ホンダの電動バイク『EM1 e:』を購入【前編】バッテリー交換システム普及に期待!

ホンダが8月24日に発売した個人向けの電動バイク『EM1 e:』を購入しました。注目はバッテリーシェアリングサービスの「Gachaco(ガチャコ)」に対応していること。2輪電動化の大きな一歩になることが期待されるバッテリー交換サービスの現況についてリポートします。

ホンダの電動バイク『EM1 e:』を個人購入【前編】バッテリー交換システム普及で全国ツーリング?

都内バイクショップの納車第一号でした

EM1 e:(イーエムワンイー)は原付一種の電動スクーター。発売がアナウンスされてすぐ、都内のバイクショップで予約。9月7日にナンバーを取得してもらいました。同ショップでの納車第1号だそうです。

外観は、まんまスクーター。電動であることを強調せず、見慣れたイメージを踏襲したのでしょう。BENLY e: やGYRO e:(先行して法人向けに発売された電動バイク)のように内燃車の共通モデルがあるわけではないので、もう少し冒険しても面白かったのに、というのが個人的感想ですが、街に溶け込むデザインともいえます。悪目立ちしたりはしません。

特徴的なのは後ろ姿。マフラーがありません。インホイールモーターなのでドライブベルト(やチェーン)もなし。シンメトリーでスッキリ細身なのはいいですね。海外では二人乗り仕様もあるので、少し大柄。身長175cmの私だと足つき性は問題ありませんでしたが、小柄な人はシートの高さを感じるかもしれません。

取り回しで気になったのは、センタースタンドしかないこと。サイドスタンドはオプションも未設定。サードパーティー製品の発売を待ちましょう。

スムーズな加速で「さすがホンダ」の乗り味

見かけはあまり違わなくても、走るとEV。4輪と違って車両接近通報装置が義務付けられていない(約3万5000円のオプションで取り付けは可能)ので、ほぼ無音。静かにスーッと加速します。聞こえてくるのはタイヤの接地音と風切り音だけ。これは気持ちいいです。電動バイクの最大の魅力かもしれません。自然の中で小鳥のさえずりや虫の声が聞こえたらもう最高なのですが、街中でも静かなのはうれしいですね。

ゼロ発進の加速フィーリングは抑え気味。EVらしくガツンと来るかと思いましたが、急発進を防ぐセッティングでしょう。でも速度の乗りは悪くありません。あっという間に速度警告が。スピード違反には気をつけた方が良さそうです。加減速やコーナリングでの挙動は素直で、コントローラブル。さすが長年スクーターを作ってる会社、という感じです。

フルデジタルメーターは、通常走行時の情報量は少なめ。中央に速度、右下に充電率(SOC)が常時表示。ほかに時計、積算計、トリップメーターがボタンで切り替えられます。亀さんマーク(出力制限表示)もあるようです。EVでは一般的な航続可能距離は表示できません。

内燃スクーターでは、ガソリン残量計と警告灯だけというのは一般的かもしれませんが、航続距離が短めのEVでは、あとどれぐらい走れるかは運転に欠かせない大事な情報。慣れればSOCから逆算できるとはいえ、ちょっと残念なところです。

カタログ上の一充電走行距離は53km(30km/h定地走行テスト値)。発進と停止を繰り返す実走行では、どうなのか。早速、試してみることにしました。バイクショップから羽田空港の近くまでプチツーリング。かなり遠回りして帰宅しました。

納車時に100%だったSOCは自宅到着時に20%に。走行距離は38.1km。あまり高低差のないルートでしたが、40kmぐらいは走れそうです。カタログ値の7~8割が目安でしょうか。バッテリー容量の1314Whから概算した電費は36.1km/kWh(推計値)でした。

「Mobile Power Pack e:」は取り外して充電可能

充電のためにはシートを開けます。「Mobile Power Pack e:」が登場。これですよ、これ。EM1 e:のカタログには、バッテリーを取り外して自宅で充電するシーンが描かれていて、電動アシスト自転車のような使い方を主に想定しているようです。ただ、個人的に購入の決め手となったのは、このバッテリーがGachacoで使われるバッテリーと共通ということでした。

Gachacoは、ENEOSホールディングスと本田技研工業、カワサキモータース、スズキ、ヤマハ発動機の計5社が共同出資している会社で、Mobile Power Pack e:を使ったバッテリーシェアリングサービスを東京および大阪を中心に拡大中です。

乗っているバイクのバッテリーが減ってきたら、近くのGachacoステーションに立ち寄り、放電したバッテリーを充電済みバッテリーと交換。するとまた満充電から走り出せるという仕組み。現在利用できるのは法人に限られていますが、何度でも交換し放題というサブスクリプション・プランを展開しています。

EM1 e:+Gachacoの組み合わせには、実用的な電動二輪の充電網が広がる未来を感じます。以前に台湾「Gogoro」社の電動バイクとバッテリー交換システムを導入している石垣島の「GO SHARE」を試してみて(関連記事)、EVバイクの普及が特定エリアでなら可能だと実感しました。その全国版がGachacoです。

Gachacoステーションはいま東京、大阪などに約30ヶ所設置されていますが、いずれ各地にサービス網が広がれば、電動バイクでどこまでもツーリングできちゃいますよね……と妄想は広がります。

個人向けサービス開始に向けて準備中

着々と拡充進展中のGachacoステーション。写真は2023年2月にオープンした東京・世田谷区の「ENEOSマルチモビリティステーション」。

全国津々浦々というのは気が早すぎる話かもしれませんが、昨年10月の法人向けサービス開始以降、実証実験などを重ねながら事業を拡大。2024年に個人向けサービス開始を目指して準備中のようです。

ちょうどいま、個人向けサービス開始に向けて、バッテリーシェアリング体験モニター(30名程度)を募集しています。実施地域は、東京都練馬区およびその周辺エリア。10月下旬から12月下旬の2カ月間、ホンダEM1 e:かBENLY e:(いずれも原付一種)を貸してくれて、Gachacoステーションでのバッテリー交換を体験利用することができます。興味のある方は、ぜひ申し込んでみてください(応募締切は9月20日)。

●バッテリーシェアリング体験モニターのプレスリリースはこちら

電動バイク普及にバッテリー交換システムが有効だと思うのは、簡単便利だからというだけではありません。コストパフォーマンスも見逃せない要因です。EM1 e:のメーカー希望小売価格は29万9200円ですが、そのうち車両本体は15万6200円でしかなく、バッテリーが8万8000円、専用充電器が5万5000円という構成。バッテリーと充電器の値段がほぼ半分を占めています。

これがGachacoサービスを利用すると、バッテリーを買わなくていいので、乗り出し価格がいきなり半額近くに。さらに言えば、劣化によるバッテリー買い替えも心配しなくてすみますね。

ただ、先述したように、現在は法人契約のみ。なので業務用を想定したプランしか設定されていません。最も走行距離が短いショートプランで月額6050円。25kWhまでの電力量が料金に含まれていて、超えた分は270円/kWhの従量課金となっています。配達などで毎月何百kmも走るお仕事バイク向けの料金体系ですね。通勤や通学、買い物などであれば、せいぜい数十kmというところでしょう。

なので個人向けには、もう少しリーズナブルな料金プランになるはず。ヒントになりそうなのは先述した体験モニター向けに設定されている利用料金です。月会費が300円で、利用料金は300円/kWh相当の従量課金制。あくまでモニター利用時の料金設定で、本サービスでは変更もあるはずですが、目安にはなりそうです。

私のEM1 e:も、毎月何百キロも走りそうにはないので、25kWh相当はトゥーマッチ。個人向けサービスの開始を待ってもよかったのですが、早く試してみたかったので仕方ありません。不要な使い放題プランでスマホを契約して毎月ギガを余らせるようなものですが、アーリーアダプターの楽しみは捨てがたい。Gachacoを目一杯使い倒してみようと思います。

法人向けショートプランに申し込んだところ、Gachacoのみなさん、迅速に対応してくださって、早々に交換用バッテリーとIDタグを受け取ることができました。Gachacoステーションでのバッテリー交換がどんなものか、試しに行ってみます。

続きは後編にて。

今回はバッテリー付きで購入したので、自宅の100Vコンセントでも充電可能。

【関連記事】
ENEOSマルチモビリティステーションでGachacoとUber Eatsが電動バイクの実証実験(2023年2月4日)
電動バイクのバッテリーシェアリングサービス『ガチャコ』が始動〜ただし当面は法人のみ(2022年4月25日)
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取材・文/篠原 知存

この記事のコメント(新着順)2件

  1. こんにちは。初めまして。一昨日の夜、EM1 e:の納車が完了し、大昔に原付に乗っていた頃と違い、ライトの常時点灯が義務化されるなど、戸惑いもありましたが、ちょっとした買い物やコーヒーを買いに出かけたりと近所を走っています。

    自分は雪の降る地方に住んでいて、「Gachacoの一般的普及は難しいよな。」と思ったのと、補助金の兼ね合いで、バッテリーを予備で1個追加購入しました。

    試乗で乗って体感するまで分からなかったことですが、エンジン音やそれに伴う振動が無い静かな状態での移動が気持ち良くて、乗るたびにその喜びを味わっています。

    ツーリングなど長距離の移動用に作られてはいない車種ですが、自分なりに工夫して運転を楽しんで行きたいと思っています。

    EM1 e:を含めた電動スクーターの記事を楽しみにしております。とりとめのない長文失礼致しました。

    1. でんどうしやちさま
      コメントありがとうございます。
      そして納車おめでとうございます。同じバイク!というだけでうれしいです。
      ほんとに静かな乗り物で、一度乗ると戻れなくなりそうです。

      バッテリーが2つあると、積んで走れば航続距離は一気に倍ですね。
      私もGachacoを使っていますが、もともと買ったバッテリーがあるので、
      リアにキャリアバッグをつけて、
      ロングレンジエクステンダーとして使うことを計画中です。

      電動バイクライフを楽しみましょう!

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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