イギリス(イングランド)における急速充電インフラについての政府ビジョン〜高出力複数台設置と従量課金

2020年5月14日、イギリス(UK)政府は、電気自動車用急速充電ネットワーク計画に関する政策文書を発表しました。2035年までにガソリンやディーゼルエンジンの新車販売が禁止され、EV用充電インフラの整備が急務となります。今回その具体的な内容が示されました。以下政策文書の全文日本語訳です。

イングランドにおける急速充電ネットワークについての政府ビジョン

【Policy paper】
Government Vision for the rapid charge point network in England(イングランドにおける急速充電ネットワークについての政府ビジョン ※英文発表ページにリンク)

UK政府は、気候変動にこれ以上影響を及ぼさないようにするための取り組みの一環として、グリーン・ゼロエミッション技術育成のサポートに尽力します。

私達は石油もしくはディーゼルエンジンを使った新車販売を、2035年までに禁止するべく議論しています。可能であればより早期の移行となります。高速道路及び主なAロードにおける豊富な公的充電インフラがこの移行の鍵となります。(※訳者注:Aロードは幹線道路。高速道路とAロードを合わせて Strategic Road Network=SRN と呼ばれています)

政府は将来高速道路及びAロード上で必要となる充電器の数に関する詳細な分析を行いました。2020年1月の時点でイングランドの高速道路とAロード上には809のオープン・アクセス急速充電器が設置されており、現在すべてのドライバーの半径25マイル(約40km)以内に最低1台があります。高速道路のサービスエリアには平均2台の急速充電器が設置してあり、来年さらに増設されます。

急速充電器用資金は2020年3月予算で発表され、合計5億ポンド(約655億円)のEV充電インフラ予算の一部になります。この施策の目的は、長期で見た電気自動車充電スポットの消費者需要に先回りして、十分な急速充電ネットワークを提供することです。

未来の高出力充電器需要に見合うように接続をアップグレードした場合、とても高額で収益化できないSRN上の充電器コストを部分的に負担していきます。この助成金が出されるタイミングとプロセスは追って決められます。

将来の充電需要に応えるため設備をアップグレードする際にかかる電気接続コストが、商業的に継続不可能な場所を支えるための、急速充電器用ファンド利用の目標は以下になります。

2023年までに、イングランド内高速道路のサービスエリアに最低6台、一部の大きいエリアでは10~12台のオープン・アクセス高出力充電器(150~350kW出力)を設置します。その時点で必要な需要に十分だと確信しています。これらの高出力充電器は現在設置されている充電器よりも最大3倍速く充電でき、一般的な電気自動車は15分で120~145マイル(193km~233km)分の充電ができます。
・2030年までに充電ネットワークを広げ、より多くの人が電気自動車用スイッチからの恩恵を受けられるようにします。イングランド内の高速道路とAロードで2,500台の高出力充電ポイントができるよう計画しています。
・2035年までにイングランド内の高速道路とAロードで6,000台の高出力充電ポイントを設置する予定です。

政府は主なサービスエリアの運営と協力して、消費者から要求される前に、この充電計画が確実に実施されるように動いていきます。その目的は電気自動車の黎明期にサポートを提供し、長距離運転での航続距離に関する心配を取り除くことです。

私達のビジョンのもとではすべての新しい充電器が簡単でストレスフリーに使えるようにします。

【具体的内容】
・充電料金の支払いはデビットまたはクレジットカードでできます。
・高速道路上にある充電器の情報は一般に公開され、ドライバーはいつ、どこでどのように充電するのかを選べます。
・充電器は99%いつでも使える状態になっています。
・技術的な問題が発生した際には年中無休で24時間体制のカスタマーサポートがドライバーをサポートします。
・すべての電気自動車に使える充電器を各サイトに設置します。
・kWhごとにいくらかかるのか、1ペンス単位で価格を明示します。

業界と協力して政府は高速道路上に設置される充電器の数とユーザー体験をモニタリングし続けます。電気自動車充電インフラの消費者体験を改善し、高速道路のサービスエリアなど、鍵となる場所にある充電器提供のレベルを保つため、私達はAutomated and Electric Vehicles Act (自動運転と電気自動車決議)のもと、必要であれば規制を作る権限を持っています。

定義

『オープン・アクセス』とは「特定の車両のみに使われる充電器ではない」と定義するため、オープン・アクセス充電器とはテスラのスーパーチャージャーを除外したものになります。SRN上にはテスラ・スーパーチャージャーを含め、792台の急速充電器と311台の超高速充電器、計1,103の急速機器があります。SRN上の機器に関しては、SRNの出入り口から1マイル(約1.6km)以内にあるものもこの内に入ります。

バッテリー容量62kWh、航続距離200~240マイル(約322km~386km)の一般的な電気自動車が150kWの充電器で15分充電した場合、120~145マイル(約193km~233km)分の充電がされます。

(翻訳・文/杉田 明子)

編集部コメント

翻訳文中、一部ボールド(太字)で示したように、このニュースには日本社会も参考にすべき、大きく2つのポイントがあることが読み取れます。

●ポイント1
高速道路網にターゲットを絞り高出力充電器の複数台設置を進めること。

2023年までという具体的かつ短期的な目標を定め、高速道路SAに高出力充電器を6〜12台程度設置することを明記。さらに、2035年までに2500カ所、その5年後の2035年には6000カ所の高出力急速充電スポットを、高速道路と幹線道路に的を絞って設置していくという計画は、とても理に適った投資だと評価できるでしょう。

設置や維持のコストは、もちろん、充電インフラの充実によって利益を受ける自動車メーカーや電気自動車ユーザーが適切に負担するべきですが、公的資金で一部負担したり、「商業的に継続不可能な場所を支えるための、急速充電器用ファンド」を準備するのは、「電気自動車の黎明期にサポートを提供し、長距離運転での航続距離に関する心配を取り除く」ため。モータリゼーションの脱炭素化を目指す政府の明確な意思を感じます。

●ポイント2
ユーザーの利便性について実情に沿った配慮が盛り込まれていること。

政府や行政のインフラ整備といえば、いわゆる箱モノ的な「作るだけ」になりがちですが、文書の後半、「すべての新しい充電器が簡単でストレスフリーに使えるように」するための具体的な内容に言及されている点も評価できます。

充電した電力量に応じた「従量課金」や、充電器満空情報などスムーズに活用するための情報提供、また、課金方法の使いやすさといったポイントは、今、日本の充電インフラが直面している課題でもあります。

先日、日本が提唱している急速充電規格であるチャデモの新たな高出力規格についての記事をお届けしました。今後、日本で電気自動車がどのように普及していくのかまだ未知数な点はありますが、高速道路SAPAに150kW程度の高出力充電器を複数台設置することや、ユーザーが適切な利用料金を負担しながら電気自動車を利用しやすくする従量課金などの制度整備は待ったなし状態。日本の急速充電インフラも、賢明な整備が進むことを願っています。

ちなみに、日本の高速道路SAPAでどのくらいの台数の急速充電器が必要になるかについては、『NEXCO西日本がSAPA急速充電器増設〜充電渋滞は解消される?』という記事で考察しています。ご参照ください。

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 電力系法人に勤める身として、電気事業法や計量法などが急速充電普及の壁になっていると痛感しています。特に高圧受電はデマンド(最大需要電力)で決まる基本料金がネックになることも頭の痛い課題だったり。
    そこで充電料金の設定を出力ごとに変える案はどうですか?たとえば30kW機で30分400円、50kW機なら600円など。そうすれば計量メーターや検定の問題をパスできて車種の最大充電能力を鑑みながら充電器を選べると思いませんか!?もっとも充電器の保守点検に費用が掛かるので必ずしも比例できるわけではないですが。
    むしろEV/PHEVを2台同時に充電できる機種が普及してほしいです。2台分の機能を1台で完結できれば保守や認証通信のコストを下げられますよね…新電元の普通1~4台+急速1台システムも理に適いますが。
    他にも観光地への普通充電器数台配置が必須かと思います。昨今のコロナ禍でお出かけが減り嘆いている地域も少なくなく、切り札としての設置も一案かと思いませんか!?ただ財政が厳しいかもしれませんが…それなら1台で2本の充電ケーブルを備えた機種を入れればいいかもです。
    あとはぼちぼち故障充電器のリプレースも問題になり始めましたよね…最近故障中の充電器を結構見かけませんか!?せっかく設置したのにこれで泣きを見る電気自動車オーナーが結構いるはずですので。
    認証器がなく営業時間外に使用できない充電器の問題もあります。もっとも充電カードのない方に好まれますが、このコロナ禍で充電できず次の充電器までヒヤヒヤしたという口コミは少なくないはずですよ!?つーかこの問題でクローズアップされそうですが。

  2. いつも拝見させてもらってます。
    自分でも、急速充電器設置をビジネスも含め探ってます。

    高価な急速充電器と高価な電気基本料金がネックになります。
    低圧での急速充電器もありますが、やはり高価です。

    まずは、時間単位の課金変更(それも80パーセントまで)と高圧電気基本料金の大幅な減額を目下のもくひょうです。

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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