※冒頭写真は来客用駐車場に6kW充電器を6基設置した事例(公式サイト紹介ページ)。
充電サービス事業者が稼働率を公表する動き
2024年5月2日、集合住宅を中心にしたEV充電サービスを提供するユアスタンド株式会社が、自社が設置、運営する充電設備の稼働実績と稼働率を公表しました。今後は毎月のデータを同社ウェブサイトで発表(今回のリリース)するとしています。
充電設備の稼働率公表は、経済産業省が充電インフラ補助金の運用について「充電インフラ整備に向けた取組の強化」と題して3月に発表した方針の中で「今後、稼働率の公表やユーザーへの情報提供の改善について検討」していくと明示したことに応える動きです。
充電サービス事業者のなかで、e-Mobility Powerは2023年から四半期ごとに公式サイトで設置口数や利用実績のデータを発表しています。また、EVsmartブログの運営会社であるENECHANGEも、2024年第一四半期分から設置口数や1口あたりの充電時間などを公表することになったのは、以前の記事でお伝えした通りです。
10年ほど前の補助金では、社会全体がEV活用の見識に乏しかったこともあり、一施設への度を超した大量設置などによって「使われない充電器」が増えてしまったという反省点がありました。EV普及のフェーズが進み、充電設備を設置するサービス事業者が自ら稼働率を公表し、「使われる充電器」を増やそうとする取組は、EVユーザーとしても歓迎したい動きです。
月間「33.8時間/1口」は秀逸な稼働実績
公表されたユアスタンドの充電器稼働率のデータを確認すると、2024年1〜4月の1カ月1口あたりの平均充電時間が約2,030分、時間に換算して33.8時間も使われていることがわかります。
2023年 | 2024年 | ||||||
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10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月(速報値) | |
1基(⼝)あたり 平均利⽤回数 (回/月) | 5.7 | 8.5 | 9.0 | 11.1 | 9.0 | 9.3 | 7.4 |
1回あたり 平均充電時間 (分/回) | 190 | 191 | 167 | 203 | 223 | 234 | 232 |
1基(口)あたり 平均充電時間 (分/月) | 1,076 | 1,626 | 1,494 | 2,244 | 2,002 | 2,167 | 1,709 |
⽉間平均稼働率 (%) | 4.1 | 3.9 | 4.4 | 4.5 | 4.5 | 5.0 | 4.2 |
ユアスタンドが設置しているのは、おもに集合住宅のEVユーザーが基礎充電を行うための普通充電器です。専有区画に設置される充電器の場合、充電利用するEVが基本的に1台だけなので、稼働率(時間)は低調になりがちですが、33.8時間/月という稼働実績時間、4カ月平均で4.6%という稼働率は、とても秀逸な実績です。
たとえば、自宅(戸建て)ガレージの200Vコンセントを利用している私の場合、充電を行うのはおおむね週に1回ほどで、1回に4〜5時間程度といったペースなので、月あたりの充電時間はせいぜい20時間ほど。月間の稼働率としては2%程度にしかなりません。
集合住宅で「使われる充電器」を増やす工夫
基礎充電用の充電器でありながら、ユアスタンドの充電器が高い稼働実績を挙げているのはなぜなのか。まず、ユアスタンドの充電サービスの特長として、以下のようなポイントがあります。
●おもに共用駐車スペースなどを活用して充電器を設置。
●予約可能なシステムで利便性の高いサービスを提供。
●充電料金は設置者(管理組合など)が設定。
ユアスタンドでは、来客用駐車場などの共用部に充電器を設置して、複数のEVユーザー(居住者)が充電器を利用できるようにする設置方法が中心です。その上で、専用アプリで予約ができる(施設によっては充電目的だけでなく来客や洗車のための予約も可能)など、利便性の高いサービスを提供しています。
ユアスタンドの広報ご担当者に「稼働率が高いのは共用部を有効活用するノウハウがあるからこそ?」と質問したところ、その通りであるとした上で「EV普及が見込めそうなマンションへの設置提案をしているため、充電器設置後にEV購入者が増える傾向が見られます」とのこと。
さらに「管理組合や管理会社向けに提案する際、共用部や専用区画、または充電器の種類など、対象マンションに一番合った提案をしていることも重要なのではないかと思います。つまり、全てのマンションの同じ提案をしているのではなく、1つ1つのマンションに一番適切な提案をさせていただいております」ということでした。
早くから集合住宅のEV充電サービスに取り組んできた同社ならではの、EVを知り、充電を知った上でのきめ細かな対応が、高稼働率に繋がっているといえるでしょう。
ちなみに、今回発表の中で「24時間利用できない充電器」がある旨の注釈がありますが、その具体例としては、充電器の所有者である管理組合の意向で「マンションの来客用駐車場や洗車場などの共用部に設置しているため、時間帯別で機能を分けたい(例えば昼間は洗車、夜間は充電)」や「高圧電気契約を締結しているマンションで、時間帯別で電気料金が異なる場合、安い時間帯のみ充電器を開放したい」といったニーズがあるためとのことです。
充電料金を設置者(管理組合)が決められるのもユニークなポイントで、電気料金とユアスタンドの手数料(売上の20%)などを差し引いて利益が出た場合には、管理組合など設置者の収益としてストックしていくことができる仕組みになっています。
EVユーザーにとっても基礎充電は安価にできるほうがよいのは当然で、充電サービス事業者、設置者、EVユーザーのすべてにとって納得感が高い合理的な仕組みではないかと思います。
ともあれ、充電インフラ拡充に努めるサービス事業者が稼働率を公表し、きちんと「使われる充電器」を増やしていこうとする流れは大歓迎。こうした発表が「当然」になることを期待しています。
取材・文/寄本 好則