パリモーターショーに見られた中国EVメーカーの大躍進

10月17日から23日(現地時間)に開催された「Mondial de l’Auto」(パリモーターショー)を、アナリストのLei Xing氏がレポート。注目したのは、会場で大きな存在感を発揮していた中国EVメーカーの躍進です。

パリモーターショーに見られた中国EVメーカーの大躍進

【元記事】
China factor in Paris: crouching tiger, hidden dragon by Lei Xing

Les chinois sont arrivés!(中国人がやってきたぞ!)

パリモーターショーでは、中国EVメーカーが自信を持って欧州市場に飛び込む準備をできていることが見て取れました。欧州で需要があるデザイン、クオリティ、商品をすでに揃えているのです。ただしすべてスムーズに行くわけではないようですが。

1カ月でこんなにも変わるものでしょうか。

9月半ばにモーターシティに戻り、3年半ぶりの開催となったデトロイトモーターショーで展示をした中国自動車メーカーやブランドはゼロでした(参照記事:デトロイトモーターショーレポート〜インフレ削減法の影響と中国勢の動き)。しかし私が数えた限り間接的なものを含めると全部で9つ(恐らくこれですべてではない)の企業が、4年を経て再開された愛の都、パリのモーターショーで展示を行いました。

世界の大部分では、パンデミックをバックミラーで見送りながら日常が戻りつつあり、中国EVメーカーは欧州の電動化のために動いています。10月17日にエキスポ・ポルト・ド・ヴェルサイユで行われたプレスデーの午後に、様々な方法で現地市場に持ち込まれた最新の商品を直接見ることができました。デトロイトモーターショーのように、パリモーターショーも昔と同じではありませんでした。少なくとも私が最後に参加した2016年とは違っていました。自動車メーカーは埋められたのはたった2つのホールしだったのです。

主催者によると、10月17日~23日の7日間で40万人がショーに訪れましたが、13日間開催され100万人が訪れた2018年に比べて半分以下となりました。

Coffee 01 PHEVを展示するWAYのブース。

展示に関する私の予想は、ホームであるフランス勢のルノーグループやステランティスと、BYDやGreat Wall Motor(GWM)のWEYやORAが率いる中国ブランドがほぼ二分し、アメリカ(Fisker)、ベトナム(VinFast)、フランス(NamX、Hopium)、スイス(Microlino)、ドイツ(e-Go Mobile)のEVスタートアップが片手で数えられるくらいになる、というものでした。

BYD、WEY、ORAはすでに欧州大陸で存在感を増し、事前に展示計画をしっかり示していました。パリに行く直前、元JACの設計重役により立ち上げられた欧州発スタートアップのXEVが、中国産ツーシーター・マイクロEVを輸入していることが分かりました。YOYOという名で、手動でバッテリーの交換ができる車種です。

ショーで発見したサプライズ

これだけに留まらず、ショーを歩いているとさらに5つの嬉しいサプライズがありました。

ホール6にあるルノーグループのブースでは、ルノー・日産とDongfeng(東風汽車団)のジョイントベンチャーであるeGTが作った小型電気SUVのダチア・スプリングが展示されており、その真正面にはルノーとJMCのジョイントベンチャーであるJMEVが作る、フランス自動車メーカーのプラットフォームで走る仕様になったMibilize LIMOがいました。

フランスの販売代理店EVE(Espace Véhicule Electrique)は驚くことにSERES 5、SERES 3、LeapMotor T03、C11を持ってきており、ホール4ではCrédit Agricole Mobility のブースでMG Marvel R (中国内と同じくRoeweブランドの認証がついていました)が他の車両とともに展示されていました。

中国のスマートEVスタートアップであるNIOやXpengは出展しませんでしたが、NIO Europeの最高経営責任者であるHui Zhang氏やXpeng副議長Brian Gu 氏などの役員陣が中国同胞の様子を見て回っていました。

私の午後はダチアのスタンドで始まりました。ルノーグループの新しいアイデンティティが見られる、エントリーレベルの若いブランドはスプリングを展示していました。ダチア・スプリングは残念ながら数年前に解散したDongfeng・ルノージョイントベンチャーが作ったRenault・シティK-ZEの姉妹モデルです。このモデルは姉妹モデルのDongfeng EX1とともに、湖北省十堰市のeGTで主に輸出用に作られており、中国から最も輸出されているモデルの1つになりました。公式資料によると、eGTは2022年の最初の9ヶ月で61,182台のEVを売りました。昨年同期から120%の増加で、輸出先のほとんどが欧州です。

ダチアのマーケティング・セールス・オペレーションSVPであるXavier Martinet氏によると、驚いたことにダチア・スプリングは個人向け販売ではフランスで最も売れているEVです。このモデルは2021年3月に発表され、6月に1万9,800ユーロ(約289万円)で販売を開始、2022年9月までに9万4,000台を受注しました。欧州でのEV浸透率と同じようにダチアのセールスの約12%をスプリングが占め、プレミアムブランドからシェアを奪いました。

「適正な中身と、適正な価格になっています。プレミアム車両をファーストカーとして持ち、この車をセカンドカーとして市内移動に使うのです。この車で広く征服していきます。自社ブランド外の80%が競合ですね」。

ダチア・スプリングの正面には、江西省南昌市で生産されたJMEVのYiをベースにしたMobilize Limoがありました。欧州のルノーグループによるモビリティプラットフォームをベースにタクシーやライドヘイリング(自動車の送迎サービス)専門に作られたモデルで、最近ユーロNCAPから4つ星を獲得しました。JMEVは今年2月にLimoを輸出し始め、イスラエルからは600台の注文が入りました。ダチア・スプリングは実用本位なEVかもしれませんが、Limoはプレミアムな雰囲気や見た目を有しており、中国産とは分からないようなクオリティの作りになっています。

ORA Funky Cat GT

ルノーグループのスタンドからそう遠くないところで、GWMがプレミアムSUVブランドであるWEYとおしゃれなイメージのORAのスタンドを立て、「コーヒー」と「猫」を連れてきていました。WEY Coffee 01、02 PHEV、ORA Funky Cat、Funky Cat GT、Next Ora Catの展示です。

GWMヨーロッパの代表であるHenry Meng氏は「パリモーターショーで私達の電気製品をお見せすることができ嬉しく思っています。欧州は中国外で最も重要な市場です」と話しました。

ORA Funky Cat GTのインテリア。

Coffee 01(中国でのMocha PHEVをベースにしたモデル)とORA Funky Cat(中国でのGood Cat)はともに、ユーロNCAPから5つ星を獲得したばかりで欧州市場にローンチしました。Coffee 01は市場に出ているPHEVの中ではEVモードでの航続距離が最長(WLTP基準で148km)で、トータルの航続距離は800kmを超え、ドイツでの価格がプレミアム・トリムで5万5,900ユーロ(約810万円)、ラグジュアリートリムで(約867万円)となります。Coffee 01より小さな兄弟車のCoffee 02は、同じレベルのパフォーマンスで2WDかを選べ、2023年の前半に欧州で手に入るようになります。

GWMは昨年ミュンヘンで開催されたIAA モビリティでのデビュー以来欧州市場への進出を準備し、まずフランスとドイツの市場に焦点を当てました。ORAは2022年中にドイツで最初のFunky Catのデリバリーを始め、その後英国、イスラエルが続きます。ドイツの顧客はすでにMy-WEYアプリから自分のWEYをデザインすることができ、11月から注文システムがオープンします。同時に、WEYの販売パートナーであるEmil Freyグループもドイツで販売を開始します。2023年の第1四半期末までに、60の販売拠点が国中に整備され、ローンやリースに関してはサンタンデール・コンシューマー・ファイナンスが担います。

GWMの欧州フリート、法人・中古車販売部長のPatrick Reimers氏によると、ORAは長期ではドイツに200の販売サービス拠点をローンチする計画で、英国とスウェーデンのディーラーも契約を進めており、2023年には欧州市場をさらに開拓していきます。

BYDもHan、Tang、ATTO 3、特別展示のSealを含め、垂直統合の成せる技を見せつけ、ホール4でGWMのようにスポットライトを浴びていました。3週間弱前、BYDは欧州向け乗用車のプリセール価格を発表しました。セダンのHanと7シーターSUVのTangが7万2,000ユーロ(約1,043万円)、コンパクトSUVのATTO 3が3万8,000ユーロ(約550万円)です。これらのモデルはまずノルウェー、スウェーデン、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツで8年のバッテリー保証つきで発売されます。年末までにはフランスと英国でも手に入るようになります。

欧州及びインターナショナル部門の本部長であるMichael Shu氏は欧州顧客のためにローカルのパートナーと協力する重要性を強調しました。

「私達はデザイン、開発研究、生産、販売、アフターサービスネットワーク、そしてサービスを含めた欧州自動車産業とそのエコシステムを尊重しています。私達のビジョンを共有できる、評判が確立された地域のディーラーと協力し、ハイレベルなカスタマーサービスを提供する戦略を立てています。BYDは欧州市場への進出を余念なく準備しました。私達の車のデザイン、テクノロジー、サービス、そしてディーラーパートナーとともに、BYDは突出したベストな体験を欧州の顧客に提供していきます」。

BYDはドイツで鍵となる7つのディーラーと協力し、国を網羅するネットワークを作り、2022年後半か2023年の早い時期からセールスとアフターサービスを始めると発表しました。店舗はミュンヘン(Reisacher)、ベルリン(Stern Auto)、ハンブルク(Stern Partner)、シュトゥットガルト(Hedin)、フランクフルト(Torpedo)、ケルン(Senger)、ラーベンスブルク(Reiss)になります。

Shu氏は「ドイツで顧客の高い期待に応えることや、何よりローカルな自動車エコシステムを尊重する重要性を認識しています。地域での協力を得て包括的な地域リソースや高いレベルのカスタマーサービスを提供することに高い価値を置いているのはそのためです。それに伴いドイツの鍵となる場所で、豊富な市場経験を持ち顧客にも広く認知されているディーラーを慎重に選びました」と話しました。

この日の午後のハイライトはパリ路上でのATTO 3の試乗でした。質の良い素材を使い、ユニークな機能を備えていてサイズ感も良く、シティの運転には完璧でした。欧州レンタカー会社のSixtは10月初頭にこの車の契約を締結しており(2028年までにBYDから10万台のEVを調達する予定)、同社を通じて今年後半にATTO 3を運転する人達は、必ず満足するはずです。

欧州で成功の予兆を感じる中国EVの数々

XEV YoYo とStanley Lu氏。

ユニークさと言えば、ツーシーターEVのXEV YOYOは合計10.4kWhになる3つのバッテリーパックが後方に設置されており、手動で交換できるようになっています。EVそのものと言うより、バッテリー交換ができるという点で、ショーで展示されたEVの中でも最もユニークなモデルの1つと言えます。

YOYOは安徽省合肥市にある、XEVの完全子会社工場で生産されています。XEVはJACの元欧州設計部長であるStanley Lu氏がイタリアのトリノで2018年に創業したゆえ、合肥市とトリノが結びつきました。XEVとイタリアのエネルギー大手ENI(中国のSinopecと似たような会社)はカーシェアの顧客用にバッテリー交換ステーションネットワークを構築するよう動いており、YOYOは現在欧州への輸出専用車となっています。ガソリンスタンドの先行投資にはしばしば100万ユーロ(約1億4,668万円)も必要なのに対し、交換ステーションでは手動でバッテリーを交換するためのスタッフが配置されますが、数万ユーロしかいりません。

Lu氏に聞いたのですが、小型のYOYOは補助金を含めるとたった1万2,000~1万3,000ユーロ(約174万円~188万円)で買え、EVに乗り換えた際に便利な充電手段を持たない、約1億人のブルーカラー自動車オーナーをターゲットにしています。XEVは約1万台のYOYOを欧州ですでに販売していますが、年間20万台のポテンシャルがあると信じているLu氏は来年中に3万台から4万台に届くと予想しています。

「これはEVエコシステム内での中国による優れた生産能力と経験を完璧に組み合わせた結果であり、歴史的な欧州自動車メーカーがまだ持ち合わせていないもので、そこに投資をしたいのです」。Lu氏は2023年の第2四半期にこのビジネスモデルを中国に持ち帰りたいと考えていることを明かしてくれました。

XEVから少し離れた所では、先述したSERESやLeapMotor製品を出すEVEがサプライズ出展をしていました。以前Cheryインターナショナルで働いた経験があるEVEフランスの営業部長Frederic Robert氏は、EVEがフランスでSERES 3を卸せるようにディーラーと動いており、SERESの親会社であるDFSKが電気バンを流通する手助けもしたと話してくれました。Robert氏によるとLeapMotor T03は2022年後半か2023年の早い時期にローンチする予定ですが、正確な計画はまだ発表されていません。「そのせいでまだバックステージにいるんです」。

BYDの正面にはCrédit Agricole Mobility のスタンドがありMG Marvel Rが展示されていました。MGヨーロッパの最初期のフランス人従業員でMGモーターフランスの法人セールス部長Jacky Delorme氏は、このモデルがフランスでは145のディーラー(年末までに欧州全体で850以上となる見込み)で1年販売され、ヨーロッパ中で12の国に渡ったと話しました。Delorme氏によると、展示されたモデルは補助金(1台6,000ユーロ=約86万6,000円)抜きで4万7,000ユーロ(約679万円)だそうです。「フランス市場で提供したいMGの立ち位置は、メインストリームの価格帯でありながらプレミアムモデル、プレミアムクオリティというものです。7年の保証もつきます」。

MGにあって他の中国ブランドが持っていないのが英国の遺産で、ブランドとEVが今のところ欧州で成功しているのはこれが大きなプラスとなっているおかげかもしれません。

少なくとも商品の観点から見ると、中国EVメーカーは3年前に比べてかなり進んでおり、すべての要素が欧州での成功に結びついています。MGなど数社はすでに強固な地盤を築き上げている一方、他の企業も直接的にせよ間接的にせよ、様々な方法で進出してきています。

しかしすべてがスムーズに進んでいるわけではありません。中国EV業界全体の命運がかかっているため、最初にすべてを完璧にする必要があり、ミスをすることは許されないのです。一方で、ステランティスCEOのカルロス・タバレス氏が中国企業は欧州への「フリーパス」を得ていると発言したことから来る地政学的な逆風や、保護政策が取られる可能性への準備もしなければならないのです。

(翻訳/杉田 明子)

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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