千葉県がEV所有者対象に災害時電力供給ボランティアへの登録制度を開始〜全国へ拡大を

千葉県は電気自動車(EV)などの所有者を対象に、災害時に避難所などで電力供給に協力してもらうボランティアの登録制度を開始しました。EVを災害対応に使う制度は自動車OEMが市町村と協定を結ぶ動きが広がっていますが、県レベルではまだ少数です。千葉県の狙いや、災害ボランティア制度の現状についてお伝えします。

千葉県がEV所有者対象に災害時電力供給ボランティアへの登録制度を開始〜全国への拡大に期待

※冒頭写真は7月29日に発表された鹿児島県阿久根市と日産自動車の電気自動車を活用した「脱炭素化及び強靭化に関する連携協定」締結のニュースリリースより引用。

災害時に被災者の心強い味方になるEV

千葉県は2022年6月28日、外部給電機能を持った電気自動車(EV)や小型発電機を所有する県民や企業を対象に、災害時に避難所などでの電力供給に協力するボランティアの登録制度を開始しました。

東日本大震災の後、EVを使った電力供給などの災害対応が注目を集めています。東日本大震災直後、ガソリンが不足していた東北の被災地では、三菱自動車がガソリン不要の『i-MiEV』なを貸与して現地の活動を支援しました。

その後、三菱自動車は2012年に『i-MiEV』から電力を取り出すことができる外部給電器(MiEVパワーボックス)を発売し、電力供給にEVを使う道筋をつけました。2019年9月には、日産自動車が台風15号による長期停電が起きた千葉県に『リーフ』を貸与して電力供給の支援にあたったことも注目を集めました。

MiEVパワーボックス。

災害時に途絶したエネルギーのインフラは電力から回復することが多いのですが、近年は北海道胆振東部地震など、電力系統が大きな被害を受けて復旧に時間がかかるケースも出てきています。そんなときに電力供給を担うことができるEVは、被災者にとって心強い存在になります。

EVを使った災害支援は、日産自動車が2018年に開始した「ブルー・スイッチ」活動の中で自治体と協定を結んだり、一般社団法人災害時電源等派遣互助協会が運営する『Power Aid Japan(パワーエイドジャパン=PAJ)』というプロジェクトが動き始めるなど、多様な取り組みが動いています。

【関連記事】
災害時の電気自動車による電源救援を支援する『パワーエイドジャパン』が始動(2020年10月13日)

ゼロエミッション社会を目指す日産の「ブルー・スイッチ」活動では、災害時時にEVを貸与して電力供給することなどを盛り込んだ協定を自治体と結んでいます。日産によれば、全国で災害関係の協定を結んでいるのは、市町村が135件、都道府県が9件の合計144件になります。

三菱自動車も同様に全国の自治体と災害協定を結んでいて、2022年7月時点で協定締結数は200を超えるようです。

この数を見ると、自治体の側でも災害時のEV利用に関する意識が高まっていることがわかります。

外部給電機能がなくても登録可能

では千葉県のボランティア登録制度を見ていきましょう。都道府県レベルでこうした登録制度を実施しているのは、調べた限りでは、鳥取県や栃木県などに先行事例がありました。

千葉県のボランティア制度に登録できるのは、外部給電機能をもつEVやPHEV、FCEV、それに小型発電機を所有している人や企業です。小型発電機の場合はインバーター搭載の出力1.5kW~5.5kW程度のものが対象です。

EVなどの車を登録する時には、外部給電器を自分で所有している必要はありません。給電器は避難所(基礎自治体)の側で用意することになっています。当然ですが、車の電力、発電機の燃料などは自前で用意する必要があります。

登録期間は3年間で、その後は自動更新されないので改めて登録しなおします。先行して登録制度を実施している事例を探すと、2018年に同様の制度を始めた練馬区では条例を定めていて、登録は年度ごとに自動更新、車両の変更があれば届け出ることになっています。どちらがいいかは、しばらく制度を動かしてみての判断になりそうです。

登録後は、必要に応じて現地の避難所での訓練や研修などを実施。発災時には避難所を運営する自治体からの応援要請に応じて千葉県の災害対策本部で調整をしたうえで、登録者に連絡して現地に行ってもらうという流れになります。

EVの災害利用を地域防災計画に組み込み

千葉県の登録制度の大枠は、鳥取県の「とっとりEV協力隊」や栃木県の「栃木県災害時協力車登録制度」と同様になっています。なお「とっとりEV協力隊」の場合は、県が保有する外部給電器『Power Exporter9000(ホンダ)』を使うことが前提になっていて、登録可能な車種まで明記されています。

とっとりEV協力隊による防災訓練風景。(公式サイトより引用)

これからのEVはV2L機能を備える車種も増えそうですし、給電器が各車共通規格になっていると利便性が上がりそうです。このあたりは自工会、自技会さんにお願いしたいところです。また、自動車メーカーの協定とは別に、個人でも協力できる体制があれば支援範囲が広がるのは間違いありません。

災害時にEVを利用することについては、国土交通省と経済産業省が作成した「災害時における電動車の活用促進マニュアル」とともに、このマニュアルのもとになった経産省のアクションプランがあります。

経産省はアクションプランの中で、都道府県および市町村が法律に従って定める地域防災計画の中に、EVの活用を含めるよう呼びかけを行うとしています。

地域防災計画は、災害時対応の大前提になるマニュアルのひとつです。実際にどの程度の数の自治体が防災計画に組み込んでいるのかはわかりませんが、前述した練馬区ではすでに、地域防災計画にEVの活用が含まれています。

県レベルで動くことで災害時の意識向上を狙う

電力ボランティア登録制度を担当する千葉県危機管理政策課は、今回の狙いについて、2019年9月の電力不足の経験から、「電力確保は県として自ら行いたいが、制度を作ることで災害時の共助の意識を高めていきたい」と話しています。

登録者数の目標値は今のところありません。どのくらいの数が集まるか見えていない状況でもあり、制度の中で実施する登録者の研修内容なども未定です。

担当課によれば、「個人と企業と両方を募集しているので、どういう方が登録するかによって変わってくる。(研修、訓練の)中身はこれからだが、他県では実際に避難所に来てもらって給電の手順確認などしたことがあるとのこと。ただ千葉県には今は避難所はないので、これから方法を検討する」そうです。

ちょっと話が横道ですが、災害時に設置される避難所は、災害対策基本法に基づいて市町村が開設、運営をすることになっているので、千葉県はそうした自治体からの求めがあった場合に動くことになります。日産や三菱自動車が基礎自治体と協定を結んでいるのはこのためです。

民間セクターは将来の広域連携も視野に

では千葉県や鳥取県のように、県レベルで動くことの意味はどこにあるのでしょうか。

現行の災害対応制度の課題のひとつに、被災した基礎自治体(市町村)が、自分で災害対応に当たらないといけないことがあります。けれどもこれは、自分も被災者になっている自治体職員が、自分の生活を横に置いて人助けをしなければいけない仕組みになっていて、災害対応の専門家からも職員への負担が大きすぎるうえ、迅速な対応が難しいと指摘されています。

一方、災害先進国というか、地震などの自然災害が比較的多いイタリアのような国では、中央政府が災害対応全般を担い、避難所開設から運営、復旧工事までを主導します。アメリカやカナダでも同様の仕組みがあります。要は、被災していない人が被災地を支援するわけです。

というわけで、仕組みの根本的な改善とは言えませんが、都道府県が災害対応の支援をする枠組みは、災害取材をしてきた筆者の個人的な思いとしては、とても有意義なことだなあと思うのです。

ただ、広域での支援が有用とは言え、千葉県は「電気自動車は移動のために電力使うので、あまり広域(の支援を)想定すると充電が厳しい」と考えていて、県境を越える連携までは考えていないそうです。それでも千葉県は広く、例えば2019年の大風被害は「房総半島の南側が被災になったので、そうした時には北の人に来てもらうなど、局地的な災害があった場合を想定している」とのことでした。

また自治体による取り組みについて、民間の立場でEVを活用した電源救援活動を支援する『Power Aid Japan』(PAJ)設立のキーパーソンだった本郷安史氏(日本環境防災社長)はこう述べています。

「各自治体がこのような(EVを活用する)取り組みを実施していった先に、災害時電源供給に関する自治体間の広域相互連携が構築されてくることが望ましい」

「EVが日本全国に普及し、自然にその外部給電機能を活用したアウトドアライフが浸透し、さらにそれが災害時の緊急電源救援にも活用できるという気づき・発想が広がり、国全体のレジリエンス強化につながっていってほしい。また、そのような時代が来た時に、PAJが一定の役割を担うようになっていればよいと思う」

EVはカーボンニュートラルに貢献するだけでなく、電力の平準化、エネルギー利用の効率化、そして災害支援まで、とても広いジャンルで利用することができる道具です。これをフル活用しない手はありません。

欲を言えば、給電器がなくても電気を取り出せるACコンセントがEVに備わっていると、さらに有用感が増します。なんていうことを付け加えたりしつつ、災害支援の輪が広がるといいなあと思う、2022年夏の夕暮れなのであります。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. i-MiEV(M)10.5kWhを作業車に使いMiEVpowerBOXやポータブル電源、可搬型ソーラーパネルを保有する電気管理技術者です、といっても千葉県でなく岐阜県民ですが(笑)。

    上記の条件を満たしているので個人自営業者でありながら自治体の防災協定や各地の社会福祉協議会におけるボランティア登録も実施しています。まだこんな人はわずかですが、自身イノベーターというか人柱となって話のタネを作り情報を共有したいですね。
    すでに自治体入札を前提にあれやこれやと提案をかけるのも営業のうち、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる…戦国時代で言えば織田信長の配下で人たらしの異名を持つ羽柴秀吉状態ですがな。
    なんとかしてWin-Win の関係を作ることに鍵があると思います。
    あとはこの千葉県の前例に倣う都道府県が今後どれだけ増えるのか!?このあたりは政治信念も絡みますが、住民の民主性が高い都道府県から進むと思います。むしろイノベーターやアーリーアダプターが保守的な都道府県を批判するのも手かもしれませんが!!(爆)

    1. Eddy様、ご指摘ありがとうございます。運営者にコンタクトし、修正してくださるそうです。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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