京都の都タクシーでBYD『e6』がタクシー車両として発進!〜協力して電気自動車の練習中

京都で走り始めたBYD『e6』のタクシー車両。導入した都タクシーでは、今までにも日産『リーフ』やBYD『M3e』などの電気自動車を使ってきた実績があります。乗務員と社長に、使い勝手や満足度、今後への要望などを伺いました。

京都の都タクシーでBYD『e6』がタクシー車両として発進!〜協力して電気自動車の練習中

日本第一号の『e6』が京都の町を走り始めた

BYD『e6』は2022年1月にBYDジャパンが自治体・法人向け専用として日本向けに初めて発売したステーションワゴンタイプのEVです。

中国やアジアの国々では、広い車内と長い航続距離(WLTC モードで522km)、そしてシートや各種の快適装備で高級タクシー車両として高い人気を誇っています。

BYDが独自に開発した「ブレードバッテリー」を採用しているのが特徴で、バッテリーテストで必ず行われる「クギ刺し試験」では発火はおろか、発煙すらもなく、表面温度は30℃~60℃という低温を維持。非常に安全性の高いバッテリーとして世界の注目を集めているのです。

そのe6を日本で最初にタクシー車両として導入したのが、京都府京都市の都タクシーです。同社はこれまでも三菱i-MiEV、日産リーフ、トヨタプリウスPHVなどのEV/PHEVをタクシー車両として導入。さらにはBYDに関しても2021年2月にミニバンタイプのBYD M3eを2台、導入してタクシー車両として運用してきました。
(M3eは実証実験の一環として導入されたもので、法人向け含めて通常の販売は行われていません)

M3eと都タクシーの筒井社長。

ちなみに、M3eには自動ドアが装着されていなかったため、その都度、乗務員がドアを開閉していたのですがe6では専門業者によって電気式自動ドアが装着されました。国産の一般的なタクシーがレバー式であるのに対して、e6は物理的にレバー機構を設置することが難しかったとの理由もあり、ボタン操作で開閉が可能な電気式を採用しています。

実用の航続距離は約450kmでタクシーとして十分

筆者が取材に伺ったのは今年4月半ばのこと。e6は緑色の事業者ナンバーが付いたばかりの状態でした。その後、タクシーメーターなどの取り付けも完了して5月下旬よりタクシーとして運用がスタートしています。

ちなみに、e6の航続距離はWLTCモード(市街地)で522 km、荷室容量 580 ℓ、そして5人が快適に乗れる実用的なEVです。バッテリー容量は71.7kWh。

価格に関しては一般社団法人 次世代自動車振興センターが執行団体となっているCEV補助金「補助対象車両一覧」の資料によると、385万円。それに補助金が85万円交付(令和4年3月14日以降の登録車。3月11日以前の登録車の補助金額は65万円)されます。バッテリー容量が71.7kWhであることを考えるとなかなかコスパの良い実用的なEVと言えそうです。

ただし、タクシーとして使用するには、自動ドアを始め各種の装備が必要となるため、補助金分が専用装備代にあてがわれると言ってよいでしょう。

本格稼働から約1か月が経過したところで、都タクシーでe6を希望して乗務しているドライバーの方に、実際の使い勝手や航続距離、不満点、要望などを聞いてみました。

ーe6への乗務を選んだ理由は何ですか?

これまでタクシー車両として乗ってきたプリウスPHVが乗り換え時期を迎えたことや、自家用でeパワー(日産車)に乗っているので、純EVであるBYD e6に対して違和感がないと思いました。

―タクシー車両として稼働して1か月以上経過しましたが、乗務してから印象はどのように変わりましたか?

不満だったのはドアミラーの自動格納がないことですね。日本ではほとんどのクルマに現在は電動格納ドアミラーがついていますが、e6にはそれがありません。ついているのが当たり前だったので、自動格納ミラーがないことの不便さは予想できませんでした。とくにふだん走り回っている京都の市街地は道が狭いですし、ドアミラーの格納が自動でできないのはつらいですね。

―タクシーとして使用した場合の実際の航続距離はどれくらいでしょうか?

300km走行した後でも、150kmくらいは走行できそうです。タクシー車両としての実航続距離は十分だと思います。ただ、電気残量が30%のところから12時間充電(3kWの普通充電)しても満タンにならず、80%が精いっぱいです。

―これまで乗っていた車両に比べてどんなことが違いますか?

これまでタクシーとして乗って来た、日産クルー、コンフォート、プリウスに比べるとシートが硬いんですよね。だから長い時間乗っているとお尻が痛くなることがあります。
あと、国産車に比べるとリヤシートの座り位置が高いんです。これが少々問題でして……。脚の悪い方や膝が痛い方、背が低いお客様は乗りにくいとお感じになることがあるようです。それで、踏み台を購入しました。
※ e6の最低地上高は145mmで、ジャパンタクシー(145mm)やクラウンコンフォート(160mm)などと同レベルですが、バッテリーを床下に搭載している影響か、着座位置が少し高めになってしまうようです。

e6の後席。

この写真の車両はM3e。

―タクシー車両としてe6の改善点があれば教えてください

ドアミラーの電動格納装備は欲しいですね。あと、暑い昼間はエアコンが効きにくいです。京都の夏は猛烈に暑いですから。また、センターのコントロールパネルが大きすぎると感じるので、もう少し小さくても良いかも?

乗務員として感じている総合的な満足度は今のところ「60%くらい」とのことでした。

では、e6を導入した都タクシーの筒井社長はどのように考えているのでしょうか? 都タクシーではi-MiEVにはじまり、様々なEVを積極的にタクシー車両として導入してきました。e6の導入はBYDとしてM3eに続く2車種目となります。

都タクシー代表取締役社長 筒井基好さんに聞いてみた!

―実際に運用がスタートしてどのような印象をお持ちでしょうか?

e6を初めて見た時は、『クルマがハードになった』という印象でした。タブレットひとつ乗ってるだけで、運転席の構成は至極シンプルなものでしたが、おそらくソフトウェアをアップデートすることにより機能を高めていくようになるんだろうと。極端な話、プログラムをダウンロードするだけで、自動運転さえも実現できてしまうのではないかという印象を受けました。

筒井基好社長。

― e6の第一印象はいかがでしたか?

「ガラケーからスマホになった」。そんな印象がありました。M3eは一見したところ、見た目も日本車とあまり印象が変わりませんでした。内装も外観もよく見るタイプのワンボックスですよね? (細部はちがうと思いますが)
それに対してe6は個性がでてきたな、と感じました。高級感も漂っていますしね。しかも日本車にないデザインがおもしろそうだと。日本人に受けるかどうかはわかりませんがこれからの「世界」をちょっとみてみようと、そんな気になりました。

―M3eからは進化している?

航続距離が長いのは安心ですね。M3eの航続距離は公称300km、実際は200km程度です。数字上は大丈夫なのでしょうけども、実際にお客様を乗せて走る乗務員の心理的には「とても不安」だと思います。
これまでのタクシー車両なら足りなければガス充填、しかもほぼいつでもできますが、充電には時間が掛かります。とくにタクシーは「遠距離」が売り上げにおいて重要ですし、楽しみでもあります。そこに不安を感じながら乗務する……、という状態では乗務員のモチベーションを失うことになるでしょう。
コロナ禍においてはそこまでの需要がなく、毎日100km程度しか走行してません。たとえば観光貸し切り需要が復活したとしたら、それでも一日の走行距離は80kmほどですむので実航続距離が200kmであっても使い方を工夫すれば、やりようはあるでしょう。事実、昨年末に修学旅行の仕事がありM3eを使ってみたところ、お子様たちからは“電気自動車!”ということで、とても喜んでいただくことができました。
航続距離の点においては、これまでのところe6は450kmくらいは余裕で走れそうなので、その点では不安がありませんね。

―BYDのサービス体制などはどうですか?

BYDさんは真摯に取り組んでくれてます。日本の自動車市場がそんなに簡単なものじゃないことも十分に理解されてます。であれば、もし、何か足りないところがあろうとも共に解決していけばいい。こんなスタンスでお互いに協力して取り組んでおります。
自動ドアや電動格納ミラーなど、日本特有の問題点を我々から提言し、様々な課題解決につなげていければ、と思ってます。我々は毎日タクシー車両として使いながら情報提供をしますし、そういう意味ではいまはお互いに「電気自動車の練習をしている」と言っても良いでしょう。

―いち早く中国製電気自動車を導入した思いは?

なぜ普及するその前に練習するのか? 実際に使用に耐えうるのかどうか、自分で判断する目をもつことが、これからの時代は重要だと考えるからです。
そしてもうひとつは「タクシー会社がやらなきゃ、誰がやるんよ?』こんな気概をもって取り組んでいます。

●インタビュー、ここまで。

ガレージにはEV、PHEVなどの次世代車が多い。

筒井社長、ありがとうございました。

日本でクルマを使うにあたって、タクシー車両とするのはもっとも過酷な用途のひとつです。世界にほとんど例を見ない自動ドアをはじめ、日本特有の装備も多く、電気自動車という新しいカテゴリーのクルマを適合させて使いこなすには、いくつもの障壁があろうかと想像できます。筒井社長の「BYDと一緒に電気自動車の練習をしている」という言葉が胸に響いたのでした。

(取材・文/加藤 久美子)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 基本性能はカバーしているけど、日本的な細かな気配りのされた部分が省かれているという感じですね。
    物としては悪くはないのでしょうが、日本は自動車工業大国なので日本のメーカーに頑張ってほしいと思います。

  2. BYD、ついに日本上陸発表されましたね。
    ヒョンデも個人的には頑張って欲しい。

  3. e6は個人としても欲しいと思える車ですね。
    BYDさん一般販売はしないのでしょうか。

  4. 電動格納ミラーとか自動ドアとかはそんなにコストもかからないでしょうから敷居としてはそんなに高くはないでしょうね。
    値段もeNV-200と比べてもとってもリーズナブルに思います。
    是非一般販売してほしいと思います。
    ところで、寸法的には3ナンバーなんでしょうか?

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この記事の著者


					加藤 久美子

加藤 久美子

山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。 一財)日本交通安全教育普及協会認定チャイルドシート指導員の資格を取得し、育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。 愛車は1998年5月に新車で購入したアルファスパイダー(26.5万キロ走行)

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