「充電インフラ補助金」予備分の配分が決定~EV充電の効率的進化に向けた方針を明示

申請が予算額を超え新規受付を停止していた経済産業省の「充電インフラ導入促進補助金」について、予備分30億円の配分と、今後の募集条件などが発表されました。早い者勝ちの補助金獲得競争や無駄に繋がる一施設への大量設置を改める内容で、効率的にインフラ拡充を進める方針として評価できます。

「充電インフラ補助金」予備分の配分が決定~EV充電の効率的進化に向けた方針を明示

※冒頭写真は新東名浜松SA(下り線)の急速充電器。

先着順ではなく基準を設定して交付を決定

2023年8月4日、経済産業省から、令和4年度補正予算・令和5年度当初予算「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金(充電インフラ補助金)」の予備分30億円の執行についての「概要」が発表されました。

 

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今回発表された「概要」で注目したいポイントを整理しておきましょう。

まず、先着順ではなく審査の上で交付が決定されるようになります。また、普通充電器の一施設設置口数などの基準を設け、使われない充電設備を増やす懸念がある「大量設置」には補助金が活用できなくなりました。

EV普及率が伸び悩む日本で、今までにも100基以上の普通充電器を大量に設置したビル駐車場や商業施設などでは、充電可能な区画に多くのエンジン車が停まり「使われない充電器」が並んでいます。もし、こうした「使われない充電器」100基の設置に今年の補助金が使われた場合、他の必要な場所に設置しようとする100基分の目的地充電設備用の補助金が浪費されることになります。

目的地充電、基礎充電ともに、補助金での設置口数に基準を設けたのは、EV普及の進展に合わせて効率的な充電インフラ拡充を進めるために賢明な方針と感じます。

次に、「募集対象の限定」として、補助金を活用した設置場所を制限したことも評価できます。

「急速充電」については、「高速道路、公道、道の駅」で「(最大出力)50kW以上のみ」が補助金交付の対象となりました。急速充電はそもそも長距離移動の際の「経路充電」が主目的であり、高速道路SAPAをはじめ必要な経路充電拠点の拡充が遅れて各地で充電渋滞が発生している状況などを考えると、設置場所を経路充電に資する場所に限定するのは納得感の高い方針です。

50kW以下の充電速度が遅い充電器の新設には補助金が利用できないという点も、EVユーザーとして歓迎したい内容と言えるでしょう。

予備分30億円のうち19億円は目的地充電に

発表では「申請見込み額等を踏まえた配分」として、予備分30億円の配分額が示されました。

区分既配分額配分額
急速90億円5億円
普通(基礎)30億円6億円
※執行残を含め9億円分を募集
普通(目的地)25億円19億円

充電設備の区分ごとに、ポイントを整理しておきます。

【急速充電】

最もコストが掛かる急速充電の配分額が5億円と少ないですが、当初の配分額を合わせると95億円となります。これは、おもに高速道路SAPAなどの経路充電インフラ整備を担うe-Mobility Power(eMP)の「申請見込み額」、つまり今年度の拡充計画に基づいた金額ということになるのでしょう。

eMPでは、2025年度までに高速道路SAPAの充電口数を2022年度の511口から、2025年度までに1,100口へ増設する計画を発表しています。EVユーザーの悲願である高出力器複数台設置の進展に向けて、適切に補助金が活用されることを期待します。

【普通充電(基礎充電)】

基礎充電(拠点ガレージの充電設備)については、まず対象が「既設集合住宅」に限定されました。新築の場合、そもそもの電気工事に充電用の配線などを含めればよいことであり、限られた補助金の活用法として妥当なルールと言えるでしょう。ただ、当初の規定で含まれていた「月極駐車場」や「事務所・工場等」も今回の対象から外れているのは気になります。企業フリートのEVシフトは大切なので、ぜひ補助金を有効に活用してほしいところです。

また、ケーブル(普通充電器)の場合「収容台数の10%以下、かつ10口以下」、コンセント(200VのEV充電用コンセント)の場合でも「収容台数以下、かつ20口以下」という制限が定められました。前述のように「使われない充電器」が補助金を無駄に使って設置されるのを防ぐためにも、合理的なルールだと思います。

【普通充電(目的地充電)】

宿泊施設やレジャー施設など「目的地」に設置する普通充電器にも「補助金による設置口数が2口以下」に制限されます。

ここで少し、日本政府が掲げる「2030年に12万基の普通(目的地として)充電設備を設置」という目標はどういうことか考えてみましょう。観光庁(国土交通省)の統計によると、全国のホテル、旅館、簡易宿所、会社・団体の宿泊所など宿泊施設の総数は約6万4000施設(令和4年確定名簿施設数)となっています。12万基という目標は、全ての宿泊施設に2口ずつEV用充電設備が設置されるイメージです。

もちろん、目的地充電設備はゴルフ場や長時間滞在型のレジャー施設などにも設置してほしいですが、駐車場がない宿などを勘定から外せば、12万という数でそうした施設にすべて2口ずつ設置することができるのではないでしょうか。つまり、12万基の目的地充電設備があれば、日本全国、EV用充電設備は「あってほしいところに、あって当たり前」になるということです。

補助金対象が2口までというのは、客室数が多い宿では「もっと付けたい!」というニーズがあるように思いますが、前述のように日本のEV普及率はまだ発展途上。必要なら補助金を使わずとも設置すればいいことですし、稼働状況を確認しながら「毎年2口ずつ、必要に応じて増やしていけばいい」という考え方は賢明でしょう。

次年度以降はさらに合理的なルールをデフォルトに

発表された方針には「限られた予算で効果的に充電器の整備を進めていく観点」が盛り込まれ、日本国内のEV充電インフラがあるべき姿を実現するために一歩前進した内容であると評価できます。

次年度以降は、今回の賢明な方針をベースにしながらさらに踏み込んで、急速充電器の高出力器複数台設置や認証課金の簡素化など、ユーザーの利便向上まで見据えた内容にアップデートされ、より増額した予算で充電インフラ整備が進むのを期待したいところです。

EVと充電インフラはしばしば「ニワトリとタマゴ」に喩えられます。でも、インフラ拡充がEV普及の後を追いかける状況になると、新たなEVユーザーは「急速充電器の充電渋滞」や「泊まる宿に充電設備がない!」といった不便を我慢し続けなければいけなくなってしまいます。「EV普及が先か、インフラ拡充が先か」というのはパラドックスやジレンマでも何でもなくて、間違いなく「充電インフラ拡充が先」であるべきなのだと思います。

とはいえ、補助金予算は無尽蔵ではありません。限られた予算を効率的に活用することを目指し、利用状況を見ながら追加設置していくことを見据えた今回の方針は適切な内容であると感じます。

なにはともあれ、日本中の宿泊施設やゴルフ場などで、普通充電設備があって当たり前になる日を待ち望んでいます。

文/寄本 好則

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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