※冒頭写真はYouTube ENEOS TVのサービス紹介動画から引用。
『ENEOS Charge Plus』の特長は?
2022年11月21日、全国に1万2000カ所以上のサービスステーション(以下、SS)ネットワークをもつENEOSが、電気自動車の経路充電サービスである『ENEOS Charge Plus』の提供開始を発表しました。
経路充電とは、ロングドライブの途中で駆動用バッテリーに充電する用途のことで、おもに急速充電器を利用します。ENEOSでは全国各地のSSだけでなく、カーディーラー、商業施設、コンビニなどにも積極的にENEOS Charge Plusの急速充電器設置を進めていくとしています。
【特設サイト】
ENEOS Charge Plus
月額基本料などは無料で利用時間によって課金
EVユーザーとして気になる最大のポイントは、入会金や月会費(月額基本料金)などは無料で会員登録できて、電子マネーやクレジットカードなど幅広い決済方法で利用できるところです。期間限定で充電会員カードの無料発行もできます(2023年3月現在)。
公共のEV用充電器のほとんどはe-Mobility Power(以下、eMP)のネットワークと提携しており、認証や課金をスムーズに行うためにはeMPが発行、もしくは提携する充電用カードが必要で、カードなしでビジター充電するのは激しく面倒な仕組みになっています。まず、ENEOS Charge Plusと料金システムの違いを整理しておきます。
ENEOS Charge Plus | e-Mobility Power 急速充電プラン | e-Mobility Power 急速・普通併用プラン | e-Mobility Power ビジター利用 |
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登録手数料(入会金) | 無料(※1) | 1,540円 | 1,540円 | --- |
月会費 | 無料 | 4,180円 | 4.620円 | --- |
都度利用料金 | 49.5円/分 | 16.5円/分 | 16.5円/分 | 55円/分 (最初の5分まで275円) |
解約手数料 | 無料 | 1,540円 | 1,540円 | --- |
(※1)会員カード発行無料はキャンペーン期間限定となる予定 |
EVやPHEVをなど外部から充電可能なプラグイン車を発売する自動車メーカー各社が発行するカードもすべてこのeMPカードと提携したもので、月会費や都度利用料金などは各社が自社ユーザー特典的に工夫しているので異なりますが、基本的にはeMPカードの料金をもとに設定されており、月会費が必要です。
実際にEVを所有すると、頻繁に長距離ドライブに出かける趣味などをもっている人でなければ、外出先で急速充電器を使う機会は意外と少なく、カードを所有しているだけで払わなくてはいけない月会費(しかも結構高い)は負担に感じがちです。入会金や月会費無料であることは、ENEOS Charge Plusの大きなアドバンテージといえます。
一方で、都度利用料金は49.5円/分と、eMPカードの16.5円/分のちょうど3倍。30分充電すると、eMPが495円に対して1485円と990円高くなります。差額がeMPカード「急速充電プラン」の月会費4180円を超えるのが128分(4191円)。141分で「急速・普通併用プラン」の4620円と同じになります。
つまり、おおまかに考えて「30分間の急速充電を月に4回以上行うことは少ない」という人なら、あえてeMPカード(提携のメーカー発行カードを含む)は所有せずにEVライフを過ごした方がお得になるという見方もできますね。
eMPカードでもそれぞれの都度料金で充電可能
ただし、前述のように経路充電で使う頻度が多いであろう高速道路SAPAの急速充電器は、eMPカードがないと激しく面倒なビジター認証が必要になってしまいます。ENEOS Charge Plusは、eMPカードに置き換わるサービスではないということは理解しておきましょう。
そして、ENEOS Charge Plusの決済方法には「チャージスルゾウロゴ、またはe-Mobility Power ロゴの入ったカード」が含まれています。「チャージスルゾウ」というのはeMP以前に日本国内の公共充電インフラ拡充を担っていた日本充電サービス(NCS)が採用していたロゴマークのことなので、これはつまりeMPカードと同じ意味。ENEOS Charge Plusの急速充電器をeMPカードで認証すると、それぞれ契約しているカードの都度利用料金で決済されます。
実は、私自身も取り急ぎENEOS Charge Plusの会員カードをGETしていたものの、まだENEOS Charge Plusの急速充電器を使ったことはありませんでした。4年前に中古で買った旧型リーフのユーザーなので、今年12月まで使えるZESP2会員でもあり。「ZESP2(eMP)カード」で充電すると、そっちの月会費を払っているクレジットカードの口座から「49.5円/分の都度料金が引き落とされる」のかと勘違いしていたのですが、今回の取材で確認して「それぞれ契約しているカードの都度利用料金で決済」されることを知りました。ENEOS Charge Plusの充電スポットが増えるのは、eMPカード会員、つまり日本国内のほとんどのEVユーザーにとって利用できる急速充電スポットが増えて、利便性が高まるということになります。
『ENEOS Charge Plus』が目指すのは?
今後、どんな場所に、どのくらいの、どんな急速充電器が設置されるのか。ENEOS本社を訪ね、執行役員でEV事業推進部長の靍能治(つる よしはる)さんにお話しを伺いました。
まず、ENEOS Charge Plusが設置する充電器の数は、今年度中に全国で170基が稼働、2025年度までに1000基以上とする計画です。2030年度までには「EV需要増加の進展にもよりますが、政府が目標としている3万基の3分の1程度、数千基から1万基をメドに設置していきます」ということでした。今設置を進めている急速充電器はニチコンと共同開発したもので、出力は最大50kWです。
現在、優先して設置を進めているのは「首都圏、名古屋圏、関西圏、そして福岡など、EVの保有台数が多く、集合住宅の比率が高い地域」とのこと。経路充電の充実というよりも、集合住宅などで充電設備設置が困難なEVユーザーが多いエリアで、基礎充電の利便を補完する役割を果たし、充電器の利用率を高め、EV普及を後押しする狙いであると理解しました。
ENEOSのSSだけではなく、カーディーラー、商業施設、コンビニなどにも設置を進めていく計画で、実際に私の自宅に近いフィアットのディーラー(500eのCHAdeMOアダプターが待ち遠しいところですけど)にもENEOS Charge Plusの急速充電器が設置されました。eMP提携なので、もちろん誰でも使える公共の充電器です。
サービスのビジネスモデルとしては「基本的にはEVユーザーの方に利用いただく分単位の充電料金」を想定しているのこと。ということは、eMPカードで決済するとENEOSにeMPから支払われる提携料(充電器の都度利用料金)は10.78円/分だけになるはず。EV普及と急速充電インフラ拡充を願うユーザーのひとりとして、ENEOS Charge Plusの充電器を利用するときは「たまにはZESP2認証ではなく49.5円/分で利用して応援したいな」とも思いつつ……。
高速道路SAPAのSSにも設置されるのか?
ENEOSはSS数が日本一です。全国の高速道路SAPAにあるSSの数も日本一。ENEOSがSSで急速充電サービスを始めると聞いて、とても気になったのが「高速道路SAPAのSSにも急速充電器を設置するのか」ということでした。
靍さんに質問してみましたが、残念ながら答えはノー。「高速道路のSSは意外と敷地が狭いこともあり、設置は困難というのが現状です」とのお答えでした。とはいえ「インターチェンジの周辺には条件のいい大型のSSが多いので、そうした場所に出力100kW以上の超急速充電器をネットワークしていきたいという構想はもっています」とのこと。
いわば、チャデモ版テスラスーパーチャージャーが実現するかも知れないということですね。『EV普及に向けた充電器整備について「再エネタスクフォース」で提言~ユーザー本位の改革を要望』という記事で紹介したように、EVsmartブログでは内閣府の再エネタスクフォースに「高速道路の全ICにおいて、無料で一時退出ができるようにする」提言をして、今、検討が始まっている、はずです。高速道路SAPAのほとんどに1基しか急速充電器が設置されていない現状が象徴するように、EVユーザーの視点で利便を考えた充電インフラの大きなプラン不在(不明確)だったのが日本の弱点だとも思うので、ぜひENEOS Charge Plusで理想的な経路充電ネットワークを構築して欲しいと期待します。
経路充電だけじゃないENEOSのEV事業
ENEOSのEVに関わる取り組みは、経路充電サービスだけではありません。靏さんの説明によると、2030年に向けたENEOSのEV事業は大きく分けて3つの柱で展開中です。
① 経路充電事業
SSや他社との協業によって、急速充電器を設置してサービスを提供。2022年6月にはNECから約4600基の普通充電器とEV充電サービスの事業譲渡契約を締結するなど、普通充電器のサービスも展開します。
② 基礎充電事業
実質再エネによる家庭向け充電メニューを充実化など。経路充電と基礎充電のセットメニューなども検討。
③ EVモビリティ事業
EVカーリース、EVカーシェアなど、多様なEVモビリティサービスを提供。
過去記事で紹介している小型EVカーシェアサービスや、電動バイクのバッテリーシェアリングサービスであるGachaco、さまざまな電動モビリティサービスを集約したENEOSマルチモビリティステーションなどは、ENEOSのこうした構想に基づくプロジェクトです。
EVが本当に脱炭素社会実現に貢献するためには、エンジン車をEVに置き換えるだけでは不十分。EVに供給される電力の発電方法やモビリティの使い方など、広く社会が変わっていく必要があります。机上のプランだけでは実際にどんなライフスタイルになるのかうまく想像できないところがありますが、こうしてENEOSが手掛ける「実例」取材を重ねていくと、「なるほどこういうことか」と合点がいくところが少なくありません。
ENEOS Charge PlusのSSでの充電はまだ試したことがないので、追って、レポートしたいと思います。
取材・文/寄本 好則
ゼスプ2のカードで認識されて、充電料金はゼスプ2なので定額でOKと言うことですか?
リクリンさま、ご質問の点、その通りです。
記事中にも書いたようにエネオスに気の毒なので、ある程度は定価で利用したいと思っています。w
続々と設置店舗が増えているみたいですね。
石油元売り会社ではコスモ石油や出光興産(アポロステーション)でも独自に設置を進めていますが、ENEOS(ChargePlus)では決済方法に特徴がありますね(nanacoやWAONの電子マネーやエネキーも利用可能)。
私の乗っている車は超高速充電に対応していないので50kWクラスでも有り難いのですが、車種やユーザーさんにとっては物足りなさを感じていることも正直なところかもしれません。
いろいろなアプローチがあって、切磋琢磨して充電の環境が良くなっていくとうれしいですね(利用者の知恵や工夫も…)。
充電中にタイヤ点検とかメンテナンス、なんてのも今後ありえそうです。
テスラ スーパーチャージャー v3がすでに最大250kwなのに、「出力は最大50kW」。
日本の周回遅れはどうしようもないですね。
まもなくテスラは280、300、350kWへの出力アップをするのに…
遠出が少ないのでもっぱらeMPのビジター利用をしています。
本文中で「激しく面倒な仕組み」と仰っていますが最近のスマホは一度入れたクレカ情報を次からは自動で入れてくれるようになったのでそれほど面倒ではなくなりました。
また、一度取得したパスワードは2日間、他の場所でも引き続き使えるので週末の旅行なら出掛けにパスワード取得すれば帰ってくるまで同じパスワードで行けます。
パスワードを覚えてしまえば財布からカードを出したりしなくて良いので意外と不便ではないですよ。
SSにはドライバーさん用にシャワー室を用意してくれているところやコンビニ併設のところがたくさんあります。
そういったところにも充電器は欲しいですね。
その前に仕事で使える距離が走れる軽バン/トラックEVが出てくることが肝心ですが。
急速充電の料金は時間課金が多いですが、充電器とクルマの性能(さらに気温)によって単位時間あたりに充電できる電気量は大きく異なるため、それも考慮して「電気量」と「時間」の両方で課金してくれると、不公平感がないように思います。
例えば、電気量7割+時間3割で課金するとか、30分までは電気量、30分以降は(居座り対策のため)時間課金にするとか、いろいろやり方があるのではないでしょうか。
また、高速道路の一時退出が拡大されれば、IC周辺に充電ステーションを設置したり、近隣のディーラーの充電器を利用したりして、充電キャパシティの拡大が図れ、走行再開まで3~4時間程度の枠を許容すれば、観光や食事など地元への経済効果も期待できるため、BEV推進に併せて実施すべき方策でしょう。
BEVが目的ではなく、カーボンニュートラル達成が目的なのですから、多少不便なBEVでもいろいろ工夫して、少しでも不便さを解消するように使っていく必要がありますね。