の章からは関係者からのヒアリング内容と公正取引委員会の考え方、そして経済産業省や国土交通省への申し入れの内容を読み解き、私たちEVオーナーへの影響を考えてみたいと思います。

SAPAの急速充電器はなぜeMPの独占状態なのか?

まず現状として、SAPAに設置された充電器については、前述の通り98.7%をeMPが設置しており、さらに今後の新設や古くなった際の入れ替えもeMPによって行われる予定であることを指摘。これらの実情から「eMP 以外の EV 充電器設置者が、高速道路の SAPA に EV 充電器を設置することが想定されているとは言い難い状況」としています。

さらに関係者からのヒアリングより、以下のような意見が挙げられました。(要点を抜粋)

【高速道路会社から】

・電欠を防止する観点から、一部の路線など局所的な設置ではなく網羅的に設置が必要。
・設置後に需要がなく撤退する、という考えではなく、需要がないエリアでも事業を継続する事業者と組みたい。
・収益性に関わらず、全てのエリアで統一的にサービスを提供することが望ましく、10年前はeMPしか存在せず、現在も同社との提携を継続。

【eMPから】

・一部を除く高速道路の充電インフラの整備・運営は、高速道路会社との共同事業として実施。
・高速道路はそれ以外の場所よりも補助金が多いが、自社で負担する金額も大きく、運用コストも高い。
・それでも社会インフラという観点から、EVが普及する前から全国のSAPAに整備。

【eMP以外のEV充電器設置者から】

・特に利用者の多いSAPAに新規参入したい。
・近年は航続距離が長いEVが増え、自宅充電が基本であることから、全てのSAPAに設置する必要はなく、交通量が多い場所やジャンクションの周辺に設置すれば十分。
・今後さらに技術の進歩が進むと予想されるなかで「網羅的に設置する」という条件では非効率。(そのような条件では「参入困難」とする事業者も)

【日本高速道路保有・債務返済機構から】

・道路占用許可の基準は一般公開されており、機構独自の基準やEV充電事業者への案内は行っていない。
・関係法令や通達は国土交通省WEBサイトやe-Govに掲載されていると認識しているが、実際の掲載状況は把握していない。

以上のような現状整理とヒアリングより、公正取引委員会ではこれまでのeMPの貢献について評価する一方で、今後も同社の一社体制が続いた場合「創意工夫による多様なサービスが出現しづらい」として、出力の向上などの技術革新への対応が遅れることを懸念。市場競争を働かせるためにも公正で自由な競争が必要で、消費者の利益を確保するためにも「複数の事業者からEV充電器設置者を選定すること」の必要性を強調しています。

一方で利用者の少ない場所での維持が困難にならないよう「経済産業省及び国土交通省において議論を深めるべき」とし、さらに公正取引委員会も議論に参画することを決定。具体的には、特定の事業者にとって有利・不利となるような条件を付けたり、差別的な取り扱いをすることのないよう留意が必要だとしています。

高速道路のSAPAへの参入状況(公正取引委員会より)。

今回の発表により今すぐ複数社の参入が決まった、という訳ではないものの、管轄省庁である経済産業省や国土交通省を巻き込んだ議論がされることは確実であり、希望が持てるものと言えるでしょう。

パワーエックスやプラゴ、エネオスなど急速充電サービスに意欲的な事業者が増えてきていますし、先日はユビ電(WeCharge)が高速道路での急速充電事業に参入することを表明しました。これらの事業者にとっては追い風となりそうです。

消費者目線で見ても、競争が促進されれば利便性も向上するはずで、これまでのeMPの一社体制と比べて設置ペースが上がり、高出力化が進むかも知れません。

例えば前述のユビ電は、27年までに最大150kW出力の充電器を100箇所、800基設置する計画を発表。CHAdeMOだけでなくNACS(北米標準充電規格=テスラ規格)やCCS規格も含めて整備する計画で、国産車に加えてNACSを採用するテスラ車やCCS1を採用するFiat 500eなどでも、車両の性能をフルに発揮できることが期待できるでしょう。ただし、複数規格のマルチプラグ方式には課題もあり、NACS対応や高速道路SAPAへの設置の準備をどう進めていくのかなどよくわからない点が多いので、EVユーザーとしては今後の進展を注視するしかありません。

一方で複数の事業者が参加することで、充電する場所によって決済方法が別れてしまい、今よりも手間が増える心配も生じます。eMPや今後参入する事業者は、会員ではない場合でもより簡単にゲスト充電ができるよう、今まで以上に配慮する必要があるかもしれません。なにより、テスラ規格のような「プラグアンドチャージ(PnC=プラグを差し込むだけで充電が開始されて決済まで完了する)の導入と普及に期待したいところです。

一時退出による高速道路以外の充電器の活用

この調査結果ではSAPAへの充電器設置のほか「高速道路の路外に設置されたEV充電器の活用」と題して、経済産業省と国土交通省が3月29日に「高速道路における電動化インフラ整備加速化パッケージ」として発表したETCを活用した一時退出にも言及。うまく活用できればSAPAの充電器に対してサービスや料金の面で競争が促進されるとして、調査が実施されました。

まず現状の整理として、すでにETC2.0による一時退出を活用して道の駅の利用を促進する社会実験「賢い料金」を先行事例として紹介。さらに阪神高速やNEXCO東日本でも路外の商業施設を活用したパーキングエリアや給油サービスの社会実験を実施中で、こちらはETC2.0ではなく従来のETCでも利用可能であると指摘しています。

また、こちらもEV充電器設置者へのヒアリングを実施しており、「一時退出への取り組みには肯定的な意見が示された」としながらも、以下のような懸念点も挙げられました。(要点を抜粋)

・特定の事業者の充電器しか利用できない可能性。
・現状ではETCカードを使った充電費用の決済は実施しておらず、高額なETCカード専用認証機は初期費用がかかるのではないか。
・充電の確認であれば、API経由などで充電器の利用履歴を連携するなど、他にも(低コストな)方法がある。
・ETC自体でEVの識別が可能であり、1基の充電器のためにETCの認証機を導入することは投資コストがかかり、路外の充電器の活用への阻害要因になる。
・様々な方法を検討した上で、コストを踏まえて決定してほしい。

ちなみにこの制度が発表された際、筆者もEVsmartブログへ以下の記事を寄稿しており、これらの意見とほぼ同様の指摘をしていました。

【関連記事】
ETC決済必須? 発表された「高速道路外のEV充電器の活用」案の問題点を考える(2023年4月6日公開)

今回のヒアリングではその妥当性を再確認すると同時に、経済産業省や国土交通省に意見が伝えられたことを評価したいと思います。公正取引委員会では競争政策上の観点から、このヒアリングをもとに以下のような申し入れをしています。

・特定の事業者が設置したもの、又は、特定の事業者が提供する EV 充電サービスに限定しないことが望ましい。
・可能な限り、大きな設備投資を必要としない方策を検討し、ETC カード以外の決済手段も認めるようにすることが望ましい。
・EV 充電のための一時退出の対象を ETC2.0 等の特定の技術に対応したシステムを搭載した車に限定しないことが望ましい。

高速道路の路外に設置されたEV充電器の活用(公正取引委員会より)。

前述の筆者の寄稿でも指摘した通り、せっかく新たな制度を作っても使用可能な充電器が少なかったり、必要以上の費用負担を強いるのであれば、結局のところ使えない仕組みとなってしまいます。改めて、今回のヒアリング結果や上記の申し入れを尊重した「EVオーナーに優しい」制度設計に期待したいところです。

「申し入れ」の効力は?

ところで、今回の公正取引委員会の調査では法的措置などを講じるわけではなく、管轄する経済産業省や国土交通省への「申し入れ」にとどまっています。この理由として現段階では「自主的な取り組み」によって「公正かつ自由な競争が促進されることを期待する」としていますが、引き続き「市場の動向を注視し、独占禁止法上問題となる具体的な案件に接した場合には、厳正・的確に対処する」ことも示されています。

言い換えればこれは「イエローカード」の状態であり、もし今後も改善が見られなければ「レッドカード」が突きつけられることを意味しています。このことから、筆者は「申し入れには一定の効力が期待できるのではないか」と考えています。今後も動向について随時私個人のTwitterやEVsmartブログでお伝えしていきたいと思います。

【参考情報】
(令和5年7月13日)高速道路における電気自動車(EV)充電サービスに関する実態調査について

文/八重さくら

この記事のコメント(新着順)3件

  1. NEXCOといえば旧日本道路公団。株主は国です。ここは、今も国土交通省の天下り先です。一方、eMPの役員はほとんどが東電出身者。東電の株の半分は国が所有しています。また、各地のNEXCOはそれぞれの電力会社と業務提携を結んでいます。
    高速道路の充電インフラをeMPが独占するのは、当たり前といえば当たり前ですね。この環境の中で民間企業が入り込む余地があるのでしょうか。

  2. 基本的に車での移動距離が長いので、現状では現状では網羅的に設置しようとしてくれているeMPと日産のZESP(実態はeMP?)くらいしか選択肢がないですね。
    他社はそもそも充電スポット数が少なすぎ、料金も高すぎで、契約する利点も何もない。
    充電器自体はどの会社の契約カードでも共通で使えるとか、クレカ使えるというのが理想形だけど、そんな努力してるようには全く見えない。
    エネチェンジくらいですかね、その辺の努力してるように見えるのは。

    それでいて独占がなんだとか、インフラ拡充を邪魔したいだけなら黙ってろとしか言えない。
    eMPは前の前くらいの会社だった時から全国的にかなり大量に設置していたので現在の1強状態なんですよ。
    10年前の、チャデモチャージだった頃の設置数も実現できてない他社が何言ってるのかと。

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					八重 さくら

八重 さくら

現在は主にTwitterや自身のブログ(エコレボ)でEVや環境に関する情報を発信。事務所の社用車として2018年にテスラ モデルX、2020年に三菱アイ・ミーブを購入し、2台体制でEVを運用中。事務所には太陽光発電とテスラの蓄電池「パワーウォール」を設置し、車と事務所のほぼすべての電力を太陽光で賄うことを目指しています。

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