一時代の終わり~フォルクスワーゲンがゴルフシリーズにさよならを告げる

電気自動車路線に舵を切ったフォルクスワーゲンは、これから電気自動車ID.3に注力し、長年にわたり主力モデルだったゴルフなどのシリーズから切り替えることになります。今後の動きはどうなるのか、CleanTechnicaの記事を全文翻訳でお届けします。

一時代の終わり~フォルクスワーゲンがゴルフシリーズにさよならを告げる

元記事:The End Of An Era — Volkswagen Is Saying Goodbye To The Golf Family by Maarten Vinkhuyzen on 『CleanTechnica

ビートル、ゴルフから「ID」へ

フォルクスワーゲン(以下VW)が、ガソリンやディーゼルモデルよりも安くすむID.3を夏に発売』という記事を読んだ時、価格のパリティ(※訳者注:電気自動車の値段が内燃機関車の値段と同じレベルまで下がる)が思っていたよりも早く来たな、と思いました。しかしその1時間後、「あれ、ちょっと待てよ。より良い商品に、より安い価格……」これはいわゆるオズボーン効果という現象を引き起こします。(※オズボーン効果について詳しく説明したこの記事の日本語訳はこちらです。)

画像はVW公式より。

VWは過去3年に渡ってID.3がゴルフの継承ラインになると言い続けてきましたが、私はその譲渡が徐々に進むものと予測していました。その理由として、バッテリーのコスト、電気自動車の運転に世間が慣れるのに必要な時間、工場の改装、バッテリーの生産量増強、充電インフラの構築、その他状況をコントロールしながら変遷を遂げる必要があるからでした。

VWの歴史において、ID.3はまだ3つ目の主軸モデルになります。VWビートルが60年代半ばまで隆盛を極めましたが、その後セールスが減少し、70年代に入って急落しました。長年にわたりVWは他のモデルを出そうとしましたが、ビートルと同じ役割を果たせるものは現れませんでした。基本的に1つのモデルしか出せていない自動車メーカーだったのです。ビートルが継承者なしに寿命を終えた後、社は国からの救済が必要な状態に陥りました。

70年代初頭、VWはまったく新しい設計を使ったモデルを出しました。空冷リアエンジン、後輪駆動、エンジンを前方に設置した水冷前輪駆動などです。パサート(1973年)、シロッコ(1974年)、ゴルフ(1974年)、ポロ(1975年)と、短期間に立て続けに新モデルをリリースしました。ここで自動車メディアから、VWは次々と新しい車を早く出しすぎる、というクレームが出ました。同じ年のカー・オブ・ザ・イヤーのトロフィーを巡ってVWから3つのモデルが競い合い、票が割れてしまったため、トロフィーはシトロエンCXに渡ってしまったのです。

過去46年間に渡り、パサート、ゴルフ、そしてポロがVWを形作ってきました。そして今その継承者がID.シリーズになろうとしています。70年代初期のように、これは革新的な新しいコンセプトで、市場の変化により強制的にもたらされたものです。50年前、ビートルのテクノロジーは時代遅れなものになりました。今また、パサート、ゴルフ、ポロのテクノロジーは最盛期を過ぎました。今回に限っては、VWは開発からローンチまで政府からの救済策を必要とすることなく、新しい設計を作るのに間に合ったのです。

パサートとポロの後継モデルは今もコンセプトカーの段階で、パサートの方はゴルフ後継モデルであるID.3と同じプラットフォームを使用することになります。ポロ後継モデルは現在セアトにより開発中のA、Bセグメント用プラットフォームを使用するようです。

すべてのゴルフのモデルが一晩で消えるわけではありません。次の表での価格に関する数値比較は、置き換えるに適したモデル同士で行っています。トルクが大きいオートマ車で、高い利益の出るゴルフの中でもトップのモデルです。

前提:
VW ID.3は購入から5年後に資産価値が43%に下落で、VWゴルフは33%に下落。
頭金3000ユーロ、ローンの年率4%。
5年に渡り0.30ユーロ/kWhの電気代、1.5ユーロ/lのガソリン代。
13,000km走行。
メンテナンス代;ID.3は800ユーロ、ゴルフは1,800ユーロ
ID.3の電費は15kWh/100km。
保険代は同じとする。

VWのディーラーにとっては、興味深い時が来るでしょう。多くの顧客が新しい車に興味を持ち、購入して、さらに長い航続距離、より速い充電、安い価格を求めることになります。VWを世界で一番大きな自動車メーカーにしたモデルは打撃を受けます。

より安い価格でより良い製品を提供する…… VWはパンドラの箱を開けました。半世紀前に、この会社はたった1つのモデルを3つの大衆向けモデルのグループと交代させました。今度は、その3つのモデルを1つのモデルと取り換えるのです。VWグループは他のID.モデルを通じて早急に複数のモデルをローンチしなければなりません。

VWはカー・オブ・ザ・イヤーのトロフィーを獲得するのには多すぎるモデルを、再び揃えることになるのでしょうか?

(翻訳・文/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. ガソリンの補充は3分。EVの充電時間は急速充電を用いても数時間。

    より良い商品であるとの定義は独善的では?少なくとも私は、金で時間を買う現代において、商品力の低下と考えます。

    1. 安田様、コメントありがとうございます。
      実はそうでもないんですよ。私は(他にも似たような方は多そうですが)以前当たり前ですが毎日ガソリン車に乗っていて、通勤・休日には近場や遠出を楽しんでいました。電気自動車に変えて一番変わったことは何か?それは、エネルギー補給時間が減ったということなんです!
      変ですよね?でも実際には、電気自動車は通勤する人は、毎日家で帰宅したらプラグを挿し込む。翌朝出勤のときにプラグ抜いて出発。かかる時間は各5秒です。片道150km程度までの、土日の外出では途中では充電しませんし、宿泊する際には宿に充電器ある場合、片道250kmとか300kmくらいまではやはり、宿で充電できるので途中充電はなく、各5秒ずつです。
      ガソリン車は乗る距離にもよりますが月に2回給油は必要ですよね?すると5分が2回で10分。対する電気自動車は、5x2x30=300秒なので5分。実は電気自動車のほうが時間がかからないんです。

      しかも充電のプラグ抜き差しは自宅。雨の中立ったまま待ったり、暑かったり寒かったりするときに我慢しながら給油する必要がありません。冬は特にいいですよ!

      長距離の多い方は、どうしても充電計画が必要です。しかし、仮に片道200kmで宿に充電器ない場合でも、途中で15分-30分程度、サービスエリアまたは道の駅などで休憩するなら、休憩時または食事中に充電ができます。

      一度試してみると、なぜ電気自動車の売上が毎年増加していっているか、お分かりいただけると思いますよ。

  2. 「前提」=残存価格のところの翻訳が間違ってますね。そして、この試算は残存価格の設定(43% vs 33%)次第ですよね。さらには、13,000km/年(5年で65,000km)乗る前提。
    例えばバッテリーのヘタリ(機能も価値も)を考慮に入れても、この残存価格の前提は本当に妥当でしょうか。そして、日本での平均走行距離は年平均4〜5千kmくらいではありませんでしたっけ?(日本でもゴルフ乗る人は欧州人くらい乗りまくるのかな?)
    私は「EV来る派」ですが、この文章の和訳を日本で無防備にシェアするのは(EV派としては)逆効果になりかねない気がしてちょっと残念な気がします。

    1. EV派様、コメントおよびご指摘ありがとうございます。残存価格ではなく、減少幅に読めるということですよね?意味が明確になるよう修正いたしました。

      >バッテリーのヘタリ

      これが妥当かどうかは、実際に時間がたってみないと分からないと思います。まだモデル3ですら3年経過していないですからね、、
      https://www.tesla.com/inventory/used/m3?arrangeby=plh&zip=90001
      2017年モデルの在庫がちょっとだけあって43000ドルくらいでしょうか。定価は44500ドルですが、中古車は恐らくオプションが付いていると思いますからあまり参考にはならないですね。

      >距離は年平均4〜5千kmくらいではありませんでしたっけ?

      日本国内の平均走行距離は約8000kmとされています。
      https://car-mo.jp/mag/category/tips/usedcar/mileage/
      実際にご自身で計算する方法は、こちら↓の記事の下部に記載しています。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/ev-and-fossil-fuel-power-station/#title03

      5年後の残価率については統計情報が上手く見つからなかったのですが、こちらのサイトにいくつか2019年時点でのデータが出ていますのでご参考までに。
      https://bestcarweb.jp/feature/column/59149

  3. 電気自動車の開発より、インフラ整備や発電技術の開発が先だと思う。
    結局、何かを消費して動力に変えるのは同じであって根本的な解決は電気自動車ではしない。延命措置でしかない、化石燃料の需要削減案。
    消費する電力を何処で作り、備蓄し、割り振るか。
    大陸では原発に頼れるが、離島や島国では現実的ではないと思う。
    天災が起きれば原発停止の現代じゃ、
    電力の盗難事件を生むだけだと思います。
    マツダやトヨタが今も力を入れる化石燃料消費機関の超高高度の効率化が現実的。
    その探求心をなくしたメーカーが電気自動車に逃げただけだと見ています。
    頑張ってほしいですね、日本の職人魂のあるメーカーさんに。

    1. 日本車が一番。様、コメントありがとうございます!

      >>延命措置でしかない、化石燃料の需要削減案。

      延命をする対象は何でしょうか?こちらの記事ではCO2排出の点で電気自動車でなければ、将来的な削減がほぼ不可能であることを証明しています。化石燃料車では「延命」すらできないという結論です。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/ev-global-life-cycle-co2-emissions-less-than-ice/

      もし「延命」が、化石燃料が採掘できなくなることをおっしゃっているとすれば、電気自動車にすることにより、再生可能エネルギーを始めとする化石燃料以外のエネルギーや、化石燃料でも、現在の発電の主力である天然ガスだけでなく、石油や石炭も選択できます。この点でも、化石燃料車に頼っていては、「延命」すらできないのではないでしょうか?

      >>大陸では原発に頼れるが、離島や島国では現実的ではないと思う

      原発にこだわる必要はないと思います。世界各国の再生可能エネルギー比率をごらんになってみてはいかがですか?同じ島国に近いイタリアなどでも、日本の倍は再生可能エネルギー比率があります。
      https://en.m.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_renewable_electricity_production

      >>マツダやトヨタが今も力を入れる化石燃料消費機関の超高高度の効率化が現実的

      上でリンクした記事中では、今までのペースで内燃機関の効率化を進められたと仮定しても、その低炭素化は発電の低炭素化に遥かに及ばず、わずか10年後に2倍以上の差がついてしまうことが計算で求められています。

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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