EV用超急速充電器を無料開放は、なぜ?〜パワーエックス伊藤CEO緊急インタビュー

最大出力150kWの電気自動車用超急速充電ネットワークを展開するパワーエックスが、1月31日から当面の間、すでに稼働中の8ヵ所のステーションで、充電料金を無料とする「Try! PowerX」キャンペーンの実施を発表しました。何のためにそんなことをするのか。伊藤CEOへの緊急直撃インタビューです。

EV用超急速充電器を無料開放するのはなぜ?〜パワーエックス伊藤CEO緊急インタビュー

※冒頭写真は那須千本松牧場のチャージステーション。

充電無料を決断した理由とは?

2024年1月31日、株式会社パワーエックス(PowerX, Inc.)は、国内で同社がパブリックに設置して稼働中である8ヵ所のステーションで、当面の間、充電料金を無料とするキャンペーンを実施することを発表しました。

【無料充電対象ステーション(全国8ヵ所)】
新丸の内ビルディング(東京都千代田区)
目黒セントラルスクエア(東京都品川区)
シェアグリーン南青山(東京都港区)
成田空港第1ターミナル(千葉県成田市)
那須千本松牧場(栃木県那須塩原市)
スターバックスコーヒー京都久世店(京都府京都市南区)
グランフロント大阪 南館(大阪府大阪市北区)
スーパーオートバックス広島観音新町(広島県広島市西区)

設置ステーションのうち、みやこめっせ(京都府京都市左京区)については、京都市との公民連携・課題解決推進事業として実証実験中のため、対象外(通常通りの有料で充電可能)となっています。

パワーエックスの超急速充電器である「Hypercharger」が、目黒と南青山に初設置されたのは2023年10月26日のこと。11月1日に行われたみやこめっせでの運用開始式典はEVsmartブログでもレポート(関連記事)しました。

それから、まだほんの数カ月。スタートしたばかりの急速充電ステーションを、無料開放するのはなぜなのか。パワーエックスのスマホアプリの「お知らせ」には以下のような一文が紹介されています。

[Try! PowerX]EV普及のための挑戦

1/31より当面の間、パワーエックスが提供する全ての急速EV充電器を無料で使えるようにします。
この決断には、「どうしたら日本で充電ネットワークが整備され、またきちんとビジネスとして成立するのか?」正直正解がまだ見えないという背景があります。
具体的には、設備投資と電気だけを売るビジネスモデルに、実は構造上の限界があるのではないかと感じているということです。
大きな悩みを口にしましたが、何はともあれ自分たちが魅力的なプロダクト・サービスを展開しないことには、何も変えられません。
皆さんのご意見、レビュー、アドバイスが、私たちを強くします。
この機会にどんどん使って、どんどんご意見下さい!
(引用、ここまで)

はたして、どのようなビジネスモデルを想定し、EVユーザー=充電器利用者のどんな「声」を求めているのか。パワーエックスの伊藤正裕CEOへの緊急インタビューでお話しを伺いました。

破壊的ビジネスモデルを見出すために!

伊藤正裕 取締役 代表執行役社長CEO

EVsmartブログのさまざまな記事で書いてきたように、私はひとりのEVユーザーとして、EV用超急速充電器が乱立しても稼働率は上がらず、ビジネスとして成立しないことを心配してきました。今回のパワーエックス「無料開放」も「想定したよりも稼働率が上がらないのでは?」という第一印象を抱いたのですが……。

伊藤CEOへの緊急インタビューを一問一答スタイルで紹介します。

Q. 無料開放の背景には、たとえば最初は無料だった「みやこめっせ」で有料化したら稼働率が上がらないといったような背景があるのでしょうか?

伊藤氏 いえ、そういうことではありません。みやこめっせのハイパーチャージャーはとても稼働率高く使われていて、実証実験の一環として無料で提供していた時期は、充電ガンが過熱して止まることがあったほどです。もちろん、そうした課題は改良しつつ、今年になって有料化して以降も、稼働状況は悪くありません。

Q. では、今回の無料キャンペーンは何を目的にしたことでしょう?

伊藤氏 現状、日本のEV普及率(新車販売シェア)はまだ3%程度です。この小さな台数の中で急速充電が大きなビジネスとして成立するはずはなく、まずはEVが増える必要がある。われわれはそのために先行して超急速充電器の開発や設置を進めています。
一方で、超急速充電器を運用するビジネスモデルとしてどんな「正解」があるのか、まだ見つけることができていません。たとえば、サブスクがいいのか、時間課金と従量課金はどうあるべきか、なにがしかの抱き合わせ販売やサービス展開があり得るのか。さまざまな変数の中で、かつ、市場が産声を上げたばかりで、まだどこにも正解がありません。
正解を探すためには、できるだけ多くの方に使っていただいて、みなさんの使い方をしっかり勉強して、ハードやソフトなどのサービスを最適化していくしかないという思いです。

Q. それにしても「超急速充電無料」はEVユーザーにとってもインパクトが大きいです。

伊藤氏 「充電無料」を実施できるのは、弊社が蓄電池や充電器のメーカーであり、充電サービス以外の事業でしっかり売上を支えることができているからです。現状で9拠点(無料開放は8拠点)、年内には100拠点くらいには増える計画ですが、当面、充電時のkWh当たり数十円程度の電気代を無料にしても、それほど大きな投資ではありません。
今は目先の小さなことに執着はせず、「EV充電の大きな森」の姿を見極めたいと思っています。

Q. 数週間とかで終わるようなキャンペーンではないということですね?

伊藤氏 はい。経営者、創業者としてのヤマカンでしかないですが、実は、私は今EV充電に関して「破壊的なビジネスモデル」の可能性を感じています。EVの急速充電って、週末だけ乗るといった方だとせいぜい月に1〜2回利用するかどうかといった程度だと思うので、無料充電してアンケートに回答いただくという流れも、数カ月は待たないと一巡しない。また、1回だけ使ってみた意見と、5回連続で使ってみた意見はおそらく変わってくるのではないかとも思っています。
急いで意見を集めるより、じっくりとたくさんの方に利用いただいて、「EV充電の森」のトレンドを見たいと考えています。

Q. 「破壊的ビジネスモデル」がどんな構想なのか、気になります。

伊藤氏 私の中では4つか5つくらいの方向性をもったアイデアがあります。とはいえ、EV普及の進展には自動車メーカーがどんなEVを発売するかといったことが関わってくるし、まだ読み切れないところが多いので、当面無料にして多くの方にいろんな使い方をしていただいて、幅広い意見を聞いてみたいということですね。
いずれにしても、海外の事例をみても、EVの充電ビジネスだけ単独でやっている会社はどこもあまりうまくいっていません。いたずらに数を増やしても、メンテナンスが行き届かずに故障した充電器が多いといった事例もあって、「そこじゃないのかな」と感じています。つまり、EV普及に貢献するために大切なのは、充電オンリーのビジネスじゃないのではないかと考えているところです。

358kWh(Standard)の蓄電池(LFP)に2基のディスペンサーがセットになったハイパーチャージャー。1基利用時で最大出力150kW、2基同時の場合は各120kWでの超急速充電が可能。

蓄電池からの給電やNACSにも柔軟に対応

ご多忙の中、お昼休みの30分をいただいた緊急インタビューではあったのですが、伊藤氏が自らのXアカウントで呟いた「NACS(North American Charging Standard=テスラ規格を元にした北米標準充電規格)への対応」など、気になっていた点を質問しました。

まずは、かねて指摘されていた、ハイパーチャージャーでテスラ車を充電した際に生じたとされる不具合について。パワーエックスでは「無料充電」と同じ1月31日に、『PowerX Charge Station におけるテスラ車両の対応について』と題するリリースを発信。同社による充電テストの結果「不具合の再現が確認できなかった」こと。そして、「テスラ車両を含むCHAdeMOアダプターを使用するすべてのEVは弊社の責任の対象外であり、当該車両の充電はお客様とその裁量に委ねる」旨、利用規約を改定することを発表しました。

Q. テスラ車の不具合問題は、どうなんでしょう?

伊藤氏 私自身テスラユーザーですし、社内にもテスラ車のオーナーは何人もいます。不具合問題が発生してから、リリースでも報告しているように、われわれもできる限りのテストを行ってきました。「私の車を壊していいぞ」と、充電器の部品を一部取り外すなど、あり得ないようなエラーケースを試しても壊せませんでした。テスラ車での充電自粛をお願いしている間にも、一定数の方がテスラ車で充電されていましたが、不具合の再現は確認できていません。
不具合が起きたユーザーさんに対しては全力でサポートしてきました。でも、われわれはチャデモ規格の充電器メーカーでありサービス提供者です。テスラ車のチャデモアダプターはテスラの製品であり、われわれのスコープ外にあることです。
できるだけのことはやったので、あとは自己責任で判断いただくしかないと考えて、利用規約の改定を行ったところです。

Q. 伊藤さんのXで、早々にNACS対応するという言及がありました。とはいえ、テスラが積極的に関与しない他社製のNACS充電器では、今回のような原因不明のトラブルが起こる可能性があるのではないかという点は少し心配です。

伊藤氏 ご指摘の通りだと思います。とはいえ、NACSについては昨年12月にSAE(Society of Automotive Engineers)規格として認可されたので、われわれも「SAE J3400」の第三者機関による検証と実装を進める計画です。

Q. NACS対応もいいですが、ハイパーチャージャーの大きな蓄電池から手軽にAC電源を取り出せるようにすれば、自治体や企業のニーズが広がるのでは? と思っているんですけど、いかがですか?

伊藤氏 それはもう積極的に取り組みたいところで、実は近々発表する新製品ではそのあたりをフルカバーした次世代ハイパーチャージャーをお披露目できるはずです。ほかにも、ケーブルの吊り方を改善したり、ディスペンサーを改良するプランも進行しています。弊社は垂直統合型のメーカーでもあるので、1年に1回はフルモデルチェンジするイメージで、お客様の率直なフィードバックを反映した製品やサービスを出していきたいと思っています。

Q. 素晴らしいですね。従来の日本の充電器メーカーで、毎年製品やサービスをアップデートするような例はなかったように思います……。

伊藤氏 それをやっていかないと、中国や台湾、ヨーロッパのメーカーには勝てません。弊社が得意とする開発力を活かして、柔軟に対応していきます。
私自身、EVの普及を願っています。また、今のところEV充電事業は順調にきていますが、生まれて間もない産業であり、まだ「戦国時代」の渦中にあると思っています。日本で、また世界でEV普及を進めるにはどうすればいいか。そのためには、いろんなメーカーや社会が協力して挑戦していくことが必要だと思っています。今回、「Try! PowerX」キャンペーンで充電無料を実施するのも、そうしたチャレンジのひとつということですね。

(Q&A ここまで)

アンケート回答者にAmazonギフト券をプレゼント

インタビュー終了間際には、伊藤氏が自らのスマホで、パワーエックスの充電器稼働状況などをモニターするダッシュボードの画面を少しだけ見せてくれました。首都圏では雪予報(インタビュー中に六本木でも降り始めました)が出ている月曜日の、まだお昼ごろでしたが、当日の充電履歴リストは想像以上の数がズラリ。各充電器の出力推移や充電器の温度などもリアルタイムでモニターできています。

すべての充電器の稼働ログを取り、24時間コールセンターで対応し、不具合が起きて必要があればすぐに(当日か翌日には)スタッフが駆け付けて対処するなど「うちは本気でやってますからね」と伊藤さん。EV充電戦国時代を生き抜くために、まさに「本気」であることが伝わってくるインタビューとなったのでした。

「Try! PowerX」キャンペーンでのアンケートは、実際に充電器の利用を開始した直後にSMS(登録したスマホへのショートメッセージ)で送られてくるメッセージからアクセスするフォームで回答します。少し手間は掛かりますが、回答者の中から抽選で、期間中毎月100名にAmazonギフト券500円分がプレゼントされることになっています。

2月1日、さっそくマイカーKONAで充電してきました。SOC64%からのスタートだったので、約30分で11.1kWhしか入りませんでしたが……。

EV急速充電サービスの未来を切り拓くためにも、私自身、EVユーザーのひとりとして「Try!」に協力すべく、目黒セントラルスクエアで初めて充電してきました。京都で初めてハイパーチャージャーを利用した時と同じく、予約時間の15分ほど前に到着してしまい、充電可能になるまでしばしの待ちぼうけ。「予約時間を前倒し(もしくは10分前くらいには)充電開始できるようにして欲しい」という私見は、インタビューの最後に伊藤さんにお伝えしました(クーリングのために一定のインターバル時間は必要、とのことでしたが、少しでも改善されたらうれしいです)。

読者&EVユーザーのみなさんは、どんな意見をお持ちでしょうか。そしてEVユーザーの意見を見極めた成果として、パワーエックスからどんな破壊的ビジネスモデルが生まれてくるのか。今後を楽しみにしたいと思います。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 「CHAdeMO規格には適合してるからうちは悪くない」と言いたいのはわかるけど、他社の急速充電器でテスラ車破壊に至るような不具合が出ている訳でもないのでPowerX側に瑕疵があると思うのが普通の考え方です。おそらく瑕疵の内容が規格で想定していないイレギュラーケースでの故障なんだと思うけれど、(例えばDC-DC変圧で測定サンプリング時間未満の瞬発的なサージが出てるとか)お客さんの車ぶっ壊してその態度で事業が成立すると思っている点は甘すぎるなと思いますね。自動車メーカーであれば普通は一旦販売停止、社員総出で原因究明するのが普通だと思います。

    1. 私もとりあえず稼働を止めるべきだと思います。
      近所にパワーXがあるので機会があればと思ってましたが、こんな対応の会社の充電器は使いたくありません。
      パワーXさん、止める勇気を持ちましょう!

  2. 断鉄さま、リーフX乗り さま、コメントありがとうございます。

    テスラのアラート。ご指摘の通りと認識しています。
    パワーXの規約改定も「自己責任で」とのことなので、オーナー各位のご判断、ということになりますが、テスラが「お控えいただくことを推奨」していますから、私がテスラオーナーなら控えるかな、という印象です。

    リーフでのシステム停止事象。
    パワーXに連絡の上、早急な原因究明を、ですね。
    チャデモ規格車両でのトラブルなので、もしも充電器側に問題があったとしたら原因に辿り着くヒントも多いのではないか、とも感じています。

    ともあれ、充電器メーカー、サービサーと、EVメーカーが緊密に連携して、ユーザーが安心して充電できる環境構築を望むのみ、ですね。

  3. テスラだけでなくリーフでもPowerX で充電中にEVシステムが停止して走行不能になった人がX(旧Twitter)に投稿してますね。
    テスラの人みたいに有償修理20万とかになったら恐ろしい…タダより高いものはないですね。
    気軽に「Try!」に協力できません。まだまだ様子見「Wait and see !」PowerXです。

  4. テスラではPowerXで充電トラブルあり使わないようにテスラから警告が出ています。
    車両を起動すると表示されます。
    この問題解決しないと怖くて使えないですね。
    画面のスクショ送りたいですね。
    テスカスさんのフォーラムにユーザーのコメントがあるので確認して下さい。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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