「まちかど超高出力器」で充電してみた/1分90円の急速充電が必要なEVとは?

都市部の「まちかど」に最大出力100kW以上のEV用超急速充電器が設置され始めています。経路充電インフラの高出力複数口化拡充はEV普及の重要なポイントですが、はたして、日常的な生活の場にある超高出力器はどのくらい使われるのでしょうか。広くEVオーナーのみなさんに問いかけたい命題です。

「まちかど超高出力器」で充電してみた/1分90円の急速充電が必要なEVとは?

東京都では電気基本料金への助成も

7月31日、テンフィールズファクトリーがCHAdeMO規格とNACS規格の両方に対応した最大180kWの超急速充電器3基(同時充電は3台まで可能)を8月5日から稼働させるというプレスリリースが発信されました。

プレスリリースより。

場所は埼玉県本庄市。Googleマップでみると、関越自動車道の本庄児玉ICから1kmほどの立地であり、スーパーチャージャーのような、テスラ車を含むEVの経路充電インフラとしてのニーズを想定していると思われます。

とはいえ、関越道前後の上里SAや三芳PAには、90kW器が並んだ「青いマルチ」がすでに設置されており、高速を降りてまで最大180kWで充電したいという気持ちに、少なくとも私はなりません(受電性能が高いEVに乗っていたとしても)。

周辺にe-Mobility Power(eMP)提携のカードで充電できるスポットがいくつもある。従量課金で現在はキャンペーン価格で66円/kWh(通常は88円/kWh)と合理的ではあるものの、eMP提携カードでの充電(会員料金は27.5円/分 ※カードを発行する自動車メーカーなどによって異なる)に比べて割高な急速充電器に大きなニーズがあるのだろうか、といった疑問を感じているのは、以前、テンフィールズファクトリーの市川裕CEOへのインタビュー記事で提示した通りです。

【関連記事】
EV用超急速充電器「FLASH」が稼働開始~市川CEOにビジョンを直撃インタビュー(2023年12月19日)

6月3日には、テラチャージが「150kW急速充電器の第1号器をコジマ×ビックカメラ 足立加平店へ設置」というリリースを発表しました。

東京都では「ゼロエミッション東京」の実現に向けて「2030年までに急速充電器を1,000基整備する」という目標を掲げています。今年度の「充電設備普及促進事業」で設定された補助金はとても手篤く、「公共用充電設備の維持管理費」として、再生可能エネルギー100%の電気を利用する場合という条件付きながら、超急速充電器には年間310万円を上限に最大5年間、50kW以下の急速充電器の場合でも上限60万円を最大3年間、電気基本料金への助成まで用意されています。

このあたり、「補助金ありきの急速充電器設置で、使われない充電器を増やしてしまう不幸を繰り返す」のではと懸念しているのは『東京都内限定EV用急速充電器「0円設置」への懸念とお願い~補助金を有効活用するために』(2023年11月10日)という記事で提示した通りです。

テラチャージの、東京都内への超高出力器設置に関しても、以前の記事で「充電料金設定が高額(100円/kWh以上)になってしまうのでは? といった懸念を抱いていたことは、以前の記事でお伝えしました。

【関連記事】
東京都で高出力急速充電器「1,000カ所無料設置」への期待とお願い(2023年9月29日)

ほかにも今年3月、DMM.comの充電サービス「DMM EV CHARGE」で、ファミリーレストランチェーンの39店舗に急速充電器を導入するというニュースリリースもありました。

設置する充電器の詳細は未発表ですが、昨年12月に行われた急速充電器の記者発表(関連記事)では、NACS規格にも対応した90kW器が紹介されて、充電料金は55円/kWhを予定していることが示されました。

55円/kWhはEVユーザーにとってもまずまずお値頃な設定ではありますが、高圧契約で90kWのデマンド基本料金だけでも月額約13万円ほどは掛かるはず。1日平均で30kWh充電するEVが5台利用したとして、月間の売上は25万円弱にしかならないので、初期投資や22〜25円程度の電力量料金(月間10〜12万円程度)を考えると、利益を出すのが難しいのではないか、つまり、適切に保守管理されて末永く使われる充電器にできないのでは? と心配しています。

言葉を濁してもわかりにくいので端的に表現すると、今、あちこちに増え始めている「まちかど超急速充電器」は、あまり利用されることがないまま、数年後には廃墟のような設備になってしまうのではないか。また、まちかど超急速充電器設置のニュースが出る度に、EVのことをあまり理解しないまま「早くウチにも設置しなきゃ」と思い込んでしまう商業施設などの関係者の方が増えてしまうのではないかと懸念しています。

はっきり言って、日本のEV普及の現状で、まちかど超急速充電器には「庶民が活用するお店」の集客に寄与するほどのニーズはないと断言しておきます(異論あればぜひコメントをお寄せください)。

コジマ×ビックカメラ高井戸東店で充電してみた

懸念や後ろ向きな言葉を並べるばかりでは切ないので、実際にまちかどの150kW器で充電を試してみることにしました。

7月初旬、白馬村へジャパンEVラリーの下見&打合せに行った帰り道。舘内さんを杉並区内の自宅までお送りすると、マイカーKONAのSOCは20%を少し切っていました。「そうだ、近くにテラチャージの150kW器があったはず」と思い出し、充電してみようと思い立ったのですが……。

EV充電エネチェンジアプリの地図画面。右下の150kWがコジマ×ビックカメラ高井戸東店。周辺にはディーラーの急速充電器がいっぱいあります。

アプリで検索して目的地設定。150kW器が設置されたコジマ×ビックカメラ高井戸東店に向かっていると、井の頭通り沿いのすぐ近く、日産ディーラーの急速充電器が空いているのを発見。私は日産ZESP3「プレミアム100」の会員(現在は日産車以外で加入できません)で、7月はまだ月額基本料金で利用できる急速充電がちょうど30分くらい余っていたので、料金が高い150kW器を試用してみる前に、日産ディーラーの50kW器でまずは30分充電しておくことにしました。

前述した「周辺にe-Mobility Power(eMP)提携のカードで充電できるスポットがいくつもある」という懸念は、まあこういうことです。

日産東京杉並店さま、ありがとうございました。

29分(自動停止して30分になっていなかった)で充電できた電力量は16.7kWh。月額料金枠なので実質無料ですが、プランの100分を越えた場合の都度料金で計算すると「44円×29分=1236円」、従量で換算すると「1236円÷16.7kWh=約74円」でした。ちなみに、私が急速充電する際は高速SAPAの150kW器を好んで使い、30分でおおむね26kWh(約47.5円/kWh)くらい、90kW器では22kWh(約56.2円/kWh)くらい入ります。

SOCは50%まで回復したのでもう十分ではあったのですが、150kW試用も大事な取材。コジマ×ビックカメラ高井戸東店の駐車場の一番奥に設置されていた150kW器での充電も、少しだけ試してみました。

駐車場の一番奥にありました。誘導の方に「充電器よく使われてますか?」と尋ねたところ「あまり充電してるとこは見ないなぁ」とのこと……。

テラチャージの急速充電器を使うのは初めて。とはいえ、アプリはすでにスマホにインストールしてクレジットカードなども登録済みだったので、使い方は簡単でした。操作中の画面はこんな感じです。

最初の詳細情報画面に「予約」というボタンがありますが、パワーエックスのように時間を指定した予約ができるわけではなく、終了時間を設定する機能があります。充電を開始するには、地図画面(キャプチャしてないけど)の下部にある「今すぐ充電」ボタンをクリックして、充電器に表示されている二次元バーコードを読み取ると表示される、真ん中画面の「充電開始」をクリックします。

充電器の操作はすべてアプリで行うため、充電器の液晶やRFIDカードの認証器などは塞がれています。

お試しなので、約7分で充電終了。表示された充電結果画面がこちらです。

充電料金は90円/分が7分で630円。充電できた電力量が4.99kWhですから、従量換算すると「630円÷4.99kWh=約126円/kWh」となりました。

これも前述した「eMP提携カードでの充電に比べて割高な急速充電器に大きなニーズがあるのだろうか」という疑問は、まあこういうことです。

一点補足しておくと、私のマイカーKONA Casualはシステムの総電圧が269Vと低いので、最大230Aの急速充電は可能であるものの、急速充電性能は高くありません。

以前、新電元の150kW器(テラチャージの充電器も新電元製と思われます)での検証テスト(関連記事)の際、30分間で最も多く充電できたメルセデス・ベンツEQCの「48kWh」で計算すると、90円×30分で料金は2700円。「2700円÷48kW」の従量換算料金は「約56円/kWh」。41kWh充電できた日産アリアでは「約66円/kWh」となります。

とはいえ、この料金で充電できるとなると、充電器の維持管理費用は大丈夫なのかと心配になってしまうのは前述した通り(さらに150kW器のデマンド基本料金は月額20万円近いはず)です。

充電開始時のSOCや外気温などの条件にもよるので細かく語り始めるとややこしいですが。EVユーザーの立場で簡潔に整理しておくと、急速充電性能が100kW以上の高級EVであれば、時間課金の150kW器でも充電料金の合理性はある。ただし、私のKONAでは割高。日産サクラや三菱eKクロスEV、またPHEVなど急速充電性能が高くない車種では、私のケース(約126円/kWh)以上に割高になる可能性が高い、ということになります。

超急速充電器のニーズは国産EVの車種拡大次第

ひとりのEVユーザーに過ぎない私が心配するのも大きなお世話ではありますが。超急速充電器を拡充する充電サービス事業者は、数年後のEV普及拡大を見込んだ算段を立てているはず。

つまり、日本で大きな販売力をもつ国内の自動車メーカーから、超高出力急速充電に対応した、魅力的なEV車種が続々と発売されることが重要なポイントになってくるのだと思います。

そんなこんなで、超急速充電インフラの拡充は、ただ「たくさんあればいい」と突っ走るのではなく、深く国内自動車メーカーとも連携しながら、適切な場所に適切な口数の充電器を設置していくことが肝要、と私は考えているのですが……。

急速充電性能が低い大衆EVオーナーゆえのひがみ根性なのかなぁとも感じたりして。広く、EVユーザーのみなさんのご意見を伺えるといいな、と思っているところです。

ともあれ、EVの急速充電、賢明に利用するためにはそれなりに理解を深め、知識をもっておくのがオススメです。EVsmartブログでは、ユーザー目線で、さまざまな急速充電のレポートなどをお届けしています(たとえば「急速充電」で記事検索すると、山ほどの記事が出てきます)ので、活用いただければと思います。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)4件

  1. EVの航続距離や充電性能が進歩しているので、急速充電に対するニーズ変わって来たということでしょうね。
    実際、最近のEVを使うと、充電はもっぱら自宅や目的地で、途中充電をすることはほとんどありません。あっても15分程度の「ちょい足し充電」です。
    自宅充電ができない人にとっても、近くのディーラーが自宅充電器代わりで、遠くの超高出力器まで出かける必要はないでしょう。

    「ちょい足し充電」であっても、出力は大きい方が便利だと思いますが、150kW 以上はどうでしょうか?制度に伴うコスト増も改善されなければいけないと思います。
    超高出力器で先行しているヨーロッパの現状なども教えていただけるとありがたいです。

    今いちばん必要だと思うのは、ホテル・リゾート施設など目的地での普通充電器の充実です。
    それから、急速充電器はGSのようにドライブスルー式にして欲しいですね。

  2. 高出力器も確かに必要ですがクルマを停める駐車場に普通充電器があって30分1時間でもいいので充電出来るとチョイノリ用のミニキャブにはありがたいですね。
    イギリスは電柱にコネクターがあって路上で充電が出来ます、狭い日本ではなかなか難しいですが走った先で充電する、また走って減ったら充電する。駐車している時間に少しでも充電出来れば高額な高出力器も要らないし充電待ちや待機も必要ない。高出力器1台設置する事を考えると普通充電器なら50台分の設置は可能ではないかと思います。
    充電プラグを挿し込む手間が増えますが駆動用バッテリーにも優しいのではないでしょうか。

  3. 私も何年もこのEVの急速充電とか電地の容量についてのもどかしい問題について考えてきましたが、現状としては、高速道路のSA・PA、道の駅、観光地など、経路充電のそれなりの使用頻度が期待できる場所以外には急速充電器を設置する必要性があまりないと思います。やはりそれら以外の場所にあっても、使用頻度が低くなり、補助金の無駄使いになってしまうと思います。

    それでは自宅に充電設備のない集合住宅などの人が充電できない・・・とかいう話が出てくると思いますが、正直、今の時点でそういう人たちを考慮する必要はないと思います。マイホームがあってBEVを買うのに適した条件の人でも、BEVを買う人は現実的にはほとんどいないと思われます。自宅充電ができもしないのにEVを買うなどとというレアな人のことを考える前にやるべきことが山ほどあると思います。EVの普及率が数パーセントとか言っている国で、そんな極少数派の人を心配して公金を使うのは無駄と言われても致し方ないと思います。自宅充電ができるのであれば、自宅の近所に急速充電器があってもうれしくもないし、便利でもないし、実際に使うこともないはずです。

    エンジン車はガソリンスタンドに行かなければ給油できませんが、EVは自宅で充電できるわけで、それだけでも公共充電施設の必然性というのは、ある意味低いものです。たまに、充電施設の数とガソリンスタンドの数を比較するような記事を見ますが、この前提条件がまったく違うところで数を比較すること自体ナンセンスです。BEVの普及に関する投資はあまりにも広く浅くの印象があり、もっとターゲットを絞って、まずは需要の見込めるところに集中すべきと思います。

    公金をばらまいてあちこちに急速充電器を設置するお金があるなら、私だったらそのお金で、高速道路に現在ある数十台レベルの小さめのPAを活用して(新設して作ってもいいですが)、100kmごとくらいでいいのでEV専用のPAを作ってもらい、全駐車スペースに充電器を設置した施設を作るくらいのことをしてもらう方ずっと良いと思うんです。その方が充電待ちの心配もなく、エンジン車に駐車される心配もなく、一部が故障していても他に使える充電器がたくさんあり、経路充電の計画も立てやすいのではないでしょうか。「あそこに行けば確実にすぐに充電できる」という安心感を与えてくれることがすごく大きいと思うんです。

    これが可能であれば、それ以外のSA・PAの充電器は、ある意味緊急用で、数も少なくてスペックもそこそこでいいと思うんです。すべてのSA・PAに高スペック機を台数揃える必要性もないと思うのです。そうすることによって、がっつり充電したい人をEV専用PAに導くようにすれば、稼働率を高めることができて良いと思うんです。私はこの方が現状に見合った充電器の投資の仕方じゃないかと思うんですが。

  4. 急速充電は設置者側は設備投資が高いのに利益が少ないどころか赤字。利用者側は利用料金が高い割に対して便利でない。empの価格改定(改悪)や、最近記事に出ている充電器の利用料金が1kwh100円とかを見てると、誰が使うの?といつも感じます。急速充電の普及のことは延々と議論されてますが、いつまで経っても状況が改善されませんね。
    個人的には、イオンの50kwh30分300円、エコQ電の50kwh30分500円の充電器は安くて積極的に使いたいと思います。エネオスの50kwh1分50円が緊急時に使おうと思える金額の上限です。
    でも多分この料金では、設置者側は利益どころか維持も難しいのでしょうね。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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