【元記事】CATL’s M3P inside the Model Y: the next LFP? by Lei Xing.
低コストで高いエネルギー密度を実現するM3Pバッテリー
7月22日に四川省宜賓市で開かれた世界動力電池会議で、世界最大のEVバッテリーサプライヤーのチーフサイエンティストである呉凱氏は、M3Pの大量生産がすでに始まっており、来年から商業利用が始まると話しました。
8月3日、中国メディアのLatePost Autoは、CATLが今年の第4四半期に72kWhバッテリーパック搭載の新しいモデルYに使うM3Pバッテリーを、テスラに供給し始めると報じました。2023年の早い時期から販売されます。
さらに時を遡って2月に株主向けの声明で、CATLは初めてM3Pの導入計画を発表しました。声明には、M3Pは厳密にはLMFPではなく、他の金属要素が含まれていること、さらに「弊社ではこれをリン酸ベースの三元系バッテリーと呼んでいます。NEVのコストとして電池は依然大きな割合を占めますが、既存の三元系バッテリーよりもコストがかかりません」と明示しています。三元系バッテリーはNCM電池として知られ、正極にニッケル、コバルト、マンガンの3つが使われています。
呉凱氏によると、M3Pバッテリーは新しい正極材の組み合わせでできており、NCMバッテリーよりもコストを抑えながらも今市場に出ているLFPバッテリーより高いエネルギー密度を実現しています。専門家によるとM3Pのエネルギー密度は最高で210Wh/kgと、同等のLFPバッテリーよりも15~20%高く、安全性も同じレベルで、コストが低くなります。
最近発表された麒麟の構造的なイノベーションと同じく、M3PもCATLがバッテリー化学/原料に起こしたイノベーションの産物です。そして今、CATLは両方のテクノロジーを融合させようとしています。
【関連記事】
CATL製『麒麟電池(Kirin battery)』の電荷量は「4680セル」に比べて13%増(2022年4月15日)
LatePost Autoによると、M3P用のLMFP原料はShenzhen Dynanonic(深圳市德方納米科技股分有限公司)が提供する予定で、今年後半に11万トンの原料を生産する計画です。M3Pの正極材には、電池寿命を伸ばし内部抵抗を減らすために三元系リチウムとLMFP原料が注入されます。LMFPの原料は、100%リン酸マンガン鉄リチウムのみ、もしくはアルミニウムやマグネシウムなど他の原料と混ぜることもあります。
Shengang Securities (申港証券)によると、M3PバッテリーはLFPオリビン構造をベースの格子構造とし、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムその他の金属要素から2つを混ぜたもので、これを鉄と置き換え、新しくリン酸をベースにした三元系構造を使っています。この設計により充電容量やサイクルの安定性を向上することができます。また専門家は、M3Pバッテリーがマンガンその他の原料を使ってリチウムなどの希少原料を置き換えた新しいソリューションであるため、低いコストを実現できていると指摘しています。
中金公司(CICC)は2025年までにEV産業内で56GWh分のLFPがLMFPに置き換わると予測しています。
世界のEV用バッテリーは三元系からLFP、そしてM3Pへ
世界動力電池会議でCATLの呉氏は、バッテリーパックの利用率が56%から72%に引き上げられ、セルも16%増量した麒麟のバッテリー構造を活用して、航続距離700kmほどの主流EVをM3Pのターゲットとすると話しました。エコノミー/エントリークラスで、より少ない航続距離を必要とするモデルには、こちらも麒麟バッテリー構造を使用したナトリウムイオン電池を提供する予定です。乗用車に関してCATLは、必要な航続距離に応じて1,000km、700km、300~500kmの、3つのセグメントにフォーカスしていきます。
ここ数カ月で、M3Pに関しては色々な動きがありました。さかのぼって昨年11月に、CATLは4億1,300万元(約83億円)をLMFP生産で勢いを増すJiangsu Lithitech(江苏力泰锂能科技有限公司)に出資すると発表しました。同社は年間2,000トンのLMFPを生産できると報じられており、最近追加で3,000トンの生産能力を持つ新しいラインを増設したいと考えていると示唆しました。
またメディアの報道によると、Sunwoda(欣旺达电动汽车电池有限公司)やEVE Energy(恵州億緯鋰能股份有限公司)など、他のバッテリーセル・サプライヤーもメーカーとM3Pの試験をしており、Beijing Easpring Material Technology(北京当升材料科技股份有限公司)や Ningbo Ronbay Lithium Battery Material(寧波容百新能源科技股份有限公司)もLMFP用のプロジェクトの準備をしているようです。BYD、Gotion、NIOも関連の研究を進めています。
バッテリー業界内では、リン酸ベースのバッテリーとしてはLMFPが徐々にLFPに取って代わって主流になり、NCMよりも市場に広がるスピードは速くなると予想されています。今年前半では、中国国内でメーカーが実際に使ったLFPとNCMの割合はそれぞれ58.5%、41.4%でした。
2021年の世界市場では、LFPバッテリーのシェアは3分の1ほどで、60%以上を占めるNCMバッテリーよりもかなり少ないものでした。TrenForceからの最近のレポートによると、2024年からLFPの世界シェアがNCMを抜くとされています。
テスラが昨年よりモデル3の一部エントリーレベルや、今年に入ってからは第1四半期に生産した車両の約半分にLFPを使っていて、CEOのイーロン・マスクがLFPを推していること、また他の西側自動車メーカーもLFPに方向転換している(例:フォードとCATLの最近の発表など)など、M3PまたはLMFPがLFPのサブ的な立場として軌道に乗るのは早いでしょう。M3Pバッテリーが理論的にはLFPよりも高いエネルギー密度を持ち、安全性をキープしながらもNCMよりコストが低いことから、航続距離が長いEVを手の届きやすいものにするためには必要不可欠になりそうです。さらに、LMFP原料の生産規模に関する動きを鑑みると、M3Pは次のLFPになり得ます。
これから先、競争の激しいバッテリー開発では化学及び構造(CTP、CTB、CTCなど)のイノベーションが引き続き見られるでしょう。そしてCATLはその中心にいるのです。
(翻訳/杉田 明子)
LFP系はコスト等メリットはありますが電圧の変化が小さいことが課題でしょうか。
テスラでは週に一度は満充電にしてキャリブレーションすることを推奨していますし。
自宅充電できない場合このキャリブレーション作業がネックになるかもしれません。
自宅充電できない人は買うなと切り捨ててしまえばそれまでなのですが。
BYDのSEALもこの点が気になっているところ…
BYDのブレードバッテリーも中身はLFP。700km(EPAでは550km?)程度のレンジが確保できるのであれば、安全性とコストを天秤にかければNMCの魅力は薄れてきます。
僕の妄想ですが、アクアのニッケル水素電池のバイポーラ構造をLFPとかにも適応できないのでしょうか。詳しいい方、教えて下さい。