注目のEVで長距離実走【復路編】日本海ルートで感じた経路充電インフラへの要望は?

注目の電気自動車で東京から郷里の兵庫に帰省する長距離実走レポート。今年はBYD『SEAL』AWDで走りました。150kW器の15分充電で完走した往路と同じじゃつまらないので、あえて日本海まわりで東京へ。北陸道唯一の90kW器で想定外の状況に遭遇してしまいました。高速道路SAPAの経路充電インフラへの期待をこめてレポートします。

注目のEVで長距離実走【復路編】日本海ルートで感じた経路充電インフラへの要望は?

※冒頭写真は、私が通った小学校の跡地にて。旧町内の5つの小学校は統合されて中学校があった場所で「関宮学園」(小中合わせて児童生徒数は200名足らず)となり、小学校跡地は公園になっています。なんというか、過疎と少子化(高齢化?)を実感……。

北陸道の90kW器は呉羽PAの1カ所だけ

往路(関連記事)では、湾岸長島PAの最大150kW器で15分ほどの充電1回で「東京→神戸」を完走した今年の「東京=兵庫」長距離実走レポート。BYD SEAL のグランドツアラー性能を実感できました。

SEALをはじめとする市販EVの航続距離性能向上とともに、高速道路SAPAの経路充電インフラが充実してきたこともEVユーザーとして喜ばしい進歩です。

さて、今年の復路はどうしよう? と考えて思い付いたのが、北陸自動車道を経由して日本海まわりで東京へ戻るルートを走ることでした。

世田谷区の自宅から兵庫県北部の実家まで、新東名〜新名神などを経由する太平洋側のルートでは約620km。北近畿豊岡自動車道〜舞鶴若狭自動車道〜北陸自動車道〜上信越自動車道〜関越自動車道を経由する日本海まわりのルートは、約790kmと150km以上遠回りで、Googleマップの予想所要時間も2時間ちょっと増えますが、いつもと違う道を走るのも一興です。

さらに、こっちのルートで走ってみようと思った理由のひとつが、ルートの中心となる北陸自動車道のSAPAで、最大出力90kW以上の急速充電器が設置されているのが富山県の呉羽PAしかなかったこと。EVsmartの地図検索で、高速道路の90kW以上のスポットを確認すると、経路充電インフラの格差が一目瞭然です。

東京=兵庫間_高速道路SAPAの90kW以上の充電スポット

東名〜新東名〜伊勢湾岸〜新名神と続くルート上には90kW以上の高出力複数口設置のSAPAがずらりと並んでいます。さらに、150kW器も駿河湾沼津、浜松、湾岸長島と、いい感じの距離感で設置されています。

実家から北陸道呉羽PA(下り線)までの距離は約370km。バッテリー容量82.56kWhの BYD SEAL AWD ですから、自宅の200Vコンセントで満充電にして出発すれば問題なく届く距離。あとは、上信越道の東部湯の丸SA(呉羽から約240km)か、横川SA(約290km)の90kW器でもう一回充電して、そのまま東京まで帰着する作戦です。

念のために補足しておくと、日本海ルートの高速道路SAPAに急速充電器が設置されていないわけではありません。フィルタリングを「40kW以上」に広げて検索すると、こんな感じになります。

東京=兵庫間_高速道路SAPAの40kW以上の充電スポット

とはいえ、一充電航続距離が400〜500kmほどもあるEVで長距離を走る場合、同じ30分充電するのならできるだけ高出力でと考えるのが人情ですよね。こまめな休憩を兼ねつつ注ぎ足していくのもアリですが、このルート上の40〜50kW器は1基1口だけのスポットばかり。お盆時期だし、充電待ちのリスクを考えると高出力複数口のスポットを選びたくなります。

呉羽PAの90kW器が謎の「50kW制限」になっていた

さて、実走した充電結果です。実家を出発したのは午前11時ごろ。しっかり満充電からのスタートでした。

呉羽PA。

① 北陸自動車道 呉羽PA(下り線)
到着時間/15:33
到着時SOC/21%
1回目充電時間/30分
1回目充電終了時SOC/49%(航続可能距離表示261km)
2回目充電時間/約20分
2回目充電終了時SOC/67%(航続可能距離表示362km)

② 上信越自動車道 東部湯の丸SA(上り線)
到着時間/19:20
到着時SOC/11%
充電時間/約15分+約15分
出発時SOC/58%(航続可能距離表示327km)

2回とも、ややこしい充電してて恐縮です。説明が必要ですね。

まず、呉羽PAでの1回目の充電。到着して充電スタートしようとすると、充電器の液晶画面に「出力可能電力 50kW」と表示されていました。設置されている充電器は、ニチコン製のいわゆる100kW器。1基2口になっていて、1台だけの充電時は最大90kW、2台同時充電時は「最大50kW×2口」になる機種、のはずです。

充電器の仕様ラベルを確認しても、1口最大90kWで間違いありません。

この日(8/14)も気温は30℃以上で暑かったから「熱のせい?」と思いつつ。理由を知りたくて充電器に表示されていたお客様相談センターに電話して問い合わせたものの、返答は「90kWのはず」というばかりで、50kW制限の理由は謎でした。

悩んでいても仕方ないので、レストランで遅め昼食を食べつつ30分。さらに、90kW器相当の充電量となるように、20分のおかわり充電を行いました。

日本海側ルートにも高出力複数口のスポットを!

というわけで、今回復路で感じた高速道路経路充電インフラへの期待、ひとつ目は「すべての高速道路網で適切な高出力器複数口スポット拡充を!」ということです。

たとえば北陸道であれば、尼御前SA(石川県)、有磯海SA(富山県)、名立谷浜SA(新潟県)などに、青いマルチが4口とか設置されていれば、ロングドライブ時の充電場所の選択肢が増えて、EV旅の機動力が格段に向上します。

これは、北陸道に限ったことではなく、全国各地の高速道路網全体にいえること。もっとも、e-Mobility Power(eMP)が2023年度末で640口だった高速道路SAPAの急速充電器の設置口数を、2025年度末までに約1100(1073)口まで拡大すると発表しているのは既報(関連記事)の通りだし、今後に期待! ということですね。

とはいえ、最大90kWと公表している充電スポットが、到着してみたら「50kW制限」というのはいけません。取り立てて個別のレポートにするつもりはありませんが、eMPや呉羽PAを管轄するNEXCO中日本には、原因の把握と対策をお願いしたいところです。

ブーストモードは、やっぱり不要ではないか?

ややこしい充電&インフラへの要望、ふたつ目は「90kW器のブーストモードは不要じゃないの?」という点です。今回、東部湯の丸の90kW2口基(×2基設置)では、ブーストモードが作動して出力が落ちる15分で一度充電を止めて、口を変えて再度15分間充電しました。

東部湯の丸PA。15分経過後、新電元側のもう1口に移動してさらに15分充電しました。区画も前面スペースも広くて、移動はラクラクでした。

SEALの場合、90kW(200A)でほぼ30分間充電する性能があるのに、充電器側の制限が発動すると50kW(125A)に出力が落ちてしまうからです。

90kW用のケーブルは50kW用に比べて太くて重いという欠点はありますが、ユーザーとしては途中で出力が落ちるよりはマシ。ビジター充電であれば高出力の料金を払う(今回は充電カード利用したけど)わけだし、わざわざ50kW用のケーブルにすることで、ユーザーにどんなメリットがあるのかわかりません。eMPさんには、ぜひ今後の改善ポイントとして検討してほしいとお願いしておきます。

最後は三芳PAで調整充電も

というわけで、日本海遠回りルートは経路充電2回で東京帰着、が可能ではあったのですが。

翌日からの台風襲来の予報があって、私が東京に戻ったこのSEALで、著者陣の烏山さんがそのまま「東名300km電費検証」の取材を行うことになり……。駿河湾沼津SAで、SOCが減った状態から急速充電のレポートもしたいというリクエストがありました。

トイレ休憩で立ち寄った三芳PAで、SOCは32%。このまま自宅まで走るとおそらく25〜27%くらいでしょう。そこから駿河湾沼津へ行くのは、さすがにギリギリの距離になります。

③ 関越自動車道 三芳PA(上り線)
到着時間/21:50
到着時SOC/32%
充電時間/約7分
出発時SOC/42%(航続可能距離表示236km)

残量SOCが35%くらいでSEALを引き継げば、駿河湾沼津にはSOC10%台で到着して、適度な空腹状態からの高出力充電が検証できるはずと予測して。トイレついでの三芳で42%まで充電しておくことにしました。

結果、世田谷区若林の自宅近くで烏山さんにSEALを渡した時のSOCは36%。駿河湾沼津には予測通り10%台で到着できたとのことでした。

こういうエネルギーマネジメントも、EVの楽しいところですよね。烏山さんの電費検証レポートは、後日お届けする予定です。お楽しみに。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)6件

  1. バッテリー容量82.56kWhの BYD SEAL AWDも、バッテリーが空になれば後は急速充電器の給電性能頼みです。高出力の経路充電インフラがきちんと整備されないと、大容量バッテリーを積んだEVは宝の持ち腐れになってしまいます。現状の国内の充電インフラ状況(〜50kW程度)を考えると、もう少しバッテリー容量を減らした(〜45kWh程度の)、安価なEVを普及させて行った方が良いかもしれないと考えていますが、いかがでしょうか?

  2. BYD独自の充電器設置とか無いのかなぁ〜

    車は売るだけ売って他国の充電網だけ宛にしててなんだかなぁ~

    せめてBYD本体の責任で販売店への設置くらい投資しないと、なおさら台数売れなさそうですね〜

    1. 対して使われもしないBYDのディーラーに充電器設置しても、日本の大切な税金からなる補助金を無駄に使うだけなので、むしろ設置しないでください。
      完全自腹で充電網構築してくれるのなら、どうぞご自由にですが。

  3. 直接の関係は無いのですが、
    中国道の充電器の無さ
    問題にして下さい。

    1. 中国道は通行量が少な過ぎませんか?
      店舗一式撤退したSAには急速充電器と自販機だけですが、
      松江や鳥取に行く度に対向車もなかなか出会えないんですよね、

    2. 軽貨物 さま、oyabun さま、コメントありがとうございます。

      中国道の交通量。たしかに悩ましいところですね。
      とはいえ、以前eMPの高速増強計画をまとめた記事で、2025年までに整備が予定されている90kW複数口のスポットをプロットしたGoogleマップであるように、中国道でも増強は計画されています。

      https://www.google.com/maps/d/u/0/edit?mid=1jzeIl16JD7rtkwtV7a2qs-2QcW_Edso&ll=36.83453183367864%2C135.72989035000003&z=6

      eMPに期待するとともに、日本でのEV普及加速を願っています。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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