既設マンションにはEV用普通充電器を無料で設置〜『Terra Charge』で充電事業に新規参入

インドで三輪EV販売シェアトップを獲得するEVベンチャー企業「Terra Motors」が、2022年4月からEV充電インフラ事業に新規参入。IoT制御する充電器やアプリを組み合わせた『Terra Charge』のサービスをスタートさせて、既設マンションには無料で普通充電器を設置することを発表しました。

既設マンションにはEV用普通充電器を無料で設置〜『Terra Charge』で充電事業に新規参入

スマートコンセントとアプリをセットで展開

Terra Motors(テラモーターズ)株式会社は、現在は会長を務める徳重徹氏が2010年に起業したEVベンチャーです。設立当初から世界に通用する日本発のベンチャーを標榜し、2014年にはインド法人を設立。現在では、インド国内に工場をもち、三輪EV(いわゆる「トゥクトゥク」や「オートリキシャ」と呼ばれる小型モビリティ)の販売シェアでトップを獲得するなど、インドや東南アジアにおける電動モビリティ普及へのチャレンジを続けています。

さらに、徳重氏は2016年にドローンによるサービスを提供するグループ会社として Terra Drone(テラドローン)を設立し、2021年には「空飛ぶクルマ」事業にも本格参入。先日、3月22日には「空から、世界を進化させる」をキャッチフレーズとして、総額80億円の資金調達が実現したことを発表したばかりでした。

2022年3月29日、東京都内で開かれた『Terra Charge(テラチャージ)』のサービス開始を発表する記者会見では、徳重会長自ら壇上に立ち、その内容や思いを説明しました。

テラチャージは、テラモーターズがローンチする電気自動車向け充電サービスの名称です。パナソニック製のEV用200Vコンセントを内蔵し、予約や利用料金決済のためのIoT制御システムを備えた「EVスマートコンセント」と、ユーザー用アプリと、マンションオーナーや管理組合などの管理者が利用するためのアプリを開発し、充電設備の設置から管理運営までをサポートするサービスとなっています。

EV用200Vコンセントを制御するスマートコンセントを開発。車載ケーブルを使って充電します。有料設置の場合も、スマートコンセントの価格は2万円以下程度に抑える計画ということでした。
ユーザー用アプリでは予約も可能。
充電中は液晶の色がブルーになります。

今回の発表のポイントは、なんといっても「既設マンションには初期コスト無料(テラモーターズが負担)で充電設備を設置する」という点です。初年度は数億円程度の予算を見込み、全国で1000棟程度のマンションへの設置を進める計画であることが示されました。日本でのEV本格普及に先駆けて、普通充電サービスの拡充とシェア獲得を狙う強気の戦略です。

マンションの駐車場に充電設備を設置するためには、コンセントや充電器などの機器だけでなく、配線などの電気工事に数十万円から場合によっては百万円単位の大きなコストが掛かります。EV用充電設備が「あったほうがいい」のはわかるけど、「誰が高額な初期費用を負担するの?」という問題が大きな壁となり、マンションへの充電設備普及が進まないという現実があることは、EVsmartブログ読者であれば先刻ご承知のことでしょう。ところが、「既設マンションには無料で設置する!」というのですから、インパクトは絶大です。

記者会見後に確認すると、オフィシャルサイトにテラチャージの説明ページが追加されていました。「無料相談」の申込(問い合わせ)フォームもあったので、興味のある方は問い合わせてみてください。

【関連サイト】
Terra Charge 事業説明ページ

「誰かがやらなきゃ進まない」からチャレンジを決断

EVシフトと充電インフラ事業へのビジョンを語る徳重氏。

この事業でテラモーターズの収益が生まれるのは「1時間150〜200円(1分2.5〜3.3円)程度」というEVユーザーの充電利用料金なので、工事費などの初期投資を回収するのはなかなか大変です。そもそも、EVスタートアップ企業であるテラモーターズが、新たに充電インフラ事業に参入するのはなぜなのか。

徳重氏はまず「EVシフトが中国や欧米を中心に進む中、日本が遅れをとっている」現状を説明。ことに、マンションなどの集合住宅や、宿泊施設、商業施設などにおける目的地充電のための普通充電インフラ普及が遅れていることが、日本でEV普及が進まない大きな原因になっていることを指摘しました。

ところが、普通充電インフラの設置には初期投資が必要であり、分譲マンションの管理組合の合意を形成することが難しいという現実があります。さらに、EVの台数がまだ少ない日本の現状では収益を見込めず、大きな企業が大規模な事業として意思決定をするのは困難であり、ベンチャー企業が手掛けるには先行投資の資金調達力という壁があることを指摘。

だからこそ、日本におけるEV普及に貢献するために「インパクトのあることをやりたい」という思いを出発点として、今までの実績による資金調達力を備え「クレイジーなチャレンジができるベンチャーとして、テラモーターズが(普通充電インフラ普及という事業を)やるべきだと決断した」と説明。「誰かがやらなきゃ進まない」から、リスクを取ってEV普及に貢献するという熱意を強調しました。充電ビジネスの見通しについては、欧米に頻繁に足を運ぶ中、ホテル駐車場などに充電設備やそれを利用するEVが増えていく様子を目の当たりにして「たった数年でこんなに変わるのか」と実感。日本でも必ずEVが普及して、充電サービスがビジネスとして求められる時代になると確信していることを示しました。

EVsmartブログでは繰り返しお伝えしているように、ユアスタンドユビ電(WeCharge)、さらにジゴワッツなどのベンチャーが普通充電インフラ普及に向けてそれぞれのチャレンジを続けています。

テラチャージで「既設マンションに無料で設置」するのは、以前、ソフトバンクがWi-Fiルーターを街頭で無料配布したのにも似た「力業」。こうしてメディアが取り上げる広告効果を見込んだことでしょう。新築マンションや宿泊施設などへの有料での設置も進めていく計画ということなので、先行する普通充電インフラ事業を展開する各社とともに、日本の普通充電インフラ拡充にパワーを発揮してくれることを期待します。

オンラインでも中継された記者会見は大盛況。注目度の高さを感じました。

無料であっても社会の「決意」は必要

テラモーターズ会長の徳重徹氏(写真中央)とともに登壇した、新規プロジェクトの責任者となる中川耕輔氏(左)、製品・サービスの説明を担当した髙橋成典氏(右)。

徳重さんやテラチャージに関わるみなさんの熱弁を聞きながら、少し気になったこともあります。それは、既設マンションに無料で設置するとはいえ、どこに、何台くらい設置するのかということです。

仮に、100区画の駐車場ある中で、すでにEVを保有しているユーザーが契約している1区画だけに設置しても、マンション全体としてのメリットやEV普及に結びつけるのは難しい。テラチャージとしても、1台だけの充電料金で工事費を回収するには、何十年も掛かってしまうだろうと思われます。

たとえば、来客用駐車場のような多くの人が利用しやすいパブリックスペースを設け、できれば3〜5台とか、複数台の充電設備を展開するのがベターだとは思うのですが、そのためには既設マンションのオーナーさんや管理組合側が、公的な空間をEVのために提供する決意を示すことが必要になります。

宿泊施設などに設置する場合でも、駐車場の区画を、まだしばらくは利用者が少ないであろう「EV用充電スペース」として確保する判断、あるいはエンジン車と上手に使い分けるアイデアが必要です。

既設マンションの状況はケースバイケース。無料であっても、いろんな条件やニーズを満たしながら普及を広げていくのはなかなかの難題。マンションオーナーや住民全体、つまり社会の側にEVシフトを受け入れる「決意」が必要ではないか、と感じるのです。

さらに指摘しておくと、予約も可能なアプリの利用者が広がるほどに、マンション住民や施設利用者以外のEVユーザーも充電できるようにするのか、その場合のオペレーションはどうするのか、といった課題も出てくることでしょう。充電インフラ利用のマナーなども含めて、このあたりの懸念を解決していくのも、社会の「決意」なんだろうな、と思っています。

徳重氏の説明によると、すでに従来の人脈やビジネス上での繋がりを活用して、目標とする「初年度、全国1000棟に無料設置」への手応えは掴んでいるそうです。利用料金などを含めた具体的&詳細なプランはこれから策定していくということでした。テラモーターズ、そして徳重氏の決断と心意気には、EVsmartブログとしても拍手を送りたいと思います。あとは、広く日本社会全体に「決意」と心意気が広がることを期待しています。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)1件

  1.  これはかなりインパクトのある情報です。築年数それなり、EV私だけ、のマンション住人にとっては起死回生のチャンスです!早速問合せ入れました。もっとも、戸数や駐車場キャパ、現状のEV台数を査定されると、我がマンションのプライオリティは低そうなんですが。
     競合他社も同じようなサービスに移行されることを期待しています。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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