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EVの航続距離はもっと短くていい?【02】CleanTechnica 編集長の主張

EVの航続距離はもっと短くていい?【02】CleanTechnica 編集長の主張

アメリカのメディア『CleanTechnica』で紹介されたEVの航続距離についてのシリーズ記事です。編集長のザカリー・シャハン氏が「私は10年前から言っていた」と賛同、わかりやすく理由を説明する第2回の記事を全文翻訳でお届けします。

【元記事】Lucid CEO Says What I Said A Decade Ago — Give Us Less Range! By Zachary Shahan on 『Clean Technica
※冒頭写真はイメージです。

目次

長い航続距離を求めるのはアンチEVの論点

私が10年前に言っていたことをルーシッドのCEOも言ってくれました。航続距離はもっと短くていい! まぁ、ルーシッド・モーターズのピーター・ローリンソンCEOが文字通り「航続距離を短くしろ!」と言ったわけではないですが、もう小耳に挟んだ方もいるのではないでしょうか。ローリンソン氏は未来のEVの航続距離は従来の常識に反して290kmで充分だと思うと述べています。

私は10年前にも似たようなことを言いました(時が経つのは早いものですね)。当時私はイーロン・マスクの「すべてのEVが少なくとも320kmの航続距離が必要だ」という主張に真っ向から反論していました。それはアンチEVの論点であり、EVの普及にとって有害であり、あからさまに間違っていると考えていました。当時、私がそう主張した理由は下記の通りで、今でもこの主張は通用します。

第一に、典型的なEV否定派の主張は「たまに長距離運転をする必要がある」というものです(毎日または毎週、1日あたり何百kmも運転する特殊な方は対象外とします)。これは、休暇や週末の小旅行、他の街に住む友人や家族を訪ねるためなどに長距離運転をするという主張ですが、リーフやBMW i3のようなEVをひと括りに否定する理由として使うと破綻します。

ほとんどの(アメリカの)家庭が車を2台以上持っています。週末に家族や友人を訪ねてバケーションに行く場合などは、家族と一緒に行く可能性が非常に高く、160km以上運転する予定があり、充電できる場所が限られている場合は、そもそも航続距離の長い車を使うはずです。もしくは、家族の誰かが一緒に行かないのなら、その日やその週末だけ車を交換することもできます。

実際どのぐらい走りますか?

次の表とグラフで、片道80マイル(128km)以上のトリップ、あるいは40マイル(64km)以上のトリップの割合を見てみましょう。
(訳注:トリップとは、途中休憩を含む、1回に走行する距離です)

グラフ『CleanTechnica』記事から引用。

もちろん、これは1トリップあたりの距離の話です。では、目的地で充電せずに一日中点々と移動する場合はどうなのでしょう? 以下のロブのグラフをご覧ください。こちらは一日の総走行距離を表したものです。

1年の約8割は、50マイル(80km)以上走ることがありません。この点と「世帯あたりの所有台数」を合わせて考えると、航続距離が短いEVを使ってもまったく問題ない世帯は何百万もあるだろうと私は思います。自宅充電の利便性やアクセルを踏んだら瞬時に加速すること、メンテナンスが少なく維持費が安いことなど、EVのメリットを理解すれば、誰だってEVを買ったほうが良いという結論にたどり着くでしょう!

一家に2~3台の車があり、1台は近距離でしか使わないのであれば、使いもしないバッテリー容量のためにわざわざ何千ドルも多めに払うより、250kmぐらいの航続距離のEVを買えばいいのです。電欠することはありませんよ。自宅や職場、スーパーなどに充電設備があれば充電で苦労することもありません。1日あたり25~60kmしか走らない人は500kmどころか300kmの航続距離すら不要です。

だからといって500km以上の航続距離を持つEVが不要ということではありません。必要なのは選択肢です。市場も消費者も選択肢が多いとメリットがあります。私は今でも、EV市場にはもう少し航続距離の少ない低価格の選択肢もあるべきだと信じています。

自動車メーカーの皆さん、この際、ほとんどの人が最終的には買わないであろう2万ドル250kmのEVをエサにして消費者にEVの購入を検討させ、そこから消費者に合ったモデルを選んでいただくことだってできますよ? そうすればメーカーやディーラーは、より航続距離の長い車を多く売ることができるでしょう。

ローリンソン氏はEVの充電設備があちこちに普及した後の、未来の話をしていますし、そのような未来だとさらに航続距離の短いEVが売りやすくなると私も思います。しかし現在でも、1日の走行距離が80km未満で、長距離ドライブに使われることのない車が無数にあり、こうした車は安価な航続距離250kmのEVに置き換えることができます。自動車市場は非常に大きいため、より多くの消費者を満足させ、現在の技術のポテンシャルを最大化するためには、EVの幅広い選択肢が必要になるのです。

とにかく、現代のEVに何が可能なのか、何が論理的なのかについて考えさせてくれる重要で有益な発言をしてくれたローリンソン氏に感謝したいと思います。

翻訳/池田 篤史(翻訳アトリエ)

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この記事を書いた人

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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