電気自動車(EV)の普及を促進するために
2019年8月27日、日本各地の電気自動車充電インフラ整備を進め、『チャージスルゾウ』と名付けた課金システムをユーザーに提供してきた合同会社日本充電サービスから、新たに設立される株式会社 e-Mobility Power への事業承継に向けて検討を進めていくことが発表されました。10月1日には、東京電力ホールディングス株式会社と中部電力株式会社が株式会社 e-Mobility Power を設立しました。
高速道路や道の駅など、日本全国どこまでも、電気自動車で自在に走れるようになったのは、NCSの果たしてきた役割のおかげであることは言うまでもありません。
とはいえ、これからますます電気自動車の車種が増えていく中で、高速道路SAPAなどにおける充電渋滞の頻発や、会員カードをもたずビジター充電する際の手続きが複雑で使いづらいことなど、電気自動車充電インフラを巡る課題は気になります。はたして、イーモビリティパワーでは、どんな充電環境を目指そうとしているのか。会社立ち上げ直後でご多忙の中、取締役会長の姉川尚史氏、代表取締役社長の四ツ柳尚子氏、取締役の岩堀啓治氏に時間をいただいてお話しを伺ってきました。
2021年上期の事業承継に向けて調整中
今回の取材には、EVsmartブログからも数人が出席、インタビューというよりもお三方と取材チームとの意見交換のような時間になったので、伺った発言内容を列記するのではなく、「ここ、大事!」というポイントをいくつか整理しながらまとめてみたいと思います。
イーモビリティパワー設立については、EVsmartブログでも『速報:日本の充電器ネットワーク最大手NCSが解消へ』(2019年8月29日)という記事としてお伝えしました。まず最初に指摘されたのが、この記事タイトルにある「解消」という言葉には誤解があるということでした。
2014年に設立されたNCSはもともとEV普及初期の充電インフラ整備とユーザーへの充電サービスを提供するために設立された時限的な組織で、一定の条件を満たした充電器に対して、8年間という期限付きで設置費用、維持費用、電気代などへの支援を行っています。
8年経ってNCSの支援がなくなり、せっかく整備された充電インフラ網が歯抜けになっていくのはよくありません。早いものでは2021年の下期にはこの「期限」が来てしまう充電設備が出てきます。イーモビリティパワーは、その受け皿となるべく関係各所と協議を進め、早めに会社を立ち上げて事業継承の準備を進めているのが現状であり、今まさに「調整中」ということです。
NCS加盟充電設備の多くは、平成24(2012)年度補正予算で計上された1005億円の補助金とNCSの支援を受けて設置されました。設置期限に定められたのが2014年12月末だったので、多くの充電設備が2022年までには8年間の「支援」が終了します。どういうタイミングで、どのようにイーモビリティパワーがNCSの事業を継承する(つまり、NCSが役目を終える)か、その時期や内容、方法が検討されているのです。
みんながハッピーになれる最大公約数を模索する
今回の取材前には、イーモビリティパワーとして構想している課金システムや、急速充電器の出力などを確認すべく、やや突っ込んだ質問事項を挙げてお知らせしてありました。でも、具体的な詳細については、これもまだ「検討中」です。
今までNCSが進めてきた経路充電設備(急速充電器)設置の状況や課金システムをベースにして、できるだけ多くのユーザーの意見を聞きながら、アイデアを持ち寄り、ユーザーを含めた様々な関係者が協力しながら、できるだけ多くの人がハッピーに電気自動車を活用できる仕組み作りに向けて前進したいと考えている段階です。
「様々なご意見をお持ちのユーザーがいることは理解しているが、EV・PHV普及のためには、仲間を減らしている場合ではない。苦労しながらファーストステップを進めた前走者には心からの敬意を払って、ユーザーのニーズにフィットした充電サービスを構築していきたい」(姉川氏)
「今後、EVやPHVの車種が増え、ユーザーの要望も多様になっていくでしょう。アンケートや座談会などの機会も設けて最大公約数を探しながら、よく注意して引き継いでいきたいと思っています」(四ツ柳氏)
ちなみに、お三方は全員がEVユーザーでもあります。イーモビリティパワーは、ただ大きな電力会社が手がける事業ではなく「電力会社の中で、とくにEV普及に情熱を燃やす人たちによって進めていくプロジェクト」であることを、姉川氏は強調されていました。
今後、EVsmartブログでもユーザーの要望を集約する企画などで「みんながハッピーになれる充電インフラ&サービスの構築」に、少しでも協力していきたく思います。
バス会社や一般企業のEV導入を支援
イーモビリティパワーでは、事業の柱として次の3つの項目を挙げています。
1. Every Drivers
すべてのドライバーが、いつでも、どこでも、ストレスなく利用できる公共充電ステーションの拡充を進め、経路充電、目的地充電などユーザーの滞在時間やニーズにフィットした充電サービスを提供していく。
2. Businesses/Fleets
バスのターミナルへの充電サービスを提供、また企業の業務用車両駐車場などへの適切な充電設備設置の相談のほか、電気自動車導入の初期コスト負担を軽減するスキームを提案するなど、交通機関や企業の電気自動車導入を支援する。
3. Home
住宅(戸建て、集合住宅ともに)への充電設備設置や、V2H機器の設置などをサポート。自宅でも外出先でも、スムーズに充電サービスを利用できる仕組みを提供する。
EV普及はまだ黎明期。ESG投資の気運もあって、企業などのEVへの関心は高まりつつありますが、いざ導入しようとすると様々な障壁があるのが現実です。イーモビリティパワーでは、その障壁を少しでも取り除くための取り組みをすでに始めているということです。
いずれにしても、イーモビリティパワーの使命である持続可能な公共充電インフラ&サービスの拡充が、今後の日本における電気自動車普及にとってとても大切であることは間違いありません。われわれ、先走ったEVユーザーとしても、冷静に「みんながハッピーになれる最大公約数」を考えて、イーモビリティパワーにお伝えする機会があるといいな、と思います。
【関連リンク】
株式会社e-Mobility Power ウェブサイト
(取材・文/寄本 好則)
充電インフラの整備が本当に遅い
せめて普通充電器だけでももっと整備すればいいのに
e-Mobility Powerの事業一覧ページ、普通充電のkW表記が最大7.2kW表記になっていたり急速充電も最大150kW表記になっていたりするのが気になっています。
https://www.e-mobipower.co.jp/service/
イオン等に設置されているNEC製の普通充電器が6kW出力対応であるのにNCSで普通充電が3kWで定義されているがため3kWに制限されて運用されている件が解消するのであれば、これは大きいのかなと。
既存の3kWでは12時間充電しても50kW充電器で約45分急速充電した程度の充電量にしかならないこともあり、目的地充電は最低でも6kWはほしいところです。イオンなんかでも3時間充電できれば(実際はロス等あるでしょうし計算通りにはならないでしょうが)18kWhチャージできる計算。そのくらい溜まればちょっと遠くに買い物に出かける、なんてシーンでも必要充分なのかな、と感じます。
最大公約数ですか。できれば積極的に最小公倍数を目指していただけるとありがたい。
というのは冗談です。
役員お三方がEVユーザーだという点に好感が持てました。
どれだけお持ちのEV車両を利用しているかにもよりますが、現状の経路充電・目的地充電の課題を分かっていらっしゃるという事になりますので、安心して企画をお任せできそうですね。