太陽光発電と電気自動車でVPP普及を目指す福岡『リフェコ』のチャレンジを応援したい

福岡市を拠点とするリフェコ株式会社が、太陽光発電、蓄電池、電気自動車などを組み合わせた体験型スマートホームを熊本市内に建築しています。EVを軸にしたライフスタイルの脱炭素実現のために、合理的で信頼性の高いシステムを広げる試みを応援したいと思います。

太陽光発電と電気自動車でVPP普及を目指す福岡『リフェコ』のチャレンジを応援したい

※冒頭写真はイメージ画像。

2022年7月上旬の完成を目指してモデルハウスを建築

福岡県福岡市のリフェコ(LIFECO)株式会社が、熊本県熊本市内の総合住宅企業である株式会社アネシスやシャープエネルギーソリューション株式会社などと連携し、体験型スマートホーム『くまもと ルーフ・ルーフ』のプロジェクトを進めています。

リフェコは九州地区を中心に太陽光発電の設置やサポートを中心に、再生可能エネルギーソリューションの普及拡大に取り組んでいる企業です。今回のプロジェクトでは、2022年7月上旬のオープンを目指し、太陽光発電、定置型蓄電池、電気自動車(EV)とV2Hシステムなどの再エネ設備やHEMS(Home Energy Management Service)、IoT家電などをリフェコがプロデュース、アネシスが熊本市内に再エネ&EV活用住宅の体験型スマートホーム(モデルハウス)『くまもと ルーフ・ルーフ』を建築します。

特設サイトより引用。

【特設サイト】
くまもと ルーフ・ルーフ~2025年の日常~

今、世界が電気自動車シフトに動いているのは脱炭素社会実現という大きな目標があるからです。走行時にCO2を排出しない電気自動車を、再エネによる電力で充電すればカーボンニュートラル実現への効果が高まります。また、EVの大容量バッテリーを活用して系統電力と連携すれば、住宅に分散した太陽光発電パネルが発電する電力を制御してコミュニティの電力需要を支えるVPP(Virtual Power Plant=仮想発電所)実現の近道となります。

化石燃料への依存から脱却した未来の暮らしを実現するための技術や手段は出揃ってきています。肝心なのは、その仕組みを社会、つまりは私たちの暮らしに実装し、普及させていくことです。

とはいえ、再エネ&EV活用住宅を実現するためには、ソーラーパネルはもちろん、住宅が利用する系統電力と連携するためのV2H(Vehicle to Home)機器、V2H機能を備えた電気自動車、そして蓄電力を高めるための定置型蓄電池など、今までとは別のコストが掛かる機器が必要です。

太陽光発電はかなり増えてきましたが、それ以外はまだ日本社会に広く普及しているとは言いがたく、専用機器はいずれも高価。何を選び、どう組み合わせればいいのかといった合理的な提案ができるハウスメーカーなどは少なく、ユーザーとして興味はあっても実際に導入するために「どうすればいいのかよくわからない」のが現状です。

自動車・住宅・電力で業界をまたいだ連携を

はたして、リフェコではどのような思いで再エネモデルハウスによる体験型スマートホームプロジェクトを立ち上げたのか。興味深いチャレンジの内容と目的をより深く知るために、福岡市の本社を訪ねました。お話しを伺ったのは代表取締役の山森卓夫氏と、専務取締役の辻基樹氏です。

辻専務(写真左)と山森社長(右)。

まず、プロジェクトの根幹にある目的は「脱炭素社会実現に向けたスマートハウスの実例を提示して、地域の住民や企業に対して脱炭素化の必要性を発信する」ことです。太陽光発電、蓄電池、電気自動車といった再エネ活用設備を組み合わせたスマートハウスでは、オフグリッドとはいかないまでも大きな割合でエネルギー(電力)の自給自足を実現できます。また、配置した電気自動車へ、おもに自宅の太陽光発電によって充電すれば、実質的なゼロエミッション走行を増やせます。住宅と自動車の脱炭素化は、個人のライフスタイルでカーボンニュートラルに大きく貢献できる方法です。

とはいえ、どんな再エネ機器を選び、どう組み合わせていいのかユーザーがよくわからないのと同様に、住宅を建築する地域の工務店、また電気自動車を販売するディーラーの営業担当者などにとっても、再エネ活用がもたらすメリットを説明し、合理的なソリューションを提案するのは難題となっていました。

『くまもと ルーフ・ルーフ』に導入するシステムのイメージ。

熊本市に建築する再エネモデルハウスでは、ユーザー目線で選択したソリューションと「次世代のライフスタイル」を具体的に提示。訪れた新築検討者に「再エネスマートハウスでの暮らし」を実感してもらうことができます。7月にオープンするモデルハウスには日産リーフを配置して、来訪者は試乗も可能。料理教室やマルシェなどのイベント開催も計画しています。開設期間は約6カ月として、のべ2000人程度の来場者を見込んでいるということでした。

また、リアルなモデルハウスを建築して公開する取組を通じて、再エネ機器や電気自動車メーカー、建築会社などパートナー企業との関係を構築して強化。業界を超えた協業を進めることで、次世代のスマートハウスソリューションへの理解を広げ、完成度を高めていく狙いもあります。

九州の住宅への太陽光発電普及に貢献

リフェコの設立は1995年。大学で環境を学んだ山森社長の「環境課題解決に貢献できる仕事がしたい」という思いから始まりました。環境関連器機の販売を中心とした事業の中でソーラーパネルの取扱が拡大し、2009年には福岡・佐賀・熊本県内の大型ショッピングセンターに太陽光発電のショールームを展開する「ゆめソーラー」事業を開始。本格的に太陽光発電設備の普及拡大に取り組みます。

周囲の自然環境を活用して快適な住宅環境の実現を目指す「パッシブデザイン」から、太陽光発電や全館空調などエネルギーに関わる先進機器を採り入れる「アクティブデザイン」への関心の高まりとともに、太陽光発電の事業は大きく伸びていきます。現在では福岡、佐賀、熊本を中心に九州全県と山口県、135社の地元ハウスメーカーと提携。7500軒以上の住宅に、総容量60MWに近いソーラーパネルを設置する実績を積み上げてきました。

おもなエリア3県の施工実績プロット図。人口が集中する都市部ほど密度が濃いのが印象的。

一級建築士であり工務店の設計者であった辻氏がリフェコに入社したのは2014年のこと。設計者として手掛ける住宅にリフェコ(当時は日本エコライフ株式会社。2021年に社名変更)のソーラーパネルを導入していく中で太陽光発電普及の大切さや意義を痛感。「専業として取り組みたい」という思いからの転職でした。

その後のリフェコの躍進には、「2012年にスタートした固定価格買取制度(FIT)が追い風になったのか?」と尋ねてみると、山森氏と辻氏からは「ネガティブな影響もあった」とする意外な答えが返ってきました。

リフェコでは当時から一貫して「ゆめソーラー」ブランドでの店舗展開と九州一円のハウスメーカーとの連携によって太陽光発電の普及を進めています。ところが、FITスタート当時、10年間固定(住宅用10kW未満の余剰電力)の買い取り価格が42円と決められたことで、訪問販売で「儲け」をアピールしながら無責任な販売やずさんな工事を行うような業者が横行する一面があったのです。

リフェコでは、長年の実績をもとに季節ごとの発電量予測をもとにした収支などを明示して建て替えや発電設備導入を提案。設置後1年目の無料点検や、自然災害への補償や機器の不具合による出力低下への保証など、10年間のサポートを提供しています。

豊富な実例に基づいた発電量や収支予測データなどを提供。

また、10年間のいわゆる屋根貸しによって初期費用0円でソーラーパネルを設置できる「ゆめ電力の発電所」サービスを提供。リース会社を利用せず自社リースを可能にする枠組を構築し、太陽光発電をはじめとする再エネ活用設備を導入しやすくする取組を進めているほか、地域電力会社として「ゆめ電力」のサービスを開始しています。

「少し先の、おうちの暮らし を体験する」をキャッチフレーズとして、『くまもと ルーフ・ルーフ』プロジェクトで建築されるスマートハウスは、VPP(Virtual Power Plant=再エネ設備のネットワークによって構築される仮想発電所)の実現へ向けて前進し、太陽光発電による電力の地産地消をより広げていくための「ゆめ」を具現化する場所ともいえるのです。

ちなみに、リフェコは家庭用定置型蓄電池として抜群のコストパフォーマンスを誇るテスラ『パワーウォール』の認定施工会社でもありますが、今回の『くまもと ルーフ・ルーフ』では、HEMSやIoT家電との連係システムなどを最適化するために、プロジェクトのパートナーであるシャープエネルギーソリューションのグループであるシャープ製の蓄電池を採用するということでした。

全国のハウスメーカーのみなさんに知ってほしい

お話しを進める中で、辻氏はFITによる買取価格が下がった現在でも「設置費用は回収できる価格に設定されている」こと、そして「だからこそ太陽光発電を導入して再エネを広げる意義が高まっている」ことを強調していました。

売電価格の下降とともに、設置費用も安価になってきています。

数年前から注目が高まっている「卒FIT」は、すでにソーラーパネルを設置した住宅で10年間の買取期間が終了することを意味しています。今までの太陽光発電は、ユーザーに有利な固定価格に支えられ「儲かるから」「お得だから」という理由で広がってきたともいえるでしょう。でもこれからは、少し先の暮らしを実現するため、新しい時代のライフスタイルを手に入れるためにこそ太陽光発電を導入するという、より広い意味で、社会全体の意識が「卒FIT」を果たしていくことが大切なのかも知れません。

リフェコの事業領域(公式サイトから引用)。

電気自動車が普及するためには幅広い車種の選択肢が出揃うことが大切です。同様に、とても有意義だと感じるリフェコの取り組みが日本全体に広がり、社会の脱炭素化が進み、スマートハウスが当たり前のものになっていくためには、九州地区を中心に活動するリフェコだけでなく、全国各地で再エネ普及に向けたパッケージやサービスを提供してくれるハウスメーカーや、リフェコのようなビジョンをもった会社が増えることが必要です。

今回の記事は、個人としてEVや再エネに興味をもつ読者だけでなく、全国のハウスメーカーや地域電力、再エネ電力普及に関わる会社のキーパーソンのみなさまに、ぜひリフェコの取り組みを知ってほしいという思いで書きました。山森社長も「再エネ普及の取り組みを広げるためにも、各地の方と協業できれば望ましい」という思いを抱いているということでした。『くまもと ルーフ・ルーフ』のようなスマートハウスに、日本のあちこちで出会えるようになることを願っています。

『くまもと ルーフ・ルーフ』の完成予定は今年7月。そういえば、以前、クラウドファンディングで応援した球磨川温泉の鶴之湯旅館も、復旧を終えて営業を再開したようなので、併せて熊本取材ツアーを敢行したいと思っています。

(取材・文/寄本 好則)

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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