パワーエックスが法人向けプラン提供開始/アストラゼネカとの連携で使いやすい料金プランを構築

パワーエックスが、「Hypercharger」を利用した法人向けの超急速充電料金設定『PowerX EV充電法人プラン』を発表しました。すでに大規模にEV導入をしている製薬会社のアストラゼネカと連携しフリートユーザーが使いやすい条件を創出。今後は充電器の設置についても協力していく計画です。

パワーエックスが法人向けプラン提供開始/アストラゼネカとの連携で使いやすい料金プランを構築

営業効率向上を狙った法人プランを設定

2025年1月23日、定置型の大容量蓄電池の製造、設置および電力販売を手掛けるパワーエックス(PowerX)は、電気自動車(EV)の導入を進めている法人向けの新たな料金設定『PowerX EV 充電法人プラン』(以下、法人プラン)の提供を開始したことを発表しました。

パワーエックスの伊藤CEO(左)と、アストラゼネカの吉越CFO(右)。

パワーエックスはこれまで、自社開発した最大出力150kWの蓄電池型超急速充電器、「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」のネットワークを展開し、B2CのEV用充電サービスを提供してきました。今回の法人プランにより、企業による電気自動車(EV)導入をより進めやすくすると同時に、充電ビジネスの拡大を狙います。

法人プランの大きな特徴は、基本料金が不要の完全従量課金になっていること、3日前から事前予約が可能なこと、1回の利用枠が75分と長いことです。

パワーエックスでは個人向けに、有料会員向けの『PowerX First(パワーエックス・ファースト)』と、会員登録が不要の一般利用の2種類の料金体系で充電サービスを提供してきました。ファーストは2024年10月にスタートした新サービスです。従来の料金体系と、今回新たに加わった法人プランを比べると、法人プランは従来の2種類のサービスをミックスしたような印象です。営業用にいいとこ取りをした感じでしょうか。

パワーエックスの伊藤正裕CEOは法人プランの見通しについて、「カードの年会費や固定費で数十万かかるようなプランもある中で、法人プランは非常に使い勝手が良いと考えている。この1年間で、大口のお客様10社程度と契約し、しっかりと使っていただくことを目指す」と述べました。

法人プランを利用するのは、社用車の営業車両、タクシーやハイヤー、レンタカー、カーシェアなどを想定しているそうです。

●PowerX EV充電法人プランの料金体系

PowerX EV 充電法人プランPowerX First一般利用
会費なし月額900円(年払いの場合)
※月払いは月額1,050円
なし
充電料金(税込)Economy
(系統電力)
65円/kWhEconomy
(系統電力)
45円/kWhEconomy
(系統電力)
65円/kWh
Regular
(純再エネ70%)
70円/kWhRegular
(純再エネ70%)
50円/kWhRegular
(純再エネ70%)
70円/kWh
Premium
(純再エネ100%)
75円/kWhPremium
(純再エネ100%)
55円/kWhPremium
(純再エネ100%)
75円/kWh
予約3日前から予約可能3日前から予約可能不可(30分前から取り置き可能)
利用枠最大75分最大75分最大30分

【関連記事】
高出力EV急速充電に月額900円で45円/kWh〜の新サービス「PowerX First」発表(2024年10月17日)

再エネ100%利用で75円/kWh

法人プランの中身をもう少し詳しく見ていきます。まず大きな特徴は、基本料金が無料になっていることでしょう。車両台数が多い法人契約だと、全車稼働を前提に会員に加入すると毎月の固定費だけでかなりの金額になってしまいます。だからといって会員にならないと、充電料金が跳ね上がります。そんなジレンマを解決するのが、パワーエックスの法人プランだといえます。

料金体系は、パワーエックスの従来の個人向け一般利用と同じで、系統電力からの充電が1kWhあたり65円、同じく再エネ70%利用が70円、再エネ100%利用が75円です。

完全従量課金なのはメリットが大きいですね。他社の充電サービスは基本的に時間単位の課金なので、EV側の充電受け入れ性能やその時々のSOC(バッテリー残量の割合)や気温など条件の違いによって入る電力量が違ってくるため、大きな不公平が生じてしまいます。この不公平感を解消できることに加えて、コストの透明性を確保できるのは、法人にとっては大きなプラスではないでしょうか。

このほかのパワーエックスの一般利用との大きな違いは、3日前から予約ができることと、利用枠が最大75分に拡大されていることです。予約と利用枠は、月額1050円(年払いだと月額900円)のパワーエックス・ファーストの会員と同じサービスになっています。

この料金体系は、EV導入で大きな実績のある製薬会社のアストラゼネカとの連携によって生まれました。

アストラゼネカとの連携の意義を説明するパワーエックスEVチャージステーション事業部長の森居紘平氏。

営業車の7割、1400台をEVに転換したアストラゼネカ

パワーエックスの新サービス、法人プランの発表会ではアストラゼネカの吉越悦史執行役員・CFO(最高財務責任者)も登壇して自社の取り組みを紹介しました。またパワーエックスの伊藤正裕CEO(最高経営責任者)は、アストラゼネカとの連携によって法人プランが生まれたと述べていました。

以前の記事「Climate Group がEV普及に向けたフォーラム開催/多彩な企業が意欲的な取組を実践中(2024年11月21日)」の中でお伝えしましたが、アストラゼネカは全体の約7割、約1400台という大量のEVを営業車としてすでに導入しています。

EV100%への取り組みを説明するアストラゼネカの吉越CFO。

配送車など短距離のルートを回るための営業車に軽EVを導入している例は、日本郵便などがありますが、アストラゼネカが使っているのはおもに日産『リーフ』です。1400台という数の乗用EVを導入したという発表には、正直、耳を疑ったほどでした。

アストラゼネカは、気候変動対策のため脱炭素を単なるCSRにとどめず、事業計画の重要課題に掲げ、計画実現の手段のひとつとして、営業車を「すべて」EVにする計画を進めています。

EV導入にあたってはさまざまな苦労があり、今も継続中の課題も残っています。特に寒冷地へのEV導入は問題です。このあたりの事情については、冬の札幌まで飛んで行ってアストラゼネカの現場の営業マンにも話を聞いてきたので、後日レポート予定です。

EVの使用データはとても貴重

さて、1400台のEVを日々使っているということは、それだけの利用データが蓄積されているということです。いつ、どのように使い、どこをどのくらい走り、どこでどのくらい充電しているのか、充電時間はどうなっているのかなどの情報を、個々のEVごとに集められるわけです。

これらの情報は充電器の設置場所選定に大きな意味を持ちます。また充電時間や課金の方法に関しても、利用者がもっとも使いやすい枠組み、つまり仕事で使う上で最大限に効率を上げるサービス方法の創造に大いに役立ちます。充電インフラ事業者にはとても貴重な情報が満載です。

パワーエックスの伊藤CEOはアストラゼネカの取り組みについて、「1400台は正直、驚いた。先進的に取り組まれているだけあって、多くのデータとノウハウを蓄積されていて、先駆者である企業のすごさを実感した」と述べていました。

発表会ではアストラゼネカの吉越CFOも、75分という利用枠があれば顧客との打ち合わせが可能と、法人プランを歓迎しました。確かに高速道路のSAPAでも、30分というのは意外に短くて、ご飯を食べるにしても慌ててしまうことがあります。また充電の予約が可能になれば、充電器に先客がいて待つこともなく、1日のスケジュールを的確に立てることができます。

吉越CFOは、「(営業担当者は)充電場所を考慮しながらルートを組んでいるが、充電ステーションが使用中の場合は別の場所に移動しなければならない」と話し、予約ができればそうした事態を防ぐことができると強調しました。

効率的な充電器の設置と、効率的な運用が融合すれば、リソースをより効率的に使うことができます。

パワーエックスは、2025年1月時点で58か所の充電ステーションを設置済みです。今後は2025年3月末までに80か所、2026年3月末までに250か所に増やす計画を明らかにしています。パワーエックスとアストラゼネカの関係強化によって充電の設置場所に変化があるのか、また次にどんなサービスが生まれるのか楽しみです。

急速充電の最高出力220kWを確認

最後にもうひとつ、新しい情報をお伝えします。まずパワーエックスの高出力充電器『Hypercharger』で、いよいよ最大出力240kWに向かって本格的に動き始めたお知らせです。

パワーエックスは2023年にすでに、HyperchargerがCHAdeMOの最新プロトコルである2.0.1認証を取得して最大出力240kWに対応可能になったことを発表しています。

【関連記事】
パワーエックスがEV急速充電器を最大出力240kW対応可能へ〜最大120台の普通充電も!(2023年7月26日)

Hypercharger(ハイパーチャージャー)は2023年初期モデルのほか、24年モデルと、24年後半の『Hypercharger Pro』の3種類があります。これらの高出力充電器はいずれも、現状は最高150kWで運用していますが、いずれも240kWに対応可能になっています。

伊藤CEOは今回のプレゼンの中で、2024年末に240kW急速充電のテストを行い、800VシステムのEVへの充電で220.1kWの出力を確認したことを明らかにしました。

具体的な車種名は出なかったのですが、今のところ日本で800V対応のハードを搭載しているEVはヒョンデの『IONIQ 5』のシリーズだけだし、プレゼンの写真にもIONIQ 5が写っていました。

実際の運用開始にはまだ少し時間はかかりそうですが、これもまた今後が楽しみなニュースです。

EVの販売は踊り場と言われていますが、充電インフラは徐々に、でも着々と広がっていると感じます。高出力器への転換も進みつつあります。そしてパワーエックスの充電器は設置場所に実データを活用することで、使われる超急速充電器になりそうな気配です。

東京都江東区の「有明アーバンスポーツパーク」に設置されたHyperchargerは稼働率が高く、夜中でも充電器が動いていることがあるそうです。使われる場所に設置することが重要であることがわかります。

EVが先か、充電インフラが先かというのはすでに愚問になりつつあります。日本でもEV普及への土台は整ってきています。あとはみんながもう少しお金持ちになるか、小さな廉価版EVの車種バリエーションが出てくるかすれば、急速に数が増えるのではと思います。

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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