待望の『FIAT 500e』用急速充電アダプターが登場〜ロングドライブで使ってみました

個性的な顔立ちと、EVにしてはコンパクトなサイズが特徴的なフィアットの電気自動車『500e』に、待望の急速充電用アダプターが登場しました。すでにユーザーへの配布も始まっているようです。EVsmartブログでも早速、急速充電用アダプターの使い心地を試してみました。

待望の『FIAT 500e』用急速充電アダプターが登場〜ロングドライブで使ってみました

日本の道路事情にぴったりの『FIAT 500e』

ステランティス・グループに属するフィアットの『FIAT 500e』は、1年前の2022年4月に日本市場に投入された小型の電気自動車(EV)です。最大の特徴は、やっぱり車のサイズ感ではないでしょうか。

多くのEVが、バッテリーを搭載するスペースを確保するために幅が広がって3ナンバーになっている中、『500e』は1685mm幅で5ナンバーの枠に収まっています。なにより、小型の車体は日本のごちゃごちゃした道でも取り回し良く走ることができます。

その分バッテリー容量は42kWhと、ラグジュアリークラスのSUVが軒並み70kWh以上の大容量を搭載しているのに比べるとこぶりですが、車重が約1300kgと軽いので軽快な乗り味を楽しむことができます。

軽量のメリットは電費の良さにも現れているようです。EVsmartブログでも、東京~箱根の往復で7.9km/kWhの電費を記録したことを紹介したことがあります。

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1年遅れでユーザーに届いた急速充電用アダプター

すでに納車済みのオーナーさんたちが、この日をどんなに待ち望んでいたことか。オーナーのみなさん、おめでとうございます。

でも、大きな問題がひとつありました。急速充電に対応していなかったことです。『500e』は、充電口が北米仕様のCCS1という規格のまま日本に入ってきたため、そのままでは日本標準のCHAdeMO(チャデモ)規格の急速充電器では使えないのです。

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このため、ステランティス・ジャパンでは『500e』の発売に合わせて、CCS1からCHAdeMOに変換するアダプターをユーザーに提供する予定でした。発売前の試乗会でも、ステランティス・ジャパンの担当者は、問題なくアダプターで急速充電ができると自信満々でした。

ところがフタと開けてみると、数々の不具合があることが発覚。その後も修正に時間がかかり、1年後の2023年4月にようやく配布が始まったのでした。『500e』のユーザーからすると、待ちに待った一品になりそうです。

では、このアダプターはどんな性能なのでしょう。ちょうどEVsmartブログでは。東京~大間間約850kmを小容量バッテリーのEVで走破する『東京~大間崎チキチキ競争』企画を計画していたので、ステランティス・ジャパンに『500e』をお借りして、提供が始まったばかりのアダプターの使い心地を体験してみることにしたのでした。

アダプターはコードレス掃除機並の大きさ

4月某日、ステランティス・ジャパンに『500e』を拝借に行き、その場でトランクルームに鎮座した変換アダプターを見せてもらいました。

一目見て、筆者はひと言、「やっぱり掃除機みたいですね」と言ってしまいました。そうなんです。とにかく、大きいのです。

実はEVsmartブログでは以前、プロトタイプのアダプターを使ったことがあったのですが、今回のアダプターもデザインは1年前と同じものでした。大きさといい、形といい、よく見るコードレス掃除機という形容がぴったりきます。
(編集部注/要確認ですが、以前試したプロトタイプより、数センチ程度短くなっているかも知れません)

でも今回は、プロトタイプと違って、ちょっとスマートなケースに入っていました。あまりに大きいので少しはみ出してしまうのですが、掃除機がそのままトランクに入っているよりはいい感じです。

まあ、形はともかく、ちゃんと使えるのなら問題ありません。ステランティス・ジャパンの方も、今度は大丈夫と太鼓判を押してくれました。ただ、『500e』の長距離試乗は「今回が初めてなんです」と広報の方に言われたので、筆者は少しドキドキしていました。

ということで、さっそく高速道路上の急速充電器で使ってみました。

慣れればそれほど苦にならない

『東京~大間崎チキチキ競争』の詳細は後日にリポートする予定なので、ここではアダプターのことを紹介します。テストしたのは、東北自動車道のSAPAに設置された急速充電器などです。

最初の充電は、東北自動車道の上河内PA(栃木県)でした。

所定の駐車スペースに車を止めて、トランクルームからアダプターを「引っ張り」出します。大きいし、決して軽くはないのでそんな表現になってしまいます。重量は測定していませんが、コネクターに差し込む時などは両手で持つ必要があるくらいの重さです。女性だと少し大変かもしれません。

ところで、試行錯誤の末にわかった、比較的ラクな接続の手順はこんな感じです。

まず最初にアダプターを車の充電口に差し込んでおきます。そうすると、充電口からブラーンとぶら下がる感じになって、なんとなくコネクターとケーブルの接続部の耐久性が気になるのですが、見て見ぬふりをします。先に急速充電器のコネクターをアダプターに差し込もうとすると、両方とも巨大だし重たいしで筆者には無理だったので、この方法が一番です。

次に、急速充電器のコネクターを、アダプターに差し込みます。この時、アダプター側の差込口の向きは、一般的なEVに備わっている充電口の上下方向と同じになるので、差し込みやすいです。急速充電器のコネクターの取っ手を普通に持てば、向きの判別を気にすることなく差し込むことができます。

両者を接続すると、急速充電器のコネクターが地面にぎりぎり接触しないくらいまで垂れ下がります。ケーブルでコネクター部を支えているような感じです。雨が降っていたらちょっとたいへんかもなあと思いました。

でもこの作業、何度も繰り返していたら、それほど気にならなくなってきました。アダプターも軽くはないのですが、取っ手は意外に持ちやすいし、車側に差し込む時も少し体重をかけるコツをつかむと、わりとすんなり入ります。

急速充電器のコネクターをアダプターに接続するのも、慣れとコツで苦にならなくなりました。2日で10回ほどこの作業をしていたら、まあいっか、と思うようになってきたのでした。まあこれは個人の感想ですし、アダプターがないのならそれにこしたことはありません。

問題なく使えることの嬉しさったら

アダプターを取り付けて、さっそく充電です。上河内PAは東光高岳の40kW機です。ちょっとドキドキしながら認証器のスイッチを押しました。充電開始時のSOC(バッテリー残量率)は45%です。

ボン、という音に続けて電圧と電流値が上がるのを見ていました。出てきた数値は、出力電圧385V前後、出力電流は86Aで、充電出力は約33kWになっていました。微妙に出力が低いのは気になりましたが、30分で約15kWhは確保できます。

『500e』の電費は、上りが続く道のりもあって7.3km/kWh程度になっていたので、距離にすると110kmといったところでしょうか。それでも、まずはきちんと使えたのでホッと一安心でした。

その後、宮城県の鶴巣PAでは初の50kW機で充電をしてみました。充電開始時のSOCは37%です。

ここでは、充電が始まった時の出力電圧は351V、出力電流は110A、充電出力は38.6kWになりました。そのあとは目を離してしまったのですが、終了時の充電電力量は20.1kWhだったので、平均すると充電出力が40kWは出ていた計算になります。バッテリー容量が42kWhなので、まずまずの出力だと思います。

その後、日産の販売店で、やはり東光高岳の新しい50kW機で充電をする機会もありましたが、充電出力はやはり40kWでした。

ちなみにアダプターの仕様は、最大で「500V、125A」と表示されています。単純計算で「500V×125A=最大62.5kW」ですが、現状では、50kWの急速充電器で110A(おおむね40kW)程度が車両側の受け入れ上限になっているようです。同じように定格125Aのアダプターでチャデモに対応しているテスラの場合、50kW器での上限電流125Aが流れますが、『500e』のバッテリー容量を考えると40kWでもまずまずの性能だと思います。それに、なんといっても充電できないのとは別世界なのであります。

なお充電出力は、SOC80%までは40kWが出ますが、80%を超えると電流値が90Aくらいまで下がって30kW程度に下がりました。

さらに続けると、85%になったところで出力電流が30Aくらいまで落ちます。出力10kWくらいでしょうか。今回、高速道路上では85%を上限に充電をしていたので、その後の出力の変化は確認できていません。

ただ、自宅近くで満充電まで続けてみたところ、電流/電圧が出ない充電器だったのですが、85%から100%になるまでの予測時間が40分程度の表示になっていたので、継続して10kWくらいの受け入れになっているのかもしれません。

ちなみに『500e』の普通充電の受け入れ可能出力は、ヨーロッパでのCCS2規格の場合で普通充電は11kW、急速充電は85kWです。CCS1規格の北米は2024年発売予定なので、仕様はまだ公表されていません。

CCS1側のプラグ形状。

東光高岳以外のメーカーとの相性は未確認

そんなわけで、今回の東北エリアでは、アダプターは「問題なく使えた」のでした。ほんとになんの問題もなく、連続走行後でもきちんと一定の出力が出ていました。温度上昇で出力制限がかかるといったこともありません。

充電出力(EV側での受け入れ電力)は気温の影響もあるので、真夏に使うとどうかは断定できませんが、気温20度以下での連続走行では、車載バッテリーの温度制御もきちんとできていたように感じました。

ただ、まだ確認できていない急速充電器はあります。

まず、eMP(e-Mobility Power)が新たに設置を進めている、ニチコンのマルチディスペンサータイプはまだ試していません。

実は、今回の試乗前にSNSを見ていたところ、『500e』をマルチディスペンサータイプで充電したところ出力が11kW程度しか出なかったという投稿があったため、長距離移動の中で使うのを避けました。

マルチディスペンサータイプは相性が良くないEVがあるので要注意です。eMPのHPに掲載されている不具合が出る車種を見ると、2023年4月19日時点で、三菱の『i-MiEV』『MINICAB-MiEV』、アウディ『Q4 e-tron』『Q8 e-tron』のほか、テスラ、シトロエン、プジョー、DSオートモビルの全車種が非対応で20kWという最小出力でしか充電できない状態になっています。

このほか最大出力90kWのABBの充電器も不具合が少なくないので気になるところです。これらの点は改めてテストしてみたいと思います。

もっともeMPの不具合情報を見ると、不具合が発生した記録のあるEVが大量にリストアップされているので、いったいなにがどうなっているんだろうという疑問は浮かびます。充電器の問題なのか、車の問題なのか、CHAdeMO規格そのものの問題なのか。原因解明が待たれます。

とにもかくにも、『500e』のアダプター問題は一歩前進したのではないでしょうか。また、こうしたアダプターでチャデモ対応ができるのであれば、日本に入ってくる輸入車の数も増えるかもしれません。

何しろ日本は世界の中でも極端に輸入車の数が少ない市場です。それに加えてEVの数はさらに少なく、おまけにチャデモという特殊な規格が標準になっているので、海外メーカーが対応するには時間もコストもかかるのが実情です。

そんな状態なので、もしアダプターで対応できるなら、それにこしたことはないように思うのです。もちろん、不具合がないのが前提です。あとは、もう少しアダプターが小さくなれば言うことありません。

実際に『500e』で急速充電しながらロングドライブする楽しさを体感して、ますますアダプターの脱コードレス掃除機を期待したいと願う思いが膨らんだのでした。

取材・文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)8件

  1. ついにチャデモアダプターが出たんですね。
    あとはeMPでのテスト……都内各所にあるようですから、ここはオーナーさんの人柱ではなく、ステランティスの広報さんにテストしていただきたいところですが……

  2. ここまで充電器の相性問題が出てるのがChadeMOだけなのか他の規格でも起こっているの気になりますね。
    相性問題の一つはChadeMOが古くからある規格で機能拡張のためにバージョンアップを繰り返したのも一因だとは思いますが実際どうなんでしょうね?

  3. 現行500eユーザーさんにとって、CHAdeMOアダプターは待ちに待った感じかもしれません。
    アダプターの大きさや重さについては慣れることとともに、ユーザー間での「こうやったら使いやすい」情報が共有できるといいですね。

    精密機器ですのでコネクター含め、落下にお気を付けください。
    不具合については早く解消されるといいですね。

  4. 先程も以前の記事に書き込みさせていただきましたが、7kW以上の普通充電で、充電システムのエラーメッセージ出た方はみえないですか?一度エラーが出ると自然にエラーが消えるまで充電出来なくなるので困っております。

  5. アダプターの重量を計りましたが4.3kgでした。
    ディーラーでアダプターを受け取るときに使用禁止の充電器のがある旨の案内がありました。
    急速充電ができない充電器
    ・ハセテック QC型
    ・新電元 SDQC/FSQCシリーズ

  6. 500e乗りです。色々テストありがとうございます😊 また、急速充電器の相性情報よろしくお願いします。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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