バッテリーと原料採掘の膠着状態がEV革命を脅かす

電気自動車のバッテリーにはリチウムやニッケルなどの金属が使われており、EV生産量が増えれば当然必要な金属も増えてきます。リサイクルを含め、供給をいかに安定させるか様々な企業が模索していますが、その第1段階である採掘はどうなっていくのでしょうか。全文翻訳記事をお届けします。

バッテリーと原料採掘の膠着状態がEV革命を脅かす

元記事:The Battery & Mining Catch-22 Threatening The EV Revolution by Zachary Shahan on 『CleanTechnica

原料調達のシステムを整えるには年単位の時間がかかる

電気自動車にはバッテリーが必要不可欠で、バッテリー工場を作って稼働をするまでに1、2年はかかります。また忘れられがちなのが、バッテリーは空気でできているわけではないということです。バッテリー生産プロセスに入る前に、例えば正極などの構成部品を作る必要があり、正極に入れる化合物も必要になってきます。そしてその前に、原料を採掘する必要があるのです。

専門家が語ったところによると、問題は採掘場の操業開始までには5~7年かかり、また採掘には十分な投資がされていません。

さらにテスラ、フォルクスワーゲンやその他の自動車メーカーから採掘量を増やすようにプレッシャーがかかっていますが、そのために必要な投資には、ずれと膠着状態が生じているのです。何が起きているのか、RK Equity のハワード・クライン氏とロドニー・クーパー氏から受けた説明を書くには2、3の段落が必要となりますが、その価値はあると思います (テスラや他の自動車メーカーのリチウムとニッケルのソーシングについては、こちらの記事もご覧ください)。

どの産業においても、製品需要の見通しが楽観的過ぎると過剰生産が起こり、生産者を悩ませることになります。市場のニーズを大幅に超えた生産能力を有する設備への投資を回収するのが難しくなるのです。競合者も飽和状態の市場に製品を売ろうとするので、競争に勝つために価格が下げられます。中国では過去2年、リチウム化合物のスポット市場で、また代替物質のニッケル銑鉄が増産されたことにより、ニッケル市場ではさらに長い期間この現象が見られました。

リチウムやニッケルの採掘・処理市場が直面しているような状況では、希望価格まで商品の値段が戻る前に生産能力を拡大するのを企業は嫌がります。また企業は再び痛手を負わないよう、生産拡大のためにはより確実で分かりやすいコミットメントである現金を集めることに集中します。計画投資のリターンが極めて高いわけでもない限り、リスク・キャピタルはセクターに流入してきません。そしてさらにややこしいことになるのです。

豪・西オーストラリア州にあるニッケル採掘場。

現在の原料価格がそのまま続くとは限らない

リチウムとニッケルの価格は供給過多により低くなっていると前述しました。ここで問題なのは、サプライ・チェーンの深部まで見ているテスラのようなバッテリーメーカーや自動車メーカーは、このまま低価格が続くと考えている点です。

クライン氏によると、商品価格を予想するのは非常に難しいため、現在の価格を見てそれが続くと皆思いがちなのだそうです。しかし、直近の供給過多により価格が低く抑えられており、需要が追い付いてきて生産施設(今回は採掘)に投資をしたい場合、価格が再び上がることを理解する必要があります。採掘はまず資本支出があらかじめ必要な、非常にお金のかかる産業です。さらに採掘現場の建設を始めるには、サプライヤーはただお金を投げ捨てることなく投資に対する十分なリターンを得るため、もしくは最低でも市場が必要とするよりも大きい生産能力を再び抱えることのないよう、(バイヤー側の)深いコミットメントを必要とします。

よって、長年にわたる供給過多から来る低価格を期待するバイヤーと、採掘・生産量拡大のためにさらなる資金と固いコミットメントを必要とするサプライヤーという矛盾が出てきます。バイヤーが折れなければ、にっちもさっちも行かない状態になってしまいます。

クーパー氏が強調したもう1つのポイントは非常に興味深いものです。比較的小規模の採掘会社では条件の良い利率が得られませんが(2桁ですらあり得ます)、大手自動車会社やテスラでさえも小規模事業者に比べてかなり低い利率で融資を受けることができ、S&P500に数えられている企業になると利率は1%をかなり下回ります(例として0.3%、0.4%)。

よって、低コストバッテリー用の低コスト鉱物(の確保)を実現したいならば、良い利率を受けられる大企業が鉱物生産量拡大の投資に使う融資を受けなければなりません。採掘会社が自ら融資を受けて操業規模を拡大することを期待すれば、バッテリーや鉱物の価格はそこまで下がらず、むしろ需要が増えて供給不足に陥った場合は価格が上がることになるでしょう。ここで重要なのは、イーロン・マスク氏がリクエストしたように “効率的に採掘する” だけが商品価格を下げるための道ではなく、最適化されたバランスシートときちんと計画された長期供給やストリーミング契約(※訳者注:資源の産出前に買い手に売却をし、資金を調達する契約)も重要な役目を果たせるのです。

以上のことからクライン氏とクーパー氏はいくつかの提言をしています。

• 自動車メーカーはリチウムとニッケルの最低価格を、新しい採掘場に投資するのに必要十分なレベルで維持する必要がある。
• 自動車メーカーは採掘・生産拡大に必要な融資やファイナンスの面を保証することにより、コストを下げることができる。
• 株主は配当金だけにフォーカスするのではなく、鉱山会社の成長可能性も注視する必要がある。一方で利率と規模拡大のためには新しい投資家も必要とされている。
• 規模を拡大しコストを下げるためには、バッテリーのサプライ・チェーンをさらにまとめていく必要があり、そのためには垂直統合がより進むかもしれない。

これに関してのさらに詳しい内容は、この記事(英文)の最初の部分でカバーされています。

終わりに、もしクライン氏やクーパー氏に、バッテリーや採掘に関して聞いてほしいことがあったらお知らせください。次回は彼らにリチウムに関して話を聞く予定です。

(翻訳・文/杉田 明子)

One thought on “バッテリーと原料採掘の膠着状態がEV革命を脅かす”

  1. 今回は資源の話ですね。応用化学を学んだ自分、この件は興味津々です。
    コバルト・ニッケル・リチウムなどの資源は30年前でもあまり多用されてなく、ニッケルが充電池に使われる程度だったので…でもニッケル水素蓄電池との奪いあいになりかねなませんな。
    リチウムの代替にナトリウムイオン蓄電池が現在開発中だとか…ただどうみてもリチウムイオン蓄電池ほどサイクル寿命がないのが課題だそうです。当然SCiBのチタン酸リチウム電池とは二桁の大差!!(爆)
    とはいえナトリウムイオン蓄電池が実用レベルに達したらある程度は緩和される可能性が考えられます。安価&大容量&長寿命の蓄電池が開発されればかなり変わるんじゃないですか!?

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					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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