実証実験中の運用現場で痛感した「EVタクシー普及促進」のために最も重要なこと

大和自動車交通立川で日産リーフのEVタクシーが活躍していることを知り、充電設備を含めて現場を取材。社長やドライバーさんにお話しを聞いて気付いたのは、日本でEVタクシー普及がなかなか進まない理由、つまり、EVタクシーを増やすための大切な条件ともいえるポイントでした。

実証実験中の運用現場で痛感した「EVタクシー普及促進」のために最も重要なこと

まるで普及が進んでいないEVタクシー

EVsmartブログでは、積極的にEVタクシー導入を進める京都のエムケイ株式会社の話題や、テスラモデルYのハイヤーを導入して12基のテスラスーパーチャージャーが設置された日の丸交通(東京都)の記事など、EVタクシー関連の情報をしばしばお伝えしています。

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日産リーフが発売されて間もない2011年には、大阪での「EVタクシープロジェクト」に日産リーフ50台を納車したなんてニュース(日産のプレスリリース)もありました。とはいえ、東京に住んでいる私がEVタクシーを目にする機会はあまりないし、自分が乗車した(つまりEVタクシーに遭遇できた)経験もありません。

2012年、i-MiEVで関西取材に行った際、ミナミの充電スポットでリーフのEVタクシーと鉢合わせなんてこともありました。

EVタクシーって日本でどのくらい走ってるんだろうと思って調べてみると、環境エネルギー政策研究所(ISEP)が「EVバス・タクシー普及調査結果ブリーフィング 2023」という研究報告を発表していました。報道などでEVタクシー導入が確認できた事業者にヒアリング調査を行ったもので、必ずしもすべての事業者の導入事例を網羅しているわけではないものの、調査の結果は「EVタクシーの導入数は2022年度末時点で約24万台の全国タクシー保有台数のうち210台」で、普及率はわずか0.1%。端的にいって「ほとんど普及していない」のが現状であり、たまにしか(おもに飲み会の帰途)タクシーを利用しない私が、遭遇できないのも当然といえば当然です。

EVタクシーの充電運用最適化に関する実証実験

某日、充電サービス企業の広報ご担当者のみなさんとのランチ会で、愚痴のように「EVタクシーが増えない」嘆きを話題にしたところ、株式会社プラゴの広報ご担当者から、株式会社モーション、大和自動車交通株式会社、プラゴの3社で「複数のEVタクシーの充電運用最適化に関する実証実験を日産自動車と開始(プレスリリース)」しており、2022年12月から5台の日産リーフが稼働していることを教えていただきました。

ちょっとややこしいですが、各社の役割などを整理しておきましょう。

モーションは、かねて「EVタクシー運行最適化システム(EVOT)」の開発&運用を進めており、タクシー会社の営業所などで電力デマンドのピークを発生させずに各車両に必要な充電量を適切に充電するための充電管理ソリューション「Optiev(オプティーブ)」を開発。

プラゴでは、顧客に最適化したEV 充電ビジネスを推進するクラウドソリューション「PLUGO OPEN CHARGE LAB」を開発しており、「Optiev」と連携することで、タクシーの運行状況に応じた最適なスケジュールと電力出力で充電できる充電設備とサービスを提供。

大和自動車交通立川の充電設備。急速充電器も設置されていました。

大和自動車交通は、環境にやさしい車両の積極導入、エコドライブの推進などを進めており、子会社である大和自動車交通立川株式会社に5台の日産リーフを導入しています。

プロジェクトでは、「Optiev」が日産の法人向けEV 車両データ外部連携サービス「Nissan BizConnect API」用いて、大和自動車交通のEV タクシー車両の「バッテリー残量」「電力消費量」「走行距離」等の各種データをリアルタイムで取得し、最適な充電スケジュールと充電出力を算出。その内容をもとに、「PLUGO OPEN CHARGE LAB」を通じて充電器を制御。また、株式会社ルミネが運営する「ルミネ立川」の協力を受け、来店客向けに設置されているEV 急速充電器をタクシーの経路充電拠点として利用し、タクシーが駅で乗客を待つ時間に充電を補う運用の可能性や、立川でのエリア連携の可能性について検証するという内容になっています。

つまりは「ITのソリューションを活用して、効率良くEVタクシーが活躍できる仕組みを構築しよう」ということですね。

環境への配慮も「乗客には関係ないこと」

さっそく、東京都立川市にある大和自動車交通立川株式会社へ取材に伺いました。実証実験の都合で5台のEVタクシーが車庫に集結するということで、ズラリと並んだリーフタクシーの写真を撮ることもできました。お話を伺ったのは、代表取締役社長の澤田康太郎さんです。

大和自動車交通立川株式会社の澤田康太郎社長。

大和自動車交通立川が導入しているのは、バッテリー容量60kWhの日産リーフ e+を5台。「ガソリンやLPGのエンジン車に比べて、EVの電気代は安い。走りの性能などについても、ドライバーには好評です」(澤田社長)とのこと。グリーン経営にも注力しているというリリースの説明があったので、EVタクシー普及について参考になる実感などを伺えれば、という思惑を抱いていたりもしたのですが……。

「タクシー会社として環境への配慮はとても大切なことですが、タクシーに乗車いただくお客様には関係のないことです。たとえば、弊社で50数台を運用しているジャパンタクシーは、スライドドアで乗り降りがしやすく、後席が広い。一方で、リーフのタクシーは、タクシーとしては後席が狭いという声をいただくことがあります」と澤田社長。

車庫に戻って普通充電ケーブルを繋いでおけば、次の運行スケジュールに合わせて充電をコントロールしてくれるシステムの使い勝手などに不満などはないと言いながらも、EVタクシーを増やすには、もっとタクシーに向いたEV車種の登場に期待するニュアンスの言葉もありました。

充電器があるリーフタクシーの車庫の撮影取材中、ちょうど戻ってきたドライバーさんに聞くと「静粛性が高く、上り坂の走りや信号待ちからの加速がスムーズ」といったEVならではの走行性能は評価しているものの、乗降時、とくにお年寄りから「自動ドアのアームが邪魔だと指摘されることがある」とのこと。

今回の実証実験には、「環境への配慮」や「スマートな充電運用の実現」とともに、「乗客の方にとっての快適さの検証」といったテーマが設定されています。

リーフタクシーの自動ドアを開閉するためのアーム部分。

EV取材を仕事にしている私なら、駅前のタクシー待ち行列でリーフのEVタクシーに当たったら「ラッキー!」と喜ぶところですけど、普通の人には関係なくて「乗りやすくて快適なジャパンタクシーがいい」と思う方が多いということかも知れません。

「EVジャパンタクシー」待望論

EVタクシーが運用されている現場を訪れてみて気付いたのは、日本でEVタクシーがなかなか普及しないのは、EVの航続距離がどうこうといったことよりも、日本国内で発売されているEVの車種が「あまりタクシーに向いていない」のが最大の理由ではないかということでした。

これはタクシーに限ったことでなく、私はたまに講演の機会をいただくと「日本でEVがなかなか普及しないのは、欲しくて買えるEVの車種がないのが唯一最大の理由」と言い続けています。今回のような実証実験を通じて運行や充電管理のソリューションが進化したとしても、タクシーとして社会に受け入れられる実力を備えたEV車種が登場しない限り、EVタクシーが広く普及するのは難しいということです。

ジャパンタクシー(トヨタ)の公式サイトを見ると、『JPN TAXI(ジャパンタクシー)は、お客さまや乗務員のみなさまの声から改善を重ね「いま求められている使いやすさ」を追求した』ことがアピールされています。ならば、ジャパンタクシーの使いやすさ、快適さを継承した「EVジャパンタクシー」というべき車種をトヨタや日産(EVシフトを推進しようとする自動車メーカー)が開発&発売してくれたら、日本のタクシーはどんどんEVに置き換わっていくのではないでしょうか。

全国のタクシー車両が約20万台、1年で入れ替わるのが1〜2万台として、その半分がEVになれば5000〜1万台。自動車メーカーにとっては手堅い需要といえるのではないでしょうか。なんなら、EVジャパンタクシーのバリエーションで「EVシエンタ」的なコンパクトEVを適切なパッケージングで発売すれば、日産サクラなどに匹敵する人気EV車種になるかもね、とも思います。

トヨタが中国で提携しているBYDには『E6』というタクシー専用車両があります(関連記事)。EV開発にとって最大のハードルはバッテリー調達だと承知してますが、なんとなれば電池メーカーでもあるBYDと手を組んで、世界で売れるタクシー専用車両を共同開発! なんて筋書きまで妄想してしまいました。

「EVタクシーの活躍を取材したい」という当初の想定からは横道に逸れ、EV普及のポイントはなんといっても「魅力的なEV車種を発売してくれる自動車メーカー次第」ということに、改めて気付かされる取材になったのでした。

大和自動車交通立川のさらなる発展と、「複数のEVタクシーの充電運用最適化に関する実証実験」の進展&成功を応援しています。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)3件

  1. タクシーの自動ドアにはエアー式のがあります
    ドアにアームが無いので記事とは違います
    EVのタクシーには乗った事が無いですが名鉄交通に取材をされるといいかもしれません
    リーフ、アリア、ミライを導入してるし
    名古屋市内ではテスラをタクシーにしている会社もあります

  2. 環境への配慮も「乗客には関係ないこと」って大半のタクシーLPガス車じゃん

  3. 10年以上前、某クルマメディアに「リーフタクシーの営業日誌」というのが連載されていました。そこではリーフタクシーの弱点が、いろいろ語られていたと記憶します。電池問題が主でしたが・・
    日産もタクシー業界も、リーフタクシーの弱点は十分承知していたのではないでしょうか? それでも作れないメーカーの内情、お役所を納得させる必要など大人の事情があるのでしょうね。

    早くミニバンEVを出して欲しいです。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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