EVシェアリングが大成功&気候非常事態宣言を出した白馬村で高校生が大活躍

2019年12月、長野県白馬村が「気候非常事態宣言」を出しました。白馬村では環境省「クールチョイス」の一環として『EV(電気自動車)シェアリング』も実施。2019年度も大成功でした。さらに、村を挙げて環境問題の取り組む原動力となっているのが、地元の高校生たちなのです。白馬村で村長と高校生3人組に話を聞いてきました。

EVシェアリングが大成功&気候非常事態宣言を出した白馬村で高校生が大活躍

記事後半でインタビューしている高校生たち。インタビュー時の言葉通り、2020年2月2日(日)、白馬岩岳スノーフィールドで『Haction 2nd “SOS” Save Our Snow』を開催しました。素晴らしい!

気候非常事態宣言とは?

2019年12月4日、長野県白馬村の下川正剛村長が、村議会の冒頭あいさつで「気候非常事態宣言」を出しました。村民全体で気候変動の危機と向き合い、温室効果ガス排出を抑制し、白馬の自然や、豊かな「雪」を守っていこうとする内容です。

取材に行った12月16日の白馬村。標高約700mの村内に、まだ雪がない。

「気候非常事態宣言」とは、国や地方自治体などが気候変動の危機を認め、具体的な政策やアクションに繋げていこうとする意思表明です。昨年末、スペインで開催された第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)での演説などが話題になったスウェーデンのグレタ・トゥンベリさんの活動とともに世界中に拡大しています。

国として宣言をしているのは、イギリス、フランス、カナダなど。また、アメリカのニューヨーク市やサンフランシスコ市、オーストラリアのシドニー市やメルボルン市などなど、世界中で数多くの地方自治体が宣言しています。

白馬村の宣言は、日本の地方自治体としては3番目でした。2019年9月に長崎県の壱岐市が、10月には神奈川県鎌倉市が宣言を出しています。さらに、白馬村の宣言が呼び水となったかのように、12月13日には長野県が宣言を採択し、その後も鳥取県北栄町、大阪府堺市などへと宣言の輪が広がっています。

白馬村の「気候非常事態宣言」全文は、白馬村のウェブサイトでPDFが公開されています。全文はやや長いので、具体的なアクションを示した5項目を紹介しておきましょう。

①「気候非常事態宣言」により、村民ともに白馬村から積極的に気候変動の危機に向き合い、他自治体の取り組む模範となります。
②2050 年における再生可能エネルギー自給率 100%を目指します。
③森林の適正な管理による温室効果ガスの排出抑制に取り組むこと等により、良質な自然循環を守ります。
④四季を肌で感じることができるライフサイクルや、四季を通じたアクティビティの価値観を、村民一人ひとりが大切にします。
⑤世界水準のスノーリゾートを目指すために、白馬の良質な「パウダースノー」を守ります。

白馬村「気候非常事態宣言」(PDFファイル)

2019年度の「EVシェアリング」も大成功

私も活動に関わっている一般社団法人日本EVクラブでは、地方支部の『白馬EVクラブ』と共催し、白馬村などの後援や協力を得て、2014年から白馬村を会場として『ジャパンEVラリー』というイベントを開催しています。また、2018年度と2019年度には、環境省クールチョイス事業の一環として『白馬EVシェアリング』の実施に協力しました。

『ジャパンEVラリー』は、水力を中心とした再生可能エネルギーによる電力自給率がほぼ100%の白馬村へ、全国から電気自動車やプラグインハイブリッド車で集結しよう! というイベントです。

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『「ジャパンEVラリー白馬2019」参加者募集中!』

2019年度の白馬EVシェアリング開始式。下川村長と村のキャラクター「ヴィクトワール・シュヴァルブラン・村男Ⅲ世」。

『白馬EVシェアリング』は、白馬村民と白馬村での宿泊客様限定で電気自動車を無料で使えるプログラム。2018年は日本EVクラブ会員や関係者が心意気で提供してくれた日産リーフを2台。2019年はフォルクスワーゲンジャパンなどのご協力をいただき、2台の『e-Golf』が用意されました。

2019年は8月2日から11月29日までの期間で、4~5日間の貸出枠を設定して実施されましたが、稼働率は約92%と大成功。なかには四国までロングドライブを楽しんだ方がいたりして、遠出して急速充電も体験しながら、電気自動車の乗り心地、使い勝手を多くの方に体感していただきました。

EV シェアリングの成果などを報告する『白馬 COOL CHOICE 新聞』の制作を私が担当したこともあり、下川正剛村長に時間をいただくことができました。さらに、信濃毎日新聞の報道で、白馬高校の高校2年生3人の活躍が気候非常事態宣言実現の原動力をなったことを知って興味しんしん。白馬村へ取材に行ってきました。

まずは、下川村長の思いを紹介します。

白馬村、下川村長の思いとは

白馬村下川正剛村長。

2019年度の『白馬EVシェアリング』も大盛況だったそうですね。

白馬村では、白馬EVクラブの尽力もあって早くからEVをはじめとした次世代車普及のイベントを開催し、試乗会も何度も開催してきました。EVシェアリングは昨年度に続いての実施でしたが、今回の稼働率は約92%と、とくにたくさんの方に利用いただき、意義深い取り組みになったと感じています。

気候非常事態宣言を出した「思い」をお聞かせください。

たとえば、気候変動の影響で白馬に雪が降らなくなるのは大変なことです。白馬村にはたくさんの雪が降り、観光はもとより豊かな水の恩恵をもたらしてくれています。大自然の景観を次の世代に残していくためにも、気候変動への対策と行動が必要です。

とはいえ、行政の主導だけでできることには限界があります。今回の『気候非常事態宣言』は、そうした現実への理解を村民全体に広げるために行いました。村民全体の力を合わせて、一歩でも前に進んでいくことができればという思いでした。

白馬高校生たちの署名活動が「宣言」のきっかけですか?

白馬高校の3人の活動は、とても心強く感じました。9月20日と12月3日の2回、彼らが呼びかけて行われた署名を私が受け取り、12月4日の村議会開会冒頭で「宣言」したわけですが、12月3日の署名を受け取った時には翌日の議会で宣言する方向で調整が進んでいるところでした。

村として気候非常事態宣言を出す検討のきっかけになったのは、2019年5月18日に『雪を守る、白馬で滑り続ける~地域を豊かにする山岳リゾートを目指して』というテーマで白馬村で開催された『気候変動&地域経済シンポジウム』でした。白馬村に日本の拠点を置く『POW(Protect Our Winters Japan)』というウィンタースポーツのプレイヤーを中心にした「雪山を守る」世界的な活動団体が中心となって開催されたシンポジウムです。

長野県の阿部守一知事も参加してたいへん盛り上がり、白馬村が豊かなスノーリゾートであり続けるためにも、気候変動対策への行動を起こすことが大切であると痛感したのです。その後、台風19号では長野県下にも大きな被害が出てしまいました。細かいことはさておいてでも「先へ進む」ことが大事だと判断して、宣言文を策定しました。

具体的にどんなことをやっていくことになるのでしょう?

白馬村には3つの大きな水力発電所があり、小水力発電にも取り組んでいます。現在での村内で必要なほとんどの電力を水の恵みのおかげで自給できているのです。これからも、そうした状況に誇りをもって、さらに再生可能エネルギーの活用を進めていきたいと考えています。

小さなことではありますが、公共施設の暖房をバイオマスに転換していくこともそのひとつですね。元々、村内では薪ストーブの使用率は高いのですが、行政が率先してさらに活用を進め、村民のみなさんにも「できること」を考えて、行動を起こしていただければと思います。

非常事態宣言の反響は大きかったです。気候変動は白馬村一村だけで解決できる問題ではないですが、こうした宣言をきっかけに、行動の輪が広がっていけばいいと思っています。

白馬高校生たちのアクション

左から、宮坂雛乃さん、金子菜緒さん、手塚慧介さん。

さて、白馬村が「気候非常事態宣言」を出す原動力ともなった白馬高校生の活躍について紹介しましょう。

金子菜緒さん、手塚慧介さん、宮坂雛乃さんの3人は、ともに白馬高校国際観光科の2年生。まず、2019年9月20日に、グレタさんの行動に呼応して世界各地で行われた『グローバル気候マーチ』に賛同して署名とマーチへの参加者を集め、白馬駅前から白馬村役場までマーチを行い、下川村長に気候非常事態宣言を行うことを求める署名を手渡しました。

さらに、11月29日にも行われたグローバル気候マーチに合わせて「また白馬で何かやりたい」と、村内のスーパーマーケットの駐車場を借りて気候難民のためのチャリティーバザー『白馬×Action=Haction』を企画。不要になっている服や本、スポーツ用品などの寄付を募り、11月30日にバザーを実施しました。

売上の14万3100円はUNCHR(国連難民高等弁務官事務所)を通じて気候難民への寄付に。また、バザー当日に再び会場で集めた署名を12月3日に村長に手渡し、改めて気候非常事態宣言を求めたのです。

そして、白馬村が気候非常事態宣言を出したのが翌日の12月4日。高校生の行動が村を動かした! という印象で、大きく地元紙などに報道されました。

制服の胸元にはSDGsバッジ!

白馬高校はモーグルの上村愛子さん、ノルディック複合の渡部暁斗さんなど、白馬村出身アスリートを輩出しています。長野県立の公立高校ですが、寮も完備した国際観光科では県外や校区外からの進学を受け入れて、実践的でユニークな授業が行われています。

今回の3人も白馬生まれではありません。金子さんは東京都八王子市、手塚さんは長野県上田市、宮坂さんは長野市内から白馬高校を選びました。ともに、フィールドワークや実践的な語学教育が充実していることが白馬高校国際観光科を選んだ動機。登山が大好きという手塚さんは「北アルプスの近くで暮らしたかった」という理由もあったそうです。

大活躍の3人に、気になる点を聞いてみました。3人の答えをまとめるカタチで紹介します。

白馬で『グローバル気候マーチ』をやろうと思ったきっかけは?

最初は、東京で『グローバル気候マーチ』があることを知って、東京に行ける! から参加しようと思ったんです。でも、9月20日は平日の金曜日で、学校があるから東京には行けない。じゃあ、白馬でやろう! って3人で話し合いました。

デモ行進の届け出とか署名集め、大変だったんじゃない?

もともと、私たちが気候変動問題に興味をもったきっかけは『Hakuba SDGs Lab』っていう勉強会がきっかけでした。村の有志の方が集まって、持続可能な地域づくりのためのイベントなどを開催している集まりです。そこでPOW(Protect Our Winters Japan)の方々とも知り合って、LINEグループに参加していたんです。

白馬でマーチをやろう! というアイデアをLINEで提案すると、じゃあ警察の許可が必要だねとか、署名を集めて村長に届けようとか、ポスターを作って貼りだしてくれたりとか、『Hakuba SDGs Lab』で繫がっている大人の人たちがどんどん協力して輪を広げていってくれました。

気候非常事態宣言が実現してどう感じましたか?

私たちの思いが通じた気がして、とてもうれしかったです。自分自身が行動して何かが起きる手応えは楽しいですね。最近では、高校の授業で「環境アクティビストの方にファシリテーターをお願いして、SDGsを学ぶカードゲームをやりたい」と先生に提案して実現しました。

ほかにも「校内の自動販売機を少なくしよう」とか、「校舎の断熱性能を高めよう」とか、いろいろ提案しています。先生たちもすごく協力してくださるのですが、自動販売機は3年契約で入っているのですぐには実現できないらしいです。

白馬で『グローバル気候マーチ』をやってからまだ数か月しか経っていませんが、講演などで声をかけていただく機会が増えて驚いています。イオンエコワングランプリでは文部科学大臣賞もいただきました。活動奨励金(30万円)をどう使うかは、まだ決めてませんけど。

白馬村には気候変動に対する意識が高い人が多いから活動しやすいですね。むしろ、周囲の大人の人たちの協力があってこそ、私たちが活動できていると感じます。

これからも活動を広げていく?

はい、みんなが「楽しそう」と思えることを、2カ月に1回くらいのペースで続けていければと思っています。グレタさんは強い言葉で表現してますよね。世界にインパクト強く発信するにはキツい言葉が必要なのかも知れません。でも、私たちは地域の身近なところで環境問題に興味のない人にも届く活動にしたいので「楽しそう」と感じられることが大切だと思っています。

具体的には、白馬村は四季の表情が豊かなので、季節に合わせて何かできるといいですね。今シーズンの冬には「スキー場でマーチ!」もやってみたいかな。

自分が動けば何かが始まっていく

高校生なので、3人の活動には指導する先生がいたり、部活動のようなものなのかとも思っていたのですが、そんなことはありませんでした。金子さんは弓道部、手塚さんは山岳部、宮坂さんは茶道部にそれぞれ入っていて、気候変動への活動は純粋に個人の思いで始め、続けていることなのです。

まがりなりにも大人のひとりとして、グレタさんの言葉は耳に痛いし、白馬の高校生3人の言葉と気負いのない行動力には身の引き締まる思いを感じます。

私自身、エンジン車を手放して電気自動車にしたのは、脱炭素のためにささやかながら「自分で無理せずできること」のひとつというつもりではあったのですが、もっと「できることあるんじゃないの?」と自問するきっかけになりました。

高校生3人は、InstagramやTwitterなど、SNSを活用した情報発信も行っています。

Instagram『hakuba0920』
Twitter『hakuba09200』
Facebook『HakubaSDGsLab』

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 実家が長野県の大町市にあり、身近な地域でこのような好例が起こっている事を知れて嬉しく思います。

    1. あああ 様、承認が遅くなり申し訳ありません。当サイトはコメントは自動で表示されるのではなく、サイトの品質を保つため、一つ一つ確認してから公開させていただいております。基本全て公開することが原則ですが、他の読者の方の利益にならない投稿は、非公開とさせていただいております。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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