デトロイトモーターショーレポート〜インフレ削減法の影響と中国勢の動き

9月中旬に開催された北米最大の自動車関連イベントである、北米国際オートショー(デトロイト)とバッテリーショー(ミシガン州ノビ)に中国勢の姿はありませんでした。しかし1カ月前に米国で大統領署名されたインフレ削減法の影響を鑑みても、中国の存在は依然として大きいものです。

デトロイトモーターショーレポート〜インフレ削減法の影響と中国勢の動き

【元記事】 China factor in Detroit and Novi by Lei Xing.

出展社数はやや寂しかったデトロイト

3年半以上の休止を経て(正確には45ヶ月)、北米国際オートショー(デトロイトモーターショー)が、モーターシティに帰ってきました。

新しい時期(天気が良い季節)、新しい形(アウトドアイベントや体験)、世界最大のゴム製のアヒル、たくさんの恐竜、数少ないデビュー作にメジャーなメーカーからの新商品お披露目はなしと、今年のモータウンでのショーは今までとは違っていました。

ショーに参加した自動車メーカーやブランドは数少なく、そのほとんどがアメリカのビッグ3であるGM、フォード、ステランティス関連で、他の大物はトヨタとスバルだけでした。

クライスラー(300C)、Jeep(グランド・チェロキー4xe 30周年記念エディション、ラングラー・ウィリス4xe)、シボレー(タホRST パフォーマンス・エディション)、フォード(7代目マスタング)が記者会見を行って新しいモデルをプレゼンし、内燃機関で動くアメリカのアイコニックなスポーツカーとして最後の世代となるマスタングのデビューは一番大きな注目を集めました。

ここまで読むとお分かりいただけるかもしれませんが、今回はフォード・モーターショー、もしくはマスタング・モーターショーと呼べるものだったかもしれません。フォードはマスタングのオーナーやファンを招待し、『ザ・スタンピード』と呼ぶ車列に参加させ、GMのグローバル本社の目の前でお披露目イベントを行う形にしたのですから。

ショーの前にすでにデビューをしていて今回見られた注目のEVとコンセプトカーは、『シルバラードEV』、『ブレーザーEV』、『エキノックスEV』からなるシボレー・トリオ、キャデラック 『LYRIQ』、GMC『ハマーEV』ピックアップトラック& SUV、ビュイック『ワイルドキャット』コンセプト、リンカーン『Star』、『Model L 100』コンセプト、フォード『F-150 ライトニング』、マスタング『マッハ-E』、ダッジ『チャージャー・デイトナ SRT』コンセプトなどです。

ここで大きなスポットライトを浴びたのは、ジョー・バイデン大統領と、ピート・ブティジェッジ運輸長官です。VIPツアーでショーを訪れ、アメリカ自動車の創造力を称えました。バイデン氏はLYRIQの試乗もして、シボレー・コルベットZ06で走り去ってしまいたいとジョークを飛ばしてみせました。

走り去ると言えば、最近大統領署名がされたインフレ削減法(Inflation Reduction Act:IRA)の目的の1つがそれです。中国のバッテリー支配や原料争奪戦を背景に、2024年から施行されるこの法律により、使われる原料の比率が基準を満たすよう求められます。

CATL は最近の中国・米国間における地政学的混乱を理由に、北米工場プラントの発表を遅らせることにしました。フォードがモーターショーのたった数週間前に、CATLを主要取引先として発表し援護した状況にも関わらず、です。また直近では、Gotionがミシガン西部でのバッテリー工場に36億ドル(約5,210億円)の投資をすると報じられました。

しかし逆風が吹いても中国勢はどうにかしてやってくるようです。そして一部はある意味すでに上陸しています。

モーターショーのちょうど1週間前、MobileyeはMobileye Drive™を搭載したNIO ES8を使い、レベル4自動運転車両の試験運転をデトロイトで開始したと発表しました。このサプライズは、米国企業のMobileyeを通じてですが、NIOが米国に上陸したことを意味します。消費者が市場で買える車が出てきたのとは意味合いが違いますが、それでもNIOは米国に渡ったのです。Mobileyeは話題作りのために、わざとモーターショー前にこの動きをしたのでしょうか。私達には知る由もありませんが、大きなニュースがなかったショーの前に、この話題はヘッドラインを飾りました。

今回中国メーカーの展示車両自体はなかったのですが、2つの中国企業がショーに現われました。

RoboSense booth at the Detroit Auto Show.

1つ目は中国LiDARスタートアップであるRoboSenseで、最近8周年を迎え、ローンチしたばかりのXpeng G9へのLiDAR提供元ともなりました。RoboSenseがデトロイトで展示をするのは初めてでしたが、米国に接点がなかったわけではありません。米国スマートEVスタートアップのLucidに社の製品が使われており、CESでは何年にも渡って展示をしてきました。米国での存在感は増しており、10月にはデトロイトの西、ミシガン州プリマスにオフィスをオープンします。

LiDARと言えば、最近ミシガン州トロイにオフィスをオープンし、GMのウルトラクルーズへのLiDAR提供も勝ち取ったサンノゼ発のLiDARスタートアップ、Ceptonの共同創業者でCEOのDr. Jun Pei氏とも話しをしました。Pei氏は1989年に米国へ移住しています。中国系米国人と言えば、私がショーで最初にばったり会った人物はLinda Zhang氏でした。Ford F-150ライトニングのチーフエンジニアです。私のように米国に若い頃にやってきて、すべてのアジア系アメリカ人や女性にとって勇気づけられる背景を持つ方です。

AUTEL booth at the Detroit Auto Show.

2つ目の企業はAutel Energyで、深圳を拠点とする自動車診断機器メーカー、Autelの米国子会社です。ショーでは自宅用及び商業用AC/ DC充電ソリューションであるMaxiChargerを発表しました。見た目からは中国ブランドだとは分かりません。Autelは、EVバッテリーを電源にする双方向家充電としては、MaxiCharger DCV2Xが最もインテリジェントであるとアピールしています。社はバイデン大統領の特別訪問も受けました。バイデン氏は34の州とプエルトリコに充電ネットワークを建設するためまず9億ドル(約1,303億円)を拠出するとショーで発表しました。Autelのような会社にとっては歓迎するべきものです。

ショーで中国メーカーがあまり見られなかった事態を受け、北米カー/ユーティリティ/トラックオブザイヤー(NACTOY)の代表であるGary Witzenburg氏が9月14日に2023年版の準決勝出場者を発表した際、中国モデルがいつ出てくると予想しているか尋ねてみました。「難しいですね。中国車両の質や耐久性などの品質基準、費用感、パフォーマンス、ハンドリングなどすべてに競争力があるようになったら準決勝に残るようになりますし、競合より良くなったら勝者にもなれるでしょう」。

これが現実になるには米中間の関係性に依るところもありますが、今はベストな状況にあるとは言えません。関係改善のために働きかけようとしているのが中国大使のQin Gang氏でショーにもサプライズで現れ、かなりの時間をリンカーンのブースで過ごし、2つのコンセプトモデルのチェックをしてシニアマネージャーとも会話をしていました。Qin氏と話す機会に恵まれた私は米中関係を繋ごうとしている彼に謝意を表しておきました。その後分かったことですが、彼はフォードCEOのJim Farley氏と代表取締役会長のBill Ford Jr.氏に会っていました。Farley氏は「フォードは世界最大の自動車市場である中国でも長い歴史があります。米国と中国の強固な貿易関係を続けていくのは経済にとって重要です」とツイートしていました。

自動車外交がここではっきり見られましたね。

ショーで会った面白い人物は他に2人いて、元Magna Asia代表(今は引退されています)のJames Tobin氏と、Munro&Associates創業者のSandy Munro氏です。Jamesに最後に会ったのは2017年の上海で、Magnaがe-axleのジョイントベンチャーをSAIC Motorの部品部門であるHASCOと立ち上げ、MEBプラットフォームを使用したSAIC-Volkswagen共同開発のEVに商品提供をし始めた頃です。

彼が私に尋ねた最初の質問は、BAIC BJEVのハイエンドブランドであるARCFOXをどう思うかでした。Magnaは江蘇州鎮江市でJVの契約生産の手助けをしています。私の答えはMagnaの評判は危うくなっており、車両のクオリティに疑いの余地はないけれど、ARCFOXはブランディングとマーケティングにおいて逆風に直面している、というものでした。一方でEVを分解して解析することで有名なMunro氏は、中国EV企業に関して最もよく話題に上げ、強気でいる一人です。彼は最近「中国はEV部門でGMとフォードのランチを食べてしまうだろう」と話し、EVに関しては今も多くのレガシー自動車メーカーが「眠っている」と考えています。

Buick Wildcat Concept.
Chevrolet Blazer EV.
Chevrolet Silverado EV Pickup.
Jeep Wrangler Willys 4xe.

バッテリーショー・ノースアメリカは盛況

同時期にデトロイト北西のミシガン州ノビで行われたもう1つの大きな業界関連の「北米バッテリーショー」では、誰も「眠って」はいませんでした。事実このショーはデトロイトモーターショーよりもっとにぎやかで「電気」が走り、出店者や来場者も多かったのです。バッテリー・バリューチェーンまわりのテクノロジーやイノベーションがすべて見られるショーケースでした。

Bob Gaylan氏の基調講演。

ここでもメジャーな中国バッテリー企業はいませんでしたが、特に北米のバッテリーセルや部品メーカーにとってはIRAのおかげで機会が開け、ショーはにぎわい興奮に満ちていました。私が再会して話せた重要人物が、元CATLのCTOで現NAATBatt International名誉会長及びCTOであるBob Gaylan氏で、バッテリー業界の現況について基調講演を行い、バッテリー競争で追いつき中国を潰そうと米国が攻撃的になりすぎることに警告をしました。

会場にいたIRAの恩恵を受けそうな2つの米国スタートアップがOur Next Energy(ONE)とIntecellsです。

ONEは自社のGemini dual-chemistry電池パック内LFPセルと組み合わせる、1,007 Wh/L、240 Ah のプリズマティック・ラージフォーマット・アノードフリーセルをお披露目しました。今年末までにBMW iXプロトタイプで見られる予定です。今市場に出ている既存のニッケル・コバルト電池に比べると、Geminiのニッケル及び黒鉛含有量は75%減、コバルトは使っておらず、EVの航続距離は600マイル(約966km)が実現可能となります。

一方でIntecellsは特許取得済みのコールドプラズマをベースにした3Dプリント技術を使い、フレキシブルにバッテリーセルを作ります。上海にあるGM中国を含めて20年をGMで過ごした、同社の共同創業者でCEOのDr. Xiaohong (Shawn) Gayden氏によると、この技術でエネルギーと密度は倍、電極の塗膜密着性は10倍となり、製造コストは93%カットできます。

彼らはCATL、BYD、Gotionら巨人に比べるとまだまだ小さい企業ですが、チャンスはあるのでしょうか。時が経てば分かるでしょう。

以上が、デトロイトモーターショー及びバッテリーショーの中国勢を踏まえた全体図です。地政学的な影響で、直近のものやこれから出てくる発表に疑問符がつくこともあるでしょうが、中国勢はどうにかして北米にやってくるでしょう。

(翻訳/杉田 明子)

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					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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