BYD製EVのターゲットは低&中所得者層〜LFPバッテリーにすべてを賭ける

徐々に相対的な価格が下がってきた電気自動車ですが、庶民にとってはまだまだお高いイメージがあります。中国のBYDはバッテリーをコストパフォーマンスに優れたLFPに絞ることで価格を抑える戦略を打ち出しました。全文翻訳記事でお届けします。

BYD製EVのターゲットは低&中所得者層〜LFPバッテリーにすべてを賭ける

元記事:BYD Targets Low- & Middle-Income Drivers, Goes All In On LFP Battery Technology by Steve Hanley on 『CleanTechnica
※冒頭写真はBYDのプレスリリースより引用。

LFPバッテリーで競争力を高める戦略

BYDは中国市場向けに2つの新EVモデルを発表しました。また、これからはLFPバッテリーのみを使うということです。

【編集部注】LFPバッテリー = 正極素材にリン酸鉄リチウムを使用。いわゆる三元系のリチウムイオン電池に比べ、エネルギー密度が少なく低温時に性能が低下しやすい弱点があるものの、低価格で安全性が高く、長寿命でコストパフォーマンスが高いとされています。またコバルトやニッケルを使用しない強みがあります。

中国で税控除や補助金を入れると、モデル3の価格は24万9,900人民元(約420万円)となります。BYDはより価格の安い電気自動車を求める層をターゲットにしています。そこで最近2つの新しいモデルを発表しました。セダン型の秦(Qin)PlusとSUV型宋(Song)Plusで、それぞれベース価格は12万9,800元(約215万円)と、16万9,800元(約282万円)となります。人気のコンパクトEVであるBYD e2の価格は9万9,800元(約166万円)~で、最近2021年版にモデルチェンジがなされました。またBYDの四輪駆動SUVであるTangでさえも30万元(約498万円)以下で販売されており、同等の装備を備えつつも価格が34万7,900元(約578万円)~であるモデルYの競合となります。

上海の独立系アナリストであるGao Shen氏は、Yahoo Financeに「テスラとその中国ライバル勢がアッパーマーケットをターゲットとしているのに対し、BYDは中国の中間層と価格に敏感な消費者に、手の届きやすい価格の電気自動車を提供しています。販売台数と市場シェアにおいて、BYDはこの急成長を見せるEV市場で競争力を持つでしょう」と話しました。

BYDのブレードバッテリー。画像はBYDプレスリリースより引用。

今週、BYD会長であるWang Chuanfu(王伝福)氏は、ブレードバッテリーと呼ばれる電池のモジュールを生産している重慶市のBYDバッテリー工場から、次のように話しました。「今日から、BYDブランドのすべてのNEV(新エネルギー車両)にブレードバッテリーを採用します。安全性がこれ以上NEV普及の妨げにならないことを期待しています。業界内では、航続距離を伸ばすことだけ追い求めて安定性と安全性を犠牲にし、見境なくNCMバッテリーを使うところもあります。中国では昨年、NEVから煙が噴き出した事件が124件報告されています」。

【編集部注】NCMバッテリー = ニッケル、コバルト、マンガンを正極素材とするいわゆる三元系バッテリー。NMCとも表記されます。三元系バッテリーには、ニッケル、コバルト、アルミニウムを使う NCA などがあります。

LFPバッテリーはエネルギー密度や急速充電速度においてNMCに劣る一方で、かなり安価で熱暴走も起こりにくくなります。ジェフリーズによると、グローバルな電気自動車へのNMCバッテリー採用率は昨年4.1%減って38.9GWhとなり、その市場シェアは61%でした。またLFPの採用率は20.6%増加の24.4GWhで、市場シェアは38.3%となりました。LFPバッテリーに関しては、ニッケルやコバルトなど限られたリソースゆえのサプライチェーン問題も出てきません。

Mining.comが報道した、BMOキャピタルのアナリストによるリサーチには、「BYDがLFP界のリーダーであることを鑑みれば、この発表はそこまで驚くようなものでもなく、またNMC勢に勝つための良いプラットフォームとなっています。これから数年で電気自動車に使われるバッテリー化学の多様性を促進するでしょう。ただニッケルやコバルトの需要が実質減ることになります」と書かれています。

高い安全性と手頃な価格で勝負する

EV購入者にとって不可欠なデータは航続距離と充電時間です。しかし自分が持つ車の中に「熱事件」を起こすようなバッテリーが積まれていないと知るのも、一部の消費者にはとても重要なことです。ヒュンダイとGMは、LG Chem製のバッテリーセルから出火する問題に対処するのに苦労してきました。世界中で報告されたのはたった10件ほどですが、ヒュンダイはリコールをしてほとんどのバッテリーを交換しようとしており、これには10億ドルほどかかるかもしれません。GMはソフトウェアパッチで対処するとしています。

対照的にBYDは昨年ブレードバッテリーを発表した際、バッテリーがいかに厳しい拷問的な実験を生き抜いたか強調しました。実験は斧で叩く、釘を突き刺す、粉砕する、曲げる、300℃の高温で熱する、260%までの過充電をする、というようなものでした。航続距離も重要かもしれませんが、電気自動車にとって大切なのはそれだけではないのです。

EV市場には多くのプレイヤーがいますが、この楽しい業界に参入したがっている企業がたくさんあります。しかし全員が生き残るわけではありません。成功しそうなのはテスラ、フォルクスワーゲン、ヒュンダイ/キアですが、BYDもリソースへのコミットメントと手頃なEVにフォーカスすることで、市場で長く活躍するプレイヤーになりそうです。

(翻訳・文/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 日本人にとって一番衝撃的なのは「生き残れそうな」EVメーカーに日産が入っていないことですね・・

  2. 購買層は100パーセント中国国内だけでしょう。いくら安くても仮にも車、99セントショプの使い捨て商品でもあるまいに、、。

    1. 私は日本に住んでますが、こういうEVなら購入検討しますが。

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					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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