災害時の電気自動車による電源救援を支援する『パワーエイドジャパン』が始動

毎年のように起こる大雨などの自然災害による停電時、電気自動車を活用した電源救援活動を支援するためのネットワークとして『Power Aid Japan』というプロジェクトが始動しました。EVオーナーなど個人の登録も募集しています。

災害時の電気自動車による電源救援を支援する『パワーエイドジャパン』が始動

災害による停電時に電気を届けるために

『Power Aid Japan(パワーエイドジャパン=PAJ)』は、2020年6月に設立された一般社団法人災害時電源等派遣互助協会が運営するプロジェクトです。災害による停電時、プロジェクトに登録している全国の自治体と、カーディーラー、レンタカー会社といった企業などが協力し、いつどこで災害が起きても即応できる電源レスキュー組織とすることを目指しています。

近年、日本では毎年のように「想定外」や「前代未聞」の自然災害が発生しています。2019年9月の台風15号では、被害の大きかった千葉県内で大規模で長期間の停電が発生し、日産リーフを中心とした電気自動車が外部給電器とともに非常用電源として活躍したことが大きく報じられました。「走る蓄電池」としての機能は、大容量バッテリーを搭載する電気自動車ならではの利点です。

電気自動車の給電機能活用にはかねてから日産も注力しており、自治体と連携して非常時には近隣の販売会社などから電気自動車と外部給電器を派遣する協定を結ぶ『ブルー・スイッチ』というプロジェクトを展開。10月8日に発表された愛知県一宮市で、全国で64件目の協定締結となっています。

経済産業省がマニュアルを公表

2020年7月には、経済産業省と国土交通省が連携して、電動車の災害時における移動式電源としての活用促進を促すため、「災害時における電動車の活用促進マニュアル」を発表しました。電気自動車を移動可能な電源として活用することは、日本ではひとつの大きな流れになりつつあるといっていい状況です。

日産の取り組みであるブルー・スイッチも素晴らしい。とはいえ、1社だけの心意気頼みでは難しいケースもあるでしょう。また、災害に見舞われた地域にある日産の販売会社もなんらかの被害を受けることもあるでしょうから、「周辺の自治体が助け合う相互扶助の仕組みが必要ではないか」という理念のもとに、PAJのプロジェクトがスタートしたのです。

自治体のネットワークを協力企業や個人も支援

基本的な仕組みとしては、PAJが全国各地の自治体と協定を締結。それぞれの自治体がPAJの会費を負担するとともに、1~10台程度の外部給電器とEV、PHV、FCVなどの電動車両を保有します。地域内で災害が発生した際には、自身で所有する電気自動車や給電装置を活用できるほか、被災していない周辺自治体から必要な数の電気自動車や給電装置、またその運用に必要な職員などを迅速に派遣します。

さらに、電気自動車を所有するレンタカー会社などが協力企業として登録。電気自動車を所有している個人の登録も募り、災害時の救援活動に協力を求めています。まだ稼働した実例はないですが、企業や個人が救援活動に参加、協力した場合には、原則として救援を受けた自治体から後日実費を支払う仕組みとすることを見込んでいるということです。また、電気自動車を災害救援に使用した際に適応される損害保険のメニューについても損害保険会社との間で検討中とのことです。

【PAJによる災害時電源派遣の概要】
①各自治体がEV外部給電器を一定数所有し、災害時緊急電源派遣の互助体制を構築。
②PAJは発災時、被災自治体からの要請を受け、EVと外部給電器を手配、最適配分を調整し、被災地の避難所などに電源確保を支援。
③協定自治体は被災自治体とPAJからの要請を受け、所有するEVと外部給電器を被災地に派遣。
④必要に応じ自動車ディーラー、レンタカー会社、登録EVユーザーのEVも被災地に派遣。

地域のイベントなどでも給電を活用

たとえば日産リーフにはコンセントを挿すだけで電気を取り出せるAC出力はありません。電力を取り出すにはニチコンなどが発売している外部給電器が必要になるわけですが、いざという時に「使い方がわからない!」のでは困ります。

そこで、PAJでは登録した自治体の、たとえば「市民祭り」などのイベントで使用する電源を電気自動車から供給する取組も行っていきます。地域のイベントがいわば防災訓練にもなるということですね。

PAJを運営する一般社団法人災害時電源等派遣互助協会は、全国各地の道の駅などへの急速充電器設置を進めてきた日本環境防災株式会社の社長である本郷安史氏らがキーパーソンとなって設立されました。事務局長の平井竜一氏は2006年から三期にわたって逗子市長を務めた方。本郷氏によると「全国市長会などとも連携して、PAJを広げていく計画」とのことでした。

PAJではすでに公式サイトも公開済み。EVユーザーの個人登録も受け付けています。

【関連ページ】
Power Aid Japan 公式サイト

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. こんなものがあったらいいな
    と思っていたのですが、
    既に団体があったのですね。

    互助共助の考えのもと
    素晴らしい取り組みだと思います。

    1. Eddy さま、コメントありがとうございます。

      日産のブルースイッチを例に挙げたのは、取材時にも事例としながらPAJの意義を伺ったのと、ちょうど記事公開直前に一宮のニュースが飛び込んできた、ということで。記事中「1社だけの心意気頼み」というのは、スキームとして単独の企業が支える仕組みになっていることを示しています。

      三菱自工のDENDOコミュニティサポートプログラムも、そういう意味では同じですね。非常時には垣根を越えた連携もあり得るのでしょうが、PAJはそれを自治体を軸にした仕組みとして備える、ということだと理解しています。

      ともあれ、三菱の『MiEVパワーボックス』は素晴らしいツールですよね。リーフでは使えないのがじれったい。

  2. こんにちは、活動情報の提供ありがとうございました。
    既にi-MiEV(M)+MiEVpowerBOX保有ですので、これを機に早速登録希望のメールを送付しました。
    実は地元のNPO団体にも提案しましたがコンセプトが受け入れられないうちにコロナ禍で中断しておりました。改めて団体に賛同します。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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